しい (椎) 

学名  Castanopsis sieboldii subsp. sieboldii
 (C.cuspidata var.sieboldii)
日本名  シイ
科名(日本名)  ブナ科
  日本語別名  スダジイ、イタジイ、ナガジイ
漢名  長果錐(チョウカスイ,chángguŏzhuī) 
科名(漢名)  殻斗(カクト,qiàodŏu)科 
  漢語別名  
英名  
2024/03/16 小石川植物園 

2024/04/11 植物多様性センター 
2024/04/25 同上 
雄花   2024/05/02 同上 
雌花   2024/05/10 同上 

2023/05/10 小石川植物園 
雌花序と 雄花序

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2023/06/20 同上 
2012/09/14 同上

2006/10/19 神代植物公園

 シイ属 Castanopsis(錐 zhuī 屬)には、東南アジアを中心に約100-120種がある。

   トガリバシイ C. acuminatissima
中国南部・臺灣・マレシア・ニューギニア産
   C. amabilis(南寧錐)
   C. angustifolia(窄葉錐)
   C. argyrophylla (銀葉栲・銀葉錐・慢蹬)
   C. boisii(欖穀錐・南錐)
   C. calathiformis (枹絲栲・枹絲錐・枹絲栗・黃栗・大葉枹・槍絲錐)
   タカサゴジイ C. carlesii (C.cuspidata var.carlesii;小紅栲・米櫧)
         
種子を生食
   C. ceratacantha (瓦山栲・瓦山錐)
 四川・貴州・雲南産 『雲南の植物Ⅱ』151
   C. cerebrina(毛葉杯錐)
   ケイリンクリガシ C. chinensis(・桂林栲・米霧・栲栗・桂林錐) 
         兩廣・雲南・貴州産 種子を生食
   C. chunii (厚皮栲・厚皮錐・厚皮絲栗)
   C. concinna (華南栲・華南錐)
   C. crassifolia(厚葉錐)
   ツブラジイ
(コジイ) C. cuspidata(C.thunberii, Shiia cuspidata;尖葉栲)
         
本州(関東以南)・四国・九州・屋久島・済州島産 
   C. delavayi (高山栲・高山錐・白猪栗・毛栗・絲栗) 種子は生食
   C. densispinosa(密刺錐)
   C. diversifolia (滇栲・異葉錐)
   C. echinocarpa(短刺錐)
   ハリジイノキ C. eyrei (甜櫧栲・甜櫧・石栗子・絲栗) 種子は生食
   ヒシガタクリガシ C. faberi (C.stellatospina;
         羅浮栲・羅浮錐・酒枹・白椽・三檢錐)
   クリガシ C. fargesii (・絲栗栲・大絲栗樹・絲栗樹)
         
臺灣・華東・兩湖・兩廣・西南産
   C. ferox (思茅栲・思茅錐)
   C. fissa (黧蒴栲・裂殼錐)
 福建・江西・湖南・兩廣・貴州・雲南・ベトナム産
   C. fleuryi(小果錐)
   C. fordii (南嶺栲・南嶺錐・毛櫧・水犂・毛栲) 種子は生食
   タイワンクリガシ C. formosana(黃楣錐)
   C. globigemmata(圓芽錐)
   C. hainanensis (海南栲・海南錐)
   C. hupehensis(湖北錐)
   C. hystrix (刺栲・栲樹・小紅栗栲・紅栲・紅錐) 種子は生食
   ホソバクリガシ C. indica (印度栲・印度錐・紅眉子・黄眉・印度錐栗)
          兩廣・雲南・チベット・ヒマラヤ・インドシナ産。種子は生食する
   C. jiangfenglingensis(尖峰嶺錐)
   C. jucunda (烏楣栲・烏楣・牛牯錐・鐡楣・秀麗錐)
   オオクリガシ C. kawakamii (靑鈎栲・靑鈎錐栗・吊皮錐) 種子は食用
   クサノクリガシ C. kusanoi
一説に C.faberi のシノニム
   C. kweichouensis(貴州錐)
   C. lamontii (紅勾栲・紅勾・白椽・石椎樹・鹿角錐)
 種子は生食
   ナガバシイ C. longicaudata
一説に C.carlesii のシノニム
   C. longzhouica(龍州錐)
   C. megaphylla(大葉錐)
   C. mekongensis(湄公錐)
   C. microcarpa (小果栲)
   C. nigrescens(黑葉錐)
   C. oblonga(矩葉錐)
   C. orthacantha (毛果栲・元江栲・元江錐・猪栗・毛錐栗・扁栗)
         
貴州・四川・雲南産 『雲南の植物Ⅱ』151
   C. ouonbinensis(屏邊錐)
   C. platycantha (扁刺栲・扁刺錐・絲栗・白石栗・猴栗)
           種子は生食する。『中国本草図録』Ⅶ/3052
   C. poilanei(棕毛錐)
   C. rockii(龍陵錐)
   C. sclerophylla (苦櫧栲・苦櫧・苦櫧錐・苦栗)
 種子(苦櫧)から豆腐を作る
   C. sichourensis(四疇錐)
   C. rufotomentosa(紅殼錐)
   C. sieboldii
     
スダジイ(イタジイ・ナガジイ) subsp. sieboldii(C.cuspidata var.sieboldii;
         長果錐)
     オキナワジイ subsp. lutchuensis(C.lutchuensis,
         C.cuspidata var.lutchuensis)
琉球産 
   C. tcheponensis(薄葉栲・薄葉錐)
 雲南禹・インドシナ産 『雲南の植物Ⅲ』154
   C. tibetana (鈎栲・鈎錐・鈎栗・大葉錐栗・猴栗) 種子は生食
   C. tonkinensis(公孫錐)
   C. tribuloides (蒺藜栲・蒺藜錐)
   ウライガシ C. uraiana(淋漓錐・鱗苞錐) 
    
 ブナ科 Fagaceae(殻斗 qiàodŏu 科)については、ブナ科を見よ。
 Castanopsis の漢名は、『中國高等植物圖鑑』では栲(コウ,kăo)屬乃至錐(スイ,zhuī)屬、『植物智』では錐屬。
 栲(コウ,kăo)には二義あり。①ゴンズイ、②シイの仲間。
 錐(スイ,zhuī)の字義は(工具の)きり(錐)であり、何故にこれをシイの仲間の名とするのかは筆者(嶋田)には未詳〔或は実の形が円錐状であることからか〕。
 なお、日本で用いる椎(しい)の字は、椎(ツイ,chuí)と読めばつち(槌)、椎(スイ,zhuī)と読めば①シイの仲間、②骨の一種(頸椎・脊椎の椎)。
 『本草和名』及び『倭名類聚抄』椎に、「和名之比」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』に、柯樹は「シヒ シヒノキ」と。
 「和名ノすだ・いた共ニ其意不明、長じひハ其子實長キ故云フ、又しひモ同ジク其原意分明ナラズ一二ノ臆説アレドモ信ジ難シ、云々」(『牧野日本植物圖鑑』)。
 本州(福島新潟以西)・四国・九州・屋久島・済州島に分布。
 照葉樹林を構成する 主要な構成員の一。
 材は建築・器具材、しいたけのほだ木などに用いる。
 樹皮にはタンニンを含み、染色に用いる。
 果実は渋みがなく、生で食える。ただし、本格的に食用されることはなく、「子供のいたずら食いにしかなっていない」(中尾佐助「農業起源論」)。 
〔筆者(嶋田)も子供のころ拾って食った。うまかった。〕  
 『万葉集』に、

   家にあれば笥
(け)に盛る飯(いい)を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る (2/142,有間皇子)
   片岡の此の向つ峯に椎蒔かば今年の夏の陰に比
(そ)へむか (7/1009,読人知らず)
   おそはや
(遅速)もな(汝)をこそま(待)ためむか(向)つを(嶺)
     しひ
(椎)のこやで(小枝)のあ(逢)ひはたが(違)はじ (14/3493,読人知らず)

とある。小さなシイの葉の上に、どのようにご飯を盛りつけたのであろうか。 
 清少納言『枕草子』第40段「花の木ならぬは」に、「しひの木、ときは(常磐)木はいづれもあるを、それしも、葉がへ(滅)せぬためしにいはれたるもをかし。」と。

   ときは山 しひのしたしば
(下柴) かりすてん かくれておもふ かひのなきかと
   ならびゐて とも
(友)をはなれぬ こがらめの ねぐらに憑(たのむ) しひの下えだ
     
(西行(1118-1190)『山家集』。こがらめは、コガラ)
 
 『花壇地錦抄』(1695)巻三「冬木之分」に、「葉、かしに似て、異有」と。
 
宮崎安貞『農業全書』(1697)に、「枝葉共に薪にしてよくもえ、子は菓子にし、多く収めをきては飢餓をも助くる物なり」と。

   旅人のこゝろにも似よ椎の花 
(芭蕉,1644-1694)
   先
(まづ)たのむ椎の木も有(あり)夏木立 (同)

   椎の葉に揃はぬ箸やかたつぶり 
(蕪村,1716-1783)
   椎の花人もすさめぬにほひ哉 
(同)
   丸盆の椎にむかしの音聞
(きか)む (同。椎はシイの実)
   誰拾ふ横河
(よかわ)の児(ちご)のいとま哉 (同)
 
 「僕の家というは、松戸から二里許り下って、矢切の渡を東へ渡り、小高い岡の上でやはり矢切村と云っている所。・・・屋敷の西側に一丈五六尺も廻るような椎の樹が四五本重なり合って立って居る。村一番の忌森で村じゅうから羨ましがられている。昔から何程暴風(あらし)が吹いても、此椎森のために、僕の家許りは屋根を剥がれたことは只の一度もないとの話だ。家なども随分古い、柱が残らず椎の木だ」(伊藤左千夫『野菊の墓』1906)
 
   墓地に来て椎の落葉を聴くときぞ音のさびしき夏は来むかふ
   夏にいる椎の落葉のおと聴けば時雨に似たる音のさびしさ
     
(1917,斉藤茂吉『あらたま』)
 

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