辨 |
カツラ科 Cercidiphyllaceae(連香樹 liánxiāngshù 科)には、カツラ属 Cercidiphyllum(連香樹 liánxiāngshù
屬)1属2種がある。
カツラ C. japonicum
var. sinensis(連香樹)
ヒロハカツラ C. magnificum(C.japonicum var.magnificum)
日本の本州中北部産
シダレカツラ f. pendulum(C.japonicum f.pendulum)
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訓 |
今日の日本では カツラの漢字に桂(けい)を当てるが、漢名を桂(ケイ,guì)という植物は、ある一群の香木の総称。ギンモクセイ・キンモクセイ・ニッケイや、月にあると考えられた月桂などであり、ここに挙げるカツラとは無関係。
(漢名を桂と言う植物については、中国で桂と呼ばれた植物を見よ。) |
源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、楓は「和名乎加豆良」と、桂は「和名女加豆良」と。
ここにメカツラは、今日言うヤブニッケイ Cinamomum japonicum。これは上に記した桂(ケイ,gui)の仲間であり、桂の字を当てるのに問題が無い。
一方、オカツラは今日のカツラであるが、楓の字を当てたことは誤りである。漢名を楓という植物は、今日のフウ Liquidambar formosana であるから。(とはいえ、『万葉集』ではカツラを一貫して楓の字で表わす。)
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)30桂に、「桂ノ字ヲ和名鈔ニメガツラト訓ス、カツラト訓スルハ桂ノ字ノ古訓ナリ、今城州加茂祭リニ用ル所ノカツラノキトハ別ナリ、コレハ古名ヲガツラニシテ漢名詳ナラズ」と。 |
別名のカモカツラは、賀茂の祭に用いられたことから。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州の温帯に分布。
漢土(山西・河南・陝西・甘肅・安徽・浙江・江西・湖北・四川)には var. sinense が分布する。 |
誌 |
中国では、伝説に 月に桂(ケイ,guì)の木があるといい伝え、これを歴史的に月桂(ゲッケイ,yuèguì)と呼んだ。伝説上の空想であり、植物学的には意味が無い。
しかし唐代ころから、地上に現実にある 香り高いある種の樹木を、月桂と呼ぶようになった。その習慣は今日に及び、Osmanthus marghinatus
や Cinamomum chingii に月桂の名が残る。
漢名を桂(ケイ,guì)と呼ぶ植物については、中国で桂と呼ばれた植物を見よ。 |
日本では、『日本書紀』巻2・第9段に、高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)がキジを遣わして地上の天稚彦(あめわかひこ)のようすを見させる件に、「其の雉(きぎす)飛び降りて、天稚彦が門の前に植(た)てる湯津(ゆつ)杜木の杪(すゑ)に止(を)り。」とあり、註に「杜木、此をば可豆邏(かつら)と云ふ」とある。
『古事記』上、海幸彦・山幸彦の伝説の中に、「其れ綿津見神(わたつみのかみ)の宮ぞ。其の神の御門に到りましなば、傍の井の上に湯津(ゆつ)香木有らむ。云々」とあり、註して「香木を訓みて加都良(かつら)と云ふ。木なり」と記す。同じ場面、『日本書紀』巻2・第10段には、「門の前に一(ひとつ)の井有り。井の上(ほとり)に一の湯津杜樹(ゆつかつら)有り。枝葉(えだは)扶疏(しきも)し」と、同段の一書第1には「門の外(と)に井有り。井の傍(ほとり)に杜樹(かつらのき)有り」と。
ただし、漢語の杜(ト,dù)は ナシの仲間の Pyrus betulaefolia であり、カツラに当てるのは誤り。 |
『万葉集』に、
向つ岳(を)の若楓(かつら)の木下枝(しづえ)取り花待つい間に嘆きつるかも
(7/1359,読人知らず)
とある。楓をかつらと読むことについては、訓を見よ。 |
また、中国における月桂(ゲッケイ,yuegui)の伝説を受け入れた上で、その植物をカツラと考えた。『万葉集』に、
目には見て手には取らえぬ月の内の楓の如き妹を奈何せむ (4/632,湯原王)
黄葉(もみち)する時に成るらし月人の楓の枝の色付く見れば (10/2202,読人知らず)
カツラという植物と、桂と言う文字の縁は、このあたりから始まったものだろうか。 |
平安時代には、
かく許 あふひのまれに なる人を いかゞつらしと おもはざるべき
人めゆゑ のちにあふ日の はるけくは わがつらきにや 思ひなされん
(よみ人しらず、「あふひ かつら」、『古今和歌集』巻10物名)
秋くれど 月のかつらの みやはなる ひかりを花と ちらすばかりを
(源忠、「かつらのみや」、『古今和歌集』巻10物名)
久方の 月の桂も 秋は猶 もみぢすればや てりまさるらむ (壬生忠峯、『古今和歌集』)
春霞 たなびきにけり 久方の 月の桂も 花やさくらん (紀貫之、『後撰和歌集』)
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峡(かひ)ひくくなりしあまつ日の光にて桂のもみぢ黄にとほりたり
(1936「上松発」,斎藤茂吉『暁紅』)
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