作者名  萩原朔太郎 (1886-1942)
作品名  竹
制作年代  
収載書名  月に吠える
刊行年代  1917
 その他  

   竹

ますぐなるもの地面に生え、
するどき青きもの地面に生え、
凍れる冬をつらぬきて、
そのみどり葉光る朝の空路に、
なみだたれ、
なみだをたれ、
いまはや懺悔をはれる肩の上より、
けぶれる竹の根はひろごり、
するどき青きもの地面に生え。


   竹

光る地面に竹が生え、
青竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるえ。
かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、
青空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。

   みよすべての罪はしるされたり
   されどすべては我にあらざりき、
   まことにわれに現はれしは、
   かげなき青き炎の幻影のみ、
   雪の上に消えさる哀傷の幽霊のみ、
   ああかかる日のせつなる懺悔をも何かせむ、
   すべては青きほのほの幻影のみ。
 

 詠いこまれた花   タケ




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