はんのき (榛木)
学名 |
Alnus japonica (A.maritima var.japonica, Betula japonica) |
日本名 |
ハンノキ |
科名(日本名) |
カバノキ科 |
日本語別名 |
ハリノキ |
漢名 |
日本榿木(ニホンキボク, rìběn qīmù) |
科名(漢名) |
樺木(カボク,huàmù)科 |
漢語別名 |
赤楊(セキヨウ,chiyang)、水撥樹、水瓜樹、水冬果、水柯子 |
英名 |
Japanese alder |
2006/02/23 秋が瀬 |
2024/03/16 小石川植物園 |
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2006/03/27 秋ヶ瀬 |
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2008/04/05 田島が原 |
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2007/04/29 野川公園自然観察園 |
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2007/08/07 田島が原 |
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2006/10/19 神代植物公園 |
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辨 |
ハンノキ属 Alnus(榿木 qīmù 屬)には、30-40種がある。
A. alnobetula
マンシュウハンノキ subsp.mandshurica(A. mandschurica;
東北榿木・東北赤楊) 朝鮮・吉林・黑龍江・極東ロシア産 『中国本草図録』Ⅸ/4070
ミヤマハンノキ subp. maximowiczii(A.crispa subsp.maximowiczii, A.viridis
subsp.maximowiczii, A.vermicularis, A.maximowiczii, A.hakkodensis)
A. cremastogyne(榿木・水靑棡) 陝甘・四川・貴州産 『雲南の植物Ⅱ』148・『中国本草図録』Ⅶ/3051
ミヤマカワラハンノキ A. fauriei(A. cylindrostachya)
A. ferdinandi-coburgii(川滇榿木) 四川・貴州・雲南産
ヤシャブシ(ミネバリ) A. firma (Alnaster firmus)
ミヤマヤシャブシ f. hirtella
A. formosana(臺灣榿木) 臺灣産
ヨーロッパヤシャブシ A. glutinosa
A. henryi(淡水榿木・臺北榿木) 臺灣産
ヤマハンノキ(広義) A. hirsuta
ケヤマハンノキ var. hirsuta(A.incana subsp.hirsuta, A.sibirica var.hirsuta)
ヤマハンノキ(狭義。マルバハンノキ・クロハリ) var. sibirica(A.hirsuta var.microphylla
f.glabrescens, A.sibirica, A.tinctoria, A.hirsuta var.tinctoria;
遼東榿木・水冬瓜・水冬瓜赤楊) 『中国本草図録』Ⅰ/0024
タニガワハンノキ(コバノヤマハンノキ) A. inokumae(A.tinctoria var.microphylla, A.hirsuta
var.microphylla)
ハンノキ A. japonica(A.maritima var.japonica;日本榿木)
タイワンハンノキ var. formosana(A. formosana, A. henryi;臺灣榿木・
臺北榿木・淡水榿木)
A. lanata(Crematogyne lanata;毛榿木) 四川産
ヤハズハンノキ A. matsumurae
ネパールハンノキ A. nepalensis(尼泊爾榿木・旱冬瓜・蒙自榿木・冬瓜樹)
廣西・貴州・四川・雲南・チベット・ヒマラヤ産 『中国本草図録』Ⅴ/2043
ヒメヤシャブシ A. pendula(A. multivervis, Alnaster pendulus)
カワラハンノキ A. serrulatoides(A.obtusata)
オオバヤシャブシ A. sieboldiana(A.firma var.sieboldiana, Alnaster sieboldii;
旅順榿木)
サクラバハンノキ A. trabeculosa(A.nagurae; 江南榿木)
本州(岩手県以南)・九州(宮崎)・河南・華東・兩湖・廣東産
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カバノキ科 Betulaceae(樺木 huàmù 科)については、カバノキ科を見よ。 |
訓 |
和名ハンノキは、ハリノキの転訛。
ハリノキは、一説に「墾(はり)の木」の意(武田久吉『民俗と植物』)。
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『日本書紀』には、榛原と書いてハリハラと読む。この頃より、日本ではハンノキに榛の字を当てていた。
『吾妻鏡』には、榛谷と書いてハンガエと読む。
しかし、漢名を榛(シン,zhēn)というものはハシバミであり、榛をハンノキとするのは誤り。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・朝鮮・山東・河北・遼寧・吉林・ウスリーに分布。
好んで湿地に生える。 |
「地下水位が高く、しばしば水が地表に停滞するような湿地に形成される自然林は、ハンノキ林やヤチダモ林である。ハンノキ林は、垂直的には平地から山地帯上部まで、水平的には本州から北海道まで広く分布する。・・・
ハンノキは過湿の地に先駆的に出現し、成長が早く、しばしば純林をつくる。萌芽の成長もよいため二次林もつくりやすい。水分条件が変動しない限り、長く林の状態が保たれるので、一種の土壌的極相林と見なすこともある。
低地でハンノキ林のできるようなところは、多くは古くから水田地帯にされてきた。また、ハンノキを燃料にするために伐採したころもあった。最近では、ハンノキ林の成立しやすい場所が開発の影響を強く受けて消滅しつつある。一方、水田を放棄したあとにハンノキの進出している例もある。河川敷に続く沖積低地に、広くハンノキ林のできているところがある。・・・
関東地方の低地でハンノキ林の構造を見ると、高木層・亜高木層はほとんどハンノキで占められるが、土壌水分の少ないところではエノキ・クヌギなどが混生する。低木層にはイボタ・ノイバラなどがあり、草本層にはカサスゲ・クサヨシなどが優占する。種類組成は地下水位と関係があり、水位の低下にしたがってハンノキからエノキ・クヌギへ、林床はカサスゲからクサヨシへと優占種は入れ替わる。」(沼田真・岩瀬徹『図説 日本の植生』1975) |
誌 |
『古事記』下・雄略天皇の条に、天皇が葛城山に狩に出て猪に襲われて「榛」の上に逃げたが、これを歌った歌に、「わがにげのぼりし ありをの はりのきのえだ」とある。 |
『万葉集』には、
あ(明)けされば 榛(はり)のさ枝に 暮(ゆふ)されば 藤の繁みに
遥遥(はろばろ)に 鳴く霍公鳥(ほととぎす) ・・・
(19/4207,大伴家持)
いざ児ども 倭(やまと)へ早く 白菅の 真野の榛原 手折りてゆかむ (3/280,高市黒人)
古に ありけむ人の もとめつつ 衣にすりけむ 真野の榛原 (7/1166,読み人知らず)
住吉(すみのえ)の 遠里小野の 真榛(まはり)もち
すれる衣の 盛り過ぎゆく (7/1156,読み人知らず)
など。詳しくは文藝譜を見よ。 |
「此ごろ津の国あたりの民のいへるは、此木枝を取る用にあらず。並べる木の間に木や竹をゆひわたし、是にいねを掛けてほし、わらをかけ、しんぼくにもいねわらを本より末にゆひ付くるなり。是ふか田所なるゆへなり」(宮崎安貞『農業全書』1697)。 |
赤楊(はんのき)の黄葉(きば)ひるがへる田中路、
稻搗(いなき)をとめが靜歌(しづうた)に黄(あめ)なる牛はかへりゆき、・・・
薄田泣菫「望郷の歌」(1906,『白羊宮』)より
白雲のみだれしづまるありさまをそひの榛原に居りてこそ見れ
(1933伊香保,斎藤茂吉『白桃』)
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長野県から富山県に越す針ノ木峠・針ノ木沢は、ミヤマハンノキに因む。 |
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