辨 |
ブドウ科 Vitaceae(葡萄 pútáo 科)には、次のような属がある。
ノブドウ属 Ampelopsis(蛇葡萄屬)
ヤブカラシ属 Cayratia(烏蘞莓屬)
ヒレブドウ属(セイシカズラ属) Cissus(白粉藤屬)
C. adnata(貼生白粉藤)
C. assamica(毛葉白粉藤・苦郎藤)
C. hexangularis(翅莖白粉藤・六方藤) 『全国中草葯匯編』下/92-93
セイシカズラ C. javana(C.discolor;靑紫葛)
1854ジャワ島で発見、四川・雲南・東南アジア・インドに分布。
日本には明治時代中ごろに渡来。
C. kerrii(C.modeccoides var.subintegra;鷄心藤・白粉藤) 『全國中草藥匯編 上』p.300
C. pteroclada(四方藤) 『全国中草葯匯編』下/192-193
ヒスイカク(翡翠閣) C. quadrangularis アフリカ・マダガスカル・アラビア・インドに分布
C. repens(白粉藤)
オオウドノキ属(ウドノキ属) Leea(火筒樹屬)
L. guineensis(臺灣火筒樹)
オオウドノキ L. indica(火筒樹・蕃姿■{木偏に怨})
ウドカズラ属 Nekemias(牛果藤屬)
タイワンウドカズラ N. cantoniensis(Ampelopsis cantoniensis;牛果藤・廣東蛇葡萄)
『全國中草藥匯編 下』p.788
ウドカズラ var. leeoides(A.leeoides;廣東蛇葡萄・粤蛇葡萄・山甜茶・藤茶)
『中国本草図録』Ⅹ/4726
var. grossedentata(甜茶藤・田婆茶) 『全國中草藥匯編 下』p.788
アツバウドカズラ N. chaffanjonii(Ampelopsis chaffanjonii;羽葉牛果藤)
N. hypoglauca(Ampelopsis hypoglauca;粉葉牛果藤)
N. grossedentata(Ampelopsis grossedentata;大齒牛果藤)
N. megalophylla(Ampelopsis megarophylla;大葉牛果藤) 『中国本草図録』Ⅹ/4727
N. rubifolia(Ampelopsis Rubifolia;毛枝牛果藤)
ツタ属 Parthenocissus(爬山虎屬)
アメリカブドウ属 Rhoicissus(菱葉藤屬)
ミツバビンボウカズラ属 Tetrastigma(崖爬藤屬)
ミツバビンボウカズラ T. formosanum(臺灣崖爬藤)
T. erubescens(紅枝崖爬藤) ベトナム北部産
ミツバカズラ T. hemsleyanum(T.dentatum, T.alatum;
三葉崖爬藤・三葉靑・金綫吊葫蘆・絲綫吊金鐘・石老鼠・石猴子)
臺灣・浙江・福建・江西・兩湖・廣東産 『全國中草藥匯編 上』pp.31-32
T. hypoglaucum(叉鬚崖爬藤・狹葉崖爬藤・五爪金龍)『全國中草藥匯編 上』pp.144-145,301
T. lanceolarium 寄生植物ラフレシア・アルノルディイの宿主
コウトウヤブカラシ T. lanyuense(蘭嶼崖爬藤)
T. lenticellatum(顯孔崖爬藤) 雲南産 『全国中草葯匯編』下/32
オモロカズラ T. liukiuense
T. obovatum(毛枝崖爬藤)
T. obtectum(崖爬藤・走游草) 『全國中草藥匯編 上』pp.421-422
タイワンヤブカラシ var. glabrum(T.umbellatum;光葉崖爬藤・小九節鈴)
T. pachyphyllum(厚葉崖爬藤)
T. papillosum
T. pedunculare
T. planicaule(扁擔藤) 『全国中草葯匯編』上/566
福建・兩廣・四川・貴州・雲南・ヒマラヤ・インドシナ・スリランカ産
T. pubinerve(毛脈崖爬藤)
ブドウ属 Vitis(葡萄屬)
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ブドウ属 Vitis(葡萄 pútáo 屬)の植物には、世界に約60-80種がある。
チョウセンヤマブドウ V. amurensis(山葡萄・野葡萄・黑水葡萄・山藤藤秧)
朝鮮・極東ロシア・遼寧・吉林・黑龍江・河北・山西・山東・安徽・浙江産
『中国本草図録』Ⅳ/1739 『全国中草葯匯編』下/71
V. balansana (小果葡萄) 兩廣・貴州・インドシナ産
V. berlandieri テキサス・メキシコ産
V. betulifolia (樺葉葡萄) 兩湖・四川・貴州・雲南・ミャンマー産
V. bryoniifolia (V.adstricta, V.flexuosa var.mairei;蘡薁・華北葡萄・野葡萄)
陝西・河北・山西・山東・華東・兩湖・兩廣・四川・雲南産
V. chunganensis (東南葡萄) 安徽・江西・浙江・福建・湖南・兩廣産
V. chungii (閩贛葡萄・紅扁藤) 江西・福建・兩廣産
ヤマブドウ V. coignetiae(V.amurensis var.coignetiae)
タケシマヤマブドウ f. glabrescens
V. davidii (刺葡萄・山葡萄) 陝西・甘粛・華東・兩湖・兩廣・四川・貴州・雲南産
エビヅル V. ficifolia(V.heyneana subsp.ficifolia, V.thunbergii, V.kaempferi,
V.sieboldiii;桑葉葡萄・野葡萄)
ケナシエビヅル f. glabrata(var.austrokoreana, V.austrokoreana)
対馬・朝鮮産
キクバエビヅル f. sinuata(V.thunbergii var.sinuata)
シチトウエビヅル var. izuinsularis(V.thunbergii var.izuinsularis)
サンカクヅル(ギョウジャノミズ) V. flexuosa(葛藟・野葡萄)『中国本草図録』Ⅶ/3221
コバノサンカクヅル f. parvifolia(V.parvifolia)
ケサンカクヅル var. rufotomentosa(V.rufotomentosa, V.gilvotomentosa)
ウスゲサンカクヅル var. tsukubana(V. × tsukubana)
キールンブドウ V. heyneana(V.kelungensis, V.quinqueangularis;
毛葡萄・五角葉葡萄)
西表島・臺灣・陝甘・江蘇・安徽・浙江・江西・湖北・廣西・四川・貴州・雲南・ヒマラヤ・インド産
クマガワブドウ V. kiusiana 九州(熊本・鹿児島)産 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
アメリカブドウ V. labrusca(V.vinifera var.labrusca)
北米(メイン・ミシガン・テネシー・ケンタッキー・ジョージアなど)産
V. piasezkii (變葉葡萄・復葉葡萄・麻羊藤) 陝西・山西・河南・浙江・四川産
カイナンエビヅル V. retordii(綿毛葡萄) 兩廣・貴州・インドシナ産
V. riparia 北米(カナダ東部・USDA・メキシコ)産
V. romanetii(秋葡萄・黑葡萄)
甘肅・陝西・河南・江蘇・湖北・四川・貴州・ラオス産
V. rupestris 北米(USA南東部)産
アマヅル(オトコブドウ) V. saccharifera
ヨコグラブドウ var. yokogurana(V. × yokogurana)
シラガブドウ V. shiragae(V.pseudoreticulata, V.choi, V.amurensis var.shiragae)
岡山・朝鮮・遼寧・吉林・黑龍江産 絶滅危惧IB類(EN,環境省RedList2020)
コエビヅル V. sinocinerea(V.thunbergii var.taiwaniana;小葉葡萄)
臺灣・華東・兩湖・雲南産
ブドウ(ヨーロッパブドウ) V. vinifera (葡萄・蒲陶・草龍珠) 雌雄同株。
var. silvestris 中央アジアに野生、雌雄異株。ヨーロッパブドウの祖先種とも言う。
V. wilsoniae (網脈葡萄・大葉山天蘿) 陝西・甘粛・河南・華東・兩湖・四川・貴州・雲南産
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なお、ノブドウはノブドウ属 Ampelopsis(蛇葡萄屬)に属し、実は食えない。 |
訓 |
漢名は、ペルシア語の大宛(フェルガナ)地方の方言ブウダウ budaw の音写、古くは蒲桃・蒲萄・蒲陶(現代北京音はいずれも pútáo)などと記され、宋代からは葡萄と記された(Laufer)。
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和名ブドウは、漢名葡萄の音の転訛。 |
和語では、古くブドウの仲間(エビヅル・ヤマブドウなど)を、エビと呼んだ。エビヅルの訓を見よ。 |
属名は、ラテン語の「ブドウ」、種小名は「ワインを生じるもの」。 |
説 |
南&南東ヨーロッパ・西&中央アジア原産、今では世界中で栽培される果樹。 |
誌 |
古くから果樹として利用され、ca.3000B.C.にコーカサス・東地中海地方で栽培され始めた。
葡萄酒は人類最古の酒、はやく『ギルガメシュ叙事詩』に歌われる。ブドウと葡萄酒は ca.1500B.C.にはギリシアに伝えられ、ローマを経て西ヨーロッパに広がった。 |
中国には前漢頃に西域よりもたらされた。後世には、武帝の時代に 張騫(?-114B.C.)によりもたらされたものと考えられた。
『史記』大宛(タイエン,dawan。フェルガナ地方)列伝に、「大宛、匈奴の西南に在り。漢の正西に在り。漢を去ること万里可(ばか)り。其の俗、土着して田を耕し、稲麦を田る。蒲萄の酒有り。善き馬多し」と。
『漢書』西域伝大宛国に、「大宛(フェルガナ)の左右、蒲陶を以て酒を為る。富人酒を蔵して万余石に至る。久しき者は数十歳に至るも、敗れず。俗は酒を耆(たしな)み、馬は目宿を耆む」と、また「漢の使、蒲陶・目宿の種を采(と)りて帰る。天子、天馬多く又た外国の使 来るもの衆きを以て、益々蒲陶・目宿を離宮・館旁に種え、望を極む」と。
張華(232-300)『博物誌』に、「張騫、西域に使して還り、安石榴・胡桃・蒲桃を得たり」と(賈思勰『斉民要術』10所引等)。
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賈思勰『斉民要術』(530-550)巻4に、「蒲萄」が載る。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻三「藤並桂のるひ」に、「葡萄(ぶだう) 大ふさ小ふさ二色有。大ふさハ長クさがりて吉」と。 |
むらさきの葡萄のたねはとほき世のアナクレオンの咽を塞ぎき
(1938,齋藤茂吉『寒雲』)
沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ
(1945,齋藤茂吉『小園』)
干葡萄ひとり摘み取りかみくだく食後のほどをおもひさびしむ
(北原白秋『桐の花』1913)
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古来、ギリシアの港町コリントス Korinthos(今日の Corinth)は、良質の種無し干し蒲萄を産出することで有名であった。これを14世紀のアングロノルマン語で
raisins de Corauntz と呼び、今日の英語では単に currants と呼ぶ。 |
今日栽培する品種には、次のようなものがある。
マスカット・オブ・アレキサンドリア 北アフリカ原産、古くから栽培
ロザキ 原産地不明
フレーム・トーケー アルジェリア原産
トムソン・シードレス 小アジア原産、生食用乃至干葡萄用
アルフォンス・ラバレー(リビエール) 原産地不明
ピツテロ・ビアンコ
エンペラー 原産地不明
イタリア イタリアで育成
マスカット・ハンブルグ イギリスで育成
ネオ・マスカット 日本で育成
甲斐路(甲州葡萄) 日本で育成
また、アメリカブドウとの雑種には、次のようなものがある。
巨峰 日本で育成
マスカット・ベリーA 日本で育成
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