辨 |
サトウキビ属 Saccharum 属(甘蔗 gānzhè 屬)には、次のようなものがある。
S. arundinaceum(斑茅・大密) 中国南部・東南アジア・インド産
ホソサトウキビ S. barberi(細稈甘蔗) インドで栽培
サトウキビ S. officinarum(甘蔗)
S. robustum ニューギニアに自生、サトウキビの原種
カラサトウキビ(チクシャ) S. sinensis(竹蔗・草甘蔗)
江西・湖南・福建・兩廣・四川・貴州・雲南で栽培 『中国本草図録』Ⅹ/4913
1609年奄美大島に渡来
S. spontaneum
ナンゴクワセオバナ var. spontaneum(甜根子草・割手密)
華東・兩湖・兩廣・四川・貴州・雲南産 『中国雑草原色図鑑』321
var. roxburgii(羅氏甜根子草) 臺灣産
var. juncifolium(燈心葉甜根子草) 廣東・海南産
ワセオバナ(早生尾花) var. arenicola 本州南部の海岸に産
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イネ科 Poaceae(Gramineae;禾本 héběn 科)については、イネ科を見よ。 |
訓 |
和名カンショは、漢名甘蔗(カンシャ,gānzhè)の音の転訛。 |
『大和本草』沙糖に、「甘蔗ハ・・・沙糖黍ト云ヘリ」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)29甘蔗に、「サトウキビ サトウノキ サトウグサ サトウダケ」と。 |
サンスクリット語でシャルカラー sarkara、プラークリット語でサッカラ sakkara といい、学名の属名・英名などはこれに基づく。 |
説 |
野生種の ① S. robustum は、ボルネオ・ニューギニアなどに分布、② S. spontaneum は、広くアフリカ・インド・漢土南部・東南アジアなどに分布する
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栽培品種として、①からは マレーシア・ポリネシアで栽培されていた砂糖黍(E. noble cane)が、②からは インド・漢土南部・東南アジアで栽培されていた砂糖黍 S. sinense が、それぞれ作り出された。今日栽培するサトウキビ
S. officinarum は、さらに栽培の2種と野生2種の交雑をくり返して作られたもの。 |
今日の中国では、臺灣・福建・兩廣・四川・貴州・雲南で栽培。 |
誌 |
漢・楊孚『異物志』に、「甘蔗、遠近皆有り。交趾に産する所の甘蔗は、特に諄好、本末薄厚無く、其の味至って均し。囲数寸、長丈餘、頗る竹に似る。斬りて食えば既に甘し。汁を迮取して飴餳(いじょう)を為り、之を名づけて糖と曰う。益々復た珍なり。又た之を煎じて曝せば、既に凝り、氷の如し。破りて博棊(はくき)の如くし(砕いて碁石ほどの大きさにして)、之を食う。口に入れれば消釈す。時の人之を石蜜と謂う」と(賈思勰『斉民要術』10引)。
文中、飴餳はサトウキビのジュース、蔗漿(ショショウ,zhejiang)。石蜜は氷砂糖(こおりざとう)、氷糖(ヒョウトウ,bingtang)。 |
日本では、17世紀末に至っても 高価な輸入品であった。
「暖国にそだつ物なり。近年薩摩には、琉球より取り伝へて種ゆるとかや。是を諸国に作る事は国郡の主にあらずば、速やかに行はわれがたかるべし。庶人の力には及びがたからん。是常に人家に用ゆる物なるゆへ、本邦の貴賎財を費す事尤甚し。是を種ゆる事よく其法を伝へ作りたらば、海辺の暖国には必ず生長すべし。若其術を尽して世上に多く作らば、みだりに和国の財を外国へ費しとられざる一つの助たるべし。・・・」(宮崎安貞『農業全書』1697)。 |
『大和本草』沙糖に、「砂糖煎(ヅケ) 佛手柑、生薑、天門冬、冬瓜、葡萄、金橘等、皆煎スベシ、蜜煎ハマサレリ」と。 |
いつのまに刈り干しにけむ甘蔗黍(さとうきび)刈り干しにけむあはれもず啼く
(北原白秋『桐の花』1913)
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著者(嶋田)の記憶では、長野県東筑摩郡波田村では1950年代サトウキビを自家用に栽培していた。盛夏の畑仕事の最中に、この茎を切り、皮を剥いて芯を咬んだ。みずみずしく、甘かった。 |