ねぎ (葱)
学名 |
Allium fistulosum |
日本名 |
ネギ |
科名(日本名) |
ヒガンバナ科 |
日本語別名 |
キ(葱)、ヒトモジ(一文字)、ナガネギ、ネブカ(根深)、 |
漢名 |
葱・蔥(ソウ,cōng) |
科名(漢名) |
石蒜(セキサン,shísuàn)科 |
漢語別名 |
大葱、葱白 |
英名 |
Welsh onion, Spring onion, Japanese-bunching onion |
2005/10/16 三芳町竹間沢 |
2006/02/22 新座市大和田 |
2005/05/17 三芳町竹間沢 |
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2008/06/28 入間市宮寺 |
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九条葱 2009/11/05 奈良県高市郡明日香村 |
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辨 |
ネギ属 Allium(葱 cōng 屬)には、北半球の温帯、ことには地中海地方~中央アジアを中心として、約700種以上がある。
A. aciphyllum(針葉韭)
A. akaka(蓮座韭) トルコ・カフカス産
シラゲビル A. albopilosum
A. altaicum(阿爾泰葱) 『週刊朝日百科 植物の世界』10-66
黒龍江・アムール・モンゴリア・シベリア南部・中央アジア産
リーキ(ポロネギ・セイヨウネギ・ニラネギ・ポアロ) A. ampeloprasum
(A.porrum;韭葱・扁葉葱・洋大蒜・洋蒜苗;
E.Leek, Great-head garlic, Kurrat, Pearl onion)
ヒメラッキョウ A. anisopodium(矮韭)
チンタオニラ var. zimmermannianum
A. astrosanguineum(藍苞葱)『週刊朝日百科 植物の世界』10-66
中国西北・西南・チベット・ヒマラヤ・モンゴリア・シベリア・中央アジア産
ナンゴクヤマラッキョウ A. austrokyushuense
A. bakeri
ニイタカラッキョウ var. morrisonense
A. beesianum(藍花韭)
スナジニラ A. bidentatum(砂韭) 河北・山西・遼寧・吉林・黑龍江・モンゴリア・シベリア産
A. bookeri(大葉韭)
ルリアサツキ A. caeruleum(新疆韭・稜葉韭・藍花山蒜) 中央アジア・歐洲ロシア産
A. caespitosum(疏生韭)
A. caricoides(石生韭)
A. carolianum(鐮葉韭)
タマネギ A. cepa(洋葱・洋葱頭,E.Onion)
シャロット(アカワケギ) var. aggregatum(A.ascalonicum;火葱・細香葱・香葱;E.Shallot)
ヤグラタマネギ var. proliferum(紅葱・樓子葱)
A. cernuum 北アメリカ産
ラッキョウ A. chinense(A. bakeri;藠頭)
A. chrysanthum(野葱・黃花韭)
A. chrysocephalum(折被韭)
キバナラッキョウ A. condensatum(黃花葱)
A. cordifolium(心葉韭)
A. cyaneum(天藍韭・藍花葱・野葱)
A, cyathophorum(杯花韭)
A. decipiens(星花蒜)
A, dentigerum(短齒韭)
A. deserticolum(天山韭)
A. eduardii(賀蘭韭)
A. eusperma(眞籽韭)
A. fasciculatum(粗根韭)
A. fetisowii(多籽蒜)
ネギ A. fistulosum(A.bouddhae, A.fistulosum var.bouddhae;葱・北葱;
E.Welsh onion,Japanese bunching onion)
シモニタネギ(オオネブカ)
ネギ var. giganteum
ヤグラネギ var. viviparum
A. flavidum(新疆韭)
A. forrestii(梭沙韭・野韮) 四川・雲南・チベット産 『中国本草図録』Ⅷ/3931
A. funckiaefolium(玉簪葉韭・鹿耳韭・天韭・天蒜)
A. galanthum(實葶葱)
オオハナニラ A. giganteum(大花葱)
中央アジア原産、観賞用に栽培。『週刊朝日百科 植物の世界』10-68
A. globosum(長喙葱)
var. ochroleucum(博克達葱)
A. glomeratum(頭花韭)
A. grisellum(灰皮葱)
A. henryi(疏花韭)
A. herderianum(金頭韭)
A. hookeri(寛葉韭) 四川・雲南・ヒマラヤ・スリランカ産 『中国本草図録』Ⅴ/2405
A. humile var. trifurcatum(三柱韭) 四川・雲南産 『雲南の植物Ⅰ』261
A. hymenorrhizum(北疆韭)
ステゴビル A. inutile
マユハケニラ A. karataviense トルクメニスタン産 『週刊朝日百科 植物の世界』10-68
A, kaschianum(草地韭)
キイイトラッキョウ A. kiiense(A.virgunculae var.kiiense)
A. kingdonii(鐘花韭)
A. korolkowii(褐皮韭)
A. ledebourianum(硬皮葱・硬皮韭)かつてアサツキの学名とされたが、誤り
樺太・極東ロシア・吉林・黒龍江・モンゴリア・中央アジア産
A. leucacephalum(白頭葱)
A. lineale(北韭)
ハマラッキョウ A. litorale
A. longicuspis 中央アジア産、ニンニクの祖先種という
アカネニラ A. longistylum(A.jeholense;長柱韭) 河北・山西産
チシマラッキョウ A. maakii(A.splendens var.kurilense)
A. macranthum(大花韭) 四川・雲南・チベット・シッキム産 『中国本草図録』Ⅷ/3932
ノビル A. macrostemon(A.nipponicum, A.grayi;薤白・小根蒜)『中国雑草原色図鑑』351
A. mairei(滇韭) 『雲南の植物』14
ヒメセッカヤマネギ A. minus
キバナノギョウジャニンニク A. moly(黃花葱)
ヒメニラ A. monanthum(單花韭) 日本・朝鮮・遼寧・吉林・黑龍江に分布
A. mongolicum(蒙古韭・蒙古葱) 『中国本草図録』Ⅲ/1422・『中国雑草原色図鑑』351
遼寧・西北・モンゴリア産
A. nanodes(短葶韭)
オトメニラ A. neapolitanum 地中海地方・西南アジア産
ハナビニラ A. neriniflorum(長梗韭・長梗葱・長梗薤) 『中国本草図録』Ⅶ/3411
A. nutans(齒絲山韭・紅花葱)
A. obliquum(高葶韭)
A. oreoprasum(灘地韭・山韭)
ベニオトメニラ A. ostrowskianum
A. ovalifolium(卵葉韭・鹿耳韮) 陝甘・青海・四川・貴州・雲南産 『中国本草図録』Ⅶ/3412
A. paepalanthoides(天蒜)
A. pallasii(小山蒜)
A. phariene(帕里韭)
A. platyspathum(寛苞韭)
A. platystylum(鐮葉韭)
A. plurifoliatum(多葉韭)
A. polyrhizum(碱葱)
A. porrum → A. ampeloprasum
A. prattii(太白韭・野葱) 『雲南の植物』15・『中国本草図録』Ⅷ/3933
安徽・河南・陝甘・青海・四川・貴州・雲南・チベット・ヒマラヤ産
モウコラッキョウ A. prostratum(蒙古野韭) 黒龍江・モンゴリア・シベリア産
A. przewalskianum(靑甘韭)
タマムラサキ A. pseudojaponicum(A.litorale, A.amamianum)
フサニンニク A. pulchellum
ノニラ A. ramosum(野韭)『中国雑草原色図鑑』352。ニラを見よ
セイタカニラ A. rosenbachianum
A. rude(野黃韭)
チョウセンヤマラッキョウ A. sacculiferum(A.deltoidefistulosum;野葱)
ニンニク A. sativum(A.sativum 'Nipponicum', A.sativum var.japonicum;
蒜・大蒜, E.Garlic)
オオニンニク var. pekinense(A. scorodoprasum var.multibulbosum)
セイヨウニンニク var. sativum
A. schoenoprasoides(類北葱)
A. schoenoprasum
アサツキ var. foliosum
シロウマアサツキ var. orientale(var.shibutuense,A.maximowiczii)
エゾネギ(セイヨウアサツキ) var. schoenoprasum(var.bellum;北葱・香葱; E.chive)
オオハナビニラ A. schubertii
ヒメニンニク A. scorodoprasum(胡蒜)
A. semenovii(管絲韭)
セッカヤマネギ A. senescens(山葱・山韭) 『中国本草図録』Ⅵ/2926
A. sikkimense(高山韭)
A. sinkiangense(新疆蒜)
A. siphonanthum(管花葱)
A. songpanicum(松潘韭)
ミヤマラッキョウ A. splendens(輝葱)
イワラッキョウ A. spurium
ルリネギ A. stenodon
A. strictum(輝葱・輝韭) 『中国本草図録』Ⅶ/3413
吉林・黒龍江・モンゴリア・シベリア・中央アジア・東&中央ヨーロッパ産
A. subangulatum(紫花韭)
A. subsilissimum(蜜嚢韭)
A. tanguticum(唐古韭)
サイシュウヤマラッキョウ A. taquetii
A. tchongchanense(黒花韭)
チゴラッキョウ A. tenuissimum(A.elegantulum;細葉韭)
浙江・江蘇・山東・華北・東北・陝甘・モンゴリア・シベリア・中央アジア産
A. teretifolium(西疆韭)
ヤマラッキョウ A. thunbergii(球序韭)
カヤサンラッキョウ var. deltoides
カンカケイニラ A. togashii 香川県小豆島産
A. tricoccum
ミツカドネギ A. triquetrum(三稜葱)
ニラ A. tuberosum(韭・韭菜, E.Chinese chive,Nira)
オオニラ var. latifolium
A. tubiflorum(合被韭)
A. uniflorum 米国太平洋側に産
A. ursinum ヨーロッパの森林地帯産
ギョウジャニンニク A. victorialis(茖葱)
subsp. victorialis(歐洲茖葱) 歐洲・カフカス・ヒマラヤ産
ギョウジャニンニク subsp. platyphyllum(A.victorialis var.platyphyllum,
A.victorialis var.asiaticum, A.ochotense, A.microdictyon,
A.latissimum;茖葱・茖韭・天韭・山韭・鹿耳韭)
A. vineale ノビルに近縁、歐洲産
A. virgunculae
コシキイトラッキョウ var. koshikiense
イトラッキョウ var. virgunculae
ヤクシマイトラッキョウ var. yakushimense
ワケギ A.×wakegi(A.fistulosum var.caespitosum)
A. wallichii(多星韭) 湖南・廣西・四川・貴州・雲南・チベット・ヒマラヤ産 『雲南の植物Ⅱ』266
A. weschniakowii(壇絲韭)
A. xichuanense(西川韭)
A. yanchiense(白花葱)
A. yuanum(齒被韭)
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ネギ属は、旧来ユリ科に含められてきたが、ネギ科 Alliaceae として独立させる説もあった。新しいAPG分類ではヒガンバナ科 Amaryllidaceae(石蒜 shísuàn 科)に含められる。 |
訓 |
和名は、古くはき(葱)。一音節なので、女房ことばで一文字(ひともじ)と言い、白い根を食うことからねぎ(根葱)と呼ばれる。
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『本草和名』葱に、「和名岐」と。
『倭名類聚抄』葱に、「和名紀」と。
『大和本草』葱に、「葱ハ本邦四種アリ、大葱・ワケギ・カリギ・アサツキナリ」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』葱に、「キ和名鈔 ヒトモジ ネギ ネブカ」と。 |
日本では、古くはノビル・ニンニク・ネギなどを総称して、ひる(蒜)と言った。
ニンニクの訓を見よ。 |
漢名の葱(蔥,ソウ,cōng)の字は、囱(ソウ,cōng。心が先へ先へと突き抜ける)・窗(ソウ,cōng。まど・えんとつ)と同系、円筒形の葉が中空で突き抜けていることから。 |
属名は、ニンニクのラテン名。ケルト語起源で、「辛い・焼けるような all」から、或は「強く匂う halium」から。 |
説 |
原産地は中国北西部。祖先種は A. altaicum(阿爾泰葱)。『週刊朝日百科 植物の世界』10-66。
中国では原始時代から栽培されている。後に、冬に冬眠しない冬ネギと、冬眠する夏ネギに分化した。 |
日本では、葉鞘の白い部分を食うネブカネギと、緑色の部分を食うハネギがある。
下仁田ネギは、ネブカネギの品種で、群馬県特産。 |
西洋料理に用いるネギは本種とは異なり、ポロネギ(セイヨウネギ・ニラネギ・リーキ・ポアロ) A. ampeloprasum(A.porrum; C.韭葱;E.Leek)。 |
誌 |
中国では、種子を葱子(ソウシ,cōngzĭ)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.440-442 『(修訂) 中葯志』III/621-622 |
仏教では、『梵網経』下などに 僧侶が食うべからざる五つの臭みのある蔬菜を 五辛・五葷として挙げる。すなわち大蒜(オオニンニク)・茖葱(ニラ)・慈葱(ネギ)・蘭葱(ニンニクの一種)・薤(ラッキョウ)・興渠(アギ,阿魏,セリ科の Ferula fukanensis) など。 |
中国では、『爾雅』釋草に次のようにある。
蒮(イク,yù)、山韭(サンキュウ,shānjiŭ)。茖(カク,gé)、山蔥(サンソウ,shāncōng)。葝(ケイ,qíng)、山■{『諸橋』12,No.43260。薤と同}(サンカイ,shānxiè)。蒚(レキ,lì)、山蒜(サンサン,shānsuàn)。
〔今山中多有此菜。皆如人家所種者。茖葱(カクソウ,gécōng)、細莖大葉。〕
文中、韭は、ニラ Allium tuberosum(韭菜)、
葱は、ネギ Allium fistulosum(葱)、
茖は、ギョウジャニンニク Allium victorialis ssp. platyphyllus(茖葱)、
■・薤は、ラッキョウ Allium chinense;A.bakeri(藠頭)、
山蒜は、ノビル Allium macrostemon(薤白)か。 |
賈思勰『斉民要術』(530-550)に「種葱」が載る。 |
日本では、ネギは、薬味の代表。
北大路魯山人『魯山人味道』に収める「美味い豆腐の話」(1933)に、湯豆腐の薬味として「ねぎのみじん切り、ふきのとう、うど、ひねしょうがのおろしたもの、七味とうがらし、みょうがの花、ゆずの皮、山椒の粉など、こんな薬味がいろいろあるほうが風情があっていい。この中で缺くことのできないのはねぎだ。他のものは、そのときの都合と好みに任せていい、それからよく切れる鉋(かんな)で、薄く削ったかつおぶし適量。食事する前に削るのが味もよく、香りもよい」と。 |
葱(ねぶか)白く洗ひたてたるさむさ哉 (芭蕉,1644-1694)
蝶の来て一夜寝にけり葱のきほ (半残,『猿蓑』,1691)
(幸田露伴評釈に、「きほはぎぼなり。葱の類のもの、皆き也、ほは穂也、葱のぎぼ、やゝ重言に
近けれど咎むべきならず。今はいよいよ転じて、ぎぼしと云ひ、擬宝珠などといふ字を当つ」と)
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細葱の春の光をかなしむと真昼しみらに子犬つるめる
いらいらと葱の畑をゆくときの心ぼそさや百舌啼きしきる
厨女(くりやめ)の白き前掛しみじみと青葱の香の染みて雪ふる
(北原白秋『桐の花』1913)
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『旧約聖書』「民数記」11によると、モーゼに率いられてエジプトを脱出したイスラエルの人々は、シナイの荒野にあって次のように不満を言った、「誰か肉を食べさせてくれないものか。エジプトでは魚をただで食べていたし、きゅうりやメロン、葱や玉葱やにんにくが忘れられない。今では、わたしたちの唾は干上がり、どこを見回してもマナばかりで、何もない」と。
Who shall give us flesh to eat?
We remember the fish, which we did eat en Egypt freely; the cucumbers,
and the melons, and the leeks, and the onions, and the garlic:
But now our soul is dried away: there is nothing at all, besides this
manna, before our eyes.
(NUMBERS 11,King James Version) |
ここにいう葱は、ポロネギ(リーキ) A. porrum。 |
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