らん (蘭)

 ラン科 Orchidaceae(蘭科)には、世界に約730-800属17000-35000種がある。
  (日本には約75属230種が、中国には約150属1000種がある。)
 ここでは、中間分類に関らず、属名のアルファベット順に一覧する。

   Acampe(脆花屬)
   エンレイショウキラン属 Acanthophippium(壇花蘭屬)
   Aceratorchis(無距蘭屬)
   Aërides(指甲蘭屬)
   Agrostophyllum(禾葉蘭屬)
   ヒナラン属 Amitostigma(無柱蘭屬)
   ミスズラン属 Androcorys(兜蕊蘭屬)
   Ania(安蘭屬)
   キバナシュスラン Anoectochilus(開唇蘭屬)
 35種
   Anota(無耳蘭屬)
   Anthogonium(筒瓣蘭屬)
   タネガシマムヨウラン属 Aphyllorchis(無葉蘭屬)
 約15種
   ヤクシマラン属 Apostasia(擬蘭屬)
   Appendicula(牛齒蘭屬)
   Arachnis(蜘蛛蘭屬)
   ナリヤラン属 Arundina(竹葉蘭屬)
 1-8種
   Ascocentrum(鳥舌蘭屬)
   Biermannia(胼胝蘭屬)
   シラン属 Bletilla(白及屬)
   Brachycorythis(苞葉蘭屬)
   マメヅタラン属 Bulbophyllum(石豆蘭屬) 
世界に1000種以上
   Bulleyia(蜂腰蘭屬)
   エビネ属 Calanthe(蝦脊蘭屬)
   ホテイラン属 Calypso(布袋蘭屬)
   カタセトゥム属 Catasetum 
中央・南アメリカ熱帯と西インド諸島に葯50種
   カトレア属 Cattleya(卡特蘭屬)
   キンラン属 Cephalanthera(頭蕊蘭屬)
   トクサラン属 Cephalantheropsis
熱帯アジア・臺灣に約7種
   Ceratostylis(牛角蘭屬)
   ヒメノヤガラ属 Chamaegastrodia
4種
   Changnienia(獨花蘭屬)
   カイロラン属 Cheirostylis(叉柱蘭屬)
 25種。和名は属名の前半から
   Chiloschista(異型蘭屬)
   Chrysoglossum(金唇蘭屬)
   Cirrhopetalum(卷瓣蘭屬)
   Cleisostoma(隔距蘭屬)
   アオチドリ属 Coeloglossum(凹舌蘭屬)
   Coelogyne(貝母蘭屬)
   コラビラン属 Collabium(吻蘭屬) 和名は属名の前半から
   Corallorhiza(珊瑚蘭屬)
   Corybas(鎧蘭屬)
   バイケイラン属 Corymborkis 
8種
   サイハイラン属 Cremastra(杜鵑蘭屬)
   Cryptochilus(宿苞蘭屬)
   オオスズムシラン属 Cryptostylis(隱柱蘭屬)
 15種
   シュンラン属 Cymbidium(蘭屬)
   Cyperorchis(莎草蘭屬)
   アツモリソウ属 Cypripedium(杓蘭屬)
   イチヨウラン属 Dactylostalix 
日本特産の属
   セッコク属 Dendrobium(石斛屬)
   Dendrochilum(足柱蘭屬)
   コカゲラン属 Didymoplexiella
   ヒメヤツシロラン属
(ユウレイラン属) Didymoplexis(雙唇蘭屬)
   Diplomeria(合柱蘭屬)
   サガリラン属 Diploprora(蛇舌蘭屬)
   Dipylax(尖葯蘭屬)
   ジョウロウラン属 Disperis 
約75種
   Doritis(五唇(血葉蘭屬))
   サワラン属 Eleorchis
   Ephemerantha(金石斛屬)
   コイチョウラン属 Ephippianthus
   Epigeneium(厚唇蘭屬)
   カキラン属 Epipactis(火燒蘭屬)
 約20種。『雲南の植物』59
   トラキチラン属 Epipogium(虎舌蘭屬)
 アフリカ・ユーラシア・オーストラリアに3種
   オサラン属 Eria(毛蘭屬) 
熱帯アジア・ポリネシアに約500種
   ホソフデラン属 Erythrodes(鉗喙蘭屬)
   イモネヤガラ属
(イモラン属) Eulophia(美冠蘭屬) 主として熱帯に約200種
   ツチアケビ属 Galeola(山珊瑚屬)
   Gastrochilus(盆距(假萬帶蘭屬))
   オニノヤガラ属 Gastrodia(天麻屬)
     オニノヤガラ G. elata(天麻・明天麻・赤箭・鬼督郵)
『中薬志Ⅰ』pp.88-89、『中草薬現代研究』Ⅰp.120。鬼督郵については、スズサイコの誌を見よ。
   メオトラン属
(トサカメオトラン属) Geodorum(地寶蘭屬) 熱帯アジア・太平洋諸島に約5種
   シュスラン属 Goodyera(斑葉蘭屬)
   Grammatophyllum
   テガタチドリ属
(チドリソウ属) Gymnadenia(手參屬)
   ミズトンボ属(サギソウ属) Habenaria(玉鳳花屬)
   ヒメクリソラン属 Hancockia(滇蘭屬)
   ニイタカヒトツバラン属 Hemipilia(舌喙蘭屬)
『雲南の植物』62
   ムカゴソウ属 Herminium(魚盤蘭屬)
『雲南の植物』63
   ヤクシマアカシュスラン属
(ヒメノヤガラ属) Hetaeria(翻唇蘭屬)
   Holcoglossum(槽舌蘭屬)
   Ione(菫蘭屬)
   Ischnogyne(瘦房蘭屬)
   Kingidium(尖嚢(血葉蘭屬)
   コハクラン Kitigorchis
   Laelia(蕾麗蘭屬)
 中央・南アメリカの熱帯に約50種
   ムヨウラン属 Lecanorchis(盂蘭屬)
   クモキリソウ属 Liparis(羊耳藤屬)
   フタバラン属 Listera(對葉蘭屬)
 約20種
   ボウラン属 Ludisia(血葉蘭屬)
   ボウラン Luisia(釵子股屬)
   ナンバンカゴメラン属 Macodes
14種
   ヤチラン属 Malaxis(Microstylis;沼蘭屬)
   ニラバラン属 Microtis(葱葉蘭屬)
 オーストラリアを中心に12種
   Mischobulbum(球柄蘭屬)
   アリドオシラン属 Myrmechis(全唇蘭屬)
 6種
   フウラン属 Neofinetia 1属1種
     フウラン N. falcata
日本(本州茨城以西・四国・九州・南西諸島)・中国(南部)に分布
   Neogyna(新型蘭屬)
   サカネラン属 Neottia(鳥巣蘭屬)
 約10種
   ミヤマモジズリ属 Neottianthe(兜被蘭屬)
   Nephelaphyllum(雲葉蘭屬)
   ムカゴサイシン属 Nervilia(芋蘭屬)
   Neuwiedia(三蕊蘭屬)
   ヨウラクラン属 Oberonia(鳶尾蘭屬)
   イナバラン属 Odontochilus(齒唇蘭屬)
   オンシジウム属 Oncudium
熱帯アメリカに約400種
   ハクサンチドリ属 Orchis(紅門蘭屬)
   コケイラン属 Oreorchis(山蘭屬)
『雲南の植物』64
   Ornithochilus(翅唇蘭屬)
   Otochilus(耳唇蘭屬)
   Pachystoma(粉口蘭屬)
   Panisea(曲唇蘭屬)
   コオロギラン属 Pantlingia
約10種
   カブトラン属 Paphiopedilum(兜蘭屬)
『雲南の植物』65
   Pecteilis(白蟻蘭屬)
   Pelatantheria(鑚柱蘭屬)
   Peristylus(闊蕊蘭屬)
『雲南の植物』70
   ガンゼキラン属 Phaius(鶴頂蘭屬)
   コチョウラン属 Phalaenopsis(蝶蘭屬)
   Pholidota(石仙桃蘭屬)
   Phreatia(馥蘭屬)
   ツレサギソウ属 Platanthera(舌唇蘭屬)
   タイリントキソウ属 Pleione(獨蒜蘭屬)

   Podochilus(柄唇蘭屬)
   トキソウ属 Pogonia(朱蘭屬)
   Polystachya(珊瑚蘭屬)
   Pomatocalpa(鹿角蘭屬)
   Porolabium(乳唇蘭屬)
   ヒメシラヒゲラン属 Pristiglottis(雙丸蘭屬)
 13種
   Pteroceras(長脚蘭屬)
   ジンヤクラン属 Renanthera(火焰蘭屬)
   Rhynchostylis(鑚喙蘭屬)
   Risleya(紫莖蘭屬)
   Robiquetia(寄樹蘭屬)
   マツラン属 Saccolabium(嚢唇蘭屬)
   ムカデラン属 Sarcanthus
   カヤラン属 Sarcochilus
   Satyrium(鳥足蘭屬)
『雲南の植物』69
   Schoenorchis(匙唇蘭屬)
   ナゴラン属 Sedirea
   Smithorchis(反唇蘭屬)
   コウトウシラン属 Spathoglottis(苞舌蘭屬) 
熱帯アジアに約40種。『週刊朝日百科 植物の世界』9-179
   ネジバナ属 Spiranthes(綬草屬)
   Stauropsis(船唇蘭屬)
   イリオモテムヨウラン属 Stereosandra 
1属1種
   コオロギラン属 Stigmatodactylus → Pantlingia
   Sunipia(大苞蘭屬)
   クモラン属 Taeniophyllum(帶葉蘭屬)
   ヒメトケンラン属 Tainia(帶唇蘭屬)
   Tainiopsis(毛硬蘭屬)
   Tangtsinia(金佛山蘭屬)
   Thelasis(矮柱蘭屬)
   タイワンフウラン属 Thrixspermum(白點蘭屬)
   Thunia(笋蘭屬)
   ヒトツボクロ属 Tipularia(筒距蘭屬)
   ニュウメンラン属 Trichoglottis
     
ニュウメンは、琉球西表(いりおもて)を入面と書き、これを音読したもの
   ネッタイラン属 Tropidia(竹莖蘭屬) 
約35種
   Tsaiorchis(長喙蘭屬)
   トンボソウ属 Tulotis(蜻蛉蘭屬)
   Uncifera(叉喙蘭屬)
   ヒスイラン属 Vanda(萬帶蘭屬)
 中国・臺灣・東南アジア・インド・オーストラリア北部に約30-40種
   Vandopsis(假萬帶蘭屬)
 東南アジア・ニューギニアに約5種
   バニラ属 Vanilla(香果蘭屬)
   ハクウンラン属
(ヤクシマヒメアリドオシラン属) Vexillabium 3種
   ミソボシラン属 Vrydagzynea(二尾蘭屬)
   ショウキラン属 Yoania
   キヌラン属 Zeuxine(綫柱蘭屬)
 76種 
 漢語ではの字は 香りの高い草を意味する〔蘭=lan=香り高い草〕が、具体的には、時代により指すものが異なる。すなわち、

  1. 唐以前においては、蘭は キク科ヒヨドリバナ属 Eupatorium(澤蘭屬)の草本、ことにはフジバカマを指す〔蘭=lan=フジバカマ〕。

  2. 宋以後においては、蘭は ラン科 Orchidaceae(蘭科)の植物、今日のいわゆるランを指す〔蘭=lan=ラン〕。

 明末に李時珍は、Eupatorium を蘭草、Orchidaceae を蘭花と呼んで区別し、以て今日に至る。
 以上の蘭は草本であるが、漢人は香りの高い木も 木蘭(ボクラン,mulan,木本の蘭)と認識した〔蘭=lan=香り高い木〕。
 具体的には、今日のハクモクレンであるという〔蘭=lan=ハクモクレン〕。
 李時珍『本草綱目』(ca.1596)蘭草の釈名に、「陸機の詩の疏に言う、<鄭の俗、三月、男女 蕑を水際に秉(と)り、以て自ら祓除す>と。蓋し蘭は以て之を闌(さえぎ)り、蕑は以て之を閑(ふさ)ぐ。其の義、一なり」と。ただし、この蘭・蕑はフジバカマである。 
 蘭蕙同芳と称えられる蕙(ケイ,hui)の字義も、時代により異なる。

 1.古くは、カミメボウキ Ocinum tenuiflorum(O.sanctum;薰草・零陵香)を謂う。
 李時珍『本草綱目』(ca.1596)薰草の釈名に、「古くは、香草を焼き、以て神を降す。故に薰と曰い、蕙と曰う。薰は熏(ふす)ぶるなり。蕙は和(やわら)ぐなり。『漢書』に云う、<薰、香を以て自ら焼く>と。是なり。或は云う、<古人の祓除は、此の草を以て之を薰(ふす)ぶ。故に之を薰と謂う>と。亦た通ず」と。
 2.宋以降は、ラン科 Orchidaceae(蘭科)の植物のうち、「一茎数花」のものを謂う。
 
 日本における蘭の字義は、次のような変遷をたどった。

  1. 最も古くは、あららぎの漢字に蘭をあてた。あららぎは「まばらに生えるネギ」の意で、ノビルを指す〔蘭=あららぎ=ノビル〕。 (ノビルの誌を見よ。)
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、蘭■{艸冠に鬲}は「和名阿良々木」と。
  2. 平安時代には、蘭(らん・らに・らむ)はフジバカマを指すことが、認識された〔蘭=らん・らに=フジバカマ〕。
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、蘭草は「和名布知波加末」、沢蘭は「佐波阿良々岐、一名阿加末久佐」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)に、蘭は「和名本草云布知波賀万、新撰万葉集別用藤袴二字」、沢蘭は「和名佐波阿良々木、一云阿加末久佐」と。
 なお、この沢蘭の訓に見るように、1と2が混線して〔蘭=あららぎ=フジバカマ〕として用いられたことがある。
  3. 鎌倉・室町時代になると、中国からホウサイラン・ソシンランなどが入って、日本・中国に産するランを栽培・鑑賞するようになり、その風は江戸時代の享保(1716-1736)・天明(1781-1789)のころ極まった。この時代、蘭はもっぱらランを指した〔蘭=らん=ラン〕。
  4. 明治以降、イギリス・フランスから洋ランが入ったが、栽培が難しく一般化しなかった。第二次世界大戦後ようやく普及し、1970年ころから商業ベースに乗って流行し、今日に至る。現在では、蘭(ラン)はもっぱら洋ランを指すことが多くなり〔蘭=らん=洋ラン〕、旧来の日本・中国のランは東洋ランと呼んで区別する。
 平安時代以来、次のような成句が行われた。
   蘭橈桂檝
(ランジョウ ケイシュウ, 蘭の棹と 桂の舵)、舷(ふなばた)を東海の東に鼓(たた)
     
(大江朝綱,949作)
   蘭橈桂檝、舷を南海の月に敲
(たた)
     
(『太平記』12,14c.後半)
 中国の木蘭・木蘭舟のイメージを嗣ぎ、〔蘭=らん=香り高い木〕の意で 美称として用いるものであり、特定の樹種を指すものではあるまい。
 しかし、これが後に混線し、今日の各地の方言に残る〔(蘭)=あららぎ=イチイ〕を導いたものであろうか。
 
 
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 夏之部」に、蘭の品種を挙げる。
 
   夜の蘭香
(か)にかくれてや花白し (蕪村,1716-1783)
 


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