辨 |
Boehmeria nivea には、次のような種内分類群がある。
ラミー var. candicans(B.utilis;楔基苧麻)
アオカラムシ var. concolor(B.nivea var.concolor f.concolor, B.nipononivea
var.concolor;靑葉苧麻) 葉裏があおい。熱帯アジアで栽培。
カラムシ f. nipononivea(B.nivea subsp.nipononivea, B.nipononivea;
貼毛苧麻・伏毛苧麻) 葉裏が白い。温帯アジアで栽培。
ナンバンカラムシ var. nivea(苧麻 zhùmá・家苧麻・白麻・圓麻)『中国本草図録』Ⅲ/1077
熱帯アジア原産。北海道・本州・四国・九州・琉球・臺灣・華東・河南・陝甘・兩湖・
・兩廣・ヒマラヤ・インドシナ・インドに分布。
ノカラムシ var. viridula(微綠苧麻) 臺灣・廣西・雲南産
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ヤブマオ属 Boehmeria(苧麻 zhùmá 屬)については、ヤブマオ属を見よ。 |
訓 |
和名のソは、草から取った繊維を謂う。ヤマソ・イラソのように用いられた。
アオソと呼ぶのは、アカソに対して、または繊維が青味を帯びていることから。 |
カラムシは、幹(殻)を蒸して繊維を取ることから。
野生品をノマオ(野真苧)と呼び、畑に栽培するものをカラムシと呼んだ。ノマオから採った繊維がヤマソであろう。
イラソは、ミヤマイラクサ(イラ)から採った繊維。 |
深江輔仁『本草和名』(ca.918)苧根に、「和名乎乃祢」と。
源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、苧は「和名加良無之」と。
『大和本草』苧麻{マヲ}に、「又野苧{ヤフマヲ}アリ」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)に、「苧麻 カラムシ和名鈔 マヲ カツポウ豫州 シロヲ土州 衣草和方書 シラソ雲州 ヤマソ佐州 シロソ肥前 シロハ シロホ倶ニ同上 ヒウジ播州」と。 |
漢名の苧(チョ,zhù)は、李時珍『本草綱目』に、「苧麻は紵(チョ,zhù)を作る。以て紵を績(つむ)ぐべければ。故に之を紵と謂う。凡そ麻絲の細き者は絟(セン,quán,ほそぬの・ほそいと)と為し、粗き者は紵と為す」と。
麻(マ,má)は、もともとはタイマ(大麻)。後にタイマのように繊維を取る植物、例えばアマ(亜麻)・チョマ(苧麻)・コウマ(黃麻)・ケイマ(莔麻)・ケナフ(洋麻)なども麻と呼んだ。 |
学名の Boehmeria は、ドイツのヴィッテンベルクの教授であった G.R.Boehmer(1723-1803)の名に因む。
nivea は、「雪白の、雪のように白い」。concolor は「同色の」。 |
説 |
東南アジア原産、中国では古くから繊維植物として栽培しており、今日では安徽南部・福建・廣東には野生している。
日本でも古くから栽培するが、広く中部以南に野生している。野生するものを野マオと呼び、畑に栽培してカラムシと呼ぶ。 |
カラムシは、ヤブマオ属の中で唯一 葉が互生する。 |
誌 |
カラムシ(白チョマ)からは、茎の靭皮から繊維を取り、夏用の上質な布を織り、また上質の紙を漉く。
茎から採った強い粗繊維(青麻・青苧,あおそ)から、「ペクチン質を除き精製すると光沢の美しい強い繊維がとれる。このため灰汁(あく)につけ、水洗いしては雪上にさらす。布を織ってさらすのが縮、さらした糸で織ったものが上布である」(世界大百科事典)。 |
中国では、根を苧麻根と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅰ』pp.340-341 |
『万葉集』に、
ひとごと(人言)のしげ(繁)きによりてまおごも(真苧薦)の
おや(同)じまくら(枕)はわ(吾)はま(纏)かじやも (14/3464,読人知らず)
まをごものふ(節)のま(間)ちか(近)くてあ(逢)はなへば
おき(沖)つまかも(真鴨)のなげ(嘆)きそあ(吾)がする (14/3524,読人知らず)
青麻を裂いて糸にしたものを績麻(うみお)という。「績麻なす」は、長いにかかる枕詞、糸が長いことから。
『万葉集』に、
・・・績麻なす 長柄の宮に・・・(6/928,笠金村)
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