辨 |
コショウ属 Piper(胡椒 hújiāo 屬)の植物については、コショウ属を見よ。 |
訓 |
和名キンマは、タイ語のキンマークからか。
タイ語で キンは噛む、マークはビンロウ(檳榔)。キンマークは いわゆるキンマ噛み betel chewing を言う。これが日本では転じ訛って、キンマ噛みの材料を入れるタイ(ことにはチェンマイ)製の漆器を キンマ・キンマ手(きんまで)と呼び、金馬と書いた。(この漆器は、江戸時代の茶人に香箱として重宝がられた。)
さらに転じて、キンマはキンマ噛みの材料の一である Piper betle を指すことになり、その漢名である蒟醤の字を キンマと読むことになったものであろう。 |
深江輔仁『本草和名』(ca.918)蒟醤に、「和名多々比」と。
『大和本草』に、「蒟醬(キンマ) 倭名抄マタゝビト訓ス、非也、マタゝビハ藤天蓼ナリ」と。 |
漢名の蒟醤は、実で味噌を作ることから。 |
説 |
インドネシア或いはマレーシア原産。一説に、臺灣(高雄・綠島・蘭嶼)には自生(『臺灣薬用植物誌』)。
南アジア・アフリカなどで栽培。中国では、兩廣・雲南・臺灣などで栽培する。 |
葉に辛味があって 芳香油を含み、ビンロウ(檳榔)の実を包んで噛む(キンマ噛み)のに用いる。
蔓は 薬用にする。 |
誌 |
ビンロウ Areca catechu の未熟の果実(betel nut)の胚乳を2-4に割り、石灰をまぶして、キンマの葉で包み、これを口中で噛む習慣を、キンマ噛み
betel chewing と呼ぶ。好みにより、タバコ・タマリンド・カルダモン・ウイキョウなどを調味することがある。
初めは味は苦く渋く、ビンロウの実の成分が石灰と反応して 口中は真紅に染まるが、これをいったん吐き出してなお噛み続けると、アレコリンやキンマの精油成分の作用により 気分が爽快になる、という。ただし、唇と歯茎はまっかになって腫れ、歯は歯石によって黒く染まる。
キンマ噛みの習慣は、紀元前よりインド・東南アジア・オセアニアの各地で行われてきた。
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嵆含『南方草木状』などに檳榔と合せて食うと記される扶留藤(フリュウトウ,fuliuteng)は、このキンマであろうといい、また別物ともいう。 |
漢方で、全草・茎・葉・種子などを薬用にする。 |