咽び嘆かふわが胸の曇り物憂き
紗の帳(とばり)しなめきかゝげ、かゞやかに、
或日は映る君が面(おも)、媚(こび)の野にさく
阿芙蓉の萎(ぬ)え嬌(なま)めけるその匂ひ。
魂をも蕩(た)らす私語(さゝめき)に誘(さそ)はれつゝも、
われはまた君を擁(いだ)きて泣くなめり。
極祕(ごくひ)の愁、夢のわな、――君が腕(かひな)に、
痛ましきわがたゞむきはとらはれぬ。
また或宵は君見えず、生絹(すずし)の衣(きぬ)の
衣ずれの音のさやさやすゞろかに
たゞ傳ふのみ、わが心この時裂けつ。
茉莉(まつり)花の夜の一室(ま)の香のかげに
まじれる君が微笑(ほゝゑみ)はわが身の痍(きず)を
もとめ來て沁みて薫りぬ、貴(あて)にしみらに。
|