辨 |
サネカズラ属 Kadsura(冷飯藤 lěngfànténg 屬)には、東・東南アジアに16種がある。
K. angustifolia(狹葉南五味子・窄葉南五味子)
K. coccinea(K.chinensis,K.hainanense;黑老虎・冷飯團・臭飯團・過山龍藤)
『中国本草図録』Ⅹ/4600 『全国中草葯匯編』上/855
K. heteroclita(異形南五味子・大葉風沙藤・地血香)
『雲南の植物Ⅲ』42・『中国本草図録』Ⅹ/4601 『全国中草葯匯編』下/35-36
K. induta(毛南五味子・屏邊南五味子)
K. interior(内南五味子・中間南五味子・鷄血藤) 『中国本草図録』Ⅵ/2608
サネカズラ K. japonica(日本南五味子・紅骨蛇)
ニシキカズラ 'Variegata'
K. longipedunculata(K. petigera;南五味子・紅木香・紫金藤)
『全国中草葯匯編』上/581 『(修訂)中葯志』V/507-514
K. oblongifolia(冷飯藤・飯團藤・吹風散)
K. polysperma(多子南五味子)
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マツブサ科 Schisandraceae(五味子 wŭwèizĭ 科)については、マツブサ科を見よ。 |
訓 |
和名のビナンカズラは、茎から採る粘液を整髪に用いたことから。
学名の属名は、日本語の蔓(かずら)から。 |
『本草和名』五味に、「和名佐祢加都良」と。
『延喜式』五味子に、「サネカツラ」と。
『倭名類聚抄』五味に、「和名作祢加豆良」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』14五味子の条に、「サネカヅラ、一名ビンツケカヅラ筑前 トロロカヅラ石州雲州 ビナンセキ伊州勢州 ビジンソウ大坂 ビナンカヅラ阿州讃州 クツバ勢州 フノリ土州 フノリカヅラ日州土州 オホスケカヅラ筑前 ビランジキ江州」と。 |
説 |
本州(関東以西)・四国・九州・琉球・済州島・臺灣・福建に分布する。 |
誌 |
枝の皮から採る粘液は、整髪のほか 製紙用の糊に用いた。
また、赤い果実を観賞するために 庭・垣根などに植栽する。 |
『中薬志Ⅱ』pp.36-37によれば、略々次のように言う。中国で南五味子(ナンゴミシ,nánwŭwèizĭ)と呼ぶ生薬は、一般にはサネカズラ属の Kadzura longepedunculata, K.petigera
であると記されている。しかし現に南五味子として流通しているものはマツブサ属の Schisandra sphenanthes(華中五味子)の果実である。まして、一部の書にサネカズラを南五味子としているのは、そもそもサネカズラは中国には産しないのだから、当らない、と。
なお、五味子(ゴミシ,wŭwèizĭ)については、チョウセンゴミシの誌を見よ。 |
中国では、Kadsura interior(内南五味子・中間南五味子・鷄血藤)或はK. heteroclita(異形南五味子・大葉風沙藤・地血香)の茎の煎じ汁に、續斷・川牛膝・紅花・黑豆・糯米・飴糖を併せて、鷄血藤膏を作り、薬用にする。 『(修訂) 中葯志』V/837-839 |
『万葉集』に「さなかづら」とあるのは サネカズラの古名、ただし一説にアケビ。
玉くしげ みむろの山の さな葛 さ寝ずは遂に 有り勝つましじ
(2/94,藤原鎌足。別訓に第2句「見む円山(まとやま)の」)
木綿畳(ゆふたたみ) 田上山の さな葛 在り去りてしも 今ならずとも
(12/3070,読人知らず)
足引の 山さな葛 もみつまで 妹にあはずや 吾が恋ひ居らむ (10/2296,読人知らず)
(この歌に詠われる山さなかづらは紅葉するので、一説にツタとする)
また、「さねかづら」は、「あう」「遠い・長い」にかかる枕詞。
・・・狭根葛 後もあはむと・・・(2/207,柿本人麻呂。ほかに、13/3280;3281など)
さね葛 後もあはむと 夢のみに うけひわたりて 年は経につつ (11/2479,読人知らず)
木綿裹(ゆふつつみ) 白月山の さな葛(かづら) 後も必ず あはむとそ念(おも)ふ
(12/3073,読人知らず)
・・・さなかづら いや遠長く・・・ (13/3288,読人知らず)
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つれなきを 思ひしのぶの さねかづら はてはく(繰・来)るをも いとふなりけり (よみ人しらず「女のもとにまかりたるに、はやかへりねとのみいひければ」)
名にしおはば 相坂山の さねかづら 人にしられで く(繰・来)るよしも哉
(藤原定方(873-932),『後撰集』『小倉百人一首』)
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また、「さねかづら」は、「あう」「遠い・長い」にかかる枕詞。
・・・狭根葛 後もあはむと・・・(2/207,柿本人麻呂。ほかに、13/3280;3281など)
さね葛 後もあはむと 夢のみに うけひわたりて 年は経につつ (11/2479,読人知らず)
木綿裹(ゆふつつみ) 白月山の さな葛(かづら) 後も必ず あはむとそ念(おも)ふ
(12/3073,読人知らず)
・・・さなかづら いや遠長く・・・ (13/3288,読人知らず)
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『花壇地錦抄』(1695)巻三「藤並桂のるひ」に、「五味子(ごみし・さねかつら) 葉ハもつこく(モッコク)のごとくにてやハらかなり。此葉ヲ鬢水ニ入テつかふに髪品(かみしな)うるハしく、赤キ毛黒く長クなるとて用る人多し。」ひなんせき共いふ。実赤クなる事、秋の比なり。葉は冬あり。此実は薬種の五味子なり」と。
『大和本草』五味子に、「今倭俗倭五味子ノ莖ヲ水ニヒタシ子ハリ出ルヲ用テ鬢髪ニヌル、毛チラスト云」と。 |