辨 |
Capsicum annuum には、さまざまな変種・品種がある。
var. conoides (朝天椒・指天椒;E. Cone pepper):辛味が強く、小さな果実を上向きにつける。
日本の鷹の爪など。 『中国本草図録』Ⅹ/4831
var. fasciculatum (簇生椒:E. Red cluster):辛く、房成りの果実をつける。
日本の八房など。 『中国本草図録』Ⅹ/4832
var. longum (長角椒;E. Long pepper):細長く大型の果実をつけ、辛みのあるもの・ないものがあり、
果菜として若葉も利用。日本では、伏見辛(葉唐辛子用)・日光唐辛子など。
var. grossum (菜椒・甜柿椒;E. Bell pepper,Sweet pepper):辛みはなく、果菜として利用。
アマトウガラシ。シシトウやピーマンなど。
var. cerasiforme (櫻桃椒;E. Cherry pepper):小さく上向の果実をつける。観賞用の五色。
榎実(えのみ)など。 |
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トウガラシ属 Capsicum(辣椒 làjiāo 屬)は、メキシコ・熱帯アメリカに約25-40種がある。
トウガラシ C. annuum(辣椒)
キダチトウガラシ C. frutescens(小米辣) ボリビア・ブラジル産
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ナス科 Solanaceae(茄 qié 科)については、ナス科を見よ。 |
訓 |
和名トウガラシとは「外国から来たからし」。これに対して従来のからしを、和がらしと呼ぶ。
別名をコウライガラシなどというのは、豊臣秀吉の朝鮮出兵に際して朝鮮から持ち込まれたと考えられたことから。 |
仏名は piment(ピマン)。日本では辛味のない var. grossum をピーマンと呼ぶが、フランス語の
piment は、辛いものも甘いものも含めて、トウガラシの通称。 |
説 |
熱帯アメリカ原産、今は広く世界の熱帯・温帯地方で栽培されている。
果実にカプサイシン capsaicin などを含んでおり、辛い。 |
1493年コロンブスによってスペインに持ち込まれ、ヨーロッパに広まった。
中国には、16-17世紀に中国に入る。
日本には、豊臣秀吉の朝鮮出兵(1592-98)のとき種子を持ち帰った、とする説が強い(そのほかに、1542・1605説などがある)。 |
『大和本草』蕃椒に、「昔ハ日本ニ無レ之、秀吉公伐二朝鮮一時彼國ヨリ種子ヲ取來ル故ニ俗ニ高麗胡椒ト云」と。 |
誌 |
果実を香辛料とし。また嫩葉嫩茎は食用にする。 |
中国では、根を辣椒頭と呼び、茎を辣椒梗と呼び、果実を辣椒と呼び、薬用にする。
日本では、生薬トウガラシ(蕃椒)は トウガラシの果実である(第十八改正日本薬局方)。 |
「其実 赤きあり、紫色なるあり、黄なるあり、天に向ふあり、地にむかふあり、大あり、小あり、長き、短き、丸き、角なるあり。其品さまざまおほし」(宮崎安貞『農業全書』1697)。 |
七味唐辛子とは、唐辛子・胡麻・山椒・芥子の実・麻の実・菜種・陳皮をあわせたもの。
安永(1772‐81)・天明(1781‐89)のころ(一説に
寛永(1624-1643)年間)、江戸で七色唐辛子として売り出されてはやった。七味唐辛子は、その京都での称謂。 |
此たねとおもひこなさじとうがらし (芭蕉,1644-1694)
草の戸をしれや穂蓼に唐がらし (同)
かくさぬぞ宿は菜汁に唐がらし (同)
青くても有(ある)べきものを唐辛子 (同)
うつくしや野分のあとのとうがらし (蕪村,1716-1783)
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武蔵野のだんだん畑の唐辛子いまあかあかと刈り干しにけれ
あかあかと胡椒刈り干せとめどなく涙ながるる胡椒刈り干せ
わかき日は赤き胡椒の実のごとくかなしや雪にうづもれにけり
(北原白秋『桐の花』1913)
唐辛子の中に繭こもる微かなる虫とりいだし見てゐる吾は
(1934,斎藤茂吉『白桃』)
しづかなる生のまにまにゆふぐれのひと時かかり唐辛子煮ぬ
(1943,齋藤茂吉『小園』)
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