まぐわ (真桑) 

学名  Morus alba
日本名  マグワ
科名(日本名)  クワ科
  日本語別名  クワ、トウグワ・カラグワ、シログワ
漢名  桑(ソウ,sāng)
科名(漢名)  桑(ソウ,sāng)科
  漢語別名  桑樹(ソウジュ,sangshu)、椹・(シン・ジン,shèn)
英名  White mulberry
2021/10/29  薬用植物園

雄株  2006/04/24 三芳町竹間沢

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雌株  2006/04/24 三芳町竹間沢
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2005/05/17 三芳町竹間沢
2020/05 小平市玉川上水緑地

 クワ科 Moraceae(桑 sāng 科)には、世界の熱帯~温帯に約37-50属 約1200-1400種がある。

   Allaeanthus(落葉花桑屬)
マダガスカル・スリランカ・東南アジア・ヒマラヤ・雲南に4種 
     A. kurzii(落葉花桑)
雲南・ヒマラヤ・インドシナ・スマトラ産 
   ウパスノキ属 Antiaris(見血封喉屬) 東南アジア乃至インドに約1-4種
     ウパス A. toxicaria(見血封喉・加布・剪刀樹・箭毒木)
         
兩廣・雲南・東南アジア~インド東部産、乳液を矢毒に用いる。ウパスはマレーの現地名 
   パンノキ属 Artocarpus(波羅蜜屬)
   ラモン属 Brosimum
熱帯アメリカに約15種 
   カジノキ属 Broussonetia(構樹屬)
   アメリカゴムノキ属(橡膠桑屬) Castilla
熱帯アメリカに3種 
   ドルステニア属 Dorstenia(琉桑屬)

   クワクサ属 Fatoua(水蛇麻屬)
   イチジク属 Ficus(榕屬)
   ハリグワ属 Maclura(橙桑屬)
   Malaisia(牛筋藤屬)
東南アジアを中心とする熱帯・亜熱帯に1種 
     ネジレギ M. scandens(牛筋藤・包飯果藤)
   クワ属 Morus(桑屬)
   Phyllochlamys(酒餠樹屬)
   Pseudostreblus(假鵲腎樹屬)
     P. indica(假鵲腎樹・滑葉鐵打)『中国本草図録』Ⅰ/0031 『全国中草葯匯編』上/810-811
   Smithiodendron(梨桑屬)
   Streblus(鵲腎樹屬)
     S. asper(鵲腎樹)
   Taxotrophis(刺桑屬)
   Teonongia(米揚噎屬)
     T. tonkinensis(米揚噎)
   ネジレギ属 Trophis
   
 クワ属 Morus(桑 sāng 屬)は、アジア・アフリカ・アメリカに約10-20種がある。

  マグワ
(トウグワ・シログワ・カラヤマグワ) M. alba(; E. White mulberry)
    ロソウ(ログワ・マルバグワ) var. multicaulis(M.latifolia)
         
大葉種。 江蘇・浙江・陝西・四川などで栽培 
  ヤマグワ
(クワ・ノグワ・シマグワ) M. australis(M.bombycis, M.amamiana, M.bombycis
         var.caudatifolia, M.bombycis f.disseta;鷄桑・小葉桑・桑樹・鹽桑仔・
         桑材仔・蠶仔葉樹・桑白・桑枝・娘子樹;E. Japanese mulberry)
         中国では、地方により葉・根皮を薬用 『中国本草図録』Ⅲ/1076
    ハマグワ f. maritima(M.bombycis var.maritima, M.australis var.glabra)
  オガサワラグワ M. boninensis
小笠原産 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
  ケグワ M. cathayana(M.tiliifolia;華桑)
         
本州(和歌山・中国)・黄河長江各流域・インドシナに産
  ハチジョウグワ M. kagayamae(M.australis var.hachijoensis) 伊豆半島南部・伊豆七島産
  M. laevigata(長果桑)
チベットでは葉を薬用 『雲南の植物Ⅲ』169
  M. macroura(奶桑) 雲南・ヒマラヤ・インドシナ・インドネシア産 
  モウコグワ
(チョウセングワ) M. mongolica(蒙桑・崖桑・刺葉桑)
          
朝鮮・遼寧・内蒙古・華北・山東・兩湖・四川・雲南に産、中国では葉・根皮を薬用
    オニグワ var. diabolica(花葉岩桑)
 『雲南の植物Ⅱ』159
  クロミグワ M. nigra(黑桑;E. Black mulberry) 
カフカス原産、果実生食用に欧米で植栽 
  M. notabilis(川桑)
  アカミグワ M. rubra(E. Red mulberry) 
北米原産、果実生食用に欧米で植栽 
  M. serrata(吉隆桑)
 ヒマラヤ産 
  M. wittiorum(長穗桑)
 兩湖・兩廣・貴州産 
    
 マグワヤマグワの相違点を列挙する(『改訂新版 日本の野生植物』による)。

  若枝: マグワは、あらい毛がある。
      ヤマグワは、無毛。
  葉柄: マグワは、初めあらい毛があり、のちほとんど無毛。
      ヤマグワは、無毛。
  花序の柄: マグワは、軟毛が密生。
        ヤマグワは、あらい毛がある。
  雄花の花被片: マグワは、ほとんど無毛。
          ヤマグワは、背面にあらい毛があるほかは無毛。
  雌花の花柱: マグワは、基部近くまで裂け、ほとんど柄はない。
          (花柱は約2mm)
         ヤマグワは、柄があり、先は浅く2裂する。
          (花柱は2-2.5mm、柄は1-1.5mm)
  複合果: マグワは、紫黒色に熟すが、ときに白色のものもある。
       ヤマグワは、紫黒色に熟す。
   
 栽培するクワの品種は 250餘を数えるが、多くは次の3系列に属するという。

  ヤマグワ系: 北陸・東北地方に多い。赤木・島の内・遠州高助・剣持など。
  ハクソウ
(白桑)(カラグワ系): マグワに由来。改良鼠返(ねずみがえし)・一ノ瀬など。
  ロソウ
(魯桑)系: 西日本に多い。ロソウに由来。改良魯桑・赤目魯桑など。
 一名シログワというのは、果実の色から。
 『本草和名』に、桑根白皮は「和名久波乃加波」、桑菌は「久波乃多介」、赤鶏桑は「和名久波乃美」と。
 『倭名類聚抄』桑に「和名久波」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』に、桑は「クハ
和名鈔」と。
 漢名の椹・葚(シン・ジン,shèn)は、クワの実。
 属名は、ラテン語の「クワ」。語源は ケルト語の mor(黒)に由来、熟した果実の色から、という。
 種小名は「白い」。果実の色から。
 雌雄異株。
 果実は未熟時には白く、赤色を経て紫黒色に熟する
(ただし 色づかない品種がある)
 華北・湖北原産、中国では全国で栽培。日本には古く蚕とともに渡来した。
 多くの園芸品種がある。
 12c.ヨーロッパに入り、果樹・並木として植栽。
 中国では、葉をカイコ(蚕)の飼料とするために栽培し、その歴史は 養蚕とともに古い。
 殷墟(河南省安陽)出土の甲骨文字に 養蚕関係の文字が多出している。また『詩経』『楚辞』などから 近世に至るまで、桑はつねに文学作品に取り上げられてきた。
 湖南省長沙馬王堆漢墓からは 絹織物が出土しており、四川省出土の画像磚には柴桑の場面が浮彫された例がある。
 ほかに果実(桑椹・桑葚・桑黮,ソウジン,sāngshèn)を食用としたり酒(桑実酒)を作る原料とする。また、葉から桑茶を作り、樹皮から繊維を採って布(タパ布)や紙(桑皮紙)を作り、材は建築に用いたり器具を作る材とする。
 中国では、マグワなどの果序(桑椹,ソウジン,sāngshèn,sāngrèn)・葉(桑葉,ソウヨウ,sāngyè)・若い枝(桑枝, ソウシ, sāngzhī)・根皮(桑白皮,ソウハクヒ,sāngbáipí)などを薬用に供する(〇印は正品)。『中薬志』Ⅱpp.380-382・Ⅲpp.290-292,446-447 『全国中草葯匯編』上/677-679 『(修訂) 中葯志』III/570-573,V/98-102,482-493 

  〇マグワ M. alba(桑)
   ヤマグワ M. australis(M.bombycis;鷄桑)
   ケグワ M. cathayana(M.tiliifolia;華桑)
   M. laevigata(長果桑)
   モウコグワ M. mongolica(蒙桑)

 日本では、生薬ソウハクヒ(桑白皮)は マグワの樹皮である(第十八改正日本薬局方)。
 中国の伝説上の植物である扶桑(フソウ,fúsāng)については、ブッソウゲを見よ。
 『詩経』には、国風・衛風・氓(ぼう)に、「桑の未だ落ちざるとき、其の葉 沃若(よくじやく)たり。于嗟(ああ)鳩や、桑葚を食ふこと無かれ」と。鳩がクワの実を食うと酔うという。
 桑畑は、国風・鄘風
(ようふう)桑中に、「我を桑中に期し、我を上宮に要し、我を淇(き)の上(ほとり)に送る」と。鄘風定之方中に、衛人が楚宮を作るのに「降りて桑を観(み)る、卜するに云ふ其れ吉なりと」と。
 『礼記』「月令」三月に、「野虞(野守)に命じて桑柘(さうしゃ)を伐る毋(な)からしむ。鳴鳩 其の羽を払(う)ち、戴勝(たいしょう。鳥の名) 桑に降る。曲植(きょくち。蚕の籠や棚)籧筐(きょきょう。桑を摘む籠)を具ふ。后妃 斉戒して、親ら東郷して躬ら桑つみ、婦女をして禁じて観(かたち)づくること毋からしめ、婦使を省きて以て蚕事を勧む。蚕事既に登(な)り、繭を分ち糸を称(はか)り功を效(いた)し、以て郊廟の服に共し、敢て惰る有る毋からしむ」と。柘は ハリグワ。
 『大戴礼』「夏小正」三月に、「桑を摂る。
〔摂りて之を記すは、桑を急とするなり。〕」と。
 『詩経』国風・豳風「七月」に「春日 載
(すなは)ち陽(あたたか)く、有(ここ)に鳴く 倉庚(さうかう。コウライウグイス)、女は懿(ふか)き筐(かご)を執り、彼の微行(小道)に遵(そ)ひて、爰(ここ)に柔桑(クワの若葉)を求む」と、また「蚕月(三月か)は條たる桑、彼の斧■{爿偏に斤}(ふしゃう。斧)を取りて、以て遠揚(秀つ枝)を伐れば、猗(い)たる彼の女桑」と。
 賈思勰『斉民要術』(530-550)巻5に「種桑柘」が載る。柘は ハリグワ
 日本における桑の文化史は、ヤマグワも見よ。
 日本におけるクワ栽培の起源は不明な点が多い。しかし、奈良時代には盛んに栽培されていたという。江戸時代中期には養蚕が奨励されて栽培法が改良された。
 明治時代以降、開国により絹織物の輸出が盛んになり、養蚕業は飛躍的に発展したが、これに伴って 桑畑は全国に広がった。
 第二次世界大戦後、ナイロンの普及により絹織物業が衰退するとともに、桑畑も姿を消しつつある。

   きさらぎにならば鶫
(つぐみ)も来(こ)むといふ桑の木はらに雪はつもりぬ
     
(1946,齋藤茂吉『白き山』)
 

桑畑  
2004/11/04 埼玉県 毛呂山町苦林 2005/05/24  東大農園 (西東京市)

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