辨 |
ミズアオイ科 Pontederiaceae(雨久花 yŭjiŭhuā 科)には、次のような属がある。
ホテイアオイ属 Eichhornia(鳳眼蓮屬)
アメリカコナギ属 Heteranthera アフリカ・アメリカの熱帯に10種
アメリカコナギ H. limosa 南北アメリカ原産、岡山・福岡に帰化
ミズアオイ属 Monochoria(雨久花屬)
Pontederia(梭魚草屬)
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ミズアオイ属 Monochoria(雨久花 yŭjiŭhuā 屬)には、アジア・アフリカ・オーストラリアの熱帯~温帯に約8種がある。
M. hastata (Pontederia hastata;箭葉雨久花・山芋)『中国本草図録』Ⅴ/2403
ミズアオイ(ナギ) M. korsakowii(Pontederia korsakowii;雨久花)
『中国本草図録』Ⅴ/2404・『中国雑草原色図鑑』349
コナギ M. vaginalis(Pontedeira hastata;鴨舌草・水錦葵・水玉簪・肥菜・合菜)
『中国本草図録』Ⅹ/4927・『中国雑草原色図鑑』349
ホソバコナギ var. amgustifolia
コナギ var. plantaginea(M.plantaginea;窄葉鴨舌草)
var. pauciflora (M.pauciflora;少花鴨舌草)
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訓 |
「和名ハ水葵ノ意、水ニ生ジ葉狀葵ノ如ケレバ云フ、又なぎハ菜葱(なき)ノ義ト云フ、昔ハ此葉ヲ茹デ食用トセリ」(『牧野日本植物圖鑑』)。
別名ナギ・ミズナギについて、別の一説に葉がナギに似ていることから。 |
深江輔仁『本草和名』(ca.918)蔛菜、一名水葱に、「和名奈岐」と。
『大和本草』に、「浮薔(ナキ) ・・・澤桔梗(ナギ)ナリ・・・俗ニ水葵トモ澤桔梗トモ云」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』15(1806)蔛草の条に、「ミヅアフヒト云、一名ナギ サハギゝヤウ タイモガラ豊前 カハイモジ紀州」と。 |
漢名蔛(コク,hú)というものは、『唐本草』に略々「葉はまるく、澤瀉(オモダカ)に似て小さく、花は青白く、食える」とあるもの、コナギ或はその類品であろうという(『新註校定 國譯本草綱目』VI 452頭注)。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・朝鮮・極東ロシア・遼寧・吉林・黑龍江・華北・華東・兩湖・兩廣に分布。 |
全国では絶滅危惧Ⅱ類(VU)、東京では絶滅、埼玉では絶滅危惧ⅠB類(EN)。 |
誌 |
中国では、地上部の全草を薬用にする。 『全國中草藥匯編』上 pp.354-355 |
日本では、むかしこの葉を食用とするために栽培し、青紫色の花びらで花摺り染めにした。 |
『万葉集』に、
春霞 春日の里の 殖子水葱(うゑこなぎ) 苗なりといひし え(枝)は指しにけむ
(3/407,大伴駿河麿、坂上二嬢を娉ふ歌)
かみつけぬ(上毛野) 伊香保のぬま(沼)に う(植)ゑこなぎ
かくこ(恋)ひむとや たね(種)もと(求)めけむ (14/3415,読人知らず)
なはしろ(苗代)の こなぎ(子水葱)がはな(花)を きぬ(衣)にす(摺)り
な(馴)るるまにまに あぜ(何)かかな(愛)しけ (14/3576,読人知らず)
醤酢(ひしおす)に 蒜(ひる)つき合(か)てて 鯛願う
吾にな見せそ 水葱の煮物(あつもの)
(16/3829,長忌寸意吉麻呂,「酢・醤・蒜・鯛・水葱を詠む歌」。
またこれは、酢の物(二杯酢)料理の初見)
とある。なぎ(ミズアオイ)とこなぎ(コナギ)を歌い分けているようだが、当時厳密に区別されていたかどうかは疑問という(松田修)。 |