辨 |
ツタ属 Parthenocissus(地錦 dìjĭn 屬)には、主として東アジア・北アメリカの温帯に約15種がある。
P. austro-orientalis(東南爬山虎) 『中国本草図録』Ⅸ/4230
P. dalzielii(異葉地錦) 河南・浙江・福建・江西・両湖・兩廣・四川・貴州・雲南・臺灣産
ヘンリーヅタ P. henryana(花葉地錦・異葉地錦)
アマミナツヅタ P. heterophylla(異葉爬山虎・吊巖風) 『全国中草葯匯編』下/252
奄美・沖縄・臺灣・安徽・浙江・福建・江西・兩湖・廣東・インドシナ・ジャワ産
P. himalayana(三葉爬山虎・爬山虎・三爪金龍)
湖北・廣東・四川・貴州・雲南・タイ・ビルマ・ヒマラヤ産 『全國中草藥匯編 上』pp.26-27
P. penryana(紅葉爬山虎)『中薬志Ⅲ』p.412
アメリカヅタ P. quinquefolia(五葉地錦・美國爬山虎) 北アメリカ東部産、北海道などで栽培
P. semicprdata(三葉地錦・三葉爬山虎)
湖北・廣東・四川・貴州・雲南・ヒマラヤ産 『全國中草藥匯編』上p.26
ツタ(ナツヅタ) P. tricuspidata(地錦・爬山虎)
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ブドウ科 VITACEAE(葡萄 pútáo 科)については、ブドウ科を見よ。 |
訓 |
「和名つたハ傳フノ意ト謂ハル」(『牧野日本植物図鑑』)。 |
『本草和名』落石に、「和名都多」と。
源順『倭名類聚抄』絡石に「和名豆太」と。
すなわち、古くは「つた」という語は、ツタではなく、テイカカズラを指していた。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・朝鮮・臺灣・華東・河南・河北・遼寧・吉林・黑龍江に分布。世界中で観賞用に栽培する。 |
誌 |
中国では、根を爬山虎(ハサンコ,páshānhŭ)と呼び薬用にする。『全国中草葯匯編』上/559-600
一部の地方では、茎葉を絡石藤と呼び、薬用にする。テイカカズラの誌を見よ。 |
日本では、『万葉集』時代に、つたと呼ばれていた植物はテイカカズラ。
「這う蔦の」は、別れにかかる枕詞。『万葉集』に、
・・・延(は)ふつた(蔦)の 別(わかれ)の数(あまた)・・・ (13/3291,読人知らず)
・・・はふつたの わかれにしより・・・ (19/4229,大伴家持)
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『本草和名』に、「千歳蘽汁、一名蘽蕪、一名蘡薁藤汁。和名阿末都良、一名止々岐」と。
『倭名類聚抄』に、「千歳蘽、蘇敬本草注云、千歳蘽、一名蘡薁藤〔蘡薁二音嬰育、和名阿末加豆良。俗用甘葛〕。得千歳者、華大如椀」と。なお、蘡薁はエビヅル。 |
室町時代以降に砂糖が普及するより前、甘葛(あまづら)を甘味料として用いた。人々は甘葛から汁を取って煮詰め、甘葛煎(あまづらせん)・味煎(みせん)などと呼んだ。
甘葛と呼ばれた植物が何であったのか、諸説があるが、おそらくツタだという(ほかにアマチャ、アマチャヅル説など)。
大和・紀伊の山間では 今日でもこれを砂糖の代りに用いる。ツタから甘葛を採るには、秋冬のころ ツタの蔓を地上1尺余のところで切断し、切口に容器を受けて樹液を採る。
『延喜式』甘葛に、「アマツラ」と。 |
『枕草子』42段に、
あてなるもの・・・
創(けづ)り氷(ひ)にあまづら入れて、あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる・・・
(今の私たちのかき氷の、王朝バージョンですね)。
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西行(1118-1190)『山家集』に、
思はずに よしあるしづ(賎)の すみか(住家)哉
つたのもみぢを 軒には(這)はせて
(いやしかりける家につたの紅葉のおもしろかりけるをみて)
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まいら戸に蔦這ひかゝる宵の月 (芭蕉,『猿蓑』1691)
蔦の葉はむかしめきたる紅葉哉 (芭蕉,1644-1694)
桟(かけはし)やいのちをからむつたかづら (同)
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