辨 |
ゴンズイ属 Euscaphis(野鴉椿 yěyāchūn 屬)は、1属1種、東アジアに次のものがある。
ゴンズイ E. japonica(野鴉椿)
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ゴンズイ属 Euscaphis(野鴉椿屬)を、ミツバウツギ属 Staphylea(省沽油屬)に含める考え方がある。 |
ミツバウツギ科 STAPHYLEACEAE(省沽油 shěnggūyóu 科)については、ミツバウツギ科を見よ。 |
訓 |
和名ゴンズイは『大和本草』(1708)に見ゆ。その由来は不明、権萃は当字。
『牧野日本植物圖鑑』に、「和名ごんずゐハ權萃ト書スル事アレドモ當テ字ナリ、予ハ之レヲ役立タヌ意ヲ表セシ名ナリト考フ、我邦ニテ往時此木ニ樗ノ漢名ヲ充ツ(實ハ誤用ナリシモ)、樗(實ハ神樹卽チにはうるしナリ)ハ有用ノ材ニ非ズ、漁夫ノ顧ミザル小魚ニごんずゐアリ此役立タヌ魚ノ名ヲ役立タヌ木ノ樗ト爲セシ本植物ニ適用セシモノナラン」と(『改訂増補 牧野日本植物圖鑑』はこの説を踏襲)。
筆者(嶋田)には、この説はよく理解が届かぬ。
漢土では、かつて Ailanthus altissima(今日名は臭椿、和名ニワウルシ)を「樗」と呼んだ。「樗」は身近に植えられたが、さして役に立たないので「悪木」とされ、「樗材」とは無用の材を意味し、「樗村」とは荒れ果てた村を意味した。日本には Ailanthus altissima を産しないので、江戸時代の人々は、身近にありながら材がさして役に立たない Euscaphis japonica が漢籍に云う「樗」であると考えた。(ここまではよく分る)。
その Euscaphis japonica の和名を「ごんずい」と云う由縁は、漢土で「樗」は役立たずの木とされるのだから、我邦では、役立たずの魚である
Plotosus anguillaris の名「ごんずい」を(役立たずという共通点から) Euscaphis japonica に適用したのだ、という。(この推論式に無理があるように筆者には思われる)。
なお、海産魚のゴンズイ Plotosus anguillaris は、市場に流通するような魚ではないが、「蒲焼き,てんぷらなどに料理すればまずくはな」く(『世界大百科事典』)、「九州北部ではギンギョといい漁村の惣菜として食用され」(本山荻舟『飲食事典』)、「食用となり、味はよい」(『日本国語大辞典
第二版』)。 |
一説に、ゴンズイは牛王杖(ごおうづえ)の転訛かと云う。本種のほか、キブシ・コシアブラにゴンズイの別名がある。
牛王杖とは、熊野牛王の守り札(牛王宝印)を挟む杖。農民は、害虫その他の災害を防ぐために、これを春の苗代に指した。
牛王の守影は、厄除けとして富士浅間神社・熱田神宮・日吉神社・祇園・東寺・奈良大仏殿・高野山・熊野三山などで授けたが、就中熊野のものは所謂烏牛王であり、霊験あらたかなのものとされ、牛王売はこれを全国に売り歩いた。
牛王杖にする木は、普通はヤナギ・ヌルデなど。紀伊有田ではキブシを用いた。 |
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小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)31樗に、「ゴンズイ キツネノチヤブクロ スゞメノチヤブクロ ウメボシノキ ツミクソノキ泉州 ハゼナ土州 クロハゼ同上 ダンギナ紀州 ハナゝ ダンギリ共同上 タンギ勢州 クロクサギ播州 ゴマノキ肥州」と。 |
説 |
本州(関東以西)・四国・九州・琉球・朝鮮(南部)・臺灣・華東・華北・兩湖・兩廣・四川・貴州・雲南・ベトナムに分布。 |
誌 |
嫩葉は食用。「鈍葉をとってゆでて和え物・浸し物にするとよく、種子はササゲに似た味があって香りもよいという」(本山荻舟『飲食事典』)。
中国では、根(野鴉椿根)・花(野鴉椿花)・果或は種子(野鴉椿子)を薬用にし、種子からは油を採る。 『全国中草葯匯編』上/789
日本では、材は臭いがあるので薪にしか用いず、役立たずの木といわれる。 |