ひかげのかずら (日影蔓・日蔭蔓) 

学名  Lycopodium clavatum(L. japonicum)
日本名  ヒカゲノカズラ
科名(日本名)  ヒカゲノカズラ科
  日本語別名  キツネノタスキ、テングノタスキ、カミダスキ、ウサギノタスキ、ヤマウバノタスキ、ヒカゲ、ヤマカズラ(山蔓)、カゲ(蘿)
漢名  石松(セキショウ,shisong)
科名(漢名)  石松科
  漢語別名  伸筋草(シンキンソウ,shenjincao)、金毛獅子草、金腰帶、獅子草
英名  
2008/08/29 群馬県嬬恋村


 ヒカゲノカズラ科 Lycopodiaceae(石松科)は、2属約180種。
 ただし、内容が非常に多様なので、近年さまざまな細分法が提唱されており、例えば次のように2科に分ける考え方もある
(『日本の野生植物 シダ』)

 コスギラン科 Huperziaceae(石杉科)
   コスギラン属 Huperzia
   ヨウラクヒバ属 Phlegmariurus
 ヒカゲノカズラ属 Lycopodiaceae(石松科)
   ヒカゲノカズラ属 Lycopodium
   アスヒカズラ属 Diphasiastrum
   ヤチスギラン属 Lycopodiella
   ヒモヅル属 Lycopodiastrum
   ミズスギ属 Palhinhaea 
 ヒカゲノカズラ属 Lycopodium(石松屬)には、次のようなものがある。
   チシマヒカゲノカズラ L. alpinum (Diphasiastrum alpinum;高山石松)
   スギカズラ L. annotinum (多穗石松・單穗石松・蔓杉・分筋草・二年石松・杉葉蔓石松)
   イヌヤチスギラン L. carolinianum
   ヒモヅル L. casuarinoides (石子藤石松・石子藤・舒筋草・伸筋草・千金草・木賊葉石松)
   ミズスギ L. cernuum (Palhinhaea cernua;舗地蜈蚣・垂穗石松・馬鹿角・過山龍・
        燈籠草・筋骨草)『中薬志Ⅲ』p.98
   ヒメスギラン L. chinense (Huperzia chinensis;中華石杉・中華石松)
   ヒカゲノカズラ L. clavatum (石松・伸筋草・獅子尾)
   アスヒカズラ L. complanatum (Diphasiastrum complanatum;地刷子石松・扁枝石松・
        掃天晴明草・舒筋草)
   スギラン L. cryptomerinum (柳杉葉蔓石松)
   コウヨウザンカズラ L. cunninghamioides (寛葉石松)
   ヒモスギラン L. fargesii (Phlegmariurus falgesii;馬尾伸筋草・馬尾千金草・
        馬尾靑靑草・鋭葉石松・烏尾石松)
   ナンカクラン L. hamiltonii (Phlegmariurus hamiltonii;地松杉・地靑松杉・靑絲龍・
        晒不死・福氏石松・舌葉馬尾杉)
   ヤチスギラン L. inundatum
   ボウカズラ L. laxum (覆葉石松)
   タカネヒカゲノカズラ L. nikoense
   マンネンスギ L. obscurum (玉柏・玉枝石松・樹状石松・伸筋草)
   ヨウラクヒバ L. phlegmaria (L.filiforme,Phlegmariurus phlegmaiurus;玉柏・
        伸筋草・龍胡子・垂枝石松・臺灣石松)
   L. pulcherrimum (Phlegmariurus pulcherrimus;萬年松)
   ヒメヨウラクヒバ L. salvinioides (小垂枝石松)
   コスギラン L. selago (Huperzia selago;卷柏状石松・小杉蘭・小杉葉石松・石杉・小接筋草)
   トウゲシバ L. serratum (Huperzia serrata;千層塔・蛇足石松・蛇足草・直立石松・
        矮松・山芝・狗牙齒)
   ヒモラン L. sieboldii (Phlegmariurus sieboldii;馬尾千金草・馬尾伸筋草・
        馬尾靑靑草・鱗葉石松)
   コスギトウゲシバ L. somae (相馬氏石松) 
 日本では、Lycopodium chinense は、Lycopodium clavatum の synonym とするが、『全国中草藥名鑑』は、「これまで L.japonicum の学名を常に L.clavatum としてきたのは、誤りだ」という。 
 シダ植物については、しだを見よ。
 和名ヒカゲノカズラとは、むかし新嘗祭などの神事に、笄の左右に懸けて日影を遮るのに用いたことから。
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)蘿に、「日本紀私記云、蘿、比加介」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』17(1806)石松に、「キツネノヲガセ
新校正 ヒカゲノカヅラ カミダスキ サガリゴケ新古今栄雅抄 ヒカゲグサ ヤマカヅラ倶ニ同上 キツネノタスキ但州 ヤマウバノタスキ豫州 シゝノネバ土州 キツネノケサ豊前 ハイタロ越前 サルヲガセ テングノタスキ江戸」と。
 広く北半球の温帯・暖帯に分布。
 中国では、全草を伸筋草と呼び、胞子を石松子と呼び、それぞれ薬用にする。『中薬志Ⅲ』pp.95-100 
 『古事記』上巻天の石屋戸の伝説に、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天の石屋戸(あめのいはやと)に隠れたとき、天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、「天の香山(あまのかぐやま)の日影(ヒカゲノカズラ)を手次(たすき)に懸けて、天の真拆(マサキ)を縵(かづら)と為(し)て、天の香山の小竹葉(ささば)を手草(たぐさ)に結ひて」踊ったという。(『日本書紀』巻1神代上 第7段「天石窟(あまのいわや)」に、ほぼ同様の伝説が載る。) 
 『万葉集』に、

 あしひきの やまかづらかげ
(山蔓蘿) ましばにも
   え
(得)がたきかげ(蘿)を お(置)きやか(枯)らさむ (14/3573,読人知らず)
 足曳の 山縵
(やまかづら)の児 今日往くと 吾に告げせば 還り来ましを
 足曳の 玉縵の児 今日の如 何
(いづれ)の隈(くま)を 見つつ来にけむ
     
(16/3789;3790, 読人知らず)
 見まくほり おも
(思)ひしなへに かづら(蔓)かけ
   かぐはし君を あひ見つるかも
(18/4120,大伴家持)
 あしひきの やました
(山下)日影 かづら(蘰)ける
   うへ
(上)にやさらに 梅をしの(賞)はむ (19/4278,大伴家持)
 

   ときはなる 日かげのかづら けふしこそ 心の色に ふかく見えけれ
     
(藤原師尹(もろまさ,920-969)「五節の所にて閑院のおほい君(源宗于女)につかはしける」) 
 

 清少納言『枕草子』第66段「草は」には「日かげ」などとある。
 なお、この日かげは、平安時代になると糸を組んだもので代用するようになった。
 藤原道綱母『蜻蛉日記』に、
 入道故中将(藤原義懐,1057-1008)、ためまさの朝臣のむすめをわすれたまひけるのち、ひかげのいと、「むすびて」とてたまへりければ、しれにかはりて、
  かけてみし すゑもたえにし ひかげくさ
   なにによそへて けふむすぶらん
 このひかげについて『雅亮装束抄』に、
 かぶりにひかけといふものを左右のみみのうへにさげたり。かぶりのこじのもとに、ひかげのかつらといふものをゆひて、しろきいとのはしなど、ほどからくみなしてあげまきになをむすびさげて、かたかたに四すぢづつかぶりのつのをはさめて、まへにふたすぢ、うしろにふたすぢ、左右にさげたるなり、云々。
              
(松田『増訂 万葉植物新考』引)

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