正月。
啓蟄 (蟄(ちつ)を啓(ひら)く)。〔言うこころは始めて蟄を発(ひら)くなり。〕
囿有見韭 (囿(いう)に韭(きう。ニラ)を見る有り)。〔囿なる者は、園の燕(宴)なる者なり。或ひと曰く、韭を祭るるなり。〕
采芸 (芸(うん。香草の一)を采(と)る)。〔廟の為に采るなり。〕
柳稊 (柳 稊(てい。ひこばえ)す)。〔稊なる者は、孚(ふ。はぐくむ、生まれる)を発するなり。〕
梅杏杝桃則華 (梅・杏・杝桃(いたう・ちたう)、則ち華さく)。〔杝桃は山桃なり。〕
緹縞 (縞(かう)に緹(てい)あり)。〔縞なる者は、莎随(さずい。ハマスゲ)なり。緹なる者は其の実なり。先に緹を言ひて而うして後に縞を言ふは何ぞや。緹は先に見(あらは)るる者なり。何を以てか之を謂ふ。小正以て名を著すなり。〕
二月。
往耰黍襌 (往きて黍を耰(ゆう)す。襌(たん。一重の着物)なり)。〔襌は単なり。〕
栄菫采繁 (菫(きん。スミレ、訳者はフユアオイとする)を栄えしめ、繁(はん。ハイイロヨモギ)を采る)。〔菫は采(菜)なり。繁は由胡なり。由胡とは、繁母なり。繁は旁勃(ばうぼつ)なり。皆豆実なり。故に之を記す。〕
栄芸(えいうん)。
時有見稊始収 (時に、稊(てい。イヌビエ)を見て始めて収むる有り)。〔稊を見て、而る後に始めて収むる有りとは、是れ小正を序(の)ぶるなり。小正の時を序ぶるや、皆是くの若きなり。稊とは豆実と為す所なり。〕
三月。
摂桑 (桑を摂る)。〔摂りて之を記すは、桑を急とするなり。〕
委楊 (委たる楊(ヤナギ)あり)。〔楊は則ち花さきて後に之を記すなり。〕
采識 (識を采る)。〔識は草なり。〕
祈麦実 (麦実を祈る)。〔麦の実は、五穀の先づ見(あらは)るる者なり。故に祈るを急ぎて之を記すなり。〕
払桐芭 (桐芭を払う)。〔払なる者は払なり。桐芭(花)の時なるなり。或ひと曰く、言ふこころは、桐芭の始めて生ずるは、貌 払払然(風がそよそよと吹く)たるなり、と。〕
四月。
囿有見杏 (囿に杏を見る有り)。〔囿とは山の燕なる者なり。〕
王萯秀 (王萯(わうふ。カラスウリ) 秀(ひい)づ)。
取荼 (荼(と。ノゲシ)を取る)。〔荼なる者は、以て君の薦将(敷物)と為すなり。〕
荼は、■{竹冠に余}(と)の誤りか。そうであるなら、割り竹・竹を割いたもの。
秀幽 (秀づる幽あり)。
幽は■{草冠に要}(よう)か。■{草冠に要}は、一説にカラスウリ、一説にエノコログサ。
五月。
乃瓜 (乃ち瓜(マクワウリ)あり)。〔乃ちとは、瓜を急にするの辞なりなり。瓜なる者は、始めて瓜を食むなり。〕
啓灌藍蓼 (灌たる藍蓼(らんれう。アイとタデ、あるいは二字でアイ)を啓(わか)つ)。〔啓(ひら)くとは、別(わか)つなり。陶して之を疏するなり。灌とは聚(あつ)まり生ずる者なり。時を記すなり。〕
煮梅 (梅を煮る)。〔豆実と為すなり。〕
蓄蘭 (蘭(フジバカマ)を蓄ふ)。〔沐浴の為にするなり。〕
菽糜 (菽(しゅく。マメ)の糜(び。薄い粥)あり)。〔以て経中に在り。又之を言ふ。時(こ)れ何ぞや。是れ食矩関にして之を記す。〕
六月。
煮桃 (桃を煮る)。〔桃なる者は、杝桃なり。杝桃なる者は、山桃なり。煮て以て豆実と為すなり。〕
七月。
秀雚葦 (秀づる雚葦(くわんゐ。オギとアシ)あり)。〔未だ秀でざれば則ち雚葦を為さず。秀でて然る後に雚葦を為す。故に先づ秀づるを言ふ。〕
湟潦生苹 (湟潦(くわうらう。水溜り) 苹(へい。ウキクサ)を生ず)。〔湟は下がる処なり。湟有り、然る後に潦有り。潦にして後に、苹草有るなり。〕
爽死 (爽死す)。〔爽なる者は、猶ほ疏のごときなり。〕
爽は臭草。
苹秀 (苹 秀づ)。〔苹なる者は、馬帚(ばしう)なり。〕
馬帚(バソウ,mazhou)は、別名馬藺(バリン,malin。ハナショウブ)。
灌荼 (灌(あつ)める荼(と)あり)。〔灌は聚なり。荼は雚葦(くわんゐ。オギとアシ)の秀づるなり。蒋たれば之を褚(たくは)ふなり。雚といふ、未だ秀でざるを菼(たん)と為し、葦の未だ秀でざるを蘆と為す。〕
八月。
剥瓜 (瓜を剥ぐ)。〔瓜(マクワウリ)を剥ぐなりとは、瓜を畜(たくは)ふるの時なり。〕
剥棗 (棗を剥ぐ)。〔剥ぐなる者は、取るなり。〕
栗零 (栗 零(お)つ)。〔零つるとは、降るなり。零ちて後 之を取る。故に剥ぐと言はざるなり。〕
九月。
栄鞠 (栄鞠あり)。〔鞠は草なり。鞠(キク) 栄(はな)さきて麦を樹(う)う。時の急なるなり。〕
十月。
十有一月。
十有二月。
納卵蒜 (卵蒜を納る)。〔卵蒜(Allium scorodoprasum。ニンニクを見よ)なる者は、本卵の如くなる者なり。納るとは何ぞや。之を君に納るなり。〕
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