とうようらん (東洋蘭) 

 ラン科 ORCHIDACEAE(蘭科) シュンラン属 Cymbidium(蘭屬)のうち、東アジアに産するものを東洋蘭と呼び、次のようなものがある。
   サガミランモドキ C. aberrans(C.nipponicum var.sagamiense) 
マヤランの白花品
   C. cyperifolium(套葉蘭)
   C. dayanum
     カンポウラン var. dayanum(冬鳳蘭・垂蘭)
     ヘツカラン var. austrojaponicum
   C. eburneum(獨占春)
   スルガラン
(オラン) C. ensifolium(建蘭・秋蘭・八月蘭・官蘭;E.Cymbidium)
     var. ensifolium(彩心建蘭)
 『中国本草図録』Ⅳ/1948
     var. susin(素心建蘭)
   C. erythraeum(長葉蘭)
   C. faberi(蕙蘭・九子蘭・九節蘭・土百部・化氣蘭)
   C. floribundum(C. pumillum;多花蘭・夏蘭)
  『雲南の植物Ⅱ』270・『中国本草図録』Ⅱ/0945
   C. giganteum(黄蟬蘭)
   シュンラン C. goeringii(C.virescens;春蘭・朶朶香・草蘭・山蘭)
       
中国の春蘭を、シナシュンラン C.forrestii とすることがある。
     var. serratum(綫葉春蘭)
     var. longibracteatum(春劔)
   ギョクチンラン C. gyokuchin
     ソシンラン var. soshin
   C. hookerianum(虎頭蘭・靑蟬蘭)
 『雲南の植物Ⅱ』270
     var. lowianum(碧玉蘭)
   C. insigne(美花蘭) 
インドシナ高地産
   C. javanicum
   カンラン C. kanran(寒蘭)
 『雲南の植物Ⅱ』272
   コラン C. koran 
   ナギラン C. lancifolium(兔耳蘭)
『週刊朝日百科 植物の世界』9-134
     アキザキナギラン var. aspidistrifolium
   マヤラン C. macrorhizon(C. nipponicum;腐生蘭)
   C. pendulum(硬葉吊蘭・劔蘭・樹茭瓜) 『中国本草図録』Ⅷ/3950
   C. pumillum → C. floribundum
   ホウサイラン C. sinense(墨蘭・報春蘭・豐歳蘭・報歳蘭)
 『中国本草図録』Ⅲ/1447 
 上記に対して、シュンラン属の植物のうち、熱帯産のものを西洋で改良したものを、洋蘭・シンビジウムと呼びならわす。
 漢語では、蘭の字は 香りの高い草を意味する〔蘭=lan=香り高い草〕が、具体的には、時代により指すものが異なる。すなわち、

  1. 唐以前においては 蘭は キク科ヒヨドリバナ属 Eupatorium(澤蘭屬)の草本、ことにはフジバカマを指す〔蘭=lan=フジバカマ〕。
  2. 宋以後においては 蘭は ラン科 Orchidaceae(蘭科)の植物、今日のいわゆるランを指す〔蘭=lan=ラン〕。

 今日の漢語では、Eupatorium を蘭草、Orchidaceae を蘭花、と呼んで区別する。
 以上の蘭は草本であるが、漢人は香りの高い木も 木蘭(ボクラン,mulan,木本の蘭)と認識した〔蘭=lan=香り高い木〕。具体的には、今日のハクモクレンであるという〔蘭=lan=ハクモクレン〕。
 『楚辞』「離騒」に、「朝(あした)には■{阜偏に比}(おか)の木蘭を搴(と)り、夕には洲の宿莽(シュクボウ)を攬(と)る」、「朝に木蘭の墜露を飲み、夕に秋菊の落英を餐(くら)う」とあるなど。
 ハクモクレンの材は、宮殿の建築や造船に用いた。その船を木蘭舟という。
 日本における蘭の字義は、次のような変遷をたどった。

  1. 最も古くは、あららぎの漢字に蘭をあてた。あららぎは「まばらに生えるネギ」の意で、
ノビルを指す〔蘭=あららぎ=ノビル〕。 (ノビルの誌を見よ。)
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、蘭■{艸冠に鬲}は「和名阿良々木」と。
  2. 平安時代には、蘭(らん・らに・らむ)はフジバカマを指すことが、認識された〔蘭=らん・らに=フジバカマ〕。
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、蘭草は「和名布知波加末」、沢蘭は「佐波阿良々岐、一名阿加末久佐」と。
 源順『倭名類聚抄』
(ca.934)に、蘭は「和名本草云布知波賀万、新撰万葉集別用藤袴二字」、沢蘭は「和名佐波阿良々木、一云阿加末久佐」と。
 なお、この沢蘭の訓に見るように、1と2が混線して〔蘭=あららぎ=フジバカマ〕として用いられたことがある。
  3. 鎌倉・室町時代になると、中国からホウサイラン・ソシンランなどが入って、日本・中国に産するランを栽培・鑑賞するようになり、その風は江戸時代の享保(1716-1736)・天明(1781-1789)のころ極まった。この時代、蘭はもっぱらランを指した〔蘭=らん=ラン〕。
  4. 明治以降、イギリス・フランスから洋ランが入ったが、栽培が難しく一般化しなかった。第二次世界大戦後ようやく普及し、1970年ころから商業ベースに乗って流行し、今日に至る。現在では、蘭(ラン)はもっぱら洋ランを指すことが多くなり〔蘭=らん=洋ラン〕、旧来の日本・中国のランは東洋ランと呼んで区別する。
 平安時代以来、次のような成句が行われた。

   蘭橈桂檝
(ランジョウ ケイシュウ, 蘭の棹と 桂の舵)、舷(ふなばた)を東海の東に鼓(たた)
     
(大江朝綱,949作)
   蘭橈桂檝、舷を南海の月に敲
(たた)
     
(『太平記』12,14c.後半)

 中国の木蘭・木蘭舟のイメージを嗣ぎ、〔蘭=らん=香り高い木〕の意で 美称として用いるものであり、特定の樹種を指すものではあるまい。
 しかし、これが後に混線し、今日の各地の方言に残る〔(蘭=)あららぎ=イチイ〕を導いたものであろうか。
 
 
   夜の蘭香
(か)にかくれてや花白し (蕪村,1716-1783)
 

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