ひかげのかずら (日影蔓・日蔭蔓) 

学名  Lycopodium clavatum(L. japonicum)
日本名  ヒカゲノカズラ
科名(日本名)  ヒカゲノカズラ科
  日本語別名  キツネノタスキ、テングノタスキ、カミダスキ、ウサギノタスキ、ヤマウバノタスキ、ヒカゲ、ヤマカズラ(山蔓)、カゲ(蘿)
漢名  石松(セキショウ,shísōng)
科名(漢名)  石松(セキショウ,shísōng)科
  漢語別名  伸筋草(シンキンソウ,shēnjīncăo)、金毛獅子草、金腰帶、獅子草
英名  
辨  ヒカゲノカズラ科
   ヒカゲノカズラ属


 

2013/08/12 長野県北八ヶ岳(白駒池) 

2008/08/29 群馬県浅間高原

 ヒカゲノカズラ科 Lycopodiaceae(石松 shísōng 科)は、世界に3属 約400種がある。

  コスギラン属 Huperzia(石杉屬)
    ボウカズラ H. carinata(Lycopodium laxum, Phlegmariurus carinatus;
         龍骨馬尾杉)
絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
    スギラン H. cryptomerina
    コウヨウザンカズラ H. cunninghamioides(Lycopodium cunninghamioides)
         RedList2020(環境省)では絶滅
    ヒモスギラン H. fargesii(Lycopodium fargesii, Phlegmariurus fargesii;
         金絲條馬尾杉・馬尾伸筋草)
『全国中草葯匯編』下/53-54
         
絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
    ナンカクラン H. fordii(Lycopodium fordii;福氏馬尾杉)
廣東産
    ナガバスギラン H. jejuensis
朝鮮産
    ヒメスギラン H. miyoshiana(H.chinensis subsp.miyoshiana;東北石杉)
    ヨウラクヒバ H. phlegmaria(Lycopodium phlegmaria;龍胡子) 『全国中草葯匯編』下/84
    スギゴケトウゲシバ H. quasipolytrichoides(金發石杉)
    ヒメヨウラクヒバ H. salvinioides(Phlegmariurus salvinioides;柔軟馬尾杉)
         
琉球・臺灣・フィリピン・マラヤ産 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
    コスギラン H. selago(H.selago var.appressa, H.arctica, H.appressa,
         Lycopodium selago;小杉蘭・小接筋草)
『全国中草葯匯編』下/84
    トウゲシバ H. serrata(蛇足石杉)
『(修訂) 中葯志』IV/424
      オニトウゲシバ var. longipetiolata(H.javanica;長柄石杉)
      チャボトウゲシバ var. myriophyllifolia
      ホソバトウゲシバ var. serrrata
        ヒロハノトウゲシバ f. intermedia
    ヒモラン H. sieboldii(Lycopodium sieboldii, Phlegmariurus sieboldii;
        鱗葉馬尾杉)
      リュウキュウヒモラン var. christenseniana
絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
    コスギトウゲシバ H. somae(相馬石杉)
絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
    ムカデカズラ H. squarrosa(Phlegmariurus squarrosa;粗糙馬尾杉)
    

  ヤチスギラン属 Lycopodiella(小石松屬)

  ヒカゲノカズラ属 Lycopodium(石松屬)
   
 ヒカゲノカズラ属 Lycopodium(石松 shísōng 屬)には、約40種がある。

  ミヤマヒカゲノカズラ L. alpinum (Diphasiastrum alpinum;高山石松)
    ニイタカヒカゲノカズラ var. transmorrisonense(L.veitchii)
  スギカズラ L. annotinum (多穗石松・單穗石松・蔓杉・分筋草・二年石松・杉葉蔓石松)
         
『(修訂) 中葯志』IV/425 『全国中草葯匯編』下139-140
    タカネスギカズラ var. acrifolium(L.neopungens)
    ヒロハノスギカズラ var. latifolium
  イヌヤチスギラン L. carolinianum
絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
  ヒモヅル L. casuarinoides (Lycopodiastrum casuarinoides;
         藤子石松・石子藤・舒筋草・伸筋草・木賊葉石松)
『(修訂) 中葯志』IV/424
  ミズスギ L. cernuum (Palhinhaea cernua;舗地蜈蚣・垂穗石松・馬鹿角・過山龍・
         燈籠草・筋骨草)
         『中薬志』Ⅲ/98 『全國中草藥匯編』上/460 『(修訂)中葯志』IV/417-426
  ヒメスギラン L. chinense (Huperzia chinensis;中華石杉・中華石松)
  L. clavatum (石松・伸筋草・獅子尾)
    エゾヒカゲノカズラ var. asiaticum(亞洲石杉)
『(修訂) 中葯志』IV/425
    ヒカゲノカズラ var. nipponicum(var.wallichianum, var.aristatum,
         L.pseudoclavatum, L.japonicum)
  アスヒカズラ L. complanatum (Diphasiastrum complanatum;地刷子石松・扁枝石松・
         掃天晴明草・舒筋草)
  マンネンスギ L. dendroideum(L.juniperoideum, Dendrolycopodium juniperoideum,
         L.verticale, L.obscurum f.strictum;玉柏・玉枝石松・樹状石松・伸筋草)
  ナンゴクアスヒカズラ L. multispicatum
  L. obscurum(玉柏石杉)
『(修訂) 中葯志』IV/425
  L. serratum(蛇足石松・千層塔)
兩廣・貴州・雲南産 『全國中草藥匯編 上』pp.123-124
  L. sitchense
    タカネヒカゲノカズラ var. nikoense(L.alpinum var.nikoense, L.nikoense)
  ニイタカアスヒカズラ L. yueshenense
   
 シダ植物については、しだを見よ。
 和名ヒカゲノカズラとは、むかし新嘗祭などの神事に、笄の左右に懸けて日影を遮るのに用いたことから。
 『倭名類聚抄』蘿に、「比加介」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』石松に、「キツネノヲガセ
新校正 ヒカゲノカヅラ カミダスキ サガリゴケ新古今栄雅抄 ヒカゲグサ ヤマカヅラ倶ニ同上 キツネノタスキ但州 ヤマウバノタスキ豫州 シゝノネバ土州 キツネノケサ豊前 ハイタロ越前 サルヲガセ テングノタスキ江戸」と。
 広く北半球の温帯・暖帯に分布。
 中国では、全草を伸筋草(シンキンソウ,shēnjīncăo)と呼び、胞子を石松子と呼び、それぞれ薬用にする。『中薬志Ⅲ』pp.95-100 『全國中草藥匯編 上』pp.459-460 『(修訂) 中葯志』IV/417-426 
 『古事記』上巻天の石屋戸の伝説に、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天の石屋戸(あめのいはやと)に隠れたとき、天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、「天の香山(あまのかぐやま)の日影(ヒカゲノカズラ)を手次(たすき)に懸けて、天の真拆(マサキ)を縵(かづら)と為(し)て、天の香山の小竹葉(ささば)を手草(たぐさ)に結ひて」踊ったという。(『日本書紀』巻1神代上 第7段「天石窟(あまのいわや)」に、ほぼ同様の伝説が載る。) 
 『万葉集』に、

 あしひきの やまかづらかげ
(山蔓蘿) ましばにも
   え
(得)がたきかげ(蘿)を お(置)きやか(枯)らさむ (14/3573,読人知らず)
 足曳の 山縵
(やまかづら)の児 今日往くと 吾に告げせば 還り来ましを
 足曳の 玉縵の児 今日の如 何
(いづれ)の隈(くま)を 見つつ来にけむ
     
(16/3789;3790, 読人知らず)
 見まくほり おも
(思)ひしなへに かづら(蔓)かけ
   かぐはし君を あひ見つるかも
(18/4120,大伴家持)
 あしひきの やました
(山下)日影 かづら(蘰)ける
   うへ
(上)にやさらに 梅をしの(賞)はむ (19/4278,大伴家持)
 

   ときはなる 日かげのかづら けふしこそ 心の色に ふかく見えけれ
     
(藤原師尹(もろまさ,920-969)「五節の所にて閑院のおほい君(源宗于女)につかはしける」) 
 

 清少納言『枕草子』第66段「草は」には「日かげ」などとある。
 なお、この日かげは、平安時代になると糸を組んだもので代用するようになった。
 藤原道綱母『蜻蛉日記』に、
 入道故中将(藤原義懐,1057-1008)、ためまさの朝臣のむすめをわすれたまひけるのち、ひかげのいと、「むすびて」とてたまへりければ、しれにかはりて、
  かけてみし すゑもたえにし ひかげくさ
   なにによそへて けふむすぶらん
 このひかげについて『雅亮装束抄』に、
 かぶりにひかけといふものを左右のみみのうへにさげたり。かぶりのこじのもとに、ひかげのかつらといふものをゆひて、しろきいとのはしなど、ほどからくみなしてあげまきになをむすびさげて、かたかたに四すぢづつかぶりのつのをはさめて、まへにふたすぢ、うしろにふたすぢ、左右にさげたるなり、云々。
              
(松田『増訂 万葉植物新考』引)

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