辨 |
Kew植物園・『植物智』は、トネリコ Fraxinus japonica を チョウセントネリコ F.chinensis subsp.rhynchophylla(花曲柳)のシノニムとする。しかしながら、逆にチョウセントネリコをトネリコのシノニムとする説もある。 |
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トネリコ属 Fraxinus(梣 cén 屬)の植物には、北半球の亜熱帯・温帯に約50種がある。
アメリカトネリコ F. americana(美國白梣・美國白蠟樹・洋白蠟)
ホソバトネリコ f. angustifolia(窄葉梣)
ミヤマアオダモ F. apertisquamifera 本州(東北南部~中部)・四国産
ヒメトネリコ F. bungeana(小葉梣・小葉白蠟樹・秦皮) 遼寧・華北・山東・安徽産
『中薬志Ⅲ』p.453・『中国本草図録』Ⅳ/1791
トネリコヤチダモ F. chiisanensis
コウリョウトネリコ F. chinensis(F.rhynchophylla var.densata, F.densata,
F.rhynchophylla var.huashanensis, F.szaboana;
梣,シン,cén・白蠟樹) 朝鮮・漢土全域・インドシナ産
『中国本草図録』Ⅱ/0759 『(修訂) 中葯志』V/471-481 『全国中草葯匯編』上/670-672
セイヨウトネリコ F. excelsior(歐梣) イギリス・ヨーロッパ乃至カフカスに分布
シマトネリコ(タイワンシオジ) F. griffithii(F.griffithii var.kosyunensis,
F.formosana, F.eedenii;光蠟樹)
シマタゴ F. insularis(F.retusa, F.floribunda subsp.insularis;苦櫪木)
琉球・臺灣・華東・湖南・兩廣・四川・貴州・雲南産
トネリコ F. japonica
F. lanuginosa
ケアオダモ(アラゲアオダモ) f. lanuginosa(F.sieboldiana var.pubescens)
アオダモ(コバノトネリコ) f. serrata(F.sieboldiana var.serrata)
ビロードアオダモ f. veltina
ヤマトアオダモ(オオトネリコ) F. longicuspis(F.borealis;尖萼梣)
本州・四国・九州・河南・華東産 『中国本草図録』Ⅴ/2245
ツクシトネリコ var. latifolia(var.pilosella, F.satsumana)
F. malacophylla(白槍桿) 廣西・雲南産 『中国本草図録』Ⅴ/2246 『全国中草葯匯編』下/207-208
ヤチダモ F. mandshurica(F.mndshurica var.japonica, F.nigra subsp.mandshurica,
F.excelsissima;水曲柳) 『中国本草図録』Ⅳ/1793
マンナシオジ F. ornus(花梣)
F. paxiana(秦嶺梣) 陝甘・兩湖・四川産
ビロードトネリコ F. pennsylvanica(美國紅梣)
ソウマシオジ var. subintegerrima(F.lanceolata;綠梣・洋白蠟)
シオジ F. platypoda(F.spaethiana;象蠟樹) 本州(関東以西)・四国・九州・陝甘・湖北・四川・貴州・雲南産
ヤマシオジ f. nipponica(F.spaethiana var.nipponica)
チョウセントネリコ(オオトネリコ) F. rhynchophylla
(F.chinensis subsp.rhynchophylla;
花曲柳,カキョクリュウ,huāqūliŭ・大葉梣,タイヨウシン,dàyècén・
苦櫪白蠟樹・東北大葉梣・大葉苦櫪・大葉白蠟樹)
『中薬志Ⅲ』pp.448-453 『全国中草葯匯編』上/670-672 『中国本草図録』Ⅶ/3298
朝鮮・ロシア沿海地方・遼寧・吉林・黑龍江・・華北産
マルバアオダモ F. sieboldiana(F.mariesii;廬山梣)
ハクウントネリコ var. quadrijuga
F. stylosa(F.fallax;宿柱梣) 河南・陝甘・四川産
F. suaveolens(F. sikkimensis;香白蠟樹・錫金梣)
四川・貴州・雲南・チベット・シッキム・アッサム産『雲南の植物Ⅰ』201
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ヨーロッパ・西アジアに分布するものは セイヨウトネリコ F. excelsior (英名は Common ash)。 |
モクセイ科 Oleaceae(木樨 mùxī 科)については、モクセイ科を見よ。 |
訓 |
漢名梣(シン)の音は古来一定しない。今日でも、『漢語大字典』『漢語大詞典』は cén、『中日大辞典』『中国語大辞典』及び『植物智』は chén、ここでは前者に従う。 |
和名トネリコは、ともねりこ(共練濃)の転訛。昔 この樹皮を煮てにかわ状にし、これに墨を混ぜて練り、写経に用いたことから。 |
トネリコ・タモノキの名は、共に平安時代から記録がある。しかし一説に、かつてのトネリコは今日のアオダモ類、タモノキはハルニレあるいはタブノキだという。 |
『本草和名』秦皮、一名岑皮、一名石檀に、「和名止祢利古乃岐、一名多牟岐」と。
『延喜式』秦皮に、「トネリコノカハ」と。
『倭名類聚抄』石檀に「秦皮、一名石檀〔和名止禰利古乃木、一云太無乃木〕」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』に、秦皮は「トネリコ トネリコノキ和名鈔 タムノキ同上 ダゴノキ加州 アヲタゴ木曾 トウネヂコ江州」と。 |
説 |
トネリコは、本州(中部~奥羽)に分布。
チョウセントネリコは、朝鮮・遼寧・吉林・黑龍江・華北・ロシア沿海地方に分布。 |
誌 |
中国では、次のような植物の樹皮を秦皮(シンヒ,qínpí)と呼び薬用にする。 『全国中草葯匯編』上/670-672 『(修訂) 中葯志』V/471-481
ヒメトネリコ Fraxinus bungeana(小葉梣・小葉白蠟樹・秦皮)
〇コウリョウトネリコ Fraxinus chinensis(F.szaboana;梣・白蠟樹)
ヤチダモ Fraxinus mandshurica(水曲柳)
Fraxinus paxiana(秦嶺梣)
ビロードトネリコ Fraxinus pennsylvanica(美國紅梣・美洲綠梣)
〇チョウセントネリコ Fraxinus rhynchophylla(花曲柳・大葉梣)
〇Fraxinus stylosa(F.fallax;宿柱梣)
マンシュウグルミ Jugrans mandshurica
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材は弾力に富み、日本では縄文時代の鳥浜遺跡(福井県三方町)からは弓が出土している。時に稲架木(はさぎ)として田の畔に植えられた。 今日では、野球のバットの材として用いる。 |
北欧神話に出る巨大な宇宙樹イグドラシル Yggdrasill は、セイヨウトネリコ。 |