けし (芥子) 

学名  Papaver somniferum
日本名  ケシ
科名(日本名)  ケシ科
  日本語別名  薬用ケシ
漢名  罌粟(オウゾク,yīngsù)
科名(漢名)  罌粟(オウゾク,yīngsù)科
  漢語別名  米嚢(ベイノウ,mĭnáng)、御米(ギョベイ,yùmĭ)、嚢子(ノウシ,nángzĭ)、象穀(ゾウコク,xiànggŭ)、阿芙蓉(アフヨウ,āfúróng)、麗春花(レイシュンカ,lichunhua)、賽牡丹(サイボタン,saimudan)、錦被花(キンヒカ,jinpihua)
英名  Opium poppy
2008/05/06 薬用植物園
 ケシ科 Papaveraceae(罌粟 yīngsù 科)には、世界に約40属800種がある。

   モモチドリ属 Adlumia(藤荷包牡丹屬)
   アザミゲシ属 Argemone(薊罌粟屬)
   クサノオウ属 Chelidonium(白屈菜屬)
   イヌヤマブキソウ属 Coreanomecon(鳴蟬花屬)
   キケマン属 Corydalis(紫菫屬)
   Dactylicapnos(藤鈴兒草屬)
   コマクサ属 Dicentra(馬褲花屬)
   Dicranostigma(禿瘡花屬)
   シラユキゲシ属 Eomecon(血水草屬)
   ハナビシソウ属 Eschscholzia(花菱草屬)
   カラクサケマン属 Fumaria(球果紫菫屬)
   ツノゲシ属 Glaucium(海罌粟屬)
   カラクサゲシ属 Hunnemannia(金杯花屬)
   ヤマブキソウ属 Hylomecon(荷靑花屬)
   ケシモドキ属 Hypecoum(角茴香屬)
   ケマンソウ属 Lamprocapnos(荷包牡丹屬)
   タケニグサ属 Macleaya(博落廻屬)
   メコノプシス属 Meconopsis(綠絨蒿屬)
   ケシ属 Papaver(罌粟屬)
   オサバグサ属 Pteridophyllum(蕨葉草屬)
   Sanguinaria(血根草屬)

    
 ケシ属 Papaver(罌粟 yīngsù 屬)には、北半球の温帯・亜寒帯を中心に次のようなものがある。

  アライドヒナゲシ P. alboroseum 
北千島・カムチャツカ産
  タカネヒナゲシ(ミヤマヒナゲシ) P. alpinum(P.radicatum var.pseudoradicatum,
         P.pseudoradicatum;高山罌粟)
 アルプス・カルパチア原産
  トゲナガミゲシ P. argemone
  P. atlanticum(摩洛哥罌粟)
  ハカマオニゲシ P. bracteatum(人紅罌粟)
  P. canescens(灰毛罌粟)
モンゴリア・南シベリア・中央アジアに産
  モンツキヒナゲシ(ピエロ) P. commutatum(E.Flanders poppy) 
小アジア原産
  ナガミヒナゲシ P. dubium(E.Long-headed poppy;長莢罌粟)
  P. fauriei
    リシリヒナゲシ subsp. fauriei
    チシマヒナゲシ subsp. shimshirense(P.miyabeanum)
  チューリップゲシ P. glaucum
  トゲミゲシ P. hybridum(雜罌粟)
ヨーロッパ南部の雑草
  シベリアヒナゲシ(アイスランドポピー・ポピー) P. nudicaule(野罌粟・氷島罌粟;
         E.Iceland poppy)
 『中国本草図録』Ⅵ/2623・『中国雑草原色図鑑』75
    シロバナヒナゲシ subsp. amurense(P.anomalum, P.nudicaule
         var.aquilegioides f.amurense, P.amurense;黑水罌粟)
    subsp. rubro-aurantiacum var. chinense(山罌粟・裂葉野罌粟)
    var. xanthopetalum
『原色高山植物大図鑑』156
  オニゲシ P. orientale(東方罌粟・鬼罌粟;E.Oriental poppy)
  ボタンゲシ P. paeoniaeflora 
ケシの八重咲き園芸品種
  P. pavoninum(黑環罌粟)
イラン・中央アジア産
  P. pseudo-orientale
  P. radicatum(北極罌粟)
    タカネヒナゲシ subsp. pseudo-radicatum(山罌粟)
 長白山産
         『中国本草図録』Ⅲ/1144・『週刊朝日百科 植物の世界』8-220
  ヒナゲシ P. rhoeas(虞美人・麗春花;E.Corn poppy)
  ケシ P. somniferum(罌粟;E.Opium poppy)『中国本草図録』Ⅰ/0085
    nothosubsp. authemanii(P.× authemanii)
    アツミゲシ subsp. setigerum(P.setigerum;E.Wild poppy)
    var. laciniatum
  P. stubendorfii 
樺太南部産 
  カラフトヒナゲシ Papaver tolmatschevianum
   
 和名ケシは、漢語芥子(カイシ,jièzĭ)の音の転訛。しかし、漢名を芥子と言うものはカラシナ(芥)の種子であり、これをけしと読んで Papaver に当てるのは誤りである。
 ケシの種子がカラシナの種子に似ていることから、室町時代中期以降になって 誤用された用法、という。
 漢名罌粟(オウゾク,yīngsù)は、蒴果(いわゆる芥子坊主)が罌(かめ)に、種子が粟(あわ)に似ていることから。別名の米嚢・御米・象穀・嚢子も、米俵や米との連想による。
 種小名 somniferum は、「眠りをもたらす」。
 地中海東部・小アジア原産と考えられている。古くから栽培。
 中国には、唐代 7c.-8c.頃にインドから入り、観賞用に栽培され、多くの園芸品種が作られた。
 日本には(平安時代乃至)室町時代に入り、生け花に用いるなど、観賞用・薬用に栽培された。
 ケシ属の植物のうちケシアツミゲシは、種子以外の植物体に麻薬成分モルヒネ morphine などのアヘンアルカロイドを含む。
 これらの未熟の果実に傷をつけ、滲み出す白い乳液を乾して固めた褐色の固体を、アヘンという。
 アヘンの英名は opium。ギリシア名 opiom(野菜の汁)に由来する。
 かつて漢土では、アヘンは アラビア名 afyun を音写して 阿芙蓉(アフヨウ,āfúróng)と呼んでいたが、19世紀には英名 opium を音写して、阿片(アヘン,āpiàn)・鴉片(ガヘン,yāpiàn)・雅片(ガヘン,yăpiàn)などと呼ぶようになった。
 日本語のアヘンは、阿片の音読みである。  
 日本薬局方では、アヘンを均質な粉末にしたものを アヘン末という。
 今日、薬用のアヘンは、白花の品種アヘンケシから作る。
 1996年現在、国際条約に基づき 正規にアヘンを生産している国は、日本・中国・インド・北朝鮮の4カ国である。ただし、生産量のほとんどは インドが占める。
 日本では、生産が必要量に追いつかず、インドからの輸入に頼っている。
 今日の日本では、ケシとアツミゲシは、1946年より 麻薬取締法及びあへん法によって 一般の栽培が禁止され、今日に至る。
   
(なお、ケシ・アツミゲシは、東京近辺では東京都薬用植物園で見ることができる。)
 また、ハカマオニゲシは 麻薬成分テバインを含むので、「麻薬及び向精神薬取締法」により、一般の栽培が禁止されている。
 アヘンは、きわめて古くから薬用に用いられてきた。小アジアでは、早く紀元前にアヘンを採取している。
 18世紀後半、イギリス東インド会社は植民地インドでケシを栽培、アヘンを製造し、これを清に輸出した。これがもとになって両国の間にアヘン戦争(the Opium War,1840-1842)が起った。
 漢土でも、19c.には ケシをもっぱらアヘンの原料として栽培した。
 日本では、江戸時代には青森県、ついで大阪府でケシの栽培・アヘンの採取が行われた。 
 中国では、アヘン(鴉片,yāpiàn)のほか、ケシ坊主から種子を取り除いて乾燥したものを 罌粟殻(オウゾクカク,yīngsùké)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.494-496
 ケシ・アツミゲシの種子には、毒性はない。和名けしごま(芥子胡麻)、漢名罌粟(オウゾク,yīngsù)と呼び、漢方で薬用とするほか、食用とし、また油を採る。
 食用としては、パンの表面に卵黄をかけてその上にまぶしたり
(アンパンなど)、金平糖の核に、また七味唐辛子の一味として用いる。なお、唐辛子・胡麻・山椒・芥子の実・麻の実・菜種・陳皮をあわせた香辛料を、七味唐辛子という。
 ケシ油は、食用のほか、絵具・石鹸などの原料にする。
 「けしは花の白き一重なるが実多くかうばし。料理には是を用ゆる物なり。又花紅紫色々あり。是を米嚢花と云ひて、詩にも作れり。花殊に見事にて、菜園にうへて尤も愛すべき物なり。されども千葉の色あるは実少なく、子の色も雑色にて料理によからず」(宮崎安貞『農業全書』1697)
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 春之部」に、「花芥子 末、夏初。源氏・そこ白・牡丹・うすすミ・むらさき、いろいろ有。八重ひとへハさらなり」と。

   白げしにはねもぐ蝶の形見哉 
(芭蕉『野ざらし紀行』1685)

   似合しきけしの一重や須磨の里
       
(「翁に供せられて須磨明石にわたりて」,杜国,『猿蓑』1691)
   青くさき匂ひもゆかしけしの花 
(嵐蘭,『猿蓑』1691)

   けしの花籬
(まがき)すべくもあらぬ哉 (蕪村,1716-1783)
 

   罌粟はたの向うに湖
(うみ)の光りたる信濃のくにに目ざめけるかも
     
(1913上諏訪にて,斉藤茂吉『赤光』1913)
   臥処
(ふしど)よりおきいでくればくれなゐの罌粟の花ちる庭の隈(くま)みに
     
(1946,齋藤茂吉『白き山』) 

   恋すてふ浅き浮名もかにかくに立てばなつかし白芥子の花
   芥子のたねひとり掌にのせきらきらと蒔けば心の五月忍ばゆ
     
 (北原白秋『桐の花』1913)
 
 日本語で、微細な粒をけしつぶ(芥子粒)に譬えるのは、仏典による。
 すなわち『法華経』提婆達多品に、「観三千大千世界乃至無有如芥子許、非是菩薩捨身命処」とあるなど。ただし、ここでも、原典の芥子は カラシナ(芥)の種子であり、ケシの種ではない。
 
(なお漢語語では、微細な粒は米粒に譬えることが多い。) 

var. laciniatum   2008/05/06 薬用植物園

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