枕草子 第37段「木の花は」 
 

作者名  清少納言 (ca.966-?)
作品名  枕草子
成立年代  ca.1008?
 その他  
 
 木の花は、こきもうすきも紅梅。桜は、花びらおほきに、葉の色こきが、枝ほそくて咲きたる。藤の花は、しなひながく、色こく咲きたる、いとめでたし。
 四月のつごもり、五月のついたちの頃ほひ、橘の葉のこくあをきに、花のいとしろう咲きたるが、雨うちふりたるつとめてなどは、世になう心あるさまにをかし。花のなかよりこがねの玉かと見えて、いみじうあざやかに見えたるなど、朝露にぬれたるあさぼらけの桜におとらず。ほととぎすのよすがとさへおもへばにや、なほさらにいふべうもあらず。
 梨の花、よにすさまじきものにして、ちかうもてなさず、はかなき文つけなどだにせず、愛敬おくれたる人の顔などを見ては、たとひにいふも、げに、葉の色よりはじめて、あいなくみゆるを、もろこしには限りなきものにて、ふみにも作る、なほさりともやうあらんと、せめて見れば、花びらのはしに、をかしき匂ひこそ、心もとなうつきためれ。楊貴妃の帝の御使ひにあひて泣きける顔に似せて、「梨花一枝、春、雨を帯びたり」などいひたるは、おぼろげならじとおもふに、なほいみじうめでたきことは、たぐひあらじとおぼえたり。
 桐の木の花、むらさきに咲きたるはなほをかしきに、葉のひろごりざまぞ、うたてこちたけれど、こと木どもとひとしういふべきにもあらず。もろこしにことごとしき名つきたる鳥の、えりてこれにのみいるらん、いみじう心ことなり。まいて琴に作りて、さまざまなる音のいでくるなどは、をかしなど世のつねにいふべくやはある、いみじうこそめでたけれ。
 木のさまにくげなれど、楝
(あふち)の花いとをかし。かれがれにさまことに咲きて、かならず五月五日にあふもをかし。
 


 織りこまれた花   ウメサクラフジタチバナナシキリセンダン




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