辨 |
春の彼岸の時期に花を開くサクラを、かつては彼岸桜と呼びならわした。
植物学上は、これを二種に区別する。一つは背が高く、時に樹高30mを超えるもの、もう一つは樹高6m程度のもの。前者をエドヒガン(江戸彼岸・東彼岸) Cerasus itosakura f. ascendens、後者をコヒガン(小彼岸)と呼ぶ。
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広義の(種としての)エドヒガン Cerasus itosakura には、次のような種内分類群がある。
エドヒガン Cerasus itosakura
エドヒガン var. itosakura f. ascendens, (C.spachiana var.spachiana
f.ascendens, C.subhirtella var.ascendens,
Prunus pendula f.ascensens;江戸彼岸櫻)
山梨「山高神代桜」など
'神代曙'(じんだいあけぼの) 'Jindai-akebono'
'小松乙女'(こまつおとめ) 'Kotatsu-otome'
'枝垂桜'(しだれざくら, 糸桜 いとざくら) 'Itosakura' (f. itosakura,
C.itosakura 'Pendula', C.spachiana var.spaciana f.spachiana,
C.spachiana 'Pendula')
'紅枝垂'(べにしだれ) 'Rosea'
'八重紅枝垂'(やえべにしだれ) 'Plena-rosea'
'雨情枝垂'(うじょうしだれ) 'Ujō-shidare'
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エドヒガン Cerasus itosakura と他種との種間雑種の和名・学名は、次のように整理されている。
チチブザクラ C. × chichibuensis エドヒガンとチョウジザクラの雜種
コヒガン C. × subhirtella エドヒガンとマメザクラの雑種
モチヅキザクラ C. × sacra エドヒガンとヤマザクラの雑種
カシオザクラ C. × kashioensis エドヒガンとカスミザクラの雑種
エイシュウザクラ C. × nudiflora エドヒガンとオオヤマザクラの雑種
ソメイヨシノ C. × yedoensis エドヒガンとオオシマザクラの雑種
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サクラ属 Cerasus(櫻 yīng 屬)については、サクラ属を見よ。 |
訓 |
「和名姥彼岸ハうばひがんざくらノ略ニシテ其花春早ク尚葉無キ時既ニ發ラクヲ以テ此名アリ、姥ハ通常齒ノ脱シテ之レ無キ者多キヲ以テ齒無キヲ葉無キニ喩ヘタルナリ。江戸彼岸、東彼岸ハ之レヲ東都ニ睹ルヲ以テ斯ク名ケシモノナリ、世人往々之レヲひがんざくらト謂フハ非ナリ」(『牧野日本植物図鑑』)。牧野によれば、ヒガンザクラの正品は今のコヒガン。 |
筆者(嶋田)曰く、1950sの東京では一般に彼岸桜の名が行われ、その品はエドヒガンであった。 |
説 |
本州・四国・九州・朝鮮・臺灣・湖南・湖北の、冷温帯・暖温帯に分布。山地の斜面に生息。 |
強健で長命。花期は3月下旬から4月、葉に先だって微紅色の花をつける。
通常見かけるものは実生の株であり、樹形・開花期・花の色形などに個体差がある。
(花は白色から紅色と変異がある)。 |
誌 |
古くからよく栽培され、各地に数百年を経た老大木があり、天然記念物に指定されているものもある。
旧幕時代の江戸にも、かつて随所に名だたる「一本桜」があり人々に愛せられたが、明治期に失われた。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻二「桜のるひ」に、「ひかん うすあか色、ひとへ、小りん。二月時正の時分、花咲。秋のひかんニも自然に花咲事有」と。 |