えびづる (海老蔓) 

学名  Vitis ficifolia (V.heyneana subsp.ficifolia, V.thunbergii, V.kaempferi, V.sieboldiii)
日本名  エビヅル
科名(日本名)  ブドウ科
  日本語別名  エビカズラ、エビイヌブドウ、イヌエビ、ノブドウ
漢名  桑葉葡萄(ソウヨウホトウ,sāngyè pútáo)、蘡薁(エイイク,yīngyù)
科名(漢名)  葡萄(ホトウ,pútáo)科
  漢語別名  華北葡萄、野葡萄、山葡萄、燕薁(エンイク,yanyu)、車鞅藤(シャオウトウ,cheyangteng)
英名  

2022/05/11 薬用植物園 

2007/05/22 小石川植物園
2007/06/19 同上
2004/08/11 野草園
2009/10/29 神代植物公園

エビズルか?   2021/12/02小平市 玉川上水緑地 
 エビヅル V. ficifolia には、次のような種内分類群を区別する(ことがある)。

  ケナシエビヅル f. glabrata(var.austrokoreana, V.austrokoreana)
         
対馬・朝鮮産
  キクバエビヅル f. sinuata(V.thunbergii var.sinuata)
  リュウキュウガネブ var. ganebu
  シチトウエビヅル var. izuinsularis(V.thunbergii var.izuinsularis)
   
 ブドウ属 Vitis(葡萄 pútáo 屬)については、ブドウ属を見よ。
 和名エビは、葡萄類の古い総称。
 「えびいろ」とは「赤味を帯びた紫色」、「えびかずらの熟した実の色の意。一説にイセエビの色」(『日本国語大辞典 第二版』)。
 甲殻類の蝦・海老をエビと呼び、葡萄をエビと呼ぶのは、葡萄の若い茎葉の赤紫色と蝦の体色との共通性に基づくともいうが、どちらが本来の呼称でどちらが喩えであるのかは、よくわからないようだ。   
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、紫葛は「和名衣比加都良」、蒲萄は「於保衣比加都良」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)に、紫葛は「和名衣比加豆良」、蒲萄は「衣比加豆良乃美」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』
(1806)29葡萄に、「葡萄 ヱビ古名 ヱビカヅラ オホヱビ共ニ同上 ブドウ」、「ヱビト云ハ葡萄ノ古訓ニシテ、狩衣等ヲ紫黒色ニ染ルヲヱビ染ト云、即葡萄実ノ熟シタル色ニ象ルナリ、今ハ蘡薁ヲ ヱビヅルト云ハ イヌヱビト云ベキヲ誤リタルナリ」と。
 また『同』蘡薁に、「イヌヱビ ヱビヅル ノブドウ
京仙台 イヌブドウ ガラミ筑前 カブヅル備前 ガビカヅラ同上 スブドウ佐州 スイビ同上 クロブドウ奥州 ゴヨミ伊州 ゴヨギ勢州 ナベトリカヅラ阿州 ゴイビ江州 ゴユビ共ニ同上 ノラブドウ越前 ナツガンドウ泉州 ヤマヱビ上野 ガラメ薩州 イボオトシ グンダ若州 エビ上総 エビゾロ相州 ヱブコカヅラ豫州 ウマノブス東国」、「ヱビハ元来葡萄ノ古訓ナレバコノ草ハ イヌヱビト訓ズヘキヲ今誤て ヱビヅルト呼」と。
 エビヅルの漢名は、『植物學大辭典』『牧野日本植物圖鑑』等以来 蘡薁とされてきた。
 この蘡薁を、日中のほとんどの辞書は蘡薁(エイイク,yīngyù)と読む。ただし一説に、歴史的には蘡薁(エイオウ,yīng'ào)とするのが正しい、薁を薁(イク,yù)と読む場合はニワウメを指した、という。
 今日の中国では、蘡薁の名は Vitis bryoniifloia に宛てられており、エビズルの漢名は桑葉葡萄とされている(Flora of China, 植物智)。  
 本州・四国・九州・琉球・朝鮮・河北・山西・陝西・河南・山東・江蘇に分布。 
 実は黒色に熟し、甘いので食用・醸造用にする。
 蔓は縄の代用にし、また皮から紙を作る。
 全株と根を薬用にする。
 『詩経』国風・豳風「七月」に「六月は鬱(うつ。ニワウメ)と薁(おう。エビヅル)とを食らふ」と。
 この実から採った染料の色をえび色という。英名はバーガンディー Burgundy、仏名はブルゴーニュ Bourgogne、漢名は葡萄酒紅 (putaojiuhong)。
 清少納言『枕草子』の第30段などに、「えびぞめ
(葡萄染)」の語が見える(30段に初見、以下頻出)。 
 『古事記』に、伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと) 伊邪那美(いざなみ)の命を黄泉(よみ)の国に追い往き、やがて追われて逃げ帰るとき、「爾(ここ)に伊邪那岐の命、黒御■(くろみかづら)を取りて投げ棄(う)つれば、乃ち蒲子(えびかづらのみ)生りき。是を摭(ひろ)ひ食(は)む間に、逃げ行くを、猶追ひしかば、亦其の右の御美豆良(みみづら)に刺せる湯津津間櫛(ゆつつまぐし)を引き闕(か)きて投げ棄つれば、乃ち笋(たかむな)生りき。是を抜き食む間に、逃げ行きき」という。たかむなは、たけのこ
 『日本書紀』巻一に引く一書第6に、同じ場面を、「因りて、黒鬘
(くろきみかづら)を投げたまふ。此即ち蒲萄(えびかづら)に化成(な)る。醜女(しこめ)、見て採りて噉(は)む。噉み了りて則ち更(また)追ふ。伊奘諾尊(いざなぎのみこと)、又湯津爪櫛(ゆつつまぐし)を投げたまふ。此即ち筍(たかむな)に化成る。醜女、亦以て抜き噉む。噉み了りて則ち更追ふ」と。
シチトウエビズル var. izuinsularis
   2023/06/21 植物多様性センター 



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