辨 |
八重ざきのものをニワザクラ var. multiplex と呼ぶが、別種にニワザクラ(ヒトエノニワザクラの八重ざき品) P. glandulosa があるので注意。
ユスラウメ P. tomemtosa (山櫻桃)とは別種。 |
スモモ属 Prunus(李 lĭ 屬)については、スモモ属を見よ。 |
訓 |
「和名ハ庭梅ノ意、能ク庭ニ栽ヱ花梅ノ如ケレば云フ小梅ハ小樹ナルヲ以テ呼ブ、しなのうめノ一名こうめト同名ナリ」(『牧野日本植物図鑑』)。 |
深江輔仁『本草和名』(ca.918)に「郁■、・・・、和名宇倍」と(なお■の字形は不可解、或は栯のつもりか)。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)32に、郁李は「ニハウメ コウメ播州、消梅と同名」と。 |
漢名郁李について、「郁、『山海経』は栯に作る。馥郁なり。花實 倶に香る。故に以て之を名づく」と(李時珍『本草綱目』)。 |
説 |
遼寧・吉林・黑龍江・河北・山東・浙江原産、各地で栽培する。
日本には江戸時代に渡来。 |
誌 |
果実は赤く熟し、食える。 |
中国では、ニワウメ及びコニワザクラ Prunus humilis(歐李)の種子(果実の核)を 郁李仁(イクリジン,yùlĭrén,いくりにん)と呼び、薬用にする。『中薬志Ⅱ』pp.251-258 『全國中草藥匯編 上』pp.488-490
また、地方により、同属の次のような植物の種子を、郁李仁として用いる。
チョウセンニワウメ P. japonica var. nakaii(長梗郁李)
ユスラウメ P. tomemtosa(山櫻桃)
オヒョウモモ P. triloba var. truncata(截形楡葉梅)
P. consociifolia(鄂李)
P. dictyoneura(毛葉歐李)
P. pedunculata(長柄扁桃)
P. majestica(滇櫻桃)
スモモ P. salicina(李)
P. simonii(杏李) |
『詩経』国風・豳風「七月」に「六月は鬱と薁とを食らふ」と。
この鬱(ウツ,yù)はニワウメ。薁(イク,yù)は(一説に オウ,ào と読んで)エビヅルといい、この詩にうたわれる薁はこの意味だという。しかし薁(イク,yù)には、別にニワウメ或はユスラウメの意もある。 |
『爾雅』釈木に、「時、英梅。〔雀梅なり。〕〈疏。時、英梅。釈いて曰く、時、一名英梅なりと。郭云く、雀梅と。梅に似て小さき者なり。〉」と。繆啓愉は、雀梅はニワウメだという(『斉民要術校釈』)。 |
『万葉集』に、
夏まけて開きたるはねず久方の雨打ちふらば移ろひなむか
(8/1485,大伴家持「唐棣花歌一首」)
とあり、唐棣の花を波祢受(はねず)と訓んでいる。
はねずは、ニワウメであるという(ほかに、モクレン・ニワザクラとする説などもある)。
ただし、漢名を唐棣(トウテイ,tangdi)というものは、ザイフリボクの同属異種、Amelanchier sinica である。
『万葉集』には、ほかに「翼酢(はねず)色」を詠って、
山振(やまぶき)のにほへる妹がはねず色の赤裳のすがた夢に見えつつ
(11/2786,読人知らず)
念はじといひてし物をはねず色の変(うつろ)ひ安き吾が意(こころ)かも
(4/657,坂上郎女)
唐棣花(はねず)色の移ろひ安き情(こころ)なれば年をそき経(ふ)ること(言)は絶えずて
(12/3074,読人知らず)
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