『万葉集』中、アヅサをよむ歌
→あずさ
長歌
やすみしし わご大君(舒明天皇,在位629-641)の
朝(あした)には とり撫でたまひ 夕(ゆふべ)には い倚り立たしし
御執(みと)らしの 梓の弓の 金弭(かなはず)の 音すなり
朝猟(あさかり)に 今立たすらし 夕猟(ゆふかり)に 今立たすらし
御執らしの 梓の弓の 金弭の 音すなり (1/3)
梓弓 手に取り持ちて 大夫(ますらを)の 得物矢(さつや)手挟み
立ち向う 高円山に ・・・ (2/230,笠金村)
・・・ 大夫の 心振り起し 剣刀(つるぎたち) 腰に取り佩き
梓弓 靱(ゆき)取り負ひて ・・・ (3/478,大伴家持)
・・・ なく児なす ゆき(靫)取りさぐり 梓弓 弓腹振り起し
しのぎ羽を 二つ手挟み はなちけむ 人し悔(くちを)し 恋ふらく思へば
(13/3302,読人知らず)
・・・ 梓弓 八つたばさみ ひめかぶら(鏑) 八つたばさみ
しし(鹿)待つと 吾が居る時に ・・・ (16/3885,読人知らず)
・・・ 梓弓 手にとりもちて 剣大刀 こし(腰)にと(取)りは(佩)き
あさ(朝)まも(守)り ゆふ(夕)のまもりに 大王の み門のまもり
われ(吾)をおきて ひと(人)はあらじと ・・・ (18/4094,大伴家持)
・・・ 梓弓 すゑ(末)ふ(振)りおこし 投矢(なげや)もち 千尋い(射)わたし
剣刀 こし(腰)にと(取)りは(佩)き ・・・ (19/4164,大伴家持)
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短歌
梓弓 引かばまにまに 依らめども 後の心を 知りかねてかも
梓弓 つらを(絃緒)取りはけ 引く人は 後の心を 知る人そ引く
(石川郎女及び久米禅師,2/98;99)
梓弓 爪引く夜音(よと)の 遠音(とおと)にも 君が御幸を 聞かしく好しも (4/531,海上王)
梓弓 弓束(ゆつか)巻き易へ 中見さし 更に引くとも 君が随意(まにまに) (11/2830,読人知らず)
お(置)きてい(行)かば いも(妹)ばまかなし も(持)ちてゆく
あずさのゆみの ゆつか(弓束)にもがも (14/3567,防人の歌)
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枕詞「梓弓」(い・いる・ひく・はる・もと・すえ・つる・よる・かえる・や・音などにかかる)
梓弓 引き豊国の 鏡山 見ず久ならば 恋しけむかも (3/311,くら作村主益人)
梓弓 引津邊(ひきつべ)に在る なのりそ(名告藻)の花
採むまでに あ(逢)はざらめやも なのりその花 (7/1279,読人知らず)
梓弓 引津邊に有る なのりそ(莫告藻)の 花咲くまでに 会はぬ君かも (10/1930,読人知らず)
梓弓 引きて許さず 有らませば かかる恋には あはざらましを (11/2505,読人知らず)
梓弓 引きみ弛へみ 来ずは来ず 来ばそ其を何ど 来ずは来ば其を (11/2640,読人知らず)
梓弓 引きみゆるへみ 思ひ見て 既に心は よりにし物を (12/2986,読人知らず)
梓弓 引きて緩へぬ 大夫(ますらを)や 恋と云ふ物を 忍びかねてむ (12/2987,読人知らず)
今更に 何しか念はむ 梓弓 引きみ弛へみ よりにしものを (12/2989,読人知らず)
梓弓 春山近く 家居れば 続ぎて聞くらむ 鶯の音 (10/1829,読人知らず)
しなが鳥 安房に継ぎたる 梓弓 すえ(周淮)の珠名は ・・・ (9/1738,読人知らず)
梓弓 末の腹野に 鷹狩(とがり)する 君が弓づるの 絶えむと念へや (11/2638,読人知らず)
梓弓 末はし知らず しかれども まさかは君に よりにし物を (12/2985,読人知らず)
梓弓 末の中ころ 不通(よど)めりし 君には会ひぬ なげきは息(や)めむ
(12/2988,読人知らず)
梓弓 末は知らねど 愛(うつく)しみ 君に副(たぐ)ひて 山道越え来ぬ
(12/3149,読人知らず)
あづさゆみ すゑにたま(玉)ま(纏)き かくす(為)す(為)そ
宿(寝)ななな(成)りにし おく(将来)をか(兼)ぬか(兼)ぬ (14/3487,読人知らず)
あづさゆみ すゑはよ(寄)りね(寝)む まさか(現在)こそ
ひとめ(人目)をおほ(多)み な(汝)をはし(端)にお(置)けれ (14/3491,読人知らず)
・・・ 梓弓 音聞く吾も 髣髴(おぼ)に見し 事悔しきを ・・・
(2/217,柿本人麻呂)
あづさゆみ よらのやまべ(山辺)の しげ(繁)かくに
いも(妹)ろをた(立)てて さねど(寝処)はら(払)ふも (14/3487,読人知らず)
梓弓爪引く夜音(よと)の遠音(とおと)にも君が御幸を聞かしく好しも (4/531,海上王)
・・・ 梓弧 爪ひく夜音(よと)の 遠音にも 聞けば悲しみ ・・・
(19/4214,大伴家持)
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枕詞「玉梓(たまづさ)の」(上古、使者は音信を梓・松などの枝につけて運んだことから、使いにかかる枕詞)
・・・ 渡る日の 晩(く)れ去(ゆ)くが如 照る月の 雲隠る如
奥津藻の なびきし妹は 黄葉(もみちば)の 過ぎて去(い)にきと
玉梓の 使の言へば 梓弓 声(をと)に聞きて
言はむすべ せ(為)むすべ知らに 声のみを 聞きて有り得ねば ・・・
(2/207,柿本人麻呂。妻を悼んで)
玉梓のきみが使の手折りける此の秋芽子(あきはぎ)の見れど飽かぬかも
(10/2111,読人知らず)
あはなくは然も有りなむ玉梓の使をだにも待ちやかねてむ (12/3103,読人知らず)
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