むらさき (紫) 

学名  Lithospermum erythrorhizon (=L. officinale var. erythrorhizon)
日本名  ムラサキ
科名(日本名)  ムラサキ科
  日本語別名  ムラサキネ(紫根)、ネムラサキ(根紫)
漢名  紫草(シソウ,zicao)
科名(漢名)  紫草科
  漢語別名  茈(シ,zi)、茈■{艸冠に戻}(シレイ,zilie)、硬紫草
英名  Puccoon
2007/04/12 明治薬科大学薬草園

2006/08/12 薬用植物園

2005/06/04  国立武蔵丘陵森林公園「ムラサキ展」(都市緑化植物園陳列室)


2005/06/21   東京都薬用植物園


2004/08/03
   殿ヶ谷戸庭園 (国分寺市南町)


 ムラサキ科 BORAGINACEAE(紫草科)には、次のような属がある。
   Actinocarya(Glochidocaryum;錨刺果屬)
     A. tibetica(錨刺果)
   Amblynotus(鈍背草屬)
     A. obovatus(鈍背草)
   ハリゲタビラコ属 Amsinckia
         
 日本にアラゲムラサキ A.barbata・ワルタビラコ A.lycopsoides・
         ハリゲタビラコ A.ressellata などが帰化
   ウシノシタクサ属 Anchusa(牛舌草屬)
   サワルリソウ属 Ancistrocarya 
1属1種
     サワルリソウ A. japonica 
   Antiotrema(長蕊斑種草屬)
     A. dunnianum(長蕊斑種草・狗舌草)
   Arnebia(假紫草屬)
     A. euchroma(新藏假紫草・新疆紫草・軟紫草)『中草薬現代研究』Ⅱp.71
     A. fimbriata(灰毛假紫草)
     A. guttata(假紫草・黄花紫草)
     A. szechenyi(疏花假紫草)
     A. thomsonii(帕米爾紫草)
   スナビキソウ属 Argusia → Messerschmidia
   トゲムラサキ属 Asperugo(糙草屬)
     トゲムラサキ A. procumbens(糙草)
   ルリジサ属 Borago(瑠璃苣屬)
   ハナイバナ属 Bothriospermum(斑種草屬)
   Brachybotrys(山茄子屬)
     B. paridiformis(山茄子)
   Carmona(基及樹屬)
     C. microphylla(基及樹)
   Chionocharis(蟄紫草屬)
     C. hookeri(蟄紫草)
   Coldenia(雙柱紫草屬)
1属1種
     C. procumbens(雙柱紫草)
   カキバチシャノキ属 Cordia(破布木屬)
     トゲミノイヌチシャ C. cumingiana
     カキバチシャノキ C. dichotoma(破布木)
   Craniospermum(顱果草屬)
     C. echioides(顱果草)
   オオルリソウ属 Cynoglossum(瑠璃草屬・倒提壺屬)
   シャゼンムラサキ属 Echium(藍薊屬) カナリア諸島・アフリカ・ユーラシアに約40種が分布
     E. candicans(亮毛藍薊)
     シャゼンムラサキ E. plantagineum
     シベナガムラサキ E. vulgare(藍薊)
         
ヨーロッパ・シベリア原産、『週刊朝日百科 植物の世界』2-274
   チシャノキ属 Ehretia(厚殻樹屬)
   ミヤマムラサキ属 Eritrichium(齒緣草屬)
     E. mandshuricum(東北齒緣草)『中国本草図録』Ⅵ/2795
     ミヤマムラサキ E. nipponicum
       エゾルリムラサキ var. albiflorum
     E. nanum
アルプス産。『週刊朝日百科 植物の世界』2-279
     E. rupestre(齒緣草)
   イワムラサキ属 Hackelia(假鶴蝨屬)
     H. brachytuba(寛葉假鶴蝨)
『雲南の植物』182
     イワムラサキ
(オカムラサキ) H. deflexa 日本・朝鮮・サハリン・ユーラシア北部に分布
     H. thymifolia(假鶴蝨)
     H. uncinata(西藏假鶴蝨)
   ニオイムラサキ属
(キダチルリソウ属) Heliotropium(天芥菜屬)
   ノムラサキ属 Lappula(鶴蝨屬)
     L. consanguinea(藍刺鶴蝨)
     ノムラサキ L. echinata(鶴蝨・藍花蒿・賴毛子・粘珠子)『中国本草図録』Ⅳ/1817
       var. heteracantha(東北鶴蝨・賴毛子)
ヤブタバコの誌を見よ
     L. intermedia(中間鶴蝨)
     L. myosotis(L.echinata;鶴蝨)
     L. occultata(閉果鶴蝨)
     L. patula(卵果鶴蝨)
     L. redowskii(東北鶴蝨)『中国本草図録』Ⅵ/2796
     L. semiglabra(狹果鶴蝨)
     L. spinocarpos(石果鶴蝨)
     ノムラサキ L. squarrosa
   Lasiocaryum(毛果草屬)
     L. densiflorum(毛果草)
     L. trichocarpum(雲南毛果草)『雲南の植物』183
   Lepechiniella(翅鶴蝨屬)
     L. lasiocarpa(翅鶴蝨)
   Lindelofia(長柱瑠璃草屬)
     L. stylosa(長柱瑠璃草)
   ムラサキ属 Lithospermum(紫草屬)
   Lycopsis(狼紫草屬)
     L. orientalis(狼紫草)
『中国雑草原色図鑑』171
   Macrotomia(軟紫草屬)
     M. euchroma(新疆紫草・軟紫草)
新疆産、花は淡紫色
   Mattiastrum(盤果草屬)
   ハマベンケイソウ属 Mertensia(濱紫草屬)
   スナビキソウ属 Messerschmidia(Argusia;砂引草屬)
     モンバノキ
(ハマムラサキノキ) M. argentea
     スナビキソウ M. sibirica『中国本草図録』Ⅴ/2268
       var. angustior(砂引草)『中国雑草原色図鑑』175
   Microcaryum(微果草屬)
   Microula(微孔草屬)
     M. blepharolepsis(尖葉微孔草)
     M. diffusa(狹葉微孔草)
     M. sikkimensis(微孔草)『中国雑草原色図鑑』176
     M. tibetica(西藏微孔草)
     M. trichocarpa(長葉微孔草)
   ワスレナグサ属 Myostis(勿忘草屬)
   Nonea(假狼紫草屬)
     N. capsica(假狼紫草)
   ルリソウ属 Omphalodes(臍果草屬)
   Omphalotrigonotis(皿果草屬)
     O. cupilifera(皿果草)
   Onosma(滇紫草屬)
 地中海地方乃至ヒマラヤ・中国に約150種がある
     O. confertum(密花滇紫草)『中国本草図録』Ⅷ/3769・『雲南の植物』183
     O. exsertum(露蕊滇紫草)
     O. farrerii(小花滇紫草)
     O. fistulosum(空莖滇紫草)
     O. hookeri var. longiflorum(長花滇紫草・西藏紫草・山紫草・哲磨)
        『中国本草図録』Ⅴ/2269・『週刊朝日百科 植物の世界』2-271
     O. mertensioides(折多滇紫草)
     O. mulfiramosum(多枝滇紫草)『中国本草図録』Ⅷ/3770
     O. paniculatum(滇紫草・大紫草)
        『中薬志Ⅰ』pp.478-484、中草薬現代研究』Ⅱp.71『中国本草図録』Ⅴ/2270
     O. simplicissimum(黄花滇紫草)
     O. sinicum(小葉滇紫草)
     O. tsiangii(昆明滇紫草)
   アメリカキュウリグサ属 Plagiobothrys
        
 日本にはヒナムラサキ P.scouleri・アメリカキュウリグサ P.stypitatus が帰化
   Pulmonaria(肺草屬)
     P. mollissima(腺毛肺草)
     P. officinale(藍花肺草)
     P. saccharata
   Rochelia(李果鶴蝨屬)
   Rotula(輪冠木屬)
   シナワスレナグサ属 Sinoglossum
     S. amabile
『雲南の植物』185
   Sinojohnstonia(車前紫草屬)
     S. chekiangensis(Omphalodes chekiangensis;浙贛車前紫草)
     S. plantaginea(車前紫草)
   Solenanthus(長筒瑠璃草)
     S. circinnatus(長蕊瑠璃草)
   Stenosolenium(紫筒草屬)
     S. saxatile(紫筒草)『中国雑草原色図鑑』177・『中国本草図録』Ⅵ/2797
   ヒレハリソウ属 Symphytum
   Thyrocarpus(盾果草屬)
     T. glochidiatus(彎齒盾果草)
     T. sampsonii(盾果草)『中国本草図録』Ⅹ/4813
   Tournefortia(紫丹屬)
     T. sarmentosa
臺灣乃至オーストラリアに分布
   Trichodesma(毛束草屬)
     T. calycosum(毛束草)
   キュウリグサ属 Trigonotis(附地菜屬) 
 ムラサキ属 Lithospermum(紫草屬)には、次のようなものがある。
   イヌムラサキ L. arvense(麥家公)
   ミヤマホタルカズラ L. diffusum
南ヨーロッパ原産
   ムラサキ L. erythrorhizon(L.officinale var.erythrorhizon;紫草・紫丹・地血)
   L. euchromum(Macrotomia euchroma;新疆紫草)『中薬志Ⅰ』pp.478-484
   セイヨウムラサキ L. officinale(白果紫草・硬根紫草)
   L. tschimganicum (天山紫草)
   ホタルカズラ L. zollingeri(梓木草・地仙桃・馬非・猫舌頭草) 
 和語むらさきとは、本来この草の名。語義は、叢咲であろう。
 のちに、この草の根で染めた色をも、むらさきと呼んだ。
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)紫草に、「和名无良佐岐」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)紫草に「和名無良散岐」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』8
(1806)に、「ムラサキ ムラサキネ ネムラサキ江戸」と。
 漢語の(シ,zi3)は、紫色という、一つの色彩の名。
 李時珍『本草綱目』
(ca.1596)紫草の釈名に、「此の草、花は紫、根も紫、以て紫を染むべければ、故に名づく」とある。当時の紫草は、白花を開くムラサキだけではなく、紫色の花を開く種類も含んでいたものであろうか。
 漢語のの字には、2音がある。
 茈(シ,zi3)と読むときは、植物のムラサキ、茈草・茈■{艸冠に戻}(シレイ,zilie)とも謂う。茈葳(シイ,zi3wei1)と熟してノウゼンカズラ、茈菀(シエン,zi3wan3)と熟してシオン、茈薑(シキョウ,zi3jiang1)と熟してミョウガ
 茈(サイ,chai2)と読むのは、茈胡(サイコ,chai2hu2)と熟する場合。柴胡(サイコ,chai2hu2)を見よ。

 なお、紫〔糸+此〕、茈〔草+此〕、柴〔木+此〕は、みな同族の字。
 日本・朝鮮・中国(東北・華北・陝西・河南・長江中下流域・湖南・兩廣)・アムールに分布する。
 日本では絶滅危惧IB類、埼玉県では野生絶滅(1962年以来自生品の記録が無い)
 その原因は、古来実用植物として乱採したこと、近年の宅地開発、そして栽培の困難さである。
 昭和34年(1959)当時、「今は東京附近では三ツ峠、大山、丹沢山、高尾山、高木山(奥多摩)、野辺山(長野)、軽井沢附近に少し残っている程度であるが、北海道や東北地方の草原には今でもかなり自生し特に岩手県に多い」と記されたことがある(松田修『日本の花』社会思想社、教養文庫)が、それからちょうど半世紀が経って、今は如何であろうか。
 今日では、国営武蔵丘陵森林公園などで栽培保存の試みが為されている。
 根は 色素シコニン shikonin を含み、暗紅紫色をしている。
 根は 薬用にし、中国薬典では紫草(シソウ,zicao)、日本薬局方ではシコン(紫根)と呼ぶ。
 中国では、
   ムラサキ L. erythrorhizon (紫草)
   L. euchromum(Macrotomia euchroma;新疆紫草) 
新疆の高山に産。
などの根を、紫草と呼び 薬用にする。
(『中薬志Ⅰ』pp.478-484・『全国中草薬匯編』・『中草薬現代研究』Ⅱp.71)
 根は、また 紫色の染色に用いる。
 その色を、日本語でむらさき、漢語で紫色 zise といい、英語の purple に当る。
 中国では、賈思勰『斉民要術』(530-550)巻5に、ベニバナクチナシアイの植え方に続いて「種紫草(ムラサキの植え方)」を載せる。以て染料としての栽培が知られる。
 日本では、紫草染の方法は、「紫染には出来るだけ新しい紫根をお湯の中で揉んで、紫の色素を抽出するか、大量の場合は紫根を臼に入れて熱湯を注ぎ杵でつきつぶして、色素を取り出します。こうして得た紫根の液にあらかじめ椿ヒサカキの灰汁に浸け、乾かしておいた糸や裂地を浸けて染め上げます。濃色にする場合は染液に浸けては乾かす工程を何回も繰返します。また灰汁の使い方によって、赤味になったり青味になったりします」(北村哲郎 『日本の染物』 源流社、2000)
 『万葉集』巻12/3101の、

   紫は灰指す物ぞ
     海石榴市
(つばいち)の八十(やそ)の街(ちまた)にあひし児(こ)や誰(たれ)

という歌は、ムラサキから紫色を染めるときに ツバキの灰汁を用いることを 謳いこんだもの。
 ムラサキは、古くから染料用に栽培された。
 天智天皇7年(667)5月5日、宮廷の人々は、近江の蒲生野(滋賀県蒲生郡安土町)にしめ縄を張って囲った「紫野」において、薬草狩りを行っている。
 『万葉集』巻1/20;21 には、その折に 大海人皇子(おおあまのみこ,?-686,のちの天武天皇,在位673-686)と その最初の妻であった額田王(ぬかたのおおきみ)との間で取り交わされた、次のような歌が載せられている。

   茜草(あかね)さす むらさき野行き 標野(しめの)行き
     野守(のもり)は見ずや 君が袖ふる
   紫草(むらさき)の にほへる妹(いも)を にくく有らば
     人嬬
(ひとづま)故に 吾恋ひめやも
 
 『延喜式』(927)には、甲斐・相模・武蔵・下総・常陸・信濃・上野・下野など、関東甲信一帯がムラサキの産地として記されている。
 「紫草は根に栄養分を蓄え越年するので、土の養分を沢山吸収しますから、同じ畠での連作は出来ず、二年ぐらい土の養分の回復を待たなければなりません。したがって、紫草の栽培には広い土地が必要となり、大変むずかしかったようです。紫根染が貴重視され、珍重されてきたのには、一つにそんな理由があったからのようです」(北村 『前掲書』)
 『万葉集』に詠われる紫の歌は、文藝譜を見よ。代表的なものに、

   紫の 綵色
(しみ)の蘰(かづら)の 花やかに
     今日見る人に 後恋ひむかも
(11/2993,読人知らず)
   から人の 衣染むとふ 紫の
     情
(こころ)に染みて 念(おも)ほゆるかも (4/569,麻田連陽春)
   託馬野
(つくまの)に 生ふる紫 衣に染め
     未だ服
(き)ずして 色に出でにけり (3/395,笠郎女)
   紫の 我が下紐の 色に出でず
     恋ひかも痩せむ あふよしを無み (12/2976,よみ人しらず) 
 『古今集』に、

   こひしくば したにをおもへ 紫の ねずりの衣 色にいづなゆめ
(よみ人しらず)

 『亭子院歌合
』(913.3.13)に、

  風吹けば おもほゆるかな 山ぶきの 岸の藤浪 今や咲くらん
 (兼覧王)
  かけてのみ 見つゝぞ忍ぶ 紫に いくしほ染めし 藤の花ぞも
 (凡河内躬恒)
  みなそこに 沈めるはなのいろみれば 春の深くも なりにけるかな
 (坂上是則)

 『新古今集』に、

   かずがのの 若紫の すり衣 忍ぶの乱れ かぎりしられず
(在原業平; 伊勢物語にも)
   むらさきの 色に心は あらねども 深くぞ人を 思ひそめつる
(醍醐天皇)
 
 平安時代武蔵野の名花として、ムラサキが意識された。

   紫の ひともと故に むさし野の 草はみながら あはれとぞ見る
     
(読み人しらず、『古今和歌集』ca.913)

とある。この歌は、「武蔵野、一本の紫、ゆかりの人」という連携したイメージを人々に植えつけ、以下に挙げるような歌を生み出した。

   むらさきの 色こき時は めもはるに 野なるくさ木ぞ わかれざりける
     
(在原業平(825-880)、『古今集』17・『伊勢物語』41)
   武蔵野に いろやかよへる 藤の花 若紫に そめて見ゆらん
     
(『亭子院歌合』913)
   武蔵野は 袖ひつ許 わけしかど わか紫は たづねわびにき
     
(よみ人しらず、『後撰集』ca.955-958)
   紫の 色にはさくな むさしのの 草のゆかりと 人もこそしれ
     
(藤原高光(941-994)、『拾遺和歌集』)
   むさし野の ゆかりの色も とひわびぬ みながら霞む 春の若草
     
(藤原定家(1162-1241)、『最勝四天王院障子和歌』1207)
   さらに又 つまどふくれの 武蔵野に ゆかりの草の 色もむつまし
     
(藤原(西園寺)公経(1171-1244)、『千五百番歌合』1202-1203)
 

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