辨 |
アサ科 Cannabaceae(大麻 dàmá 科)には、10属 約260種がある。
ムクノキ属 Aphananthe(糙葉樹屬)
アサ属 Cannabis(大麻屬)
アサ(タイマ) C. sativa(大麻)
エノキ属 Celtis(朴屬)
Gironniera(白顏樹屬) 熱帯・亜熱帯アジアに6種
G. subaequalis(白顏樹・大葉白顏樹)
カラハナソウ属 Humulus(葎草屬)
Pteroceltis(靑檀屬) 中国・蒙古に1種
P. tatarinowii(靑檀・檀樹・翼朴)
ウラジロエノキ属 Trema(山黃麻屬) 熱帯・亜熱帯に20-50種
T. angustifolium(狹葉山黃麻・小葉山黃麻・麻脚樹)
キリエノキ(コバフンギ) T. cannabinum(光葉山黃麻)
鹿児島・奄美・琉球・臺灣・福建・両広・西南産
var. dielsianum(T. dielsiana;山油麻・山脚麻)
T. levigatum(麻椰樹・羽脈山黃麻)
T. nitidum(銀毛葉山黃麻)
ウラジロエノキ T. orientale(異色山黃麻・麻桐樹・山角麻・山王麻)
小笠原・奄美・琉球・臺灣・両広・西南産
T. tomentosum(山黃麻)
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訓 |
漢語に麻(マ,má)と言うものは、もともとはアサ(麻)。後にアサのように繊維を取る植物、例えばアマ(亜麻)・チョマ(苧麻)・コウマ(黄麻)・ケイマ(莔麻)・ケナフ(洋麻)なども麻と呼んだ。 |
『本草和名』麻蕡に、「和名阿佐乃三」と。
『延喜式』麻子に、「アサノミ」と。
『倭名類聚抄』に、麻は「和名阿佐」、苧は「和名加良無之」と。
『大和本草』大麻{アサ}に、「一名火麻、雌ハ子アリ、麻仁ナリ、雄者名枲麻、又牡麻ト云」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』大麻に、「コヲリグサ古歌 ヌキグサ同上 アサ和名鈔 ヲ同上 ヒネリ土州」と。 |
説 |
中央アジア原産。中国には紀元前に伝わり、日本では弥生時代には栽培されていた。
雌雄異株。 |
今日の日本では、アサ(タイマ)の栽培には免許が必要。 |
誌 |
茎から繊維を採り、織物・ロープ・魚網などに用いる。 |
植物体(ことに成熟した雌株の花序と上部の葉)に含まれる樹脂に 幻覚物質(麻薬)が含まれている。主成分はTHC(テトラヒドロカンナビノール)。
麻薬としての名は、和名は大麻、中東ではハシシュ hashish、英名はマリファナ marihuana、漢名は大麻煙 dàmáyān。 |
中国では、根を麻根と呼び、茎の皮から取る繊維を麻皮と呼び、葉を麻葉と呼び、雄株の花を麻花と呼び、雌株の若い花穂を麻蕡と呼び、種仁を火麻仁と呼び、それぞれ薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.66-68 『全國中草藥匯編 上』pp.143-144 『(修訂) 中葯志』III/266-270
日本では、生薬マシニン(麻子仁)は アサの果実である(第十八改正日本薬局方)。 |
古代には、五穀・九穀の一として、主要な穀物に「麻」が挙げられており、その実を蕡(ヒ,fèi)という。
この「麻」について、古来議論があり、一説にタイマの実(今日の漢名は麻子 mazi)とし、一説にゴマの実(漢名は芝麻)とする。今日でも両説があるようだ。 |
『礼記』「月令」八月に、「犬を以て麻を嘗め、先づ寝廟に薦む」と。
『詩経』国風・豳風「七月」に、「九月は苴(しょ。アサの実)を叔(ひろ)ひ」と。 |
日本では、種子(和名はおのみ、苧実・麻実)は薬味として用いる(唐辛子・胡麻・山椒・芥子の実・麻の実・菜種・陳皮をあわせた香辛料を、七味唐辛子という)。また、種子からとる油(苧実油)は 食用・工業用とする。
皮を剥いだ茎は苧殻(おがら)と呼び、盂蘭盆の迎え火・送り火を焚くのに用いる。
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『万葉集』には、アサ・ヲ・ソなどとして歌われる。
麻衣著(け)ればなつかしき(紀)の国の妹背の山に麻蒔く吾妹(わぎも) (7/1195,藤原卿)
桜麻(さくらお)の苧原(をふ)の下草露しあれば明してい行け母は知るとも (11/2687,読人知らず)
桜麻の苧原の下草早く生(お)ひば妹が下紐解かざらましを (12/3049,読人知らず)
庭に立つ麻を刈り干し布暴(さら)す東女(あずまをみな)を忘れ賜ふな (4/521,常陸娘子)
かにかくに人はいふとも織り次がむ吾がはた(機)物の白麻衣 (7/1298,読人知らず)
麻衣(あさぎぬ,あさごろも)は、麻布で作った服。粗末な服であり、喪服にも用いた。
勝鹿(かつしか)の 真間(まま)の手児奈(てごな)が
麻衣に 青衿(あをくび)着け 直(ひた)さ麻(を)を 裳には織り服(き)て
髪だにも 掻きは梳(けづ)らず 履をだに 着けず行けども・・・
(9/1807,読人知らず「勝鹿の真間娘子を詠む歌」)
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しのゝめや露の近江の麻畠 (蕪村,1716-1783)
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いかばかり麻の畑の青き葉の身には染むらむ人妻の泣く (北原白秋『桐の花』1913)
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インドでは、ヴェーダ時代から薬用に用いた。 |
ヘロドトスによれば、スキタイ人はこれを祭祀・呪術に用いた。 |