『万葉集』中、タケ・ササ・シノをよむ歌 
 

→タケ


長歌

竹玉(たかたま)は、細い竹を 短く輪切りにして 緒に貫いたもの、神事に用いた。

 ・・・ 吾が屋戸に 御諸
(みもろ)を立てて 枕辺に 斎(いはひ)べを居(す)
 竹玉を 間無く貫き垂り 木綿襷
(ゆうだすき) かひなに懸けて ・・・ (3/420,丹生王)

 ・・・ 竹珠を 密
(しじ)に貫き垂り 斎べに 木綿取り四手(しで)て ・・・
      
(9/1790,読人知らず)

 ・・・ 斎
(いはひ)べを いはひ穿(ほ)りすえ 竹珠を 間無く貫き垂れ ・・・
      (13/3284,読人知らず)


短歌

 御苑ふの 竹の林に 鶯は しばな(鳴)きにしを 雪はふりつつ (19/4285,大伴家持)
 うめ
(梅)のはな ち(散)らまくを(惜)しみ わがその(園)
    たけのはやしに うぐひすな
(鳴)くも (5/824,阿氏奥島)
 打ち靡く 春去り来れば 小竹
(しの)の末(うれ)に 尾羽打ち触れて 鶯鳴くも
   
(10/1830,読人知らず)
 小竹
(しの)の上に 来居て鳴く鳥 目を安み 人妻ゆゑに吾 恋ひにけり (12/3093,読人知らず)
 秋柏 潤和川
辺の 細竹(しの)の目(芽)の 人にはあはね 公にあへなくに
   
(11/2478,読人知らず。別訓に、人に逢ひ見じ 公にあへなく)
 朝柏 閏八河辺の 小竹
(しの)の眼(芽)の 思(しの)びて宿(ね)れば 夢に見えけり
   
(11/2754,読人知らず)

 うゑだけ
(植竹)の もと(本)さへとよ(響)み い(出)でてい(去)なば
   いずし
(何方)(向)きてか いも(妹)がなげ(嘆)かむ (14/3474,読人知らず)
 わが屋どの いささ村竹 ふ
(吹)く風の おと(音)のかそけき このゆふべ(夕)かも
   
(19/4291,大伴家持)
 神なびの 浅小竹原
(あさしのはら)の 美しみ わが思ふ公が 声のしる(著)けく
   
(11/2774,読人知らず)
 やまとには 聞こえ往かぬか 大我野
(おおがの)
   竹葉
(たかは)苅り敷き 廬(いほり)せりとは (9/1677,読人知らず)
 小竹
(ささ)の葉は み山もさやに 乱るとも(さやげども) 吾は妹思ふ別れ来ぬれば
   
(2/133,柿本人麻呂)
 妹らがり 我が通う路の 細竹(しの)すすき 我し通はば 靡け細竹原(しのはら)
    (7/1121,読み人知らず)
 淡海のや 八橋の小竹
(しの)を や(矢)はかずて 信(まこと)ありえめや 恋ひしきものを
   
(7/1350,読人知らず)
 刺す竹の よ隠
(ごも)りてあれ 吾が背子が
    吾許
(わがり)し来ずは 吾恋ひめやも (11/2773,読人知らず)

 ささ
(小竹)がは(葉)の さやぐしもよ(霜夜)に ななへ(七重)かる
   ころも
(衣)にま(益)せる こ(子)ろがはだ(膚)はも (20/4431,防人の歌)
 甚だも 夜深けてな行き 道の邊の 斎小竹
(ゆささ)の上に 霜の降る夜を (10/2336,読人知らず)
 うまぐた
(馬来田)の ね(嶺)ろのささ葉の つゆしも(露霜)
   ぬ
(濡)れてわきなば 汝(な)はこ(恋)ふばそも (14/3382,読人知らず)

 かくしてや 尚や老ひなむ み雪ふる 大荒木野の 小竹(しの)に有らなくに (7/1349,読人知らず)
 小竹の葉に はだれ降り覆ひ 消(け)なばかも 忘れむと云へば 益して念(おも)ほゆ
    (10/2337,読人知らず)


旋頭歌

 池の辺の 小槻(をつき)が下の 細竹(しの)な苅りそね
   それをだに 公が形見に みつつ偲ばむ
(7/1276,読人知らず)


枕詞「さ(刺す)すたけの(よく伸びよく繁る竹のイメージから、「大宮・君・舎人」などにかかる。)

 ・・・ そこ故に 皇子の宮人 行方知らずも
 
(一に云ふ、刺す竹の 皇子の宮人 ゆくへ知らにす。2/167,柿本人麻呂、草壁皇子を悼んで)
 ・・・ 吾ご大王 皇子の御門を ・・・
 
(一に云ふ、刺す竹の 皇子の御門を。2/199,柿本人麻呂、高市皇子を悼んで)

 刺す竹の 大宮人の 家と住む 佐保の山をば 思ふやも君
(6/955,石川足人)
 さすだけの 大宮人は いまもかも ひと
(人)なぶりのみ このみたるらむ (15/3758,読人知らず)
 ・・・ 刺す竹の 大宮人の 踏み平
(なら)し 通ひし道は ・・・ (6/1047,田辺福麿)
 ・・・ 刺す竹の 大宮此こと 定めけらしも (6/1050,田辺福麿)

 ・・・ 刺す竹の 舎人壮も ・・・
(16/3791,読人知らず)

枕詞「なよたけ(弱竹)の(しなやかなさまから、「とを(撓)よる」などにかかる。)

 秋山の したへる妹 なよ竹の とをよる子らは 何方(いかさま)に 念ひ居れか ・・・
   
(2/217,柿本人麻呂)

枕詞「ももしの(百小竹)の(「みの」にかかる。)

 百小竹の 三野の王 ・・・
   
(13/3327,読人知らず)

枕詞「水薦(みすず)刈る」(「信濃」にかかる)

 水薦刈る信濃の真弓吾が引かばうま人さびていなと言はむかも
 水薦刈る信濃の真弓引かずして弦(を)はくる行事(わざ)を知るとは言はなくに
     
(2/96;97, 久米禅師及び石川郎女の贈答歌)
 この「水薦刈」三字は、古くは「みこもかる」と読み、マコモを指すものとしていた。
 羽倉信名『万葉集童蒙抄』は、これを「みすずかる」と訓んだ。また賀茂真淵は、「水薦刈」は「水篶刈(みすずかる)」の誤字とした。
 それでは、このスズとは何を指すかについて、有力な説は三つ。
   スズタケ Sasamorpha borealis
   ネマガリダケ(チシマザサ) Sasa kurilensis
   チマキザサ Sasa palmata
 東北ではネマガリダケをスズタケと呼び、信州ではチマキザサをスズタケと呼ぶという。
 後には、「みすずかる」は信濃にかかる枕詞として定着し、今日に至る。



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