すみれ(菫)  

 和名のスミレは、広義にはスミレ科 Violaceae(菫菜科) スミレ属 Viola(菫菜屬)の植物を総称し、狭義にはスミレ V. mandshurica を指す。
 スミレ科 Violaceae(菫菜科)には、約16-23属約800-850種がある。
    (ただし、日本にはスミレ属のみがある。)

   Hybanthus(鼠鞭草屬)
 熱帯・亜熱帯に約150種
     H. enneaspermum(鼠鞭草)
   Rinorea(雷諾木屬) 
熱帯に約350種
     R. bengalensis(雷諾木)
     R. sessilis(短柄雷諾木)
   Schyphellandra(茜菲草屬) 
熱帯に4種
     S. pierrei(茜菲草)
   スミレ属 Viola(菫菜屬)
 約400種
 
 スミレ属 Viola(菫菜屬)には、日本・中国に次のようなものがある(学名順)。
                なお、すみれ和名一覧
(五十音順)を参照

   エゾノタチツボスミレ
(イヌスミレ) V. acuminata(鷄腿菫菜・走邊境)
         『中国本草図録』Ⅲ/1283
   V. alata(白梨頭草)
   ジンヨウキスミレ V. alliariaefolia
   ツボスミレ
(ニョイスミレ) V. arcuata(如意草)
   V. betonicifolia(戟葉菫菜) 『中国本草図録』Ⅷ/3695・『週刊朝日百科 植物の世界』6-277
     ssp. nepalensis(尼泊爾菫菜)
     アリアケスミレ var. albescens
     リュウキュウシロスミレ var. oblongo-sagittata
   キバナノコマノツメ V. biflora(雙花菫菜)
 『中国本草図録』Ⅳ/1749
   ナガバノスミレサイシン V. bissetii
   ウスバスミレ V. blandaeformis
     チシマウスバスミレ
(ケウスバスミレ) var. pilosa
   ヒメミヤマスミレ V. boissieuana
   オオバキスミレ  V. brevistipulata
     ミヤマキスミレ var. acuminata
     シソバキスミレ var. crassifolia
     エゾキスミレ var. hidakana
     フギレキスミレ var. incisa
     ナエバキスミレ var. kishidai
     フギレオオバキスミレ var. laciniata
     ダイセンキスミレ var. minor
     ジンヨウキスミレ var. renifolia
   V. brunneostipulosa(長莖菫菜)
   V. bulbosa(鱗莖菫菜)
   ナンザンスミレ
(トウカンスミレ) V. chaerophylloides(南山菫菜)
     ヒゴスミレ var. sieboldiana
   エゾアオイスミレ
(マルバケスミレ) V. collina(毛果菫菜) 『中国本草図録』Ⅹ/4750
   V. confusa(毛菫菜)
     ヒメスミレ ssp. nagasakiensis
   タカネスミレ
(タカネキスミレ) V. crassa
   V. davidii(深圓齒菫菜)
   V. delavayi(灰葉菫菜) 『雲南の植物Ⅱ』76・『雲南の植物』140
   V. diffusa(蔓莖菫菜・七星蓮) 『中国本草図録』Ⅶ/3230
     ツクシスミレ var. glabella
   タカオスミレ V. discolor
   V. dissecta(裂葉菫菜・疔毒草)
 『中国本草図録』Ⅴ/2212
   エイザンスミレ V. eizanensis
     ヒトツバエゾスミレ f. simplicifolia
   タニマスミレ V. epipsila ssp. repens
   テリハタチツボスミレ V. faurieana
   ウラジロスミレ V. formosana 臺灣産。『週刊朝日百科 植物の世界』6-276
   V. gmeliniana(興安菫菜) 『中国本草図録』Ⅸ/4246
   V. grandisepala(闊萼菫菜)
   イソスミレ
(セナミスミレ) V. grayi
   タチツボスミレ V. grypoceras(紫花菫菜・地黃爪・黃爪香)
     シロバナタチツボスミレ f. albiflora
     オトメスミレ f. prupurellocalcarata
     アカフタチツボスミレ f. variegata
     コタチツボスミレ var. exilis
     シチトウスミレ var. hichitoana
     ケタチツボスミレ var. pubescens
     ツルタチツボスミレ var. rhizomata
     ケイリュウタチツボスミレ var. riparia
   V. henryi(紫葉菫菜)
   サクラスミレ V. hirtipes
 『中国本草図録』Ⅵ/2725
     チシオスミレ var. rhodovenia
   アオイスミレ(ヒナブキ) V. hondoensis
   V. hossei(光葉菫菜)
   V. hunanensis(湖南菫菜)
   ヒメキクバスミレ V. ibukiana
   V. inconspicus(長萼菫菜) 『中国本草図録』Ⅱ/0713
   ヤクシマスミレ V. iwagawai
   コスミレ V. japonica(早開菫菜・犂頭草・地丁草)『中国雑草原色図鑑』138
   マルバスミレ V. keiskei (V.keiskei var.glabra)
      ケマルバスミレ f. okuboi (V. keiskei)
   V. kiansiensis(江西菫菜)
   シレトコスミレ V. kitamiana
   オオタチツボスミレ  V. kusanoana
   オオバタチツボスミレ V. langsdorfii ssp. sachalinensis
   スミレ V. mandshurica(東北菫菜・地丁)
 『中国本草図録』Ⅴ/2213
     ホコバスミレ var. ikedaeana
中部以西の高原に分布
     アナマスミレ var. crassa 
日本海側の海岸に分布
     アツバスミレ var. triangularis
 西南日本の太平洋側に分布
   コミヤマスミレ V. maximowicziana
   ヒメスミレ V. minor
   V. mirabilis
     var. mirabilis
ヨーロッパ産
     イブキスミレ  var. subglabra
   V. mongolica(白花菫菜) 『中国本草図録』Ⅵ/2726
   ニオイタチツボスミレ V. obtusa
   キスミレ
(イチゲキスミレ) V. orientalis
   ナガバノタチツボスミレ V. ovato-oblonga
   シロスミレ V. patrinii(白花地丁)
 『中国本草図録』Ⅳ/1750
   V. pekinensis(北京菫菜)
   アカネスミレ V. phalacrocarpa(白果菫菜)
     オカスミレ var. glaberrima
   タイワンスミレ V. philippica ssp. munda(紫花地丁菫菜
        {金偏に華}頭草)
 全草を食用。『雲南の植物Ⅱ』77・『中国本草図録』Ⅶ/3231
   V. pilosa
中国(南東部)・インドシナ・インドネシア・ヒマラヤ・インドに分布
   V. prattii(川西菫菜)
   V. principis(柔毛菫菜)
   V. prionantha(早開菫菜・早花地丁・紫花地丁)
         『中国本草図録』Ⅱ/0714・『中国雑草原色図鑑』138
   リュウキュウコスミレ V. pseudo-japonica
   ヤクシマミヤマスミレ V. pseudo-selkirkii
   フモトスミレ V. pumilio
   タチスミレ V. raddeana(立菫菜)
   V. rockiana(圓葉小菫菜)
   アケボノスミレ V. rossii(遼寧菫菜)
   ナガハシスミレ
(テングスミレ) V. rostrata var. japonica
   アイヌタチツボスミレ V. sacchalinensis
     var. alpicola(高山庫頁菫菜)
 『中国本草図録』Ⅳ/1751
     アポイタチツボスミレ var. alpina
     イワマタチツボスミレ var. miyakei
   ミヤマスミレ V. selkirkii(深山菫菜)
   V. serpens(匍匐菫菜)
   シコクスミレ V. shikokiana
   V. schneideri(淺圓齒菫菜)
   フモトスミレ V. sieboldii
   V. stewardiana(廬山菫菜)
   ヒナスミレ V. takedana
   ヤエヤマスミレ V. tashiroi
   タデスミレ V. thibaudieri
   V. teinschiensis(阿壩菫菜)
   フジスミレ V. tokubukiana
      var. takedana → V. takedana
   V. triangulifolia(三角葉菫菜) 『中国本草図録』Ⅹ/4751
   V. tuberifera(塊莖菫菜)
   V. urophylla(粗齒菫菜)
   オキナワスミレ V. utchinensis
   スミレサイシン
(トロロスミレ) V. vaginata(,カン,huan・鷄心七)
         『中国本草図録』Ⅵ/2727
   V. variegata(斑葉菫菜)
 『中国本草図録』Ⅳ/1752
     ゲンジスミレ var.nipponica
   ツボスミレ
(ニョイスミレ) V. verecunda(菫菜菫菫菜・消毒藥) 『中国本草図録』Ⅸ/4247
     ミヤマツボスミレ var. fibrillosa
     アギスミレ var. semilunaris
     ヒメアギスミレ var. subaequiloba
     コケスミレ var. yakusimana
   シハイスミレ V. violacea
     マキノスミレ var. makinoi
    キスミレ
(イチゲキスミレ) V. xanthopelata(黄花菫菜)
         『中国本草図録』Ⅲ/1285。V.orientalisも同名。
   ヒメスミレサイシン V. yazawana
   ノジスミレ V. yedoensis(光瓣菫菜・白毛菫菜・地丁・紫花地丁・剪刀花)
        『中国雑草原色図鑑』138
   ヒカゲスミレ V. yezoensis
   シソバキスミレV. yubariana
   V. yunnanfuensis(雲南菫菜)
 『中国本草図録』Ⅸ/4248

 なお、外国種には次のようなものがある。
   V. alba
   A. altaica
ロシア産
   V. arvensis ヨーロッパ産、畑の雑草。パンジーの仲間だが花は1cm弱、変異が多い。
        
世界各地に帰化。『朝日百科 世界の植物』3-756
   V.calcarata
アルプス・バルカン半島原産
   V. cornuta(角菫) 
ピレネー産
   V. delphinantha
ヨーロッパ産
   V. fletti(岩菫)
   V. lutea 
黄花。ヨーロッパ中部・南部産
   ニオイスミレ V. odorata(香菫・香菫菜;E.Violet) 『中国本草図録』Ⅲ/1284
   V. reichenbachiana
   アメリカスミレサイシン V. sororia
   サンシキスミレ V. tricolor(三色菫) ヨーロッパ西北部産。
        
 『週刊朝日百科 植物の世界』6-282・『朝日百科 世界の植物』3-754
     var. hortensis(蝴蝶花)
   サンシキスミレ V.×wittrockiana(園菫菜;E.Pansy)  
 和名スミレは、花の形が大工道具の墨入(すみいれ)に似ていることから、とする説が強い。
 別名は、スモウトリ
(スモウトリグサ・スモトリグサ・スモウバナ・スモトリゲンゲ・ケンカボウ)、カケビキバナ、カギトリバナ、ヒトバグサ。むかし、子どもが花の距を引き合って遊ぶことが広く行われ、スモウトリグサ以下の別名が生まれた。また伊勢地方では、そのようにして遊ぶ花のうち、すみれの仲間を太郎坊(たろぼう)エンゴサクの仲間を次郎坊(じろぼう)と呼んだ。
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)菫菜に、「和名須美礼」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』12(1806)紫花地丁に、「スミレ
和名鈔 ヒトヨグサ古歌 ヒトバグサ同上 コマヒキグサ筑後 京ノウマ筑前 トノゝウマ同上。通泉草モ肥前ニテトノゝウマト云。同名ナリ トノウマ薩州 スモトリグサ京師 スモトリバナ同上 カギトリバナ仙台 カギヒキバナ上 キゝヤウグサ泉州堺 アゴカキバナ越後 カギバナ豫州讃州」と。但し、地丁については、地丁を見よ。
 漢語の菫菜(キンサイ,jincai)はスミレだが、菫(キン,jin)とのみ言う場合は、スミレ(就中ツボスミレ)を指すとする説と、セロリ(オランダミツバ、漢名は芹菜 qincai・旱芹 hanqin、英名は celery) Apium graveolens を指すとする説がある。
 春にさく 花びらを伴った花は、結実することが少ない。初夏につける閉鎖花が、よく結実する。
 果実は 種子が熟すると弾けるが、種皮は甘い物質で覆われているため、アリがこれを遠方に運ぶのだと云う。
 若菜を蔬菜として食用にする。スミレサイシンの地下茎は、すりおろしてトロロとして食う。
 全草は薬用にする。
 中国では、『大戴礼』「夏小正」二月に、「菫(きん)を栄えしめ、繁(はん。ハイイロヨモギ)を采る。菫は采(菜)なり。繁は由胡なり。由胡とは、繁母なり。繁は旁勃(ばうぼつ)なり。皆豆実なり。故に之を記す」と。一説に、この菫をフユアオイとする。
 賈思勰『斉民要術』(530-550)「種蘘荷芹■
{草冠に豦}」に、「菫」が載る。
 日本では、『万葉集』に、すみれ2首・つぼすみれ2首が詠われている。これらが、ただちに植物学に言うスミレやツボスミレであるか否かは即断し得ないらしい。
 この譜では、歴史的にすみれと記されるものはこの項で、つぼすみれとあるものはツボスミレの項で扱う。
 『万葉集』に、

   春の野に すみれ採みにと 来し吾ぞ 野をなつかしみ一夜宿(ね)にける (8/1424,山部赤人)
   ・・・やまび
(山傍)には さくらばな(桜花)ちり
   かほとり
(顔鳥)の ま(間)なくしばな(鳴)く 春の野に すみれをつむと
   しろたへの そで
(袖)(折)りかへし くれなゐの あか(赤)もすそ(裳裾)ひき
   をとめらは をも
(思)ひみだれて きみ(君)(待)つと うらごひすなり・・・
        
(17/3973,大友池主)
 
 『八代集』に、

   我やどに すみれの花の おほければ きやどる人や あるとまつかな
     
(よみ人しらず「あれたる所にすみ侍ける女つれづれにおぼし侍ければ、庭にある
      
すみれの花をつみていひつかはしける」、『後撰和歌集』)
 
 西行(1118-1190)『山家集』に、

   あとたえて あさぢしげれる庭のおも
(面)に 誰わけいりて すみれつみてん
   誰ならん あらた
(荒田)のくろ(畔)に すみれつむ 人は心の わりなかるべし
   すみれさく よこの
(横野)のつばな(茅花) さきぬれば
     おもひおもひに 人かよふなり
   つばな
(茅花)ぬく きたの(北野)のちはら(茅原) あ(褪)せゆけば
     心すみれぞ 生
(おひ)かはりける
 
 『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 春之部」に、「菫 初中。花色、白と紫とうす色、桜色とこいむらさき、いろいろ有。花数多ク咲小草。野原に多ク生て、茅(つばな)をつむにまぢりておかし」と。

   山路来て何やらゆかしすみれ草 
(芭蕉,1644-1694。『野ざらし紀行』1685)
   道ほそし相撲とり草の花の露 (芭蕉,1644-1694)
   当帰よりあはれは塚のすみれ草 (同)
菫草小鍋洗ひしあとやこれ (曲水,『猿蓑』,1691)
    (幸田露伴評釈に、「嵯峨日記、乙州が武江より帰り侍るとて、朋友門人の消息どもあまたとゞく。其中曲水が状に、予が住捨し芭蕉の旧跡を尋て宗波に逢ふよし、とありて、此句を録せり。そここゝ見めぐりて其人其昔をなつかしみたるさま言外に見え、いかにも優にやさしく寂びあり」と)
   春の水すみれつばなをぬらしゆく (蕪村,1716-1783)
   居
(すわ)りたる舟を上(あが)ればすみれ哉 (同)
   骨
(こつ)拾ふ人にしたしき菫かな (同)
   加茂堤太閤様のすみれかな 
(同)
 
 スミレ属の植物のうち、園芸品とされているものは次の三種のみ。
   サンシキスミレ
   ニオイスミレ
   エイザンスミレ
(エゾスミレ) 
 ヨーロッパの菫 violet は、ニオイスミレ。フランスでは、ナポレオン妃ジョゼフィーヌがこれを愛したという。
 「すみれの花さくころ、初めて君を知りぬ」という宝塚の歌にうたわれるすみれは、このニオイスミレのはず。

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