辨 |
ヤマノイモという言葉が指す内容について、植物学上の用語と農林水産省が用いる用語との間に差異がある。
学名 |
植物学用語 |
農林水産省の用語 |
Dioscorea japonica |
ヤマノイモ |
ジネンジョ |
Dioscorea polystachya |
ナガイモ |
ヤマノイモ |
ここでは植物学の用語法に従い、D.japonica をヤマノイモと言い、D.polystachya
をナガイモと言う。
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野生のヤマノイモ D.japonica と、栽培するナガイモ D.ploystachya との間には、雑種と思われる中間型があって、両者の区別は困難である(『週刊朝日百科 植物の世界』9-262)。 |
ヤマノイモ属 Dioscorea(薯蕷 shŭyù 屬)については、ヤマノイモ属を見よ。 |
訓 |
和名は、畑に栽培するサトイモ(里芋)に対して山芋(やまいも)といい、芋が長いので長芋(ながいも)という。 |
漢名 山藥(サンヤク,shānyào)は、そのイモを薬用にすることから。
芋(ウ,yù)、薯・藷(ショ,shŭ)は、いずれもイモ。薯蕷(ショヨ,shŭyù)は、薯芋・薯藇・藷藇などとも書く。 |
日本では、深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、薯蕷は「和名也末都以毛」、薢は「和名止古呂」、萆解は「和名於尓止古呂」と。
源順『倭名類聚抄』(ca.934)に、署預一名山芋は「和名夜万都以毛、俗云山乃以毛」、零餘子は「和名沼加古」、薢は「和名土古呂」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』14下(1806)萆薢に「トコロ アマドコロ委蕤ト同名 江戸ドコロ京 カンドコロ佐州」と、23薯蕷に「ヤマツイモ和名鈔 ヤマノイモ ナガイモ」「零余子 ヌカゴ古名薩州 ムカゴ メカゴ豫州 マカコ石州 ガコ筑前 クハンゴ同上 カゴモ防州 カグモ長州 イモカゴ三州 イモシカゴ常州 イモゴ佐州 クロメ相州 バンコ肥前」と。 |
属名 Dioscorea は、紀元前1世紀のギリシアの医者ディオスコリデス Dioscorides に因む。 |
説 |
アジア温帯の照葉樹林の原産、中国中南部に野生。日本には中世に渡来し、各地で栽培されている。 |
誌 |
ヤムイモ Yam(ヤマノイモ属の植物の塊茎)は、世界各地で古来重要な食用イモ。
西アフリカにおけるB.C.50,000年ころからの出土物により、当時すでに野生ヤムが食用にされていたことが知られるという。 |
B.C.3000年ころのヤムイモの栽培圏は二つあり、一は東南アジア、一は西アフリカ。 |
日本では、近世に新大陸起源のサツマイモ・ジャガイモが渡来する以前、ナガイモはサトイモとともに古来の代表的なイモであった。
日本のナガイモは、イモ部分の形などによって、次の4種類に分れる。
(1) 長薯。円柱形で細長く長50-100cm。東北地方・長野県など寒冷地で栽培。 |
(2) 徳利薯・杵薯。短く太い棒状で長30cm程度。関東-関西で栽培。 |
(3) 仏掌薯・いちょう薯(東京では「大和薯」と呼ぶ)。扁平で扇型。関東以西で栽培。 |
(4) 大和薯・伊勢薯・豊後薯・つくね薯。
球形ないし塊形で、粘りが強い。西日本暖地で栽培。 |
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ヤマノイモ属の根は、古来薬用にする。
中国では、ナガイモ Dioscorea polystachya(D.batatas, D.opposita;普通山藥・薯蕷)の根を山藥(サンヤク,shānyào)と呼び薬用にし、ヤマノイモ(ジネンジョ) D. japonica(日本薯蕷)の根を同様に用いる。『全國中草藥匯編 上』p.109-110,『中薬志Ⅰ』pp.57-59
日本では、生薬サンヤク(山薬)は ヤマノイモ(ジネンジョ)又はナガイモの周皮を除いた根茎(担根体)である(第十八改正日本薬局方)。 |