辨 |
和名をアオイ(葵)・漢名を葵(キ,kuí)と呼ぶ植物は、基本的にはフユアオイ Malva verticillata(野葵)又はタチアオイ Alcea rosea(蜀葵)であり、引いてはその仲間(アオイ科 Malvaceae;錦葵科)の植物の通称である。
但しそのほかに、日本では ウマノスズクサ科のフタバアオイ Asarum caulescens(雙葉細辛)もアオイと略称する。
中国では、①キク科のヒマワリ Helianthus annuus(向日葵)、②ヤシ科のビロウ Livistona chinensis var. subglobosa(蒲葵)も、葵(キ,kuí)と略称する。
|
|
アオイ科 Malvaceae(錦葵 jĭnkuí 科)には、世界の熱帯~温帯に約230-244属 4220-4300種がある。
トロロアオイ属 Abelmoschus(秋葵屬) フヨウ属 Hibiscus(木槿屬)に包摂することがある
トゲアオイモドキ属 Abroma(昂天屬) 1種
トゲアオイモドキ A. augustum(昂天蓮・水麻・假芙蓉) 兩廣・雲貴・インドシナ・濠洲産
イチビ属 Abutilon(苘麻屬)
バオバブ属 Adansonia(猴面包樹屬) アフリカ・マダガスカル・濠洲に8種
バオバブ A. digitata(猴面包樹) 熱帯アフリカ産
タチアオイ属 Alcea(蜀葵屬)
ウスベニタチアオイ属 Althaea(藥葵屬)
ブルーハイビスカス属 Alyogyne(合柱菫屬) 濠洲西部に3種
ブルーハイビスカス A. huegelii(紫葵)
ニシキアオイ属 Anoda(盤果苘屬)
インドワタノキ属 Bombax(木棉屬) 旧世界の熱帯・亜熱帯に約8種
インドワタノキ B. ceiba(B.malabaricum, Gossampinus malabarica;
木棉) 熱帯&亜熱帯アジア・北濠洲産
花・樹皮・根を薬用 『全國中草藥匯編 上』pp.177-178 『(修訂) 中葯志』V/191-194
B. insigne(長果木棉) 雲南・インドシナ・インド産
ゴウシュウアオギリ属 Brachychiton(酒甁樹屬) ニューギニア・濠洲洲に3種
Burretiodendron(柄翅果屬) 漢土・インドシナの約6種
B. esquirolii(B.longistipitatum;柄翅果・心葉蜆木) 廣西・雲貴産
B. obconicum(Excentrodendron obconicum;長蒴蜆木) 廣西産
B. tonkinense(B.hsienmu;蜆木) 漢土南部・ベトナム産
ショウジョウカ属 Callianthe 熱帯米洲に約50種
フウロアオイ属 Callirhoe(罌粟葵屬)
パンヤノキ属 Ceiba(吉貝屬) 熱帯米洲に約11-20種
ブラジルキワタ C. crispiflora
アケボノキワタ C. insignis
パンヤノキ C. pentandra(吉貝;E.Kapok)
トックリキワタ C. speciosa
Cenocentrum(大萼葵屬) 1種
C. tonkinense(大萼葵) 雲南・ベトナム・ラオス産
コーラノキ属 Cola(可樂果屬) 熱帯アフリカに約125-130種
ヒメコラノキ C. acuminata
コラノキ C. nitida(白可拉) 清涼飲料水の原料
Colona(一擔柴屬) 熱帯・亜熱帯アジア・太平洋に30-35種
C. floribunda(大泡火繩・一擔柴) 雲南・インドシナ・アッサム産
C. thorelli(狹葉一擔柴) 雲南・インドシナ・マレーシア産
ヒゲミノキ属 Commersonia(山麻樹屬) インドシナ~濠洲に約12-25種
C. batramia(山麻樹・大葉麻木・紅山麻) 兩廣・雲南・インドシナから濠洲に産
カラスノゴマ属 Corchoropsis(田麻屬)
ツナソ属 Corchorus(黃麻屬)
Craigia(滇桐屬) 漢土に2種
C. kwangsiensis(桂滇桐) 廣西産
C. yunnanensis(滇桐) 廣西・雲貴産 濠洲に約10-15種
D. mouretii var. nervifolia(十裂葵) 海南島・インドシナ産
カイナンノキ属 Diplodiscus(海南椴屬)
海南島・フィリピン・ボルネオ・マラヤ・スリランカに約10-11種
カイナンノキ D. trichospermus(Pityranthe trichosperma, Hainania trichosperma,
;海南椴) 海南・廣西産
ドンベヤ属 Dombeya(非洲芙蓉屬)
ドリアン属 Durio(榴槤屬) 東南アジア・インドに約20-27種
ドリアン D. zibethinus(榴槤) スマトラ・ボルネオ産
Eriolaena(火繩樹屬) 漢土南部・インドシナ・インド・モザンビクに約8-17種
E. spectabilis(E.malvacea;火繩樹) 廣西・西南・インド産
アオギリ属 Firmiana(梧桐屬)
ワタ属 Gossypium(棉屬)
ウオトリギ属 Grewia(扁擔杆屬)
ヤンバルゴマ属 Helicteres(山芝麻屬) アメリカ・アジアの熱帯・亜熱帯に約60-70種
ヤンバルゴマ H. angustifolia(山芝麻・山油麻・坡油麻)
『全國中草藥匯編 上』pp.103-104,107
琉球・臺灣・福建・江西・兩廣・湖南・インドシナ・マレーシア・フィリピン産
H. isora(扭蒴山芝麻・坡片麻・鞭龍・火索麻)『週刊朝日百科 植物の世界』7-111
海南島・雲南~ジャワ・北濠洲産 『全国中草葯匯編』下/96-97
Herissantia(脬果苘屬) 熱帯・亜熱帯米洲に5種
H. crispa(Abutilon crispum;泡果苘)
熱帯・亜熱帯アメリカ産、海南島・ベトナム・インド・濠洲に帰化
サキシマスオウノキ属 Heritiera(銀葉樹屬) 旧世界の熱帯・亜熱帯に4種 or約35-40種
H. angustata(長柄銀葉樹) 廣東・雲南・インドシナ産
サキシマスオウノキ H. littoralis(銀葉樹)
臺灣・兩廣・インドシナ・フィリピン・インド・スリランカ・東アフリカ・マダガスカル産
H. parvifolia(Tarrietia parvifolia;胡蝶樹) 海南島(・タイ・ミヤンマー)産
フヨウ属 Hibiscus(木槿屬)
フウセンアカメガシワ属 Kleinhovia(鷓鴣麻屬) 1種
フウセンアカメガシワ K. hospita(鷓鴣麻) 臺灣・海南島・ベトナム・マレーシア産
Kydia(翅果麻屬) 雲南・東南アジア・インドに2種
K. calycina(翅果麻) 雲南・東南アジア・インド産
ハナアオイ属 Lavatera(花葵屬) 1属1種、乃至近縁属の種を含めて約25種とも
ハナアオイ L. trimestris 地中海地方産、観賞用に栽培
ゼニアオイ属 Malva(錦葵屬)
エノキアオイ属 Malvastrum(賽葵屬) 中南米に約23種
イヌアオイ M.americanum(M.spicatum;穗花賽葵) 米洲原産、臺灣・福建に帰化。
エノキアオイ(アオイモドキ) M. coromandelianum(M.coromandeliana;
賽葵・黄花草・黄花棉) 『中国本草図録』Ⅴ/2208
熱帯アメリカ原産というが、広く世界の熱帯に見られる。
中国では福建・臺灣・兩廣・雲南に分布、日本では琉球・小笠原に帰化
Malvaviscus(懸鈴花屬) 熱帯アメリカに約6-11種、フヨウ属 Hibiscus(木槿屬)に包摂することがある
マルバヒメフヨウ M. arboreus(懸鈴花) 中米産
ヒメフヨウ var. drummondi(小懸鈴花・小扶桑) テキサス・メキシコ産
タイリンヒメフヨウ(ヒメブッソウゲ) M. penduliflorus(M.arboreus var.penduliflorus
(垂花懸鈴花) 中米産
ノジアオイ属 Melochia(馬松子屬) 世界の熱帯・亜熱帯に約60種
ノジアオイ M. cochorifolia(馬松子・野路葵)
四国・九州・琉球・臺灣・長江以南から旧世界の熱帯・亜熱帯に産
ヒロハノジアオイ M.umbellata 熱帯アジア産
キダチノジアオイ M. villosissima(M.compacta var.villosissima)
小笠原・太平洋諸島産
Microcos(破布葉屬) 旧世界の熱帯・亜熱帯に約60-80種
M. paniculata(破布葉・布渣葉・瓜布木・火布麻) 兩廣・雲南・東南アジア・インド産
『全國中草藥匯編 上』p.254 『(修訂) 中葯志』V/58-61
キクノハアオイ属 Modiola
バルサ属 Ochroma(輕木屬) 1種
バルサ O. pyramidae(O.lagopus;輕木) 熱帯アメリカ産
パキラ属 Pachira(瓜栗屬) 熱帯米洲に約50種
P. aquatica(P.macrocarpa;瓜栗) 熱帯米洲原産
Paradombeya(平當樹屬) 雲南・インドシナに3種
P. sinensis(P.szechuenica;平當樹) 四川・雲南産
ヤノネボンテンカ属 Pavonia(粉葵屬) 世界の熱帯‣熱帯に約290種
ヤノネボンテンカ P. hastata(戟葉孔雀葵) 南アメリカ原産、日本には帰化
P. intermedia(帕蓬花) ブラジル産
P. spinifex(刺粉葵) フロリダ・カリブ諸島産
ゴジカ属 Pentapetes(午時花屬)
Pseudobombax(蕃木棉屬) 熱帯米洲に約27種
メキシコキワタ P. ellipticum(龜紋木棉) メキシコ・中米産
シロギリ属 Pterospermum(翅子樹屬) 漢土南部・熱帯アジアに18-53種
シロギリ(モミジバウラジロノキ) P. acerifolium(翅子樹)
雲南・インドシナ・ヒマラヤ・インド産
シマウラジロノキ P. formosanum 臺灣・フィリピン産
カイナンシロギリ P. heterophyllum(翻白葉樹・半楓荷・米紙) 福建・兩廣・ベトナム産
『全國中草藥匯編 上』pp.226-227
P. lanceifolium(窄葉半楓荷) 兩廣・雲南・東南アジア・インド産
シマウラジロノキ P. niveum(P.formosanum;臺灣翅子樹)
チャセンギリ属 Reevesia(梭羅樹屬)臺灣・兩廣・西南・インドシナ・ヒマラヤ及び中米に21-25種
チャセンギリ R. formosana(臺灣梭羅) 臺灣産
R. longipetiolata(長柄梭羅樹・細棉木・硬殻果樹) 海南島産
R. pubescens(梭羅樹)兩廣・西南・インドシナ・ミャンマー・東ヒマラヤ産
R. rotundifolia(粗齒梭羅・圓葉梭羅樹) 廣西産
R. thyrsoidea(兩廣梭羅樹・牛關麻・細葉馬甲) 兩廣・雲南・インドシナ産
Scaphium(胖大海屬) 東南アジア・アッサム・ベンガルに約7種
S. affine(S.lychnophorum, Stercularia lychnophora;
胖大海・大海子・長粒胖大海・安南子・大洞子)
インドシナ・マレシア産 種子を薬用 『(修訂) 中葯志』III/538-541
S. scaphigerum(Sterculia wallichii;胖大海)
アッサム~ヒマラヤ産 『中薬志Ⅱ』pp.307-309
キンゴジカ属 Sida(黃花稔屬) 世界の熱帯・亜熱帯に約250種
ホソバキンゴジカ S. acuta(黃花稔) 中央アメリカ産
S. chinensis(中華黃花稔) 臺灣・海南島・四川産
キンゴジカラクサS. cordata(S.veronicifolia;長梗黃花稔)
臺灣・福建・兩廣・雲南・熱帯アジア産
マルバキンゴジカ S. cordifolia(心葉黃花稔)臺灣・福建・兩廣・西南・世界の熱帯・亜熱帯に産
S. cordifolioides(湖南黃花稔) 湖南産
ジャワキンゴジカ S. javensis(爪哇黃花稔) 臺灣・東南アジア・熱帯アフリカ産
ウスバキンゴジカ S. mysorensis(粘毛黃花稔) 臺灣・兩廣・雲南・東南アジア・インド産
S. rhombifolia
キンゴジカ subsp. rhombifolia(白背黃花稔・菱葉拔毒散・麻筆)
臺灣・福建・兩廣・雲貴・東南アジア・インド産 『全国中草葯匯編』上/766
ハイキンゴジカ subsp. insularis
ヤハズキンゴジカ subsp. retusa(S.alnifolia, S.retusa;榿葉黃花稔)
アメリカキンゴジカ S. spinosa 熱帯アメリカ産
アマミキンゴジカ var. angustifolia
ヒロハキンゴジカ S. subcordata(S.corylifolia;榛葉黃花稔) 両広・雲南産
ホザキキンゴジカ S. subspicata オーストラリア産
S. szechuensis(拔毒散・尼馬庄司・巴掌葉) 廣西・西南産 『全國中草藥匯編 上』pp.483-484
キンゴジカモドキ属 Sidalcea(棯葵屬) 北米西部に約30種
キンゴジカモドキ S. candida USA西部産
S. malviflora(錦葵狀棯葵) カリフォルニア・メキシコ西岸産
ゴジカモドキ属 Sparrmannia(垂蕾樹屬) アフリカに3種
ピンポンノキ属 Sterculia(蘋婆屬)
Talipariti(黃槿屬) フヨウ属 Hibiscus(木槿屬)に包摂することがある
カカオノキ属 Theobroma(可可屬)
サキシマハマボウ属 Thespesia(桐棉屬)
シナノキ属 Tilia(椴樹屬)
ウオトリギモドキ属 Trichospermum 東南アジア・濠洲・中南米に約39-42種
ラセンソウ属 Triumfetta(刺蒴麻屬) 熱帯を中心に約150-170種
T. annua(單毛刺蒴麻・小刺蒴麻)
浙江・江西・兩廣・湖北・西南・東南アジア・インド・熱帯アフリカ産
ケラセンソウ T. cana(T.tomentosa;毛刺蒴麻・山黃麻・蓮絨木)
福建・兩廣・雲貴・チベット・ヒマラヤ・インドシナ・マレーシア産
ラセンソウ T. japonica 本州(関東以西)・四国・九州・琉球・朝鮮・フィリピン産
ナガバラセンソウ T. pilosa(長鈎刺蒴麻・密馬專・金納香)
兩廣・四川・貴州・雲南・熱帯アジア・アフリカ産 『全国中草葯匯編』下/398-399
ハテルマカズラ(ケコンペイトウグサ) T. procumbens(鋪地刺蒴麻)
小笠原・琉球・太平洋・インド洋に分布
ケナシハテルマカズラ var. glaberrima 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
コンペイトウグサ T. repens 小笠原・東南アジア・濠洲・マダガスカル産
カジノハラセンソウ T. rhomboidea(T. bartramia;刺蒴麻・黐頭婆・密馬專)
小笠原・琉球・臺灣・熱帯アジア・アフリカ産
カラピンラセンソウ T. semitriloba
熱帯・亜熱帯米洲産 絶滅危惧IB類(EN,環境省RedList2020)
ボンテンカ属 Urena(梵天花屬) 世界の熱帯・亜熱帯に約7種
U. lobata(地桃花・野棉花) 『全國中草藥匯編 上』pp.168,341
オオバボンテンカ subsp. lobata(U.lobata var. tomentosa;
地桃花・肖梵天花・野棉花・刺頭婆)
鹿児島・琉球・臺灣・長江以南・東南アジア・インド産
ボンテンカ subsp. sinuata(U.procumbens, U.lobata var.sinuata,
U.sinuata;梵天花・狗脚迹・野棉花)
四国・九州・琉球・臺灣・浙江・福建・江西・湖南・兩廣産 『全国中草葯匯編』上/558-559
U. repanda(波葉梵天花) 廣西・雲貴・インドシナ・ヒマラヤ産
コバンバノキ属 Waltheria(蛇婆子屬) 世界の熱帯・亜熱帯に約50-55種
コバンバノキ W. indica(W.americana;蛇婆子)
熱帯・亜熱帯米洲原産、臺灣・福建・兩廣・雲南など世界の熱帯に分布
Wissadula(隔蒴苘屬) 世界の熱帯・亜熱帯に約38-40種
W. periplocifolia(隔蒴苘) 海南島・インドシナ・インド・熱帯米洲産
|
訓 |
漢名の葵(キ,kuí)は 揆(キ,kuí)に通じ、「はかる」意から。
『詩経』小雅・魚藻之什の「采菽」に、「楽しきかな 君子は、天子 之を葵(はか)る」と。
「『爾雅翼』を按ずるに云う、葵は 揆なりと。葵の葉は日に傾き、其の根を照らさしめず。乃ち智にして 以て之を揆(はか)るなり」と(李時珍『本草綱目』)。下の誌を見よ。 |
『本草和名』に、冬葵子は「和名阿布比乃美」、葵根は「和名阿布比乃祢」と。
『延喜式』葵子に、「アフヒノミ」と。
『倭名類聚抄』園菜類に、葵は「和名阿布比」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』に、「葵 カンアフヒ 冬アフヒ」と。 |
アオイ(「あふひ」)の語源説(複数ある)については『日本国語大辞典 第二版』を参照。
牧野説は、「あふひハ日ヲ仰グニテ日ニ向フ意ナリ」(『牧野日本植物圖鑑』「ふゆあふひ」条)。この説は、漢土における「葵は葉を傾けて日に向い、以て其の根を蔽う」という葵観(下の誌を見よ)の輸入であろう。 |
説 |
中国では、古く『詩経』以来親しんできた葵(キ,kuí)はフユアオイである。蔬菜として、薬として、栽培利用した。下の誌を見よ。
フユアオイは、今日でも四川省を中心に全国で栽培し、嫩葉を食用にする。ただし花は小さく、観賞には向かない。 |
タチアオイの来源については、おおむね二説ある。
(1) 一説に、タチアオイは西方起源、漢土には唐代に入ったものとする。
(2) 一説に、タチアオイは雲南にはもともとあったとする。
(2)の立場に立てば、タチアオイはフユアオイと同様に古くから親しんだ花卉ということになる。 |
唐宋の頃から、ゼニアオイ・トロロアオイなど花を観賞するための葵が栽培されるようになった。
モミジアオイは北アメリカ原産。東アジアには近代になってから入った。 |
日本へのフユアオイ・タチアオイの渡来については、おおむね二説がある。
(1) 古くフユアオイが入り、タチアオイも相当早く入ったが その時期は不明、とする。
(2) タチアオイが古く入り、フユアオイは江戸時代に入った、とする。
『万葉集』以降、さまざまな文献に現れる「葵」「あふひ」について、このどちらにあてるかは、人により 定まらないようだ。 |
誌 |
中国では、『詩経』『周礼』などの古典に見られる「葵」は、蔬菜としてしきりに食用にされ、六朝時代には「百菜之王」(『農政全書』)と呼ばれた。これはフユアオイである。
|
『春秋左氏伝』以来、「葵」は 葉を太陽に向けて根をかばうとされ、皇帝に対する忠誠の譬喩とされた。
『左伝』成公17年7月壬寅の条に、「仲尼(孔子)曰く、鮑荘子の知は、葵に如かず。葵すら猶お能く其の足を衛(まも)る」とあり、杜預の注に「葵は葉を傾けて日に向い、以て其の根を蔽う」とある。
|
|
日本では、葵の字の初見は『万葉集』に載る次の歌。「葵(あふひ)」と「逢ふ日」とを掛ける。
なし(梨)棗(なつめ)きみ(黍)に粟(あは)嗣ぎ延(は)ふ田葛(くず)の
後もあはむと葵(あふひ)花咲く (16/2834,読人知らず)
『倭名類聚抄』には、「阿布比」と「加良阿布比」が載る。 |
清少納言『枕草子』第66段「草は」に、「からあふひ、日の影にしたがひてかたぶくこそ、草木といふべくもあらぬ心なれ」と。
|
『古今和歌集』物名「あふひ かつら」に、
かく許 あふひのまれに なる人を いかゞつらしと おもはざるべき
人めゆゑ のちにあふ日の はるけくは わがつらきにや 思ひなされん
(よみ人しらず)
『千載集』に、
あふひ草照る日は神の心かは影さす方に先づ靡くらむ (藤原もととし)
|
これらの昔のあおい(葵)・からあおい(唐葵)については、フユアオイ・タチアオイ両説がある。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 夏之部」に、葵の品種を挙げる。 |
日の道や葵(あふひ)傾くさ月あめ (芭蕉,1644-1694)
|