辨 |
バラ科 Rosaceae(薔薇 qiángwēi 科)の科内分類については、バラ科を見よ。 |
Prunus 属が含む範囲について、幾つかの異なった考え方がある(あった)ようだ。
『日本の野生植物 木本Ⅰ』(1989)では、サクラ属 Prunus 内は 次のように分けられていた。
スモモ亜属 subgen. Prunus
アンズ節 sect. Armeniaca
スモモ節 sect. Prunus
モモ亜属 subgen. Amygdalus
ウワミズザクラ属 subgen. Padus
バクチノキ亜属 subgen. Laurocerasus
サクラ亜属 subgen. Cerasus
ユスラウメ節 sect. Microcerasus
セイヨウミザクラ節 sect. Cerasus
ミヤマザクラ節 sect. Phyllomahaleb
サクラ節 sect. Pseudocerasus
(幾つかの工具書によれば、ここに挙げられた亜属・節の多くは、独立した属として扱われた(扱われる)ことがある。)
近年の『改訂新版 日本の野生植物3』(2016)では、旧 Prunus の植物は 次の4属に振り分けられた。(YList 同。この譜では、これに従う。)
サクラ属 Cerasus
バクチノキ属 Laurecerasus
ウワミズザクラ属 Padus
スモモ属 Prunus (incl. Amygdalus, Armeniaca, Microcerasus)
(この Prunus をさらに細分して、モモ属 Amygdalus、アンズ属 Armeniaca、ユスラウメ属 Microcerasus、スモモ属
Prunus に分ける説もある。中国の『植物智 iPlant』はこの立場のようだ。)
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スモモ属 Prunus(李 lĭ 屬)には、世界に約80-100種がある。
〔Amygdalus(モモ・ヘントウ類), Armeniaca(ウメ・アンズ類), Microcerasus
(ニワウメ類)を含む〕。
アメリカスモモ P. americana USA産
アンズ P. armeniaca(P.armeniaca var.ansu, P.ansu,
Armeniaca vulgaris var.ansu, A.vulgaris;杏)
var. holosericea(Armeriaca holosericea;藏杏) 陝西・四川・チベット産
ミロバランスモモ P. cerasifera(櫻桃李) バルカン・西&中央アジア産
『週刊朝日百科 植物の世界』5-92・『朝日百科 世界の植物』5/1277
アカバザクラ(ベニバスモモ・ベニスモモ) var. atropurpurea('Atropurpurea';
紫葉李)
サントウ(ノモモ) P. davidiana(P.sibirica f.davidiana,
Amygdalus davidiana;山桃・野桃・苦桃)
華北・陝甘・四川・貴州・雲南産 『中国本草図録』Ⅳ/1672
セイヨウスモモ(ヨーロッパスモモ) P. domestica;歐洲李・洋李)
小アジア・コーカサス原産
ヘントウ(アメンドウ・アーモンド・カラモモ) P. dulcis(P.communis, P.amygdalus,
Amygdalus communis var.dulcis, A.communis;扁桃)
P. ferganensis(新疆桃) 中央アジア産
P. glandulosa
ニワザクラ 'Albi-plena'(P.japonica var.glandulosa,
Microcerasus glandulosa, Cerasus glandulosa;白花重瓣麥李)
ヒトエノニワザクラ f. glandulosa(麥李)
コニワザクラ P. humilis(P.glandulosa var.salicifolia,
Microcerasus humilis;歐李・酸丁・小李紅)
遼寧・吉林・黑龍江・河北・内蒙古・陝西・山東・河南・江蘇・四川産
ダムソンスモモ P. insititia(P.damsonia;烏荊子李) 中歐原産
ニワウメ(コウメ) P. japonica(Microcerasus japonica, M.glandulosa
var.japonica, Cerasus japonica;郁李・赤李子)
チョウセンニワウメ var. nakaii(P.nakaii, Cerasus nakaii;長梗郁李)
『中薬志Ⅱ』pp.251-259、『中国本草図録』Ⅲ/1182
P. kansuensis(Amygdalus kansuensis, Persica kansuensis;甘肅桃)
陝甘・湖北・四川産
マンシュウアンズ P. mandshurica(Armeniaca mandshurica;東北杏・満洲杏)
遼寧・吉林・黑龍江産 種子を薬用
カキバイヌザクラ P. marsupialis(蘭嶼野櫻花)
P. mira(Amygdalus mira, Persica mira;光核桃)
四川・雲南・チベット産『中国本草図録』Ⅷ/3636
P. mongolica(Amygdalus mongolica;蒙古扁桃)
甘肅・モンゴリア産 『中国本草図録』Ⅹ/4629
ウメ P. mume(Armeniaca mume;梅)
コウメ var. microcarpa
P. pedunculata(Amygdalus pedunculata, A.pilosa;長梗扁桃)
モンゴリア・シベリア産
モモ P. persica(Amygdalus persica, Persica vulgaris;
桃・毛桃・普通桃) 華北・陝甘原産
バントウ(ザゼンモモ) var. compressa(var. platycarpa;
蟠桃・扁桃;E.peento,flat peach) 果実の形が扁平
ジュセイトウ var. densa(壽星桃;E.Dwarfed peach)
八重咲、矮形 『中国本草図録』Ⅶ/3154
ズバイモモ(ケナシモモ・ネクタリン・ツバキモモ・アブラモモ・ユトウ)
var. nectarina(P.persica var.nucipersica, Prunus simonii,
Amygdalus persica var.nectarina, Persica nucipersica;
油桃・李光桃・杏桃・杏李・紅李・鷄血李) 華北産
シンキョウモモ P. persica(Amygdalus ferganensis, Persica ferganensis;
新疆桃) 中央アジア産
タカサゴニワウメ P. pogonostyla
P. potaninii(Amygdalus potaninii;陝甘山桃)
スモモ P. salicina(李)
var. mandshurica(P.ussuriensis;東北李) 遼寧・吉林・黑龍江・極東ロシア産
ケスモモ var. pubipes
モウコアンズ P. sibirica(Armeniaca sibirica;山杏・西伯利亞杏)
遼寧・吉林・黑龍江・河北・山西・甘粛・モンゴリア・シベリア産
P. simonii(Amygdalus simonii, Persica simonii;杏李・鷄血李)
華北産 『全国中草葯匯編』下/307-308
スピノサモモ P. spinosa(黑刺李)
歐洲・北アフリカ・西アジア産 『週刊朝日百科 植物の世界』5-93
P. tangutica(Amygdalus tangutica;西康扁桃) 甘粛・四川産
ロシアアーモンド P. tenella(P.nana, Amygdalus nana;矮扁桃)
歐洲・コーカサス・中央アジア産
ユスラウメ P. tomentosa(Microcerasus tomentosa, Cerasus tomentosa;
毛櫻桃・山豆子・梅桃・山櫻桃・大李仁)
コオヒョウモモ P. triloba(Amygdalus triloba;楡葉梅・小桃紅)
遼寧・吉林・黑龍江・華北・陝甘・華東産 『中国本草図録』Ⅳ/1675
オヒョウモモ var. truncata(截形楡葉梅)
遼寧・吉林・黑龍江産 『中薬志Ⅱ』pp.251-259
マンシュウスモモ P. ussuriensis(東北李) 遼寧・吉林・黑龍江・ロシア沿海地方産
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バラ科 Rosaceae(薔薇 qiángwēi 科)については、バラ科を見よ。 |
訓 |
和名は、モモに似て酸味が強いことから。ハタンキョウは、明治時代に スモモの大型の実をつける品種につけられた名。 |
『本草和名』に、鼠李は「和名須毛々乃岐」と、また李は「和名須毛々」と。
『倭名類聚抄』李子に、「和名須毛々」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』に、「スモゝ和名鈔 スウメ播州」と。 |
説 |
中国長江流域の原産。中国では古くから栽培された果樹であり、日本には推古天皇時代(592-628)に入った(『日本書紀』推古帝24年・34年)。
1870年代以後日本からアメリカにわたり、多くの栽培品種が育成され、今日では'ソルダム''大石早生李'などが日本に逆輸入されている。 |
古くからヨーロッパで栽培されてきたものは、西アジア原産のセイヨウスモモ(ヨーロッパスモモ) P. domestica、プルーン prune はその1品種。 |
誌 |
果実を、食用にする。
中国では、根・種子を薬用にする。また地方により、スモモ及びズバイモモ P.simonii(杏李・鷄血李)の種子を 李子と呼び、薬用にする。 『全国中草葯匯編』下/307 |
『礼記』「内則」に、周代の君主の日常の食物の一として李を記す。 |
賈思勰『斉民要術』(530-550)巻4に、「種李」が載る。 |
韓愈(768-824)「李花 二首」に、
平旦 西園に入れば
梨花数株 矜夸(きんこ)するが若し
旁に一株の李有り
顔色惨惨 嗟(なげき)を含むに似たり
誰か平地の万堆の雪を将(もっ)て
翦刻して 此の天に連なる花を作れる
日光は赤色 照らすも未だ好からず
名月 暫く入って 都(すべ)て交(こも)ごも加ふ
などとある。 |
日本で桃李を併称する例は、『万葉集』巻19/4139;4140 に、大伴家持(717-785)が「天平勝宝二年(750)三月一日の暮、春の苑の桃李の花を眺矚して作れる歌」が載る。
春の苑 紅にほふ 桃の花 下照(したで)る道に 出で立つをとめ
吾が園の 李の花か 庭に落(ふ)る はだれの未だ 遺りたるかも
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今いくか はるしなければ うぐいすも 物はながめて 思ふべらなり
(紀貫之、『古今和歌集』物名、すもゝの花)
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『花壇地錦抄』(1695)巻二「桃のるひ」に、「李(すもゝ) 花形白、小りん、八重ひとへあり」と。
「半熟の物を塩に漬けをき、やがて取出だし、乾しさらし、しはみたるを手にてひねり、又さらし、乾し、肴に用ゆる時湯にて洗へば風味よし」(宮崎安貞『農業全書』1697)。 |
明治12年7月11日の『東京曙新聞』に、「内藤新宿植物園にて培養せし米國種の李實は、本年殊によく熟したるを以て、赤坂靑山兩御所へ納めたるに、女官方の好まるゝ事甚しく、昨今は毎朝三升納める事に成しといふ。」と。 |