辨 |
キササゲ属 Catalpa(梓 zĭ 屬)には、東アジア・北米に13種がある。
アメリカキササゲ C. bignonioides
トウキササゲ C. bungei (楸樹)
C. fargesii (灰楸) 中国原産
var. duclouxii(滇楸・光灰楸) 兩湖・四川・貴州・雲南産 『雲南の植物Ⅱ』236
キササゲ C. ovata (C.kaempferi;梓樹) 『中国本草図録』Ⅰ/0331
オオアメリカキササゲ(ハナキササゲ) C. speciosa (黃金樹)
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ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae(紫葳 zĭwēi 科)については、ノウゼンカズラ科を見よ。 |
訓 |
日本では、古く梓の字を あづさ(あずさ)と訓じた。しかし、梓弓(あづさゆみ)を作った梓(あづさ)の木は、このキササゲではない。
また、楸の字は ひさぎ(ひさき)と訓じ、キササゲまたはアカメガシワを指した。
梓・楸の音訓については、あづさを見よ。 |
和名別名のハブテコブラについては、オオベニタデを見よ。 |
源順『倭名類聚抄』(ca.934)楸に「春秋漢語抄云、比佐木」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)31楸に、「ヒサギ和名鈔 キモミヂ古歌 キサゝギ 雷電ギリ京 ハブテコブラ カブテコブラ カミナリサゝゲ越後 カハラサゝゲ濃州 カハラギリ常州 カハラヒサギ筑前 カハラクサギナ石州 カハラカシハ勢州 センダンギリ南部 ゴシンカウ肥前 ダラスケノキ讃州 将軍ボク筑後」と。 |
説 |
中国長江流域以北原産、但しもう野生はない。
日本では、観賞用・薬用として 暖地で栽培する。 |
誌 |
中国では、養蚕に必須の桑とともに、『詩経』時代から家の周囲・官寺・園亭などに必ず植えられていた樹木で、桑梓や梓里の語はふるさとを意味した。梓は木質がよく、軽く柔らかで腐りにくいので、建築やさまざまな器具の用材としたからであり、梓は木王とも称えられている。
とくに楽器を作るのに適し、琴瑟には底に梓を、身に桐を使うというので、桐天梓地の成語がある。 また、書籍を印刷するにあたり版木として優れているので、梓は版木を意味することになり、さらには製版印刷そのものを指すに至った。日本語でも上梓・附梓などの熟語が今日まで用いられる。 |
中国では、材(梓木)・樹白皮及び根白皮(梓白皮)・葉(梓葉)・果実(梓實)を、薬用にする。
日本では、生薬キササゲは キササゲ又はトウキササゲの果実である(第十八改正日本薬局方)。 |
『詩経』国風・鄘風(ようふう)・定之方中に、「定の方(まさ)に中(ちゆう)するとき、楚宮を作る。之を揆(はか)るに日を以てし、楚室を作る。之に榛(しん)栗(りつ)と、椅(い)桐(とう)梓(し)漆(しつ)を樹(う)え、爰(ここ)に伐(き)りて琴瑟(きんしつ)とす」と。 |
賈思勰『斉民要術』(530-550)巻5に「種槐・柳・楸・梓・梧・柞」が載る。 |
日本で古来歌に詠われてきたひさぎ(久木・楸)は、一説にアカメガシワ、一説にキササゲ。アカメガシワを見よ。 |
『万葉集』に見える久木がもしキササゲであれば、その日本への渡来は奈良時代以前ということになる。
確実なところでは、『大和本草』(1709)に「梓 アツサ 一名カラハヒサキ」として載るものがキササゲだという。 |