やなぎ (柳・楊) 

 ヤナギとは、ヤナギ科 Salicaceae(楊柳科) ヤナギ属 Salix(柳屬)の樹木の総称。
 ヤナギ科 Salicaceae(楊柳科)には、世界に4属約400種がある。
 ヤマナラシ亜科 Populoideae
   ヤマナラシ属 Populus(楊屬)
 ヤナギ亜科 Salicoideae
   オオバヤナギ属 Toisusu
      オオバヤナギ T. urbaniana
        トカチヤナギ var. schneideri
   ケショウヤナギ属 Chosenia(鑽天柳屬)
1属1種
      ケショウヤナギ C. arbutifolia(Salix arbutifolia, C. macrolepis(鑽天柳・順河柳)
   ヤナギ属 Salix(柳屬) 
 ヤナギ属 Salix(柳屬)には、次のようなものがある。

   S. alba(白柳)
   サイコクキツネヤナギ S. alpochroa
   シダレヤナギ(イトヤナギ) S. babylonica(垂柳;E.Weeping willow)
   ヤマネコヤナギ(バッコヤナギ) S. bakko
   S. brachista(大塾柳)
 『雲南の植物Ⅰ』157
   S. caprea(黄花兒柳;E.Sallow)
 ヨーロッパ乃至中央アジアに分布
   S. carmanica(黄皮柳)
   S. cathayana(中華柳)
   S. cavaleriei(雲南柳)
   S. characta(密齒柳)
   アカメヤナギ(マルバヤナギ) S. chaenomeloides(S.glandulosa;河柳)
   S. cheilophila(沙柳)
   S. chienii(銀葉柳)
   S. cupularis(杯腺柳)
   S. daliense(大理柳)
   S. daltoniana(褐背柳)
   S. delavayana(腹毛柳)
   S. dunnii(長梗柳)
 『中国本草図録』Ⅶ/3049
   ジャヤナギ
(オオシロヤナギ) S. eriocarpa
   S. ernesti(銀背柳)
   S. fargesii(川鄂柳)
   S. flavida(黄柳)
   S. fulvopubescens(褐毛柳)
   オオキツネヤナギ(オオネコヤナギ・キンメヤナギ) S. futura
   ナガバカワヤナギ(カワヤナギ) S. gilgiana (S. purpurea var. serica)
   ネコヤナギ(カワヤナギ・エノコロヤナギ) S. gracilistyla(細柱柳・銀芽柳・蒲柳・蒲楊・水楊;E.Chinese pussy willow)
     クロヤナギ var. melanostachys
   S. heterochroma(紫枝柳) 『中国本草図録』Ⅹ/4551
   ヒダカミネヤナギ S. hidakamontana
   エゾミヤマヤナギ S. hidewoi
   ユビソヤナギ S. hukaoana 
1973年初報告
   マルバノバッコヤナギ S. hultenii
   S. hylematica
ヒマラヤ産『週刊朝日百科 植物の世界』6-236
   S. hylonoma(川柳)
   S. hypoleuca(小葉柳・山楊柳・紅梅蠟)
 『中国本草図録』Ⅵ/2532
   イヌコリヤナギ S. integra(杞柳)
     シダレイヌコリヤナギ f. pendula
   シバヤナギ(イシヤナギ) S. japonica
   シロヤナギ(エゾシロヤナギ) S. jessoensis
   キヌヤナギ(ウラジロヤナギ) S. kinuyanagi 
栽培品、雄株のみ
   S. koxhiana(沙杞柳)
   コウライヤナギ S. koreensis(朝鮮柳)
   コリヤナギ S. koriyanagi (S. purperea var. japonica)
   S. kusanoi(水杜柳)
   フリソデヤナギ(アカメヤナギ) S.×leucopithecia
 ネコヤナギとヤマネコヤナギの雑種
   S. lindleyana(靑藏塾柳)
 『雲南の植物Ⅰ』157
   S. luctuosa(絲毛柳)
   S. magnifica(大葉柳)
   ペキンヤナギ S. matsudana(旱柳;E.Pekin willow) 『中国本草図録』Ⅸ/4068・『週刊朝日百科 植物の世界』6-243
     ウンリュウヤナギ var. tortuosa(龍爪柳)
   S. maximowiczii(大白柳)
   S. microstachya(小紅柳)
   エゾノカワヤナギ S. miyabeana
   S. mongolica(蒙古柳)
   S. morii(臺灣柳)
   S. myrtillacea(坡柳)
   S. myrtilloides(越橘柳)
   タカネイワヤナギ(タカネヤナギ・レンゲイワヤナギ) S. nakamurana
   ミヤマヤチヤナギ S. paludicola
   S. paraplesia(擬五蕊柳)
   エゾマメヤナギ S. pauciflora
   S. pentandra(五蕊柳)
   エゾノキヌヤナギ(ギンヤナギ・ウラジロヤナギ) S. pet-susu(蒿柳・絹柳・柳芽子)
   S. phaneraa(長葉柳)
   S. phylicifolia(深山柳)
   オオタチヤナギ S. pierotii
   S. praticola(草地柳)
 『雲南の植物Ⅱ』147
   S. purpurea(紅皮柳・簸箕柳・杞柳)
   S. pyrolifolia(鹿蹄柳)
   S. rehderiana(川滇柳)
   ミヤマヤナギ(ミネヤナギ) S. reinii
   エゾヤナギ S. rorida(粉枝柳)
   S. rosmarinifolia
     var. brachypoda(沼柳)
   S. rosthornii(南川柳)
   コマイワヤナギ S. rupifraga
   オノエヤナギ(カラフトヤナギ・ヤブヤナギ・ナガバヤナギ) S. sachaliensis
     セッカヤナギ(ジャリュウヤナギ) f. ligulata
   コゴメヤナギ(コメヤナギ) S. serissaefolia
   シライヤナギ S. shiraii
   ヤマヤナギ(ハシカエリヤナギ) S. sieboldiana
   タチヤナギ S. subfragilis(S.nipponica;日本三蕊柳)
   ノヤナギ S. subopposita
   S. suchowensis(簸箕柳)
   S. taiwanalpina(臺高山柳)
   S. tangii(周至柳)
   タライカヤナギ S. taraikensis
   ヨツシベヤナギ S. tetrasperma(四子柳)
   S. variegata(秋華柳)
『週刊朝日百科 植物の世界』6-247
   エゾノキヌヤナギ(ギンヤナギ・ウラジロヤナギ) S. viminalis(蒿柳・絹柳・柳芽子)
   キツネヤナギ(イワヤナギ) S. vulpina
   S. wallichiana(皂柳) 
『雲南の植物Ⅰ』160・『中国本草図録』Ⅹ/4552
   タイワンヤナギ S. warburgii(水柳)
   S. wilhelmsiana(綫葉柳)
   S. xerophila(崖柳)
   エゾノタカネヤナギ(マルバヤナギ) S. yezoalpina
   ヨシノヤナギ S. yoshinoi 
 和名ヤナギは、漢字楊の音 yaŋ を、末尾に子音を補ってヤギ yaŋï と発音し、その鼻音を独立させてヤナギ yanaŋï となったものであろう、という(日本古典文学大系万葉集二1723註)
 
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、楊は「和名夜奈木」と、柳は「和名之太里夜奈木」と。
 中国では、歴史的にはヤナギ科の植物を楊柳(ヨウリュウ,yangliu)と総称する。
 しかし唐代には、江南では楊柳の二字でシダレヤナギ(垂柳)を指し、北方では柳の一字でシダレヤナギを指していた。
 今日の華北では、柳といえばペキンヤナギ(旱柳)を指す。
 学名の属名 Salix は、ケルト語「水辺」に由来する。
 北半球の温帯・亜寒帯を中心として約300種がある。
 「大きな河川の中流部から上流にかけての流路の周りには、河床とか河原とか呼ばれる礫や粗い砂の積った部分がある。平常は広い陸地であるが、時折の出水時にはしばしば冠水し、また浸食を受けて地形が破壊されやすい。植物の立地としては不安定な場所で、裸地が多いが、川の氾濫の影響が少しでも弱まれば、一部の草本やヤナギ類、ハンノキ林など低木の芽生えが生じて初期の群落をつくる。これもまた破壊されたりするが、流路が変わって安定した場所には低木林や高木林が発達する。河岸沿いのほか、流水の中州にもこうした林の成長を見ることがある。
 一般に河辺林
(河畔林)と呼ばれるこれらの群落は、周辺の植生とも異なった景観をもち、しかも流水の作用との関連からさまざまな遷移段階が見られる。・・・
 流れの緩やかになる中流部では、浸食作用は弱まるが、洪水の際の冠水や泥の堆積の影響が出やすい。時々冠水したりまた減水時には表土の乾燥しやすい河原には、カワラホウコ・アキノキリンソウ・ノコンギク・ツルヨシなどの草本群落ができる。土壌の不安定なことが草原への移行を妨げている。泥の堆積地を中心にネコヤナギ・カワヤナギ・アカメヤナギなどヤナギ類が根を下ろす。ある程度の浸水には耐えるので低木群落をつくり、これがまた草本群落発達の足がかりともなる。」(沼田真・岩瀬徹『図説 日本の植生』1975)
 『大戴礼』「夏小正」正月に「柳 稊(てい。ひこばえ)す。〔稊なる者は、孚(ふ。はぐくむ、生まれる)を発するなり〕」と、また三月に「委たる楊(ヤナギ)あり。〔楊は則ち花さきて後に之を記すなり。〕」と。
 賈思勰『斉民要術』(530-550)巻5に「種槐・柳・楸・梓・梧・柞」が載る。
 シダレヤナギは中国原産、日本には奈良時代頃に入ったと言う。それ以来、日本では歴史的に柳(やなぎ)というものはシダレヤナギ
 ただし、よく花序の観賞用に栽培し、いけばなにも用いるのは、ネコヤナギ
 『日本書紀』巻15 顕宗天皇即位前紀に、弘計王(即位前の顕宗天皇)の歌として、

   いなむしろ かはそひやなぎ みずゆけば なびきおきたち そのねはうせず

が載る。まことに顕宗天皇(5世紀末頃)の歌であるならば、シダレヤナギの渡来する以前であるから、ここに詠われる柳は何らかの別のヤナギと言うことになる。
 しかしこの歌自体は、次のような形で平安時代にも歌われていた。

   河ぞひ柳風吹けば 動くとすれど根は静かなり (『栄花物語』)
 
 島崎藤村「千曲川旅情の歌」に、

     千曲川柳霞みて
     春淺く水流れたり

というのは、何ヤナギであろうか、現地で確かめる機会がまだない。
 『旧約聖書』詩篇137に、バビロニアの捕囚となった古代イスラエルの人々が、首都バビロンの流れのほとりに生えた柳の木に竪琴を掛け、故郷のシオンを思い出して涙を流した、とある「バビロンの柳」は、ポプラの仲間(ヤナギ科ヤマナラシ属)のコトカケヤナギ Populus euphratica であったという。

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