辨 |
和名にかかわらず、オモダカ科のクワイとはまったくの別植物。
中華料理に用いられるクログワイは同属異種、下の誌を見よ。 |
ハリイ属 Eleocharis(荸薺 bíqí 屬)については、ハリイ属を見よ。 |
訓 |
『本草和名』烏芋に、「和名於毛多加、一名久呂久和為」と。
『倭名類聚抄』烏芋に、「和名久和井」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』烏芋に、「クログワヰ グワヰヅル ギワヰヅル播州 イゴ スルリン共ニ同上 コメカミ土州阿州 ゴヤ阿州 ズルリ備前 ギワ防州 シリサシ越前 アブラスゲ仙台」と。 |
説 |
本州(関東北陸以西)・四国・九州・朝鮮(南部)に分布。近畿地方の池沼によく見られ、また水田の雑草。 |
誌 |
地下の塊茎を食用にする。 |
古くから詩歌に詠われた「ゑぐ」(食うとえぐいことから)という植物は、古来議論があるが、クログワイとする説が強い。ただし、平安時代以降はその実態がわからなくなっていったものと言う。
君がため 山田の沢に ゑぐ採むと 雪消の水に 裳の裾ぬれぬ
(『万葉集』10/1839,読人知らず。『後撰集』に、
「君がため 山田の沢に ゑぐつむと ぬれにし袖は 今もかはかず」と)
足ひきの 山沢ゑぐを 採みにゆかむ 日だにもあはせ 母は責むとも
『万葉集』(11/2760,読人知らず)
さは(澤)もと(解)けず つ(摘)めどかたみに とゞ(留)まらで
めにもたま(溜)らぬ ゑぐのくさぐき(草茎)
(西行(1118-1190)『山家集』)
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「津の国河内辺に多く作る物なり」(宮崎安貞『農業全書』1697)。 |
今日中華料理で通称クログワイとして用いられるものは、カヤツリグサ科のシナクログワイ(オオクログワイ) Eleocharis dulcis var.tuberosa(E.tuberosa)の塊茎(径2.5-4cm)。漢名は荸薺(ボツセイ,bíqí)・馬蹄(バテイ,mătí)・烏芋(ウウ,wūyù)、英名は Chinese water-chestnut。甘みがあり、生食も可能だが、調理後にもシャリシャリした歯触りが残るので、中華料理で珍重する。イヌクログワイ(シログワイ) E. dulcis(旧世界の亜熱帯の沼沢地帯原産) から中国で作られた栽培品、水稲の裏作とする。
なお、薺字についてはナズナの訓を見よ。 |