あおい (葵)
 

 和名をアオイ(葵)・漢名を葵(キ,kui)と言うものは、主として、アオイ科 Malvaceae(錦葵科)の植物のうちの一部である。
 アオイ科 Malvaceae(錦葵科)には、世界の熱帯乃至温帯に約80-90属1500種がある。
   トロロアオイ属 Abelmoschus(秋葵屬)
   イチビ属 Abutilon(■{草冠に[同の横一文字を除いた字]}麻屬)
   タチアオイ属 Alcea
   タチアオイ属 Althaea(蜀葵屬)
   ヤノネアオイ属 Anoda
   Cenocentrum(大萼葵屬)
     C. tonkinense(大萼葵)
   ワタ属 Gossypium(棉屬)
   フヨウ属 Hibiscus(木槿屬)
   Kydia(翅果麻屬)
     K. calycina(翅果麻)
   ハナアオイ属 Lavatera(花葵屬)
 1属1種、乃至近縁属の種を含めて約25種とも
     ハナアオイ L. trimestris
地中海地方産、観賞用に栽培
   ゼニアオイ属
(アオイ属) Malva(錦葵屬)
   エノキアオイ属 Malvastrum(賽葵屬)
     エノキアオイ
(アオイモドキ) M. coromandelianum(賽葵・黄花草・黄花棉)
          熱帯アメリカ原産というが、広く世界の熱帯に見られる。
          
中国では福建・臺灣・兩廣・雲南に分布、日本では琉球・小笠原に帰化
   Malvaviscus(懸鈴花屬)
     タイリンヒメフヨウ M. arboreus
       ヒメフヨウ var. drummondi
       ヒメブッソウゲ var. penduliflorus(垂花懸鈴花)
   キクノハアオイ属 Modiola
     キクノハアオイ M. caroliniana
北アメリカ原産、日本の暖地に帰化
   ジャコウアオイ属 Olbia
   ヤノネボンテンカ属 Pavonia
     ヤノネボンテンカ P. hastata
南アメリカ原産、日本には帰化
   キンゴジカ属 Sida(黄花稔屬)
     ホソバキンゴジカ S. acuta(黄花稔) 
中央アメリカ産
     マルバキンゴジカ S. cordifolia
     S. corylifolia(榛葉黄花稔)
     キンゴジカ S. rhombifolia(白背黄花稔・菱葉拔毒散・麻筆)
       ヤハズキンゴジカ ssp. retusa(S.alnifolia, S.retusa)
     アメリカキンゴジカ S. spinosa 
熱帯アメリカ産
       アマミキンゴジカ var. angustifolia
     ホザキキンゴジカ S. subspicata
オーストラリア産
     S. szechuensis(拔毒散・尼馬庄司・巴掌葉)
   サキシマハマボウ属 Thespesia(肖槿屬)
     T. lampas(肖槿・山棉花・白脚桐)
     サキシマハマボウ T. populnea
   ボンテンカ属 Urena(梵天花屬)
     オオバボンテンカ U. lobata(肖梵天花・野棉花・刺頭婆)
       オオバボンテンカ var. tomentosa
     ボンテンカ U. procumbens(U.lobata var.sinuata, U.sinuata;梵天花・狗脚迹・野棉花)
   Wissadula(維沙杜屬) 
 そのほか、日本では平安時代以来ウマノスズクサ科のフタバアオイもアオイと略称する。
 こちらは、古来京都の賀茂神社の神事に用い、その祭を葵祭と呼びならわす。徳川家の紋章「三葉葵」も、フタバアオイの葉を三枚合わせたもの。
 中国では、
   i.  キク科のヒマワリ(向日葵)、
    ii. ヤシ科のビロウ(蒲葵)
も、葵と略称する。
 漢名の葵(キ,kui2)は 揆(キ,kui2)に通じ、「はかる」意から。
 
『詩経』小雅・魚藻之什の「采菽」に、「楽しきかな 君子は、天子 之を葵(はか)る」と。
 
「『爾雅翼』を按ずるに云う、葵は 揆なりと。葵の葉は日に傾き、其の根を照らさしめず。乃ち智にして 以て之を揆(はか)るなり」と(李時珍『本草綱目』)。下の誌を見よ。 
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、冬葵子は「和名阿布比乃美」、葵根は「和名阿布比乃祢」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)園菜類に、葵は「和名阿布比」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』12
(1806)に、「葵 カンアフヒ 冬アフヒ」と。
 和名あおい(あふひ)の語源は、諸説があるが、不明。
 中国では、最も古くから親しんできたアオイはフユアオイである。蔬菜として、薬として、利用する。
 タチアオイの来源については、おおむね二説ある。
   (1) 一説に、タチアオイは西方起源、中国に入ったのは唐代とする。
   (2) 一説に、タチアオイは中国原産とする。
(2)の立場に立てば、タチアオイはフユアオイと同様に古くから親しんだ花卉ということになる。
 ゼニアオイトロロアオイなどは、唐宋以来花を観賞するために栽培されてきた。
 モミジアオイは北アメリカ原産。東アジアには近代になってから入った。
 日本へのフユアオイ・タチアオイの渡来については、おおむね二説がある。
   (1) 古くフユアオイが入り、タチアオイも相当早く入ったが その時期は不明、
   (2) タチアオイが古く入り、フユアオイは江戸時代に入った、とする。
 『万葉集』以降、さまざまな文献に現れる「葵」「あふひ」について、このどちらにあてるかは、人により 定まらないようだ。
 中国では、『詩経』『周礼』などの古典に見られる「葵」は、六朝時代には「百菜之王」(『農政全書』)と呼び、蔬菜としてしきりに食用にした。これはフユアオイである。
 フユアオイは、今日でも四川省を中心に全国で栽培し、嫩葉を食用にする。ただし花は小さく、観賞には向かない。
 『春秋左氏伝』以来、「葵」は 葉を太陽に向けて根をかばうとされ、皇帝に対する忠誠の譬喩とされた。
 『左伝』成公17年7月壬寅の条に、「仲尼
(孔子)曰く、鮑荘子の知は、葵に如かず。葵すら猶お能く其の足を衛(まも)る」とあり、杜預の注に「葵は葉を傾けて日に向い、以て其の根を蔽う」とある。
 
下っては、杜甫「京より奉先県に赴く、詠懐五百字」に「葵藿(きかく。あおいとまめ)太陽に傾く」とあるなど。

 唐宋の頃から、別に花を観賞するための葵が行われるようになった。次の項目を参照。
   ゼニアオイ
   タチアオイ
   トロロアオイ

 日本では、葵の字の初見は『万葉集』に載る次の歌。「葵」と「逢ふ日」とを掛ける。

   なし(梨)(なつめ)きみ(黍)に粟(あは)嗣ぎ延(は)ふ田葛(くず)
      後もあはむと葵(あふひ)花咲く (16/2834,読人知らず)

 『倭名類聚抄』には、「阿布比」「加良阿布比」と 二種類が載る。
 清少納言『枕草子』第66段「草は」に、「からあふひ、日の影にしたがひてかたぶくこそ、草木といふべくもあらぬ心なれ」と。
 『古今和歌集』物名「あふひ かつら」に、

   かく許 あふひのまれに なる人を いかゞつらしと おもはざるべき
   人めゆゑ のちにあふ日の はるけくは わがつらきにや 思ひなされん
     
(よみ人しらず)

 『千載集』に、

   あふひ草照る日は神の心かは影さす方に先づ靡くらむ
(藤原もととし)
  
 これらの昔のあおい(葵)・からあおい(唐葵)については、フユアオイ・タチアオイ両説がある。
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 夏之部」に、葵の品種を挙げる。

   日の道や葵
(あふひ)傾くさ月あめ (芭蕉,1644-1694)
 
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