辨 |
クワ科 Moraceae(桑 sāng 科)には、世界の熱帯~温帯に約37-50属 約1200-1400種がある。
Allaeanthus(落葉花桑屬) マダガスカル・スリランカ・東南アジア・ヒマラヤ・雲南に4種
A. kurzii(落葉花桑) 雲南・ヒマラヤ・インドシナ・スマトラ産
ウパスノキ属 Antiaris(見血封喉屬) 東南アジア乃至インドに約1-4種
ウパス A. toxicaria(見血封喉・加布・剪刀樹・箭毒木)
兩廣・雲南・東南アジア~インド東部産、乳液を矢毒に用いる。ウパスはマレーの現地名
パンノキ属 Artocarpus(波羅蜜屬)
ラモン属 Brosimum 熱帯アメリカに約15種
カジノキ属 Broussonetia(構樹屬)
アメリカゴムノキ属(橡膠桑屬) Castilla 熱帯アメリカに3種
ドルステニア属 Dorstenia(琉桑屬)
クワクサ属 Fatoua(水蛇麻屬)
イチジク属 Ficus(榕屬)
ハリグワ属 Maclura(橙桑屬)
Malaisia(牛筋藤屬) 東南アジアを中心とする熱帯・亜熱帯に1種
ネジレギ M. scandens(牛筋藤・包飯果藤)
クワ属 Morus(桑屬)
Phyllochlamys(酒餠樹屬)
Pseudostreblus(假鵲腎樹屬)
P. indica(假鵲腎樹・滑葉鐵打)『中国本草図録』Ⅰ/0031 『全国中草葯匯編』上/810-811
Smithiodendron(梨桑屬)
Streblus(鵲腎樹屬)
S. asper(鵲腎樹)
Taxotrophis(刺桑屬)
Teonongia(米揚噎屬)
T. tonkinensis(米揚噎)
ネジレギ属 Trophis
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クワ属 Morus(桑 sāng 屬)は、アジア・アフリカ・アメリカに約10-20種がある。
マグワ(トウグワ・シログワ・カラヤマグワ) M. alba(桑; E. White mulberry)
ロソウ(ログワ・マルバグワ) var. multicaulis(M.latifolia)
大葉種。 江蘇・浙江・陝西・四川などで栽培
ヤマグワ(クワ・ノグワ・シマグワ) M. australis(M.bombycis, M.amamiana, M.bombycis
var.caudatifolia, M.bombycis f.disseta;鷄桑・小葉桑・桑樹・鹽桑仔・
桑材仔・蠶仔葉樹・桑白・桑枝・娘子樹;E. Japanese mulberry)
中国では、地方により葉・根皮を薬用 『中国本草図録』Ⅲ/1076
ハマグワ f. maritima(M.bombycis var.maritima, M.australis var.glabra)
オガサワラグワ M. boninensis 小笠原産 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
ケグワ M. cathayana(M.tiliifolia;華桑)
本州(和歌山・中国)・黄河長江各流域・インドシナに産
ハチジョウグワ M. kagayamae(M.australis var.hachijoensis) 伊豆半島南部・伊豆七島産
M. laevigata(長果桑) チベットでは葉を薬用 『雲南の植物Ⅲ』169
M. macroura(奶桑) 雲南・ヒマラヤ・インドシナ・インドネシア産
モウコグワ(チョウセングワ) M. mongolica(蒙桑・崖桑・刺葉桑)
朝鮮・遼寧・内蒙古・華北・山東・兩湖・四川・雲南に産、中国では葉・根皮を薬用
オニグワ var. diabolica(花葉岩桑) 『雲南の植物Ⅱ』159
クロミグワ M. nigra(黑桑;E. Black mulberry) カフカス原産、果実生食用に欧米で植栽
M. notabilis(川桑)
アカミグワ M. rubra(E. Red mulberry) 北米原産、果実生食用に欧米で植栽
M. serrata(吉隆桑) ヒマラヤ産
M. wittiorum(長穗桑) 兩湖・兩廣・貴州産
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マグワとヤマグワの相違点を列挙する(『改訂新版 日本の野生植物』による)。
若枝: マグワは、あらい毛がある。
ヤマグワは、無毛。
葉柄: マグワは、初めあらい毛があり、のちほとんど無毛。
ヤマグワは、無毛。
花序の柄: マグワは、軟毛が密生。
ヤマグワは、あらい毛がある。
雄花の花被片: マグワは、ほとんど無毛。
ヤマグワは、背面にあらい毛があるほかは無毛。
雌花の花柱: マグワは、基部近くまで裂け、ほとんど柄はない。
(花柱は約2mm)
ヤマグワは、柄があり、先は浅く2裂する。
(花柱は2-2.5mm、柄は1-1.5mm)
複合果: マグワは、紫黒色に熟すが、ときに白色のものもある。
ヤマグワは、紫黒色に熟す。
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栽培するクワの品種は 250餘を数えるが、多くは次の3系列に属するという。
ヤマグワ系: 北陸・東北地方に多い。赤木・島の内・遠州高助・剣持など。
ハクソウ(白桑)系(カラグワ系): マグワに由来。改良鼠返(ねずみがえし)・一ノ瀬など。
ロソウ(魯桑)系: 西日本に多い。ロソウに由来。改良魯桑・赤目魯桑など。 |
訓 |
一名シログワというのは、果実の色から。 |
『本草和名』に、桑根白皮は「和名久波乃加波」、桑菌は「久波乃多介」、赤鶏桑は「和名久波乃美」と。
『倭名類聚抄』桑に「和名久波」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』に、桑は「クハ和名鈔」と。 |
漢名の椹・葚(シン・ジン,shèn)は、クワの実。 |
属名は、ラテン語の「クワ」。語源は ケルト語の mor(黒)に由来、熟した果実の色から、という。
種小名は「白い」。果実の色から。 |
説 |
雌雄異株。
果実は未熟時には白く、赤色を経て紫黒色に熟する(ただし 色づかない品種がある)。 |
華北・湖北原産、中国では全国で栽培。日本には古く蚕とともに渡来した。
多くの園芸品種がある。
12c.ヨーロッパに入り、果樹・並木として植栽。 |
誌 |
中国では、葉をカイコ(蚕)の飼料とするために栽培し、その歴史は 養蚕とともに古い。
殷墟(河南省安陽)出土の甲骨文字に 養蚕関係の文字が多出している。また『詩経』『楚辞』などから 近世に至るまで、桑はつねに文学作品に取り上げられてきた。
湖南省長沙馬王堆漢墓からは 絹織物が出土しており、四川省出土の画像磚には柴桑の場面が浮彫された例がある。
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ほかに果実(桑椹・桑葚・桑黮,ソウジン,sāngshèn)を食用としたり酒(桑実酒)を作る原料とする。また、葉から桑茶を作り、樹皮から繊維を採って布(タパ布)や紙(桑皮紙)を作り、材は建築に用いたり器具を作る材とする。
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中国では、マグワなどの果序(桑椹,ソウジン,sāngshèn,sāngrèn)・葉(桑葉,ソウヨウ,sāngyè)・若い枝(桑枝, ソウシ,
sāngzhī)・根皮(桑白皮,ソウハクヒ,sāngbáipí)などを薬用に供する(〇印は正品)。『中薬志』Ⅱpp.380-382・Ⅲpp.290-292,446-447 『全国中草葯匯編』上/677-679 『(修訂) 中葯志』III/570-573,V/98-102,482-493
〇マグワ M. alba(桑)
ヤマグワ M. australis(M.bombycis;鷄桑)
ケグワ M. cathayana(M.tiliifolia;華桑)
M. laevigata(長果桑)
モウコグワ M. mongolica(蒙桑)
日本では、生薬ソウハクヒ(桑白皮)は マグワの樹皮である(第十八改正日本薬局方)。 |
中国の伝説上の植物である扶桑(フソウ,fúsāng)については、ブッソウゲを見よ。 |
『詩経』には、国風・衛風・氓(ぼう)に、「桑の未だ落ちざるとき、其の葉 沃若(よくじやく)たり。于嗟(ああ)鳩や、桑葚を食ふこと無かれ」と。鳩がクワの実を食うと酔うという。
桑畑は、国風・鄘風(ようふう)・桑中に、「我を桑中に期し、我を上宮に要し、我を淇(き)の上(ほとり)に送る」と。鄘風・定之方中に、衛人が楚宮を作るのに「降りて桑を観(み)る、卜するに云ふ其れ吉なりと」と。 |
『礼記』「月令」三月に、「野虞(野守)に命じて桑柘(さうしゃ)を伐る毋(な)からしむ。鳴鳩 其の羽を払(う)ち、戴勝(たいしょう。鳥の名) 桑に降る。曲植(きょくち。蚕の籠や棚)籧筐(きょきょう。桑を摘む籠)を具ふ。后妃 斉戒して、親ら東郷して躬ら桑つみ、婦女をして禁じて観(かたち)づくること毋からしめ、婦使を省きて以て蚕事を勧む。蚕事既に登(な)り、繭を分ち糸を称(はか)り功を效(いた)し、以て郊廟の服に共し、敢て惰る有る毋からしむ」と。柘は ハリグワ。
『大戴礼』「夏小正」三月に、「桑を摂る。〔摂りて之を記すは、桑を急とするなり。〕」と。
『詩経』国風・豳風「七月」に「春日 載(すなは)ち陽(あたたか)く、有(ここ)に鳴く 倉庚(さうかう。コウライウグイス)、女は懿(ふか)き筐(かご)を執り、彼の微行(小道)に遵(そ)ひて、爰(ここ)に柔桑(クワの若葉)を求む」と、また「蚕月(三月か)は條たる桑、彼の斧■{爿偏に斤}(ふしゃう。斧)を取りて、以て遠揚(秀つ枝)を伐れば、猗(い)たる彼の女桑」と。 |
賈思勰『斉民要術』(530-550)巻5に「種桑柘」が載る。柘は ハリグワ。 |
日本における桑の文化史は、ヤマグワも見よ。 |
日本におけるクワ栽培の起源は不明な点が多い。しかし、奈良時代には盛んに栽培されていたという。江戸時代中期には養蚕が奨励されて栽培法が改良された。
明治時代以降、開国により絹織物の輸出が盛んになり、養蚕業は飛躍的に発展したが、これに伴って 桑畑は全国に広がった。
第二次世界大戦後、ナイロンの普及により絹織物業が衰退するとともに、桑畑も姿を消しつつある。 |
きさらぎにならば鶫(つぐみ)も来(こ)むといふ桑の木はらに雪はつもりぬ
(1946,齋藤茂吉『白き山』)
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