辨 |
野生種はヤマナシ var. pyrifolia(沙梨)、ナシはその栽培品、日本で作られた。
品種に、赤梨系(長十郎など)と青梨系(二十世紀など)がある。 |
ナシ属 Pyrus(梨 lí 屬)の植物には、ついては、ナシ属を見よ。 |
訓 |
『本草和名』及び『倭名類聚抄』梨に、「和名奈之」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』26 梨、「ナシ アリノミ阿州。京師ニテハ鹿梨ヲアリノミト云 アリノキ豫州」と。鹿梨はヤマナシ。 |
ナシの音が「無し」に通じるというので、一部でこれを忌み、平安時代から「ありのき・ありのみ」と言うことがある。 |
説 |
和名のナシは、ヤマナシを改良した栽培品種の総称。持統天皇(645-702)の時代に栽培の記録があり、江戸時代には改良と普及が進んだ。
今日日本で栽培されるナシはほとんどがこれであり、中国・朝鮮でも栽培されている。
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誌 |
中国におけるナシの文化史は、ナシ属の項を見よ。 |
『万葉集』には、
黄葉(もみぢば)の にほひは繁し 然れども 妻梨の木を 手折りかざさむ
(10/2188,読人知らず)
露霜の 寒き夕の 秋風に 黄葉(もみち)にけりも 妻梨の木は (10/2189,読人知らず)
(「つまなし」という木は無い。「妻が無い」とかけて、単に「ナシ」をいうものか)
なし(梨)棗(なつめ) きみ(黍)に粟(あは)嗣ぎ 延(は)ふ田葛(くず)の
後もあはむと 葵(あふひ)花咲く (16/2834,読人知らず)
十月(かむなづき) しぐれの常か 吾がせこ(背子)が
屋戸の黄葉(もみちば) 落(ち)りぬべく見ゆ
(19/4259,大伴家持。「当時梨の黄葉を矚(み)て 此の歌を作る」)
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『古今集』に、
あぢきなし なげきなつめそ うき事に あひくる身をば すてぬものから
(藤原兵衛、物名「なし なつめ くるみ」)
おふのうらに かたえさしおほひ なるなしの なりもならずも ねてかたらはん
(伊勢歌)
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清少納言『枕草子』第37段「木の花は」に、「なしの花、よにすさまじきものにして、ちかうもてなさず、はかなき文つけなどだにせず、あいぎゃう(愛敬)おくれたる人のかほ(顔)などをみては、たとひにいふも、げに、は(葉)のいろよりはじめて、あいなくみゆるを、もろこしには限りなきものにて、ふみにもつくる、なほさりともやうあらんと、せめてみれば、花びらのはしに、をかしき匂ひこそ、心もとなうつきためれ。やうきひ(楊貴妃)のみかど(帝)の御つかひにあひてなきけるかほににせて、「梨花一枝、春、雨をおびたり」などいひたるは、おぼろげならじとおもふに、なほいみじうめでたきことは、たぐひあらじとおぼえたり」と。 |
西行(1118-1190)『山家集』に、
はな(花)のをり(折) かしはにつつむ しなのなし(信濃梨)は
ひとつなれども ありのみと見ゆ
(「れいならぬ人の大事なりけるが、四月になしのはなのつきたりけるを見て、
なしのほしきよしをねがひけるに、もしやと人にたづねければ、
かれたるかしはにつゝみたるなしをたゞひとつつかはして、
こればかりなど申たりける」。45句は 異本あり)
『新古今集』に、
さくらあさの をふのうら浪 立ちかへり みれどもあかず 山なしの花 (源俊頼)
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甲斐がねに雲こそかゝれ梨の花 (蕪村,1716-1783)
梨の花月に書ミ(ふみ)よむ女あり (同)
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