辨 |
サラソウジュ属 Shorea(娑羅雙 suōluóshuāng 屬) には、東南アジア・ヒマラヤ・インド・スリランカに約360種がある。
アラン S. albida ボルネオ産
S. assamica(雲南娑羅雙) 雲南・チベット・アッサム・東南アジア・フィリピン産
S. parvifolia タイ・マレーシア・スマトラ産
サラノキ(シャラノキ・サラソウジュ) S. robusta(娑羅雙)
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フタバガキ科 Dipterocarpaceae(龍腦香 lóngnăoxiāng 科)については、フタバガキ科を見よ。 |
日本で一般にシャラノキと呼ばれて寺院などに植えられているものは、ツバキ科のナツツバキ(或はエゴノキ科のハクウンボク)であり、本種とは関係ない。 |
訓 |
サンスクリット名はシャーラ sala、パーリ語名はサーラ sala、ともに「堅固な木」の意。これを漢語に沙羅 shāluó・娑羅 suōluó と音写する。
日本名サラソウジュは 仏教用語による(誌を見よ)。 |
サンスクリット語の別名をアシュヴァカルナ asvakarna「馬の耳」というのは、その葉の形から。 |
説 |
ヒマラヤ山麓からインド中部に分布。30mを超す高木、乾季に葉を落す。
3月、直径約3cmの淡黄色の花を、円錐花序につける。 |
誌 |
幹から採るドゥーナーという樹脂は、香・塗料・ワニスに用いるほか、火をつけると芳香を発するので祭祀に用い、また薬用にする。
材は、チークに次ぐ重要材、建築・土木などに用いる。
果実は食えるが、食用に供することはない。 |
インドでは、『ラーマーヤナ』以来聖なる樹木であり、ヴァナ・ドゥルガーというヤクシーの棲家、またインドラの象徴。
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「インドにごく普通にある樹木で、チーク、ヒマラヤスギとともに三大主要樹種として、各地に植林されているが、ヒマラヤ山麓、インド中東部およびベンガル州西部では古くから純林をつくる。・・・葉が馬の耳に似ているので馬耳樹、材質が堅いことから堅固樹ともよぶ。材は重く強く、耐久性があるので、枕木をはじめ柱、桁など土木建築構造材として広く利用された。
・・・古くはパータリプトラ市のマウリヤ朝遺跡からサラノキの梁や柵(しょうへき)が発掘され、二千年の長い年月に耐えていたことが立証されている。・・・樹皮は大切な燃料であり、タンニン含有量が多いので皮のなめし剤や、褐色染料になり、地方によっては鞣革繊維でロープを作る。また樹脂は白膠香(Sanskrit:
kala)と呼び、宗教的儀式の薫香や塗料の原料に用い、種子は焼けば食用になる。・・・種子油はサルバターと呼び、料理、灯火用などに使われている。」(満久崇麿『仏典の植物』1977, 岩波文庫本『ブッダ最後の旅』引) |
仏教では、ムユウジュ・ボダイジュとともに聖樹の一。伝説によれば、『大パリニッパーナ経(ブッダ最後の旅)』に、
そこで尊師は多くの修行僧たちとともにヒヤニヤヴァティー河の彼岸にあるクシナーラーのマッラ族のウパヴァッタナに赴いた。そこに赴いて、アーナンダに告げて言った。
「さあ、アーナンダよ。わたしのために、二本並んだサーラ樹(沙羅双樹)の間に、頭を北に向けて床(竹や籐などで作った寝台)を用意してくれ。アーナンダよ。わたしは疲れた。横になりたい」と。
「かしこまりました」と、尊師に答えて、アーナンダはサーラの双樹の間に、頭を北に向けて床を敷いた。そこで尊師は右脇を下につけて、足の上に足を重ね、獅子座をしつらえて、正しく念い、正しくこころをとどめていた。
さて、そのとき沙羅双樹が、時ならぬのに花が咲き、満開となった。それらの花は、修行完成者(タターガタ,如来)に供養するために、修行完成者の体にふりかかり、降り注ぎ、散り注いだ。・・・また天のマンダーラヴァ華(デイコ)は虚空から降って来て、修行完成者に供養するために、修行完成者の体にふりかかり、降り注ぎ、散り注いだ。・・・ (中村元訳) |
B.C.486年ないしはB.C.383年のことといい、時に釈迦は80歳であった。
従って、仏伝図の一こま、涅槃図には必ず描きこまれる。
(ただし、中国・日本で制作された涅槃図では、沙羅双樹は想像上の姿として描かれたものに過ぎない。ほとんどの中国人・日本人は、本物のサラソウジュを見たことがなかったのだから)。 |
過去七仏の第三 ヴェッサブ(毘舎婆,ビシャバ)仏の菩提樹。 |