辨 |
アケビ科 Lardizabalaceae(木通 mùtōng 科)には、主にアジアに9属約35種がある。
アケビ属 Akebia(木通屬)
Archakebia(長萼木通屬) 中国に1種
A. apetala(長萼木通)
Decaisnea(猫兒屎屬) 中国乃至ヒマラヤに1種
D. insignis(D.fargesii;猫兒屎・矮杞樹・猫屎瓜・猫兒子)
『週刊朝日百科 植物の世界』8-303
Holboellia(八月瓜屬・鷹爪楓屬)中国・インドシナ・ヒマラヤに約14種
H. coriacea(鷹爪楓)
H. fargesii(五月瓜藤・野人瓜・紫花牛姆瓜)
H. grandiflora(牛姆瓜)
H. latifolia(八月瓜・五風藤)
Sargentodoxa(大血藤屬) 1属1種
独立してサルゼントカズラ科 Sargentocoxaceae とすることがある
S. cuneata(大血藤・大活血・活血藤・紅藤・血藤・血通)
河南・陝西・華東・兩湖・兩廣・西南・インドシナ産 『週刊朝日百科 植物の世界』8-306
蔓を薬用 『全國中草藥匯編 上』pp.56-57 『中薬志Ⅲ』pp.489-492
Sinofranchetia(串果藤屬) 1属1種
S. chinense(串果藤)『週刊朝日百科 植物の世界』8-303
ムベ属 Stauntonia(野木瓜屬)
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アケビ属 Akebia(木通 mùtōng 屬)には、東アジアに約5種がある。
ホザキアケビ(ホナガアケビ) A. longeracemosa(長序木通) 湖南・福建・広東・臺灣産
ゴヨウアケビ A.×pentaphylla
クワゾメアケビ var. integrifolia
アケビ A. quinata(木通・五葉木通)『中国本草図録』Ⅰ/0063
シロバナアケビ 'Leucantha'
ミツバアケビ A. trifoliata(三葉木通・八月炸)
ナンゴクミツバアケビ subsp. australis (A.chingshuiensis;
白木通・臺灣木通・三葉木通・八月瓜藤・八月櫨)
臺灣産 『中国本草図録』Ⅰ/0064
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ムベ Stauntonia hexaphylla は、一名トキワアケビとも呼ばれるが、別属。 |
訓 |
「和名あけびハ實ハ其果實ノ名ニシテ其種ヲ呼ブトキハ宜シクあけびかづらト稱スベキナリ、あけびノ語原ハ種々ニ解釋セラレ其熟實ハ一方縦開シテ白肉ヲ露ハスニ由リ開け實・欠び幷ニ開けつびナル三説アリ、又あけびハあけうべノ短縮言ナラント謂フ人アリ、むべ實ハ開カザレドモあけび實ハ開ケバナリ」(『牧野日本植物図鑑』)。なお、つびは女陰。 |
僧昌住『新撰字鏡』(892)に、「■{艸冠に開}、開音、山女也。阿介比、又波太豆」と。和名抄に開は女陰と。
深江輔仁『本草和名』(ca.918)通草に、「和名阿介比加都良」と。
源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、蔔子は「和名阿介比」、通草は「和名阿介比加豆良」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』14下(1806)通草に、「アケビ和名鈔 アケビカヅラ同上 アケビヅル タゝバ江州 タトバ越前 ギウスイサウ遠州 タンポポ同上 アケベ若州 ゴサイボヅル同上 ハダツカヅラ熊野 ハンダッカヅラ アクビ共ニ同上 テンタテコンホウ甲州 ヲドリバナ若州。以下花ノ名 女郎花同上 チヨチヨビ江州」と。 |
漢名を野木瓜(ヤボクカ,yěmùguā)というものは、ムベの仲間。 |
説 |
本州・四国・九州・朝鮮・長江流域に分布。 |
誌 |
果肉は甘く生食し、果壁は詰め物して炒めて食う。また蔓は強靭で、各種の細工のほか建築材料としてもに用いる。
「蔓は篭細工・鞄材料・菓子器に用いられ、果実は甘美で食用になるほか、若芽は料理にも用いられる。普通に木の芽といえば、山椒に代表されているが、雪国では通草(嶋田註:アケビ)の新芽をいい、・・・雪の少ない地方では、伸びるにしたがい日光を受けるから、固くなって使いみちにならぬが、長く雪にとざされて雪中に萌えたのは、末の方約七~八寸くらい軟らかく、一寸くらいに切ってざっとゆで、胡桃和えまたは胡麻和えにすると、ほのかな苦みのあるところに、かえって一種の風趣がある」(本山荻舟『飲食事典』)。
「あけびのつるは、庭にあったのを千切ってきたものを、灰汁でよくゆがき、水につけてあくぬきしてある。これをだし汁につけて喰うが、しょうがをそえればなかなかの風味である」(水上勉『土を食う日々』)。 |
中国では、アケビ(木通)・ミツバアケビ(三葉木通)・白木通の果実を 八月炸・八月札(ハチゲツサク,bāyuèzhá)と呼び、その根を木通根と呼び、木質の茎を木通(ボクツウ,mùtōng)と呼び、種子を預知子(ヨチシ,yùzhīzĭ)と呼び、それぞれ薬用にする。
『中薬志Ⅱ』pp.427-431、『全國中草藥匯編 上』p.13
ただし、『中薬志Ⅲ』pp.468-478によれば、今日木通と呼ぶ生薬の原植物は混乱しているが、主として
關木通 キダチウマノスズクサ Aristolochia manshuriensis
(Hocquartia manshuriensis;木通馬兜鈴)
淮木通 Clematis armandii(小木通)
白木通 ナンゴクミツバアケビ Akebia trifoliata subsp.australis(白木通)
の三種であるとし、ただし各地で用いている他の多くの植物をもリストとして挙げている。 |
日本では、生薬モクツウ(木通)は アケビ又はミツバアケビのつる性の茎を、通例、横切したものである(第十八改正日本薬局方)。 |
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一説に、『万葉集』に出る「狭野方(さのかた)」はアケビであるという。
狭野方は 実に成らずとも 花のみに 開きて見えこそ 恋のなぐさ(慰)に
狭野方は 実に成りにしを 今更に 春雨ふりて 花咲かめやも
(10/1928;1929,読人知らず)
しな立つ 筑摩左野方・・・ (13/3323,読人知らず)
また、『万葉集』に「さなかづら」とあるのは、通説ではサネカズラの古名、ただし一説にアケビ。サネカズラを見よ。 |
西行(1118-1190)『山家集』に、
ますらをが つまぎ(爪木)にあけび さしそへて 暮ればかへる 大原のさと (寂然)
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『花壇地錦抄』(1695)巻三「藤並桂のるひ」に、「通草(あけび) かつらなり。秋実あり。味ヒあまし。薬種の木通なり」と。 |
通草(あけび)の実ふたつに割れてそのなかの乳色なすをわれは惜しめり
(1938,齋藤茂吉『寒雲』)
朝々に立つ市ありて紫ににほへる木通の実さへつらなむ
(1940「十月十八日十九日温海」,齋藤茂吉『のぼり路』)
のがれ来てわが恋しみし蓁栗(はしばみ)も木通(あけび)もふゆの山にをはりぬ
(1945,齋藤茂吉『小園』)
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