つばき (椿) 





 ツバキ科 Theaceae(山茶科)には、約28-30属約500-600種がある。
   ナガエサカキ属 Adinandra(紅淡屬)
 アジアの熱帯・亜熱帯に約70種
     A. bockiana(四川紅淡・尖葉楊桐・瑶人茶)
     A. chinensis(華紅淡)
     ナガエサカキ A. dumosa
マレー・スマトラ・ボルネオ・ジャワに分布
     A. hainanensis(赤點紅淡・油楠・山念子)
     A. macrosepala(大萼紅淡)
     A. megaphylla(大葉紅淡・大葉楊桐)
     A. millettii(毛葯紅淡・黄瑞木)
     A. nitida(殻葉紅淡)
     リュウキュウナガエサカキ A. ryukyuensis
     ケナガエサカキ A. yaeyamensis
   ナガバモッコク属 Anneslea(茶梨屬)
 東アジア南部・東南アジア・ヒマラヤに4種
     ナガバモッコク A. fragrans(茶梨・猪頭果)
        
 中国(南部)・東南アジア・ヒマラヤに分布。『週刊朝日百科 植物の世界』7-157
   ツバキ属 Camellia(山茶屬)
   サカキ属 Cleyera(楊桐屬)
   ヒサカキ属 Eurya(柃木屬)
   タイワンツバキ属 Gordonia 
約40種
     タイワンツバキ G. axillaris(Polyspora axillaris;大頭茶)
        
『週刊朝日百科 植物の世界』7-153
     G. balansae(Polyspora balansae;海南大頭茶)
     G. chrysandra(Polyspora chrysandra;雲南山枇花)
       (広義の Gordonia を、東アジアに産する Polyspora と、
        北アメリカ産の Gordonia(1種のみ)に分けることがある)
     G. lasianthus
北アメリカ産
   Hartia(舟柄茶屬)
     H. kwangtungensis(廣東舟柄茶)
     H. sinensis(舟柄茶)
     H. yunnanensis(雲南舟柄茶)
   タイワンツバキ属 Polyspora(大頭茶屬)
 Gordonia を見よ
   Pyrenaria(核果茶屬)
   ヒメツバキ属 Schima(木荷屬)
分類について『週刊朝日百科 植物の世界』7-152参照
     S. argentea(銀木荷)
     S. bambusifolia(竹葉木荷)
     S. noronhae(滇木荷)
     S. sinensis(華木荷)
     S. superba(木荷・何樹)
     ヒメツバキ
(イジュ) S. wallichii(峨眉木荷・烏葉子)
   ナツツバキ属 Stewartia(紫莖属) 
世界に約8種
   モッコク属 Ternstroemia(厚皮香屬) 
世界の熱帯に約90種
   ヒサカキサザンカ属 Tutcheria(石筆木屬)
 東アジアの熱帯・亜熱帯に約8種 
 ツバキ属 Camellia(山茶屬)には、日本・中国に次のようなものがある。
  (※印は日本に自生するもの)
   シマサザンカ C. brevistyla
臺灣産
   C. caudata(尾葉山茶)
   C. chekiang-oleosa(紅花油茶・浙江紅花油茶)
 採油用に栽培
   C. chrysantha 
黄花
     キンカチャ var. chrysantha(金花茶) 
     var. microcarpa(小果金花茶)
   C. cochinchinensis(普洱茶)
   C. cordifolia(野山茶)
   トガリバサザンカ C. cuspidata(尖葉山茶・火烟子)
   C. euphlebia(顯脈金花茶) 
黄花。『週刊朝日百科 植物の世界』7-143
   C. euryoides(柃葉連蕊茶)
   シラハトツバキ C. fraterna(連蕊茶)
   C. gigantocarpa(博白大果油茶)
   グランサムツバキ C. granthamiana
   C. grijsii(閩鄂山茶)
 芳香性
   ホンコンツバキ C. hongkongensis(廣東山茶)
  ※ツバキ
(ヤブツバキ・ヤマツバキ) C. japonica
        (山茶;E.Common camellia, Rose camellia)
   C. kissi(落瓣油茶)
   C. latilimba(梨茶・大油茶・山桐茶)
  ※ヒメサザンカ
(リュウキュウツバキ) C. lutchuensis
        
南西諸島(沖永良部・沖縄・久米・石垣・西表)特産
   C. mairei var. veltina(滇南毛蕊山茶)
   テマリツバキ C. maliflora
   アブラツバキ
(ユチャ) C. oleifera(油茶)採油用に栽培。
        『中国本草図録』Ⅳ/1745・『週刊朝日百科 植物の世界』7-141
     var. confusa(野油茶) 『中国本草図録』Ⅷ/3694
     var. monosperma(單籽油茶・小果油茶)
 『中国本草図録』Ⅹ/4746
   C. parvilimba(小葉山茶)
   C. pitardii(西南山茶)白・桃色の大花。
        『雲南の植物Ⅱ』92・『週刊朝日百科 植物の世界』7-142
     var. yunnanica(雲南野山茶)
        『雲南の植物Ⅱ』92・『週刊朝日百科 植物の世界』7-142
   C. polyodonta(宛田紅花油茶)
 採油用・観賞用(赤花)に栽培。
        『週刊朝日百科 植物の世界』7-142
   トウツバキ C. reticulata(南山茶・雲南茶花・雲南山茶花)
        
観賞用に栽培、赤花。『週刊朝日百科 植物の世界』7-140
     f. simplex(雲南紅花油茶)
 採油用に栽培
   C. rosaeflora
   C. rosthorniana(川鄂連蕊茶)
  ※ユキツバキ C. rusticana(=C.japonica var.decumbens,var.rusticana)
   C. salicifolia(柳葉山茶・毛葉山茶)
   サルウィンツバキ C. saluenensis(怒江山茶)
        
『雲南の植物Ⅱ』92・『週刊朝日百科 植物の世界』7-143
  ※サザンカ C. sasanqua
   C. semiserrata(廣寧油茶)
  ※チャ
(チャノキ) C. sinensis(Thea sinensis;茶;E.Tea)
   C. yuhsienensis(攸縣油茶) 
芳香性。『週刊朝日百科 植物の世界』7-143
   ウンナンツバキ C. yunnanensis(猴子木)
   
 また、以上のもののいずれかに由来したり、あるいは来歴の分っていない雑種・品種を、次に掲げる。
   アカシガタ
   オオカラコ
   オトメツバキ C. japonica 'Rosacea'
   カモホンナミ
   カンツバキ C. sasanqua var. fukikoana(=C.×hiemalis)
   キクサラサ
   コウオトメ
   シュンショコウ
   シラタマ
   セイオウボ C. seiobo
   タロウカジャ(ウラクツバキ) C. uraku
   ハクジシ
   ハクロニシキ
   ボクハン C. japonica 'Bokuhan'
   ボクハンニシキ
   ホンシラタマ
   ワビスケ C. wabisuke(=C. reticulata var. wabisuke)
   ムルイシボリ
   ヤエヒメ  
 なお 夏椿は、同じツバキ科だが 別のナツツバキ属 Stewartia に属し、ナツツバキヒメシャラなどがある。 




 和名つばきの称謂は古く、『古事記』雄略記に載る大后の歌に「都婆岐」、『万葉集』には「都婆吉」「都婆伎」とある。
 その由来については、艶葉木(つやはき)の意、厚葉木(あつはき)の意、など諸説がある。
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)椿木に、「和名都波岐」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)椿に「和名豆波木」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』
(1806)32 山茶に、「ツバキ」と。
 つばきは、辨の欄に挙げた、日本に産するツバキ属の植物の総称であったであろう。そのうちからさざんかを区別するようになるのは、15世紀以降である。サザンカを見よ。
 漢語では、椿(チン,chun)は、センダン科の落葉高木チャンチン Toona sinensis(=Cedrela sinensis。中国名は香椿・椿・紅椿・椿樹・春芽樹)や、ニガキ科の落葉高木ニワウルシ Ailanthus altissima(中国名は臭椿・椿樹・樗)などを指す。
 従って、日本でツバキに椿の字をあてるのは誤り。椿の字の本義を知らないままに、春に花を開く木と言うので椿の字を用いたのだろうとされる。ツバキに椿をあてるのは、『出雲風土記』に始まり、『新撰字鏡』に受け継がれた。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)32 山茶の条に、「本邦ニテ古ヨリ椿ノ字ヲツバキト訓ズルハ タマツバキノ古訓ヲ誤リタルナリ、其タマツバキト云ハ今俗ニキヤンチント呼者ニシテツバキノ類ニ非ズ」と。
 中国では、隋唐以来、海石榴(カイセキリュウ,haishiliu)という植物が文献に現れる。
 石榴・柘榴(セキリュウ,shiliu)はザクロであるから、海石榴は「海から来た
(引いては外国から来た)ザクロ」の意である。ザクロは外来の植物で、前漢のとき張騫が安息(ペルシア)より持ち来たったものと伝えられており、六朝以前には奈林などと表記されてきたが、唐代から石榴と表記するようになったという。
 日本では、『出雲国風土記』意宇
(おう)郡の条、草木を列挙する中に、「海榴、字或作椿」(海榴は、テキストによっては 或は同書中別の条では、海石榴・海柘榴と三字に作る)とあることなどから、海石榴とはツバキであるとする。『万葉集』でも、この字を「つばき」と読み、ツバキを表した。
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)に「椿 唐韻云、椿。〔勅倫反。和名豆波木〕。木名也。楊氏漢語抄云、海石榴。〔和名上同。本朝式等用之〕。」と。
 海石榴がツバキであるとする立場からは、次のような説明がなされている。すなわち、中国南方の花木であったトウツバキが中原(黄河流域)にもたらされるより先に、日本からヤブツバキが中国にもたらされ、これがザクロのように赤い花を開くので、「海から来たザクロ(海石榴)」と呼ばれた、そののちトウツバキが中原にもたらされ、それは「山茶」と呼ばれた、と。
 しかし、今日の中国では、「海石榴」「海榴」はともにザクロの別称とする。このばあい、海石榴の語は、「石榴のうち海から来たもの」の意ではなく、ザクロそのものの持つ 外国から来たという属性を示すものと解釈する。
 
(このほか、「海石榴」を、朝鮮半島に産するザクロ科の植物であるチョウセンザクロ Punica nana とする見解もある。)
 このように、7-8世紀に中国や日本で海石榴と呼ばれた植物が何であったのか、国際的には必ずしも定説を見ていない。
 学名の属名 Camellia は、17世紀の宣教師カメル G.J.Kamell から。彼は、マニラに住み、東アジアの植物を採集した。リンネ(1707-1708)は、そのカメルに因んでこの属名を立てた。


 トウツバキ C. reticulata は、雲南省サルウィン川流域の原産、栽培化されたのは明時代。日本には、延宝(1673-1681)年間に入る。
 
「トウツバキは葉の表面がツバキよりつやがなく、葉脈が網目状にはっきりへこみ、めしべは短い毛でおおわれる。花弁は波立ち、八重咲きの中には牡丹の花のようなものがある。一般に大輪で直径が一〇センチを超す。欠点は密に茂りにくく、寒さにやや弱いこと。このため、苗木の間は関東地方でも防寒しなければならない」(湯浅『花の履歴書』)
 トウツバキは、ヨーロッパにはリチャード・ローにより1820年に入り、その品種はキャプテン・ローの名で広まった。
 ヤブツバキは、ヨーロッパへは、一説に16世紀に日本からポルトガルに入ったといい、一説に1682年に長崎の出島に来たドイツの医師A.クライヤーが紹介したという。イギリスには 18世紀初に渡った。




 日本におけるツバキの花の文化史は、ヤブツバキの誌を見よ。
 古代の日本には、各地に「つばきち」という市があった。
 『万葉集』『日本書紀』『風土記』などに海石榴市と記され、『元興寺縁起』に都波岐市、『延喜神名式』因幡国八上郡十九座の内に都波只知上神社二座などとあり、ツバキチと読んだことが知られる。この市は平安時代にも引き続き存在しており、清少納言『枕草子』第14段「市は」の中に「つばいち」が見られる。

 奈良県桜井市金屋にあった海石榴市は、かつては市が開かれ、歌垣が行われた場所。今も椿市観音・椿市地蔵があるという。『日本書紀』巻16、武烈天皇即位前紀に、皇太子時代の武烈天皇が「海石榴市」の「歌場〔
歌場、此をば宇多我岐(うたがき)と云ふ〕の衆(ひとなか)に立」ちまじって、大臣(おほおみ)平群真鳥臣(へぐりのまとりのおみ)の子鮪(しび)と影媛(かげひめ)を争ったとある。
 この海石榴市の歌垣は、『万葉集』にも次のように歌われている。

   海石榴市の 八十
(やそ)の衢(ちまた)に 立ちならし 結びし紐を 解かまく惜しも
      
(12/2951, 読人知らず)
   紫は 灰指す物ぞ 海石榴市の 八十の街に あひし児や誰
   たらちねの 母がよぶ名を 白
(まを)さめど 路行く人を 孰(たれ)と知りてか
       
(12/3101;3102, 読人知らず「問答の歌」)

 『日本書紀』巻7、景行天皇12年10月の条に載る次の話は、大分県にあった海石榴市という地名の起源説話。
 「則ち海石榴樹
(つばきのき)を採りて、椎(つち)に作り兵(つはもの)にしたまふ。因りて猛き卒(いくさ)を簡(えら)びて、兵の椎を授けて、山を穿ち草を排(はら)ひて、石室(いはむろ)の土蜘蛛(つちぐも)を襲ひて、稲葉の川上に破りて、悉(ふつく)に其の党(ともがら)を殺す。血流れて踝(つぶなき)に至る。故(かれ)、時人(ときのひと)、其の海石榴の椎を作りし処(ところ)を、海石榴市と曰(い)ふ。亦血の流れし処を血田(ちた)と曰ふ。」(『出雲国風土記』大野郡の海石榴市・血田の条に、ほぼ同じ話を載せる。) 

 今日、海石榴市の語源については、ツバキの灰などが取引された市、ツバキの生えている市、などが行われている。
 フランスの小説家 デュマ子 Alexandre Dumas fils(1824-1895)は、『椿姫(椿の花を持つ女) La Dame aux Camellia(1848小説;1849戯曲)において、パリの高級娼婦マルグリット・ゴーティエに、赤い(日によって白い)椿のコサージュを身に着けさせた。この小説は大評判を呼び、戯曲は名女優サラ・ベルナール Sarah Bernhardt(1844-1923)の当り役となり、一世を風靡した。
 イタリアの作曲家ヴェルディ
Giuseppe Verdi(1813-1901)は、パリでこの舞台を見て感動し、歌劇『トラヴィアータ(道を踏み外した女) La Traviata(1853初演)を作曲した。
 なお、この小説・戯曲・歌劇とも、日本では椿姫の名で、中国では茶花女 chahuanü の名で親しまれている。
白椿の一種  2004/12/22 学内
ジュラク(聚楽)  2005/04/03 (天ケ下か? それなら一重のはずだが・・・)



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