月令
(がつりょう・げつれい)

作品名  『礼記』6「月令」
制作年代   漢
訳者名   竹内照夫 
収載書名   『礼記』(『新釈漢文大系』27)
刊行年代   1971
 その他  古い農事暦で、漢代のものという。中国古代の農事暦には、ほかに「夏小正」・「豳風 七月」などがある。
 ここには、主として植物に関係する記事を抄出する。
孟春の月〔一月〕。・・・ ○東風凍を解き、蟄虫(ちつちゅう)始めて振(うご)き、魚氷に上り、獺(だつ。カワウソ)魚を祭り、鴻雁来る。・・・ ○是の月や、天子乃ち元日を以て、を上帝に祈る。乃ち元辰を択びて、天子親ら耒耜(らいし。スキ)を載せて、之を参保介(参乗する武士)と御(馭者)との間に措き、三公・九卿・諸侯・大夫を帥(ひき)ゐて、躬(みづか)ら帝籍を耕す。天子は三推し、三公は五推し、卿・諸侯は九推す。・・・ ○是の月や、天気下降し、地気上騰し、天地和同し、草木萌動(ぼうどう)す。王命じて、農事を布(し)く。田(でん。農業の長官)に命じて東郊に舎(やど)り、皆封疆を脩めて、審かに径術(けいすゐ。道と溝)を端(ただ)し、善く丘陵坂険原隰(げんしふ)、土地の宜しき所、五穀の殖(しょく)する所を相(み)て、以て民を教道す。必ず之を躬(み)(みづか)らす。田事既に飭(ととの)ひ、先づ準直を定む。農乃ち惑はず。・・・

仲春の月〔二月〕。・・・ ○始めて雨水あり、 始めて華さき、倉庚鳴き、鷹 化して鳩と為る。 ・・・ ○是の月や、玄鳥
(ツバメ)至る。・・・ ○是の月や、日夜分(ひと)し。雷乃ち声を発し、始めて電す。蟄虫咸(みな)動き、戸を啓きて始めて出づ。・・・

季春の月〔三月〕。・・・ ○ 始めて華さき、田鼠化して鴽
(じょ。不明)と為り、虹 始めて見え、(うきくさ) 始めて生ず。・・・ ○・・・天子始めて舟に乗る。鮪(ゐ。シビ)を寝廟に薦め、乃ちの為に実りを祈る。・・・ ○是の月や、野虞(野守)に命じて桑柘(さうしゃ)を伐る毋(な)からしむ。鳴鳩 其の羽を払(う)ち、戴勝(たいしょう。鳥の名) 桑に降る。曲植(きょくち。蚕の籠や棚)籧筐(きょきょう。桑を摘む籠)を具ふ。后妃 斉戒して、親ら東郷して躬ら桑つみ、婦女をして禁じて観(かたち)づくること毋からしめ、婦使を省きて以て蚕事を勧む。蚕事既に登(な)り、繭を分ち糸を称(はか)り功を效(いた)し、以て郊廟の服に共し、敢て惰る有る毋からしむ。・・・

孟夏の月〔四月〕。・・・ ○螻蟈
(ろうかく。カエル) 鳴き、蚯蚓(きゅういん。ミミズ) 出で、王瓜(カラスウリ) 生ひ、苦菜(くさい。ケシ・アザミなどの苦味のある草) 秀づ。 ・・・ ○是の月や、天子始めて絺(ち。の繊維で織った夏服)す。野虞に命じて、田原に出行し、天子の為に農を労ひ民を勧め、時を失ふ或る毋からしめ、司徒に命じて、県鄙を循行し、農に命じて作を勉めしめ、都に休すること毋からしむ。○是の月や、獣を駆りて五穀を害すること毋からしめ、大いに田猟すること毋からしむ。農乃ちを登(すす)む。天子乃ち彘(てい。ブタ)を以て麦を嘗め、先づ寝廟に薦む。 ○是の月や、百薬を聚畜す。靡草(びさう。ナズナなど、冬生じて初夏に枯れる草)死し、麦秋至る。・・・蚕事 畢(おは)り、后妃 繭を献ず。乃ち繭税を収め、桑を以て均と為す。・・・

仲夏の月〔五月〕。・・・ ○小暑至る。蟷螂
(たうらう。カマキリ)生まれ、鵙(げき。モズ)始めて鳴き、反舌(モズの仲間)声無し。・・・ ○是の月や、農乃ちを登(すす)む。天子乃ち雛を以て黍を嘗む。羞(すす)むるに含桃を以てし、先づ寝廟に薦む。民に令してを艾(か)りて以て染むること毋く、灰を焼くこと毋く、布を暴(さら)すこと毋く、門閭(もんりょ)は閉づること毋く、関市索(もと)むること毋からしむ。・・・ ○是の月や、・・・ 鹿角落ち、蝉 始めて鳴き、半夏(はんげ。カラスビシャク)生じ、木菫(ぼくきん。ムクゲ)(はなさ)く。・・・

季夏の月〔六月〕。・・・ ○・・・澤人に命じて材葦
(各種の工芸の材料とするアシ)を納れしむ。・・・○是の月や、樹木方に盛んなり。乃ち虞人に命じて、山に入りて木を行(めぐ)り、斬伐すること有る毋からしむ。・・・ ○是の月や、土潤い溽暑にして、大雨時に行く。焼薙(せうてい)して水を行(や)る、以て草を殺すに利(よろ)し。熱湯を以てするが如し、以て田疇を糞す可し、以て土疆を美(よ)くす可し。

孟秋の月〔七月〕。・・・ ○涼風至り、白鷺降り、寒蝉鳴き、鷹乃ち鳥を祭る。・・・ ○是の月や、農乃ちを登む。天子新を嘗む。先づ寝廟に薦む。百官に命じて始めて収斂せしむ。・・・ 

仲秋の月〔八月〕。・・・ ○是の月や、・・・天子乃ち難(だ)して、以て秋気を達す。犬を以てを嘗め、先づ寝廟に薦む。 ○是の月や、以て城郭を築き、都邑を建て、竇窖
(とうかう)を穿ち、囷倉(きんさう)を脩む可し。乃ち有司に命じて、民を趣(うなが)して収斂せしめ、菜を畜ふることを務め、積聚(ししゅう)を多くす。乃ちを種うるを勧め、時を失ふ或る毋からしむ。其の時を失ふ有れば、罪を行ひて疑ふ無かれ。・・・ ○是の月や、日夜分しく、雷始めて声を収む。蟄虫戸を坏(ふさ)ぎ、殺気浸(やうや)く盛んなり。陽気日に衰へ、水始めて涸る。・・・

季秋の月〔九月〕。・・・ ○鴻雁来賓し、爵
(すずめ)大水に入りて蛤(はまぐり)と為る。(きく。キク)に黄華有り、豺(さい)乃ち獣を祭り禽を戮す。・・・ ○是の月や、・・・ 乃ち冢宰に命じて、農事備収せしめ、五穀の要を挙げ、帝籍の収を神倉に蔵め、祗敬して必ず飭(いまし)めしむ。・・・ ○是の月や、草木黄落す。乃ち薪を伐り、炭を為らしむ。蟄虫(ちつちゅう)(みな)俯して内に在り、皆其の戸を墐(ぬ)る。・・・ ○是の月や、天子乃ち犬を以てを嘗む。先づ寝廟に薦む。・・・

孟冬の月〔十月〕。・・・ ○水始めて氷り、地始めて凍る。雉
(きじ)大水に入りて蜃と為る。虹蔵(かく)れて見えず。・・・ ○是の月や、大いに飲烝(いんじょう)す。天子乃ち来年を天宗に祈る。大いに割きて公社及び門閭を祠り、先祖・五祀を臘し、農を労ひて以て之を休息す。天子乃ち将帥に命じて武を講じ、射御を習ひ、力を角(くら)べしむ。 ○是の月や、乃ち水虞・漁師に命じて、水泉・池沢の賦を収めしむ。・・・

仲冬の月〔十一月〕。・・・ ○氷益々壮に、地はじめて圻
(さ)け、鶡旦(かつたん。ヤマドリ)鳴かず、虎始めて交はる。 ・・・ ○乃ち大酋(酒造りの長)に命じて、秫稲(じゅつたう。もちごめ)必ず斉(ととの)へ、麹糵(きくげつ。こうじ)必ず時にし、湛熾(せんし)必ず潔くし、水泉必ず香(かうば)しくし、陶器必ず良くし、火斉必ず得しむ。兼ねて六物を用ふるや、大酋之を監して、差貸(さじ)すること有る毋からしむ。・・・ ○是の月や、農 収蔵積聚せざる者有り、馬牛畜獣(きうじう)、放佚する者有らば、之を取るとも詰(なじ)らず。山林藪沢、能く蔬食を取り、禽獣を田猟する者有らば、野虞之を教道す。・・・ ○是の月や、日短至る。陰陽争ひ、諸生蕩(うご)く。・・・事は静かならんことを欲し、以て陰陽の定まる所を待つ。芸(うん。香草の一)始めて生ひ、茘挺(れいてい。オオニラ)出で、蚯蚓結び、糜角解(お)ち、水泉動く。日短至れば、則ち木を伐り竹箭(竹と短い竹)を取る。・・・ 

季冬の月〔十二月〕。・・・ ○雁 北に郷
(むか)ひ、鵲(かささぎ)始めて巣くひ、雉 雊(な)き、鶏 乳(にう)す。・・・ ○令して民に告げて五種(五穀の種)を出さしめ、農に命じて耦耕の事を計り、耒耜を脩め、田器を具へしむ。楽師に命じて、大いに合吹して而して罷む。乃ち四監に命じて、秩薪柴を収めて、以て郊廟及び百祀の薪燎に共す。・・・ 



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