辨 |
裸子植物については、裸子植物を見よ。 |
スギ属 Cryptomeria(柳杉 liŭshān 屬)には、東アジアに1(-2)種がある。
スギ C. japonica(日本柳杉・杉仔・杉;E.Japanese ceder)
アシウスギ(ウラスギ・キタヤマダイスギ・ダイスギ) f. radicans 日本の日本海側に分布
エンコウスギ 'Araucarioides'
カワイスギ var. sinensis(C. fortunei;柳杉・長葉柳杉・長葉孔雀杉)
『雲南の植物Ⅱ』42・『中国本草図録』Ⅲ/1062
スギは日本の特産と考えられてきたが、近年 華東に自生品が見出された。
これをスギの変種 C.japonica var. sinensis、或は別種の C.fortunei とする。
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ヒノキ科 Cupressaceae(柏 băi 科)については、ヒノキ科を見よ。 |
漢名を杉(サン,shān)・杉木(サンボク,shānmù)というものはコウヨウザン(廣葉杉)、スギ科には属するが 別属別種である。 |
訓 |
和名スギは、「直(す)ぐ木」の転訛、樹幹がまっすぐに立つことによるという。
なお、真木は、古くはスギ・ヒノキなどの常緑針葉樹を指した。マキを見よ。 |
『本草和名』杦材に、「和名須岐乃岐」と。
『倭名類聚抄』杉に「和名須木」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』杉に、「マキ古名 スギ和名鈔」と。 |
説 |
青森県から屋久島まで、点々と天然分布する。
ただし、かなり古くから植栽されてきたので、真の自生地を確認するのは困難という。中では、秋田県米代川流域・鹿児島県屋久島(屋久杉・縄文杉・大王杉)が有名。
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秋田のスギは、日本三大美林の一。
なお、三大美林とは、青森のヒバ(ヒノキアスナロ)林・秋田のスギ林・木曽のヒノキ林を言う。
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屋久島のスギは一般に屋久杉と呼ばれているが、現地では、樹齢1000年以上のものを屋久杉、以下のものを小杉と呼んで区別する。その屋久杉は、今日でも10000本はあるだろうと推測されている。現存する最古の屋久杉は、胸高周囲16m、樹齢3500年といわれる。 |
鳥浜遺跡(福井県三方町にある縄文時代の遺跡)の土中の花粉分析によれば、その地は6500年前からは照葉樹林であったが、5700年前ころからスギ林が広がったという。 |
日本のスギが中国に入ったのは 約千年前、以後各地で植林されているという。中国産という柳杉については、上の辨を見よ。 |
誌 |
木材として軽く、まっすぐなこと、木目の美しさなどから、建築材として用いる。また、樹皮は屋根などに用いる。きわめて古い時代から植林され、今日でも造林面積の40%を占める。 |
静岡県登呂遺跡から出土した、建築材から農業用具に至る多量の木製品は、ほとんどすべてがスギの材であるという。 |
神話伝説では、スギ・ヒノキ・マキ・クスは素戔鳴命(すさのをのみこと)の毛から成ったという(『日本書紀』巻1「材木の起源」)。 |
古代日本では、常緑樹として神聖視され、三輪山を始め、各地の神社に杉の木立が形成された。日光街道(栃木県)の並木も 杉並木。 |
杉の葉を集めて作った杉玉は、近世初期以来、造り酒屋が軒先などにつるした。 |
『万葉集』に詠われる歌は、文藝譜を見よ。代表的なものは、
神名備の 三諸の山に いつく杉 思ひ過ぎめや 蘿(こけ)生(む)すまでに
(13/3228,読人知らず。蘿はここではサルオガセ)
味酒(うまさけ)を 三輪の祝(はふり)が 忌(いは)ふ杉
手触れし罪か 君に遇ひ難き (4/712,丹波大女娘子)
石上 ふるの神杉 神さびし 恋をも我は 更に為るかも (11/2417,読人知らず)
(石神神宮(奈良県天理市)の布留の神杉は、5世紀末頃の顕宗天皇の歌にも歌われる)
古の 人の殖ゑけむ 杉が枝に 霞たなびく 春は来ぬらし (10/1814,読人知らず)
わがせこ(背子)を やまとへや(遣)りて まつしだす
あしがらやま(足柄山)の すぎ(杉)の木のま(間)か (14/3363,読人知らず)
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『新古今集』に、
聞かずともここをせにせん郭公(ほととぎす)山田の原の杉の群立
(西行法師; 山田の原は伊勢)
初雪のふるの神杉うづもれて標(しめ)ゆふのべは冬ごもりせり (藤原長方)
まつ人の麓の道は断えぬらん軒ばの杉に雪おもるなり
(藤原定家; 「山家の雪」をよんで)
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はざまなる杉の大樹の下闇にゆふこがらしは葉おとしやまず
(1915,斉藤茂吉『あらたま』)
山ふかき杉生(すぎふ)のなかにおちたまる杉の落葉はいまだひろはず
山がひの空つたふ日よあるときは杉の根方まで光さしきぬ
(1927「信濃行」,斉藤茂吉『ともしび』)
きさらぎのはだれのうへに見つつゆく杉の青き葉おちてゐたるを
海を吹く風をいたみとさかさまに杉の葉ちりぬ春の斑雪(はだれ)に
(1931「瑞巌寺」,斉藤茂吉『石泉』)
ふる雪の降りみだるれば岡の上の杉の木立もおぼろになりぬ
雪の中より小杉ひともと出でてをり或る時は生(しやう)あるごとくうごく
(1946,齋藤茂吉『白き山』)
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奈良県・京都府・三重県の県木。 |