けし (芥子) 

学名  Papaver somniferum
日本名  ケシ
科名(日本名)  ケシ科
  日本語別名  薬用ケシ
漢名  罌粟(オウゾク,yīngsù)
科名(漢名)  罌粟(オウゾク,yīngsù)科
  漢語別名  米嚢(ベイノウ,mĭnáng)、御米(ギョベイ,yùmĭ)、嚢子(ノウシ,nángzĭ)、象穀(ゾウコク,xiànggŭ)、阿芙蓉(アフヨウ,āfúróng)、麗春花(レイシュンカ,lichunhua)、賽牡丹(サイボタン,saimudan)、錦被花(キンヒカ,jinpihua)
英名  Opium poppy
辨  ケシ科
   ケシ属


 
2008/05/06 薬用植物園
 ケシ科 Papaveraceae(罌粟 yīngsù 科)には、世界に約40属800種がある。

   モモチドリ属 Adlumia(藤荷包牡丹屬)

   アザミゲシ属 Argemone(薊罌粟屬)

   クサノオウ属 Chelidonium(白屈菜屬)

   イヌヤマブキソウ属 Coreanomecon(鳴蟬花屬)

   キケマン属 Corydalis(紫菫屬)

   Dactylicapnos(紫金龍屬)
     D. scandens(紫金龍)
『全国中草葯匯編』上/839-840
   コマクサ属 Dicentra(馬褲花屬)

   Dicranostigma(禿瘡花屬)
     D. leptopodum(禿瘡花)
         
華北・靑海・四川・雲南・チベット産 『全国中草葯匯編』下/335

   シラユキゲシ属 Eomecon(血水草屬)

   ハナビシソウ属 Eschscholzia(花菱草屬)

   カラクサケマン属 Fumaria(球果紫菫屬)

   ツノゲシ属 Glaucium(海罌粟屬)

   カラクサゲシ属 Hunnemannia(金杯花屬)

   ヤマブキソウ属 Hylomecon(荷靑花屬)

   ケシモドキ属 Hypecoum(角茴香屬)
     ケシモドキ H. erectum(Chiazospermum erectum;角茴香)
         
遼寧・吉林・黑龍江・華北・西北・モンゴリア・シベリア産
         
『全国中草葯匯編』下/333-334

   ケマンソウ属 Lamprocapnos(荷包牡丹屬)

   タケニグサ属 Macleaya(博落廻屬)

   メコノプシス属 Meconopsis(綠絨蒿屬)

   ケシ属 Papaver(罌粟屬)

   オサバグサ属 Pteridophyllum(蕨葉草屬)

   Sanguinaria(血根草屬)

   Stylophorum(金罌粟屬)
     S. diphyllum(白屈菜罌粟)
     S. lasiocarpum(金罌粟・大人血七)
         
陝西・湖北・四川産 『全国中草葯匯編』下/29-30
    
 ケシ属 Papaver(罌粟 yīngsù 屬)には、北半球の温帯・亜寒帯を中心に次のようなものがある。

  アライドヒナゲシ P. alboroseum 
北千島・カムチャツカ産
  タカネヒナゲシ(ミヤマヒナゲシ) P. alpinum(P.radicatum var.pseudoradicatum,
         P.pseudoradicatum;高山罌粟)
 アルプス・カルパチア原産
  トゲナガミゲシ P. argemone
  P. atlanticum(摩洛哥罌粟)
  ハカマオニゲシ P. bracteatum(人紅罌粟)
  P. canescens(灰毛罌粟)
モンゴリア・南シベリア・中央アジアに産
  モンツキヒナゲシ(ピエロ) P. commutatum(E.Flanders poppy) 
小アジア原産
  ナガミヒナゲシ P. dubium(E.Long-headed poppy;長莢罌粟)
  P. fauriei
    リシリヒナゲシ subsp. fauriei
    チシマヒナゲシ subsp. shimshirense(P.miyabeanum)
  チューリップゲシ P. glaucum
  トゲミゲシ P. hybridum(雜罌粟)
ヨーロッパ南部の雑草
  シベリアヒナゲシ(アイスランドポピー・ポピー) P. nudicaule(野罌粟・氷島罌粟;
         E.Iceland poppy)
 『中国本草図録』Ⅵ/2623・『中国雑草原色図鑑』75
    シロバナヒナゲシ subsp. amurense(P.anomalum, P.nudicaule
         var.aquilegioides f.amurense, P.amurense;黑水罌粟)
    subsp. rubro-aurantiacum var. chinense(山罌粟・裂葉野罌粟)
    var. xanthopetalum
『原色高山植物大図鑑』156
  オニゲシ P. orientale(東方罌粟・鬼罌粟;E.Oriental poppy)
  ボタンゲシ P. paeoniaeflora 
ケシの八重咲き園芸品種
  P. pavoninum(黑環罌粟)
イラン・中央アジア産
  P. pseudo-orientale
  P. radicatum(北極罌粟)
    タカネヒナゲシ subsp. pseudo-radicatum(山罌粟)
 長白山産
         『中国本草図録』Ⅲ/1144・『週刊朝日百科 植物の世界』8-220
  ヒナゲシ P. rhoeas(虞美人・麗春花;E.Corn poppy)
  ケシ P. somniferum(罌粟;E.Opium poppy)『中国本草図録』Ⅰ/0085
    nothosubsp. authemanii(P.× authemanii)
    アツミゲシ subsp. setigerum(P.setigerum;E.Wild poppy)
    var. laciniatum
  P. stubendorfii 
樺太南部産 
  カラフトヒナゲシ Papaver tolmatschevianum
   
 和名ケシは、漢語芥子(カイシ,jièzĭ)の音の転訛。しかし、漢名を芥子と言うものはカラシナ(芥)の種子であり、これを「けし」と読んで Papaver に当てるのは誤りである。
 ケシの種子がカラシナの種子に似ていることから誤用された用法、という。
 『倭名類聚抄』に、芥は「和名加良之」、辛芥は「和名多加菜」、辛菜は「和名賀良之、俗用芥子」と。
 『大和本草』芥{カラシ}に「芥子ヲケシトヨムハ誤ナリ、ケシハ罌粟ナリ」と、また「罌粟{ケシ}」と。
 漢名罌粟(オウゾク,yīngsù)は、蒴果(いわゆる芥子坊主)が罌(かめ)に、種子が粟(あわ)に似ていることから。別名の米嚢・御米・象穀・嚢子も、米俵や米との連想による。
 種小名 somniferum は、「眠りをもたらす」。
 地中海東部・小アジア原産と考えられている。古くから栽培。
 中国には、唐代 7c.-8c.頃にインドから入り、観賞用に栽培され、多くの園芸品種が作られた。
 日本には(平安時代乃至)室町時代に入り、生け花に用いるなど、観賞用・薬用に栽培された。
 ケシ属の植物のうちケシアツミゲシは、種子以外の植物体に麻薬成分モルヒネ morphine などのアヘンアルカロイドを含む。
 これらの未熟の果実に傷をつけ、滲み出す白い乳液を乾して固めた褐色の固体を、アヘンという。
 アヘンの英名は opium。ギリシア名 opiom(野菜の汁)に由来する。
 かつて漢土では、アヘンは アラビア名 afyun を音写して 阿芙蓉(アフヨウ,āfúróng)と呼んでいたが、19世紀には英名 opium を音写して、阿片(アヘン,āpiàn)・鴉片(ガヘン,yāpiàn)・雅片(ガヘン,yăpiàn)などと呼ぶようになった。
 日本語のアヘンは、阿片の音読みである。  
 薬品名としては、アヘン末は、アヘンを均質な粉末としたもの、又はこれにデンプン若しくは「乳糖水和物」を加えたものである(第十八改正日本薬局方)。
 今日、薬用のアヘンは、白花の品種アヘンケシから作る。
 1996年現在、国際条約に基づき 正規にアヘンを生産している国は、日本・中国・インド・北朝鮮の4カ国である。ただし、生産量のほとんどは インドが占める。
 日本では、生産が必要量に追いつかず、インドからの輸入に頼っている。
 今日の日本では、ケシとアツミゲシは、1946年より 麻薬取締法及びあへん法によって 一般の栽培が禁止され、今日に至る。
   
(なお、ケシ・アツミゲシは、東京近辺では東京都薬用植物園で見ることができる。)
 また、ハカマオニゲシは 麻薬成分テバインを含むので、「麻薬及び向精神薬取締法」により、一般の栽培が禁止されている。
 アヘンは、きわめて古くから薬用に用いられてきた。小アジアでは、早く紀元前にアヘンを採取している。
 18世紀後半、イギリス東インド会社は植民地インドでケシを栽培、アヘンを製造し、これを清に輸出した。これがもとになって両国の間にアヘン戦争(the Opium War,1840-1842)が起った。
 漢土でも、19c.には ケシをもっぱらアヘンの原料として栽培した。
 日本では、江戸時代には青森県、ついで大阪府でケシの栽培・アヘンの採取が行われた。 
 中国では、アヘン(鴉片,yāpiàn)のほか、成熟した蒴果の外殻(ケシ坊主から種子を取り除いて乾燥したもの)を 罌粟殻(オウゾクカク,yīngsùqiào)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.494-496 『(修訂) 中葯志』III/685-688
 ケシ・アツミゲシの種子には、毒性はない。和名けしごま(芥子胡麻)、漢名罌粟(オウゾク,yīngsù)と呼び、漢方で薬用とするほか、食用とし、また油を採る。
 食用としては、パンの表面に卵黄をかけてその上にまぶしたり
(アンパンなど)、金平糖の核に、また七味唐辛子の一味として用いる。なお、唐辛子・胡麻・山椒・芥子の実・麻の実・菜種・陳皮をあわせた香辛料を、七味唐辛子という。
 ケシ油は、食用のほか、絵具・石鹸などの原料にする。
 「けしは花の白き一重なるが実多くかうばし。料理には是を用ゆる物なり。又花紅紫色々あり。是を米嚢花と云ひて、詩にも作れり。花殊に見事にて、菜園にうへて尤も愛すべき物なり。されども千葉の色あるは実少なく、子の色も雑色にて料理によからず」(宮崎安貞『農業全書』1697)
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 春之部」に、「花芥子 末、夏初。源氏・そこ白・牡丹・うすすミ・むらさき、いろいろ有。八重ひとへハさらなり」と。

   白げしにはねもぐ蝶の形見哉 
(芭蕉『野ざらし紀行』1685)

   似合しきけしの一重や須磨の里
       
(「翁に供せられて須磨明石にわたりて」,杜国,『猿蓑』1691)
   青くさき匂ひもゆかしけしの花 
(嵐蘭,『猿蓑』1691)

   けしの花籬
(まがき)すべくもあらぬ哉 (蕪村,1716-1783)
 

   罌粟はたの向うに湖
(うみ)の光りたる信濃のくにに目ざめけるかも
     
(1913上諏訪にて,斉藤茂吉『赤光』1913)
   臥処
(ふしど)よりおきいでくればくれなゐの罌粟の花ちる庭の隈(くま)みに
     
(1946,齋藤茂吉『白き山』) 

   恋すてふ浅き浮名もかにかくに立てばなつかし白芥子の花
   芥子のたねひとり掌にのせきらきらと蒔けば心の五月忍ばゆ
     
 (北原白秋『桐の花』1913)
 
 日本語で、微細な粒をけしつぶ(芥子粒)に譬えるのは、仏典による。
 すなわち『法華経』提婆達多品に、「観三千大千世界乃至無有如芥子許、非是菩薩捨身命処」とあるなど。ただし、ここでも、原典の芥子は カラシナ(芥)の種子であり、ケシの種ではない。
 
(なお漢語語では、微細な粒は米粒に譬えることが多い。) 

var. laciniatum   2008/05/06 薬用植物園

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