かんきつるい (柑橘類) 

 日本・中国で見られるミカン科 Simaroubaceae(芸香科) の植物のうち、
   ミカン属(カンキツ属) Citrus(柑橘屬)
   カラタチ属 Poncirus(枸橘屬)
   キンカン属 Fortunella(金橘屬)
の三属を、柑橘類と呼ぶ。
 柑橘類の称謂は、今日の日本では産業用語であるというが、日本語では歴史的にこれらの植物の総称として柑橘の語を用いてきたのであり、漢語では歴史的にこれを橘柚(キツユウ,jiyou)と呼ぶ(下欄の訓を見よ)。

 この項目では、柑橘類を通覧する。
 ミカン属(カンキツ属) Citrus(柑橘屬)は、約3千万年前に、インドのアッサム或いは中国の雲南で発生したと推定されており、今日では広く東南アジア・ニューギニア・ニューカレドニアに分布。
 多くの品種が作り出されており、分類は一定せず不統一で、ミカン属全体を1種とする意見もある、という。ここでは、諸書に載る名を列挙し、通観する。

   ヒョウカン C. ampullacea
   ライム
(メキシカンライム) C. aurantifolia(雷姆;E.Lime)
        
 インド東北部・ビルマ北部原産、アラビア人により地中海地方に、
          のちスペイン人・ポルトガル人により新世界にもたらされた。

   ダイダイ
(サワーオレンジ) C. aurantium(酸橙・皮頭橙・鈎頭橙;
        E.Sour orange, Bitter orange)
         『中国本草図録』Ⅹ/4677・『週刊朝日百科 植物の世界』3-210
     カブス f. kabusu
     var. amara(代代花)
『中薬志Ⅱ』pp.268-274、『中国本草図録』Ⅱ/0648
     アマダイダイ(キンクネンボ) var. sinensis(C.sinensis;
        ・甜橙・雪柑・廣橘・廣柑・印子柑・黄果;E.Sweet orange)
        
アッサム原産。『中薬志Ⅱ』pp.222-226、『中国本草図録』Ⅶ/3192
     var. tachibana → C. tachibana
     ネーブルオレンジ
(ワシントンネーブル) var. brasiliensis
        
 19c.初ブラジルで枝変わりとして発見、1870米国ワシントンに導入、
        日本には1889導入。ネーブル navel は英語で「へそ」
   ベルガモット C. bergamia(E.Bergamot orange)
   キクダイダイ C. canaliculata
   C. chachiensis → C.reticulata var.chachiensis
   チチュウカイマンダリン C. diliciosa
        
 中国原産、17c.頃ヨーロッパに入り、地中海地方で栽培
   シーカーシャー
(シクワシャー・ヒラミレモン) C. depressa 琉球・臺灣に分布
   C. erythrosa → C. reticulata var. erythorosa
   フクレミカン
(サガミコウジ) C. fumida
   キヌカワ C. glaberrima
   ブンタン
(ボンタン・ザボン・ウチムラサキ) C. grandis(・文丹・抛;
        E.Shaddok, Pummelo)
マレー半島・インドネシア原産。
          『中国本草図録』Ⅰ/0149

     アンセイカン var. anseikan
     var. shanyuan(C.wilsonii;香圓・西南香圓)
     var. tomentosa(化州柚・橘紅・化州橘紅)
 『中国本草図録』Ⅰ/0150
   ハナユ
(トコユ・ハナユズ) C. hanayu
   ハッサク C. hassaku
   ヒロシマナツミザボン C. hiroshimana
   コブミカン C. hystrix
東南アジア産
   C. ichangensis(宜昌橘)
   ヤマミカン C. intermedia
   イヨカン C. iyo
 日本で発生
   ラフレモン C. jambhiri
 インド原産
   ユズ C. junos(蟹橙・香橙)
   キシュウミカン
(コミカン・ホンミカン) C. kinokuni(E.Kinokuni mandarin)
        
中国原産。この種が紀州(和歌山県)有田地方に導入されたのは1574年。
          江戸時代の代表的なミカン。

   コトウカン C. kotokan(虎頭柑)
 臺灣産
   タヒチライム
(ペルシャンライム) C. latifolia ライム C.aurantifolia の代用にする
   コウジ C. leiocarpa
 日本で発生、古くから栽培
   スイートレモン C. limetta
   レモン C. limon(洋黎檬;E.Lemon)
   カントンレモン
(ラングプールライム) C. limonia(黎檬・檸檬)
        
 『中国本草図録』Ⅰ/0151
   メラネシアパペダ C. macroptera
     var. kerrji(樹葫蘆)
中国(雲南)産 
   シキキツ C. madurensis
 ミカン類とキンカンの自然雑種
   マルブシュカン
(シトロン) C. medica(枸櫞・香櫞;E.Common citron)
        
インド北東部原産、『旧約聖書』に記述され、ペルシアでは紀元前に栽培。
          『中国本草図録』Ⅲ/1236・『週刊朝日百科 植物の世界』3-201

     ブシュカン var. sarcodactylis(佛手・佛手柑;E.Fingered citron)
        
 『中国本草図録』Ⅶ/3191
     セイバンレモン var. dulcis(var. gaoganensis;山檸檬)
臺灣産
   ナルト C. medioglobosa
   マイナーレモン C. meyeri
   シキキツ
(トウキンカン) C. microcarpa(四季橘・蕃柑;E.Kalamondin)
   ピコロ C. montana
   チノット C. myrtifolia
古くからヨーロッパで栽培
   ナツミカン C. natsudaidai(夏橙;E.Watson pomelo)
   クネンボ C. nobilis(C.nobilis var.kunep;;E.King mandarin)
花壇地錦抄に見ゆ
     var. tachibana → C. tachibana
   C. oleocarpa(年橘)
   グレープフルーツ C. paradisi(E.Grapefruit)
        
 西インド諸島バルバドス島で18c.前半に成立
   オオユズ
(オオユ・シシユ・シシウズ・ジャガタラユ) C. pseudogulgul
   クレオパトラ C. reshni
   ポンカン C. reticulata(椪柑・甜橘・;E.Ponkan orange)
        
インド北部原産。日本には1896台湾から導入。『中国本草図録』Ⅰ/0152
     var.chachiensis(C.chachiensis, C.nobilis var.chachiensis;
        大紅柑・茶枝柑・新會柑・江門柑)
     オオベニミカン var.deliciosa(C.tangerina;紅橘・福橘)
        
インド原産、日本には江戸時代には入る。『中薬志Ⅱ』pp.222-226
     コベニミカン var. erythorosa(C.erythorosa;朱橘)
     var. kinokuni(乳橘)
     var. suavissima(甌柑)
     var. subcompressa(黄岩蜜橘)
     var. succosa(天台蜜橘)
     var. tardiferax(槾橘)
     ウンシュウミカン var. unshiu(C.unshiu: 溫州蜜橘)
   ロクガツミカン C. rokugatsu
   シュンコウカン C. shunkokan
   C. sinensis → C. auranmtium var. sinensis;
   カボス C. sphaerocarpa
来歴不明、大分県産。和名はダイダイの別名カブスの転訛。
   オウカン C. suavissima
   スダチ C. sudachi
 来歴不明、徳島県産。和名は「酢橘」の意。
   サンポウカン C. sulcata
 日本で発生
   タチバナ C. tachibana(C.aurantium var.tachibana, C.nobilis var.tachibana)
   ヒュウガナツ C. tamurana(E.New summer orange)
 日本で発生
   C. tangerina → C. reticulata var. deliciosa

   タンカン C. tankan(E.Tankan)
   テング C. tengu
   ウンシュウミカン C. unshiu(C.reticulata var.unshiu;温州蜜橘;
        E.Satsuma mandarin)
   C. wilsonii → C. grandis var.shanyuan
   ヤツシロミカン C. yatsushiro
   ユコウ C. yuko 
カラタチ属 Poncirus(枸橘屬)
   カラタチ P. trifolia(枸橘・枳・臭橘;E.Trifoliate orange) 
キンカン属 Fortunella(金橘屬)
   ニンポウキンカン
(ネイハキンカン・メイワキンカン) F. crassifolia
        (金彈・金橘・金柑;E.Meiwa kumquat)
 品質がよく、流通用に栽培
   マメキンカン F. hindsii(山橘・金豆・猴子柑;E.Golden bean kumquat)
         『中国本草図録』Ⅸ/4213
   マルキンカン
(キンカン・マルミキンカン) F. japonica(日本金橘・圓金柑・甘橘;
        E.
Round kumquat)
   キンカン
(ナガミキンカン) F. margarita(金橘・金棗・牛奶橘・羅浮;
        E.Oblong kumquat)
 『中国本草図録』Ⅰ/0153
   チョウジュキンカン
(フクシュウキンカン) F. obovata(月月橘・四季橘)
        ミカン類とキンカンの雑種。『中国本草図録』Ⅸ/4214
   ナガバキンカン F. polyandra 
 和名たちばな(立花・橘)・漢名(キツ,ju)については、タチバナを見よ。
 柑橘(かんきつ)と言う熟語は、江戸時代に日本で作られた言葉という。ミカン科の食用果樹を総称することば。
 同じ内容を表す歴史的漢名は、橘柚(キツユウ,juyou)。
ただし、現代中国語では ミカン属 Citrus を柑橘屬(カンキツゾク,ganjushu)と呼ぶ。 
 ミカン(蜜柑)と言う語は、さまざまな意味範囲で意味で用いる。すなわち
  1.カラタチ・キンカンを含めた柑橘類全体
  2.カラタチを除き、食用柑橘類の総称
(キンカンを含む)
  3.ミカン属 Citrus(柑橘屬)の総称
  4.ミカン属のうち、果皮のむきやすい
(寛皮性)もの(田中長三郎の分類によるミカン区)
  5.ウンシュウミカン
など。ただし、農林水産省の統計では、ウンシュウミカンを指す。
 漢名の科名となっている芸香(ウンコウ,yunxiang)とは、狭義にはヘンルーダ Ruta graveolens を指す。
 日本の常用漢字では、の字をげいと読み、げいじゅつ(芸術)・げいのう(芸能)などの語に用いるが、日本でしか通用しない。

 げいじゅつ・げいのうのげいは、正しくは(ゲイ,yi)、中国の簡体字では■
{草冠に乙}(ゲイ,yi)である。
 一方、芸の字は、本来
(つまるところ日本以外の国では)(ウン,yun)と読み、香草の意。それ以外の意味はない。
 「現在の主要かんきつ類であるライム,ブンタン,レモン,シトロン,スイートオレンジ,ダイダイ(サワーオレンジ),ポンカンなどはインド北東部のアッサムを中心とする地域からブラフマプトラ川流域で,またカラタチやユズは長江(揚子江)上流地域で,キンカンは東南アジアから中国南部で生じたと考えられている。これらのかんきつ類から,自然交雑や突然変異で多くの品種が起源・育成されてきたと考えられる。・・・
 日本には古くからタチバナが自生していたが,垂仁天皇の時代にトキジクノカクノコノミ(ダイダイだろうといわれている)が導入されたといわれ,中国,朝鮮半島との交易により,かんきつ類が栽培化された奈良時代には橘(たちばな),甘子(こうじ),柚子(ゆず),阿部橘(あへたちばな)(ダイダイ),枳(からたち)が知られていた。さらに金柑,温州橘(うじゆきつ),蜜柑(みつかん)が導入され,江戸時代初期の文献には九年母(くねんぼ),仏手柑(ぶしゆかん),シトロン,ザボンが,末期のものにはレモン,オレンジが認められる。また,明治以前にウンシュウ,ナツミカン,ハッサク,ヒュウガナツ,ナルト,ヒラドブンタン,サンポウカン,スダチ,カボスなどが生じている。明治以降はグレープフルーツ,ネーブルなどが外国から積極的に導入された」(『世界大百科事典』平凡社)。 
 「柑橘類は、げんざいのインドでは重要な果樹で、種類はきわめて多い。ところがインド古典を調べてみると、不思議なほど柑橘類に言及されていない。インド古典では、柑橘類より、むしろそれにきわめて近い果樹、ベール・フルーツ(Aegle marmelos)の方がよく登場する。これはげんざいでも民俗習慣ではヒンドゥー教徒といろいろ関係が深いが、まったく野生状態である。バナナやマンゴーではたいしたものだが柑橘類は古代インド人はほとんど知らなかったと推定できる。ところがその柑橘類は、ヒマラヤ中腹からアッサムの山地にかけて、おどろくばかり多様性に富んだすぐれた品種がげんざい見いだされる状態である。」(中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』)
 中国では、柑橘類の多くを薬用にする。
 すなわち『全国中草薬匯編』によれば 次のようなものがある(薬品名の漢音の五十音順に排列)
 橘核(キツカク,juhe): ポンカン C. reticulata(甜橘)の種子。浙江ではニンポウキンカン F. crassifolia(金彈・金橘・金柑)の種子。
 橘紅(キツコウ,juhong): ブンタン C. grandis(柚)の変種である化州柚 var. tomentosa の果皮。
『中薬志Ⅱ』pp.478-484によれば、ブンタン・化州柚・オオベニミカン C. reticulata var.deliciosa(C.tangerina;紅橘・福橘)の果皮
 橘葉(キツヨウ,juye): ポンカン C. reticulata(甜橘)の葉。
 橘絡(キツラク,juluo): ポンカン C. reticulata(甜橘)の果皮の内側の すじ。
 香櫞(コウエン,xiangyuan): マルブシュカン C. medica(枸櫞)・C. wilsonii(香圓)の成熟した果実。なお、地方により、ブンタン C. grandis(柚)・アマダイダイ C. sinensis(橙)の果実を香櫞に充てているので、注意して区別する必要がある。
 枳殻(シコク・キコク,zhiqiao): ダイダイ C. aurantium(酸橙)・C. aurantium var. amara(代代花)・C. wilsonii(香圓)・カラタチ P. trifoliata(枳)・マルブシュカン C. medica(枸櫞)などの成熟直前の果実。
   これらの木から落ちた未成熟な果実も、枳実と呼び、同様に薬用にする。日本薬局方はダイダイのみ
)
 靑皮(セイヒ,qingpi): ポンカン C. reticulata(甜橘)の、幼いうちに地に落ちた果実。
 陳皮(チンピ,chenpi): ポンカン C. reticulata(甜橘)の果皮を、陳皮と呼び、薬用にする
(日本薬局方 同)。ただし、この種には次のような変種があり、いずれも果皮を陳皮として用いる。また『中薬志Ⅱ』pp.206-213
   var. chachiensis(C. chachiensis; 大紅柑)
   var. deliciosa(C. tangerina; 福橘)
   var. erythorosa(C. erythorosa;朱橘)
   var. kinokuni(乳橘)
   var. suavissima(甌柑)
   var. subcompressa(黄岩蜜橘)
   var. succosa(天台蜜橘)
   var. tardiferax(槾橘)
   ウンシュウミカン var. unshiu(C. unshiu: 温州蜜橘。日本薬局方 同)
 檸檬(ネイモウ,ningmeng): カントンレモン C. limonia(檸檬)の果・根。
 佛手(ブシュ,foshou): ブシュカン Citrus medica var. sarcodactylis の果実・葉・根。
 (ユウ,you): ブンタン C. grandis(柚)の果皮・葉。
 日本では、上欄のほか、ダイダイ C. aurantium の成熟果皮を橙皮と呼び、薬用にする(日本薬局方)
 また、
食用柑橘類の果皮から採った精油をオレンジ油といい、日本薬局方。
 C. sinensis から採ったものを sweet orange oil、C. aurantium var. amara から採ったものを bitter orange oil という。
 中国では、『楚辞』「九章」の第八に「橘頌」があり、屈原(ca.B.C.343-ca.B.C.277)の若いころの作品という。
 この橘は、タチバナとは限らず、一般的に或いは何らかの柑橘類を指す。「綠葉素榮、紛(ふん)として其れ喜ぶべし。曾枝剡棘(えんきょく)、圓果摶(たん)たり。靑黄雜糅(ざつじう)して、文章爛(らん)たり。精色内は白く、道に任(た)ふるに類す」と。
 『周官・考工記』に、「橘は、淮よりして北は枳と爲る」と。
 日本では、『万葉集』に、

   吾妹子に あはなく久し うましもの 阿部橘の 蘿生すまでに (11/2750,読人知らず)

とある阿部橘は、『倭名類聚抄』などに橙を阿部多知波奈とよんでいるので 橙である。
 ただし当時の橙は、一説に今のダイダイ、一説に今のクネンボという。

   柚
(ゆ)の花や昔しのばん料理の間 (芭蕉,1644-1694)
   祖父
(おほじ)親まごの栄(さかえ)や柿みかむ (同)
   行
(ゆく)秋のなをたのもしや青蜜柑 (同)

   柚の花やゆかしき母屋の乾隅
(いぬゐすみ) (蕪村,1716-1783)
   柚の花や能
(よき)酒蔵す塀の内 (同)
   たちばなのかはたれ時や古舘 
(同)
 

   十一月は冬の初めてきたるとき故国
(くに)の朱欒(ザボン)の黄にみのるとき
     
(北原白秋『桐の花』1913)
 


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