辨 |
ブナ科 Fagaceae(殻斗 カクト,qiàodŏu 科) コナラ属 Quercus(櫟 lì 屬) は、次の2亜属からなる。
コナラ亜属 subgen. Quercus(櫟 lì 亞屬)
広く世界に約300種がある。このグループの植物を、和語で「なら」と総称する。
アカガシ亜属 subgen. Cyclobalanopsis(靑棡 qīnggāng 亞屬)
アジアの熱帯・亜熱帯を中心に約150種がある。このグループの植物を、和語で「かし」と総称する。
これらの2亜属は、それぞれ属 genus として扱うことがある。
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コナラ亜属 subgen. Quercus(櫟 lì 亞屬)、すなわちナラ類には、約300種がある。
Q. acrodonta(鋭齒山櫟)
クヌギ Q. acutissima(麻櫟・櫟・靑棡・橡椀樹・柞樹;E.Japanese chestnut oak)
ホワイトオーク Q. alba
ナラガシワ(カシワナラ) Q. aliena(槲櫟・細皮靑崗・大葉櫟柴・碝脚櫟)
アオナラガシワ f. pellucida
var. acuteserrata(鋭齒槲櫟)
Q. aquifolioides(巴郎山櫟)
Q. baronii(橿子山櫟・靑棡樹・黃橿子・梔子樹) 『中国本草図録』Ⅵ/2536
Q. chenii(小葉櫟)
Q. cocciferoides(鐵山櫟・鐵橡櫟)
Q. crispula
ミズナラ(オオナラ) var. crispula
ミヤマナラ var. horikawae
カシワ(カシワギ・モチガシワ) Q. dentata(柞櫟・槲樹・橡樹・靑棡)
Q. dolicholepis(匙葉山櫟)
Q. engleriana(巴東山櫟・小葉靑棡)
カラカシワナラ Q. fabri(白櫟・白反櫟・靑棡樹)
Q. fangshanensis(房山櫟)
Q. fimbriata(綫苞山櫟)
Q. franchetii(川滇山櫟・錐連櫟)
Q. gilliana(川西山櫟)
Q. glandulifera(枹櫟・枹樹・靑棡樹・柞木)
var. brevipetiolata(短柄枹櫟)
Q. griffithii(大葉櫟)
Q. guajavaefolia(帽斗山櫟)
Q. himalayana(吉隆山櫟)
Q. hopeiensis(河北櫟)
Q. iwuensis(易武山櫟)
Q. kingiana(瀾滄山櫟)
Q. kongshanensis(貢山山櫟)
Q. liaotungensis(遼東櫟・柴樹・靑棡柳・小葉青岡) 『中国本草図録』Ⅵ/2537
Q. lodicosa(毡毛山櫟)
Q. longispica(長穗高山櫟) 『雲南の植物Ⅱ』156
Q. malacotricha(軟毛櫟)
モンゴリナラ Q. mongolica(蒙櫟・柞樹・靑棡櫟・小葉槲樹) 『中国本草図録』Ⅸ/4071
『全国中草葯匯編』上/587
ハゴロモナラ var. liaotungensis
Q. monimotricha(矮山櫟)
ナガバコナラ Q. neoglandulifera
Q. obscura(異毛山櫟)
Q. oxyohylla(尖葉山櫟)
Q. palustris(沼澤櫟)
Q. pannonsa(汚毛山櫟・黃背櫟) 『雲南の植物Ⅰ』163
ウバメガシ Q. phillyraeoides(烏崗櫟・石湳柴)
Q. pseudosemecarpifolia(光葉山櫟)
Q. rehderiana(毛脈山櫟)
オウシュウナラ Q. robur(歐洲白櫟)
Q. semecarpifolia(高山櫟)
Q. senscens(灰背山櫟・灰背高山櫟)
Q. serrata
コナラ(ホオソ・ナラ) subsp. serrata(Q. glandulifera;枹櫟・枹樹・柞木・靑棡樹)
フモトミズナラ subsp. mongolicoides(Q.mongolicoides)
Q. sinii(芒齒山櫟)
Q. spathulata(匙葉櫟・靑橿)
Q. spinosa(刺葉山櫟・鐵橡樹・刺靑棡)
Q. stewardii(黄山槲櫟)
Q. tungmaiensis(通麥山櫟)
アベマキ(コルククヌギ・ワタクヌギ・ワタマキ・オクヌギ・クリガシワ) Q. variabilis
(栓皮櫟・軟木櫟・粗皮櫟・白麻櫟・校力・棉栗;E.Chinese cork oak)
本州(山形以南)・四国・九州・朝鮮・臺灣・漢土に分布
Q. yunnanensis(雲南櫟) |
外国産のナラ類で、ときに園芸用などに栽培されるものに、次のようなものがある。
Q. alba 北アメリカ産
コッキネア Q. coccinea(大紅櫟)
ピンオーク(アメリカガシワ) Q. palustris(沼澤櫟;E.Pin oak)
イギリスナラ(オウシュウナラ・ヨーロッパナラ・セイヨウガシワ) Q. robur(歐洲白櫟)
アカガシワ Q. rubra(E.Red oak) 北アメリカ産
コルクガシ Q. suber 地中海地方産 |
ブナ科 Fagaceae(殻斗 qiàodŏu 科)については、ブナ科を見よ。 |
訓 |
「・・・又ならモ其語源判然セズ、・・・楢ハ我邦俗用字ナリ」(『牧野日本植物図鑑』)。 |
『倭名類聚抄』に、楢は「漢語抄云、奈良」と、柞は「和名由之、漢語抄云波々曽」と。 |
漢名は柞(サク,zuò)・櫟(レキ,lì)。柞(サク,zuò)・柞木・柞樹は、コナラ・ミズナラ・クヌギなどのほか、クスドイゲ Xylosma japonicum(柞木)にも用いる。
漢語の楢(ユウ,yóu)・枹(ホウ,bāo)はコナラ。 |
英名の oak は、コナラ属の樹木の総称(ただし、実際にはコナラ属コナラ亜属の樹木の総称。なぜかといえば、アカガシ亜属の樹木はアジアに産し、ヨーロッパにはないので)。ヨーロッパ産の oak の代表は、イギリスナラ(オウシュウナラ・セイヨウガシワ) Q. robur、コナラ亜属の落葉喬木。
したがって、日本では旧来 oak をカシ(樫)と訳してきたが、むしろナラ(楢)と訳すほうが適切である、という。 |
説 |
2009.08.21-23、筆者は富山・五箇山・白川郷・高山とドライブした。いたるところで、目に入る限りのナラが立ち枯れているのに、びっくりし、また訝しかった。
そののち 2009.10.19 の『朝日新聞』夕刊の記事により、日本全国に「ナラ枯れ」が広がりつつあることを知った。その概略を記せば、ナラ枯れは、カシノナガキクイムシ(カシナガ)による被害。1930年代に長崎・鹿児島で確認され、1992年からは毎年被害が出、2009年には宮城県に及び、全国24府県で被害が出ている。原因は、一つにはカシノナガキクイムシの生育の北限が北上していること、一つには里山の手入れが疎かにされていることだ、という。 |
誌 |
日本では、生薬ボクソク(樸樕)は クヌギ、コナラ、ミズナラ又はアベマキの樹皮である(第十八改正日本薬局方)。 |
ヨーロッパ(ことにはイギリス)では、oak は重要な樹であった。ケルト人のドルイド教では神聖な木として崇拝された。 中世には、oak のどんぐり acorn は重要な豚の飼料であった。また材は、建築材・家具材として用いられ、近代には最良の造船材であった。 |