にら (韭・韮) 

学名  Allium tuberosum
日本名  ニラ
科名(日本名)  ヒガンバナ科
  日本語別名  フタモジ(二文字)、ミラ、コミラ、
漢名  韭(キュウ, jiŭ)、韭菜
科名(漢名)  石蒜(セキサン,shísuàn)科
  漢語別名  起陽草(キヨウソウ,qiyangcao)、扁菜
英名  Gynmigit, Chinese chive, Nira
2007/07/21 薬用植物園
2008/09/11 入間市宮寺
2007/10/08 薬用植物園
2022/10/19 同上
2006/12/14 薬用植物園
 ネギ属 Allium(葱 cōng 屬)については、ネギ属を見よ。
 「和名にらハ古名みら(又こみら)ノ轉ジタルモノト云フ、然ルニみらノ意義ハ不明ナリ」(『牧野日本植物図鑑』)。
 和名フタモジ(二文字)は、ネギを一文字というのに対して。ネギを見よ。
 『本草和名』及び『倭名類聚抄』韮に、「和名古美良」と。
 『延喜式』薤白に、「ニラノシロミ」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』韮に、「コミラ
和名鈔 コニラ ニラ フタモジ上総」と。
 なお、ミラはニラ、コミラに対してオオミラはラッキョウ
 翻訳文学では、西洋のリーキ leek(ニラネギ・セイヨウネギ・ポロネギ) Allium porrum を「にら」と訳すが、別種。
 東アジア原産の栽培種、本州・四国・九州・漢土・臺灣・フィリピン・インドネシア・パキスタン・インドなどで栽培。
 近年、近縁の野生種 A.ramosum(野韭)との関係が明らかにされつつある、という。すなわち A.ramosum は、東アジア・ヒマラヤ・中央アジア・シベリアに分布して自生、モンゴル・中国の一部では栽培。中国・中央アジアの栽培ニラには、A.ramosum と A.tuberosum の中間的な形態を示す品種が少なくない。さらには、これらの両種は同種とする説もある、という
(『週刊朝日百科 植物の世界』10-70)
 日本では900年頃から栽培しているが、真の自生かは疑わしいという。第二次世界大戦後、急激に野菜として普及した。
 葉・花茎を食用にするほか、種子を韭子(韮菜子,キュウサイシ,jiŭcàizĭ)と呼んで薬用(強壮・興奮)にする。『中薬志Ⅱ』pp.313-315 『(修訂) 中葯志』III/535-537 
 仏教では、『梵網経』下などに 僧侶が食うべからざる五つの臭みのある蔬菜を 五辛・五葷として挙げる。すなわち大蒜(オオニンニク)・茖葱(ニラ)・慈葱(ネギ)・蘭葱(ニンニクの一種)・薤(ラッキョウ)・興渠(アギ,阿魏,セリ科の Ferula fukanensis)など。
 中国では、『詩経』国風・豳風(ひんぷう)「七月」に、「二の日(12月)は氷を鑿つこと沖沖たり、三の日(1月)は凌陰(氷室)に入る、四の日(2月)は其に蚤(と)るに、羔(かう。子羊)を献じて 韭を祭る」と。
 『礼記』「月令」十一月に、「茘挺(れいてい。オオニラ)出づ」と。
 『大戴礼』「夏小正」の正月に、「囿(ゆう)に韭を見る有り」と。
 中国では、『爾雅』釋草に次のようにある。

  
蒮(イク,yù)、山韭(サンキュウ,shānjiŭ)。茖(カク,gé)、山(サンソウ,shāncōng)。葝(ケイ,qíng)、山■{『諸橋』12,No.43260。薤と同}(サンカイ,shānxiè)。蒚(レキ,lì)、山蒜(サンサン,shānsuàn)。
      
〔今山中多有此菜。皆如人家所種者。茖葱(カクソウ,gécōng)、細莖大葉。〕

 文中、韭は、ニラ Allium tuberosum(韭菜)、
    葱は、ネギ Allium fistulosum(葱)、
    茖は、ギョウジャニンニク Allium victorialis ssp. platyphyllus(茖葱)、
    ■・薤は、ラッキョウ Allium chinense;A.bakeri(藠頭)、
    山蒜は、ノビル Allium macrostemon(薤白)か。
 賈思勰『斉民要術』(530-550)に「種韭」が載る。
 古い諺に「日中に韭を剪らず」と言い、春の韭は夜雨に切るとよいとする。
 杜甫「衛八処士に贈る」に、「夜雨 春韭を剪り、新たに炊いて 黄粱
(コウリョウ。おおあわ)に間(まじ)う」と。
 剪春韭(センシュンキュウ,jianchunjiu)は、ニラ料理の一種の名にもなった。
 すなわち、手にニラの本の方を持ち、もう葉の先を塩味で茹で、そののち末端を切って冷水に放って冷したもの。
 日本では、『古事記』『日本書紀』に神武天皇「久米の歌」に「かみら(香韮)ひともと(一本)」と詠われている。

 『万葉集』に、

   きはつくの
(不詳)おか(岡)のくくみら(茎韮)われ(吾)(摘)めど
     こ
(籠)にもみ(満)たなふせ(背)なとつ(摘)まさね (14/3443,読人知らず)
 
 
   南かぜ吹き居るときに青々と灰のなかより韮萌えにけり
     
(1927,斎藤茂吉『ともしび』)
   わが生
(あ)れし村に来りて柔き韮を食(は)むとき思ほゆるかも
     (1945「疎開漫吟」,齋藤茂吉『小園』) 
 

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