しろばなわた (白花綿) 

学名  Gossypium herbaceum
日本名  シロバナワタ
科名(日本名)  アオイ科
  日本語別名  アジアメン・アジアワタ
漢名  草棉(ソウメン,căomián)
科名(漢名)  錦葵(キンキ,jĭnkuí)科
  漢語別名  亞拉伯棉(アラハクメン,yalabo mian)、小棉(xiaomian)、非洲棉(ヒシュウメン,feizhou mian)
英名  
2005/08/02 薬用植物園
2007/10/08 同上
2006/08/02 三芳町上富
 ワタ属 Gossypium(棉 mián 屬)の植物については、ワタ属を見よ。
 そのうち4種は綿花を取るために栽培する(E. cotton-plant)。
 栽培品のうち、旧世界のワタは2倍体、新世界のワタは4倍体。新世界のワタは、旧世界のワタと新世界の野生2倍体の交雑により成立したと考えられているが、いつどこでできたかは不明。
 アオイ科 Malvaceae(錦葵 jĭnkuí 科)については、アオイ科を見よ。
 和名わたは、原義はふわふわした繊維の塊。古くは蚕の繭から取る真綿(まわた)・絹綿(きぬわた)を指したが、木綿(もめん)が普及してからは木綿綿(もめんわた)を指すことが多い。
 木綿(きわた,もめん)の語は、元来は 高さ4-6mにも及ぶというモクメンを指したはずだが、江戸時代初めからこのワタ(アジアメン・シロバナワタ)を指す語として用いる。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)32に、「木棉 パンヤ」「草綿 キワタ トウワタ ワタ」と。
 漢語では、綿(メン,mian)の原義はまわた(カイコの繭を潰してさいたもの)、のちもめんわたをも意味するようになった。
 (メン,mian)は わた
(もめんわた)の木・きわた、つまりここにいうワタ
 中央アジア原産(一説にアラビア原産、一説に原産地不明)、広く地中海地方・西アジア・インドにかけて栽培されている。短毛だが、成長が早い。
 中国では、廣東・雲南・四川・甘肅・新疆で栽培。日本でも、在来種はこの系統。
 果実は、熟すと裂開し、白い綿毛に包まれた多数の種子を露出する。これを cotton ball と呼ぶ。
 世界で最も古く綿を利用したのはインド。モヘンジョ・ダロの遺跡から2500B.C.-1500B.C.の綿布が出土。また『リグヴェーダ』に綿が記される。
 ヨーロッパにはアレクサンダー大王の東征(327B.C.)によって種子がもたらされた。エジプトではca.200B.C.から栽培。
 種子につく綿毛をもめんわたとし、紡績原料とする。また脱脂・漂白したものを脱脂綿として医療に用いる。
 種子からは、綿実油を採る。
 中国には、1世紀にインドから綿布が入る。10世紀に種子が入り、観賞用に栽培。12世紀より繊維植物として本格的に栽培した。
 中国では、アジアメン G.herbaceum(草棉)・モクメン G.arboreum(樹棉)・リクチメン G.hirsutum(陸地棉)の根を 棉花根(メンカコン,mianhuagen)と呼び、種子を綿籽(メンシ,mianzi)と呼び、それぞれ薬用にする。
 日本には、孝謙天皇(718-770)の時代に記録があるが、渡来品であったろうという。
 延暦18
(799)年三河に漂着したインド人がはじめてワタの種子をも持ってきた。ただし、この種を諸国で栽培を試みたが、成功しなかった。
 永正
(1504-1521)年間に種子が再渡来。三河でワタ作が興り、これが遠江・駿河・武蔵・甲斐・九州に広がり、天正(1573-1592)年間には近畿でも広く栽培された。そして綿布は、商品として広く流通するようになった。この時代のワタは2倍体の G.arboreum であったが、19c.に急速に減少。
 『万葉集』に、

   しらぬひ筑紫の綿は身に著けて未だはきねど暖かに見ゆ
(3/336,沙弥満誓「詠綿歌」)

とあるのは、木綿綿ではなく、屑繭から作る真綿
であろうという。
 「古木綿未だわたらざる時は、庶民は云ふに及ばず、貧士も絹をきる事ならざる者はたゞ麻布を以て服とし、冬の寒気ふせぎがたくして、諸人困苦にたへず、上に仁君あれども、漸く五十以上の者のみ帛(きぬ)をきる政ありて、それより下の年比にてはいまだきぬ綿をきる事あたはず。ことに近来は人民多く成り、蚕をかひたるばかりにては、末々まで行きわたるべからず。幸にして此物いでき、賤(しづ)山がつの肌までをおほふ事、誠に天恩のなす所にして、是れ則ち天下の霊財と云ひつべし」(宮崎安貞『農業全書』1697)。

   名月の花かと見へて棉畠 
(芭蕉,1644-1694)
 
 三方林で囲まれ、南が開いて余所(よそ)の畑とつづいている。北が高く南が低い傾斜(こうばい)になっている。母の推察通り、棉は末にはなっているが、風が吹いたら溢れるかと思うほど棉はえんでいる。点々として畑中白くなっている其棉に朝日がさしていると目ぶしい様に綺麗だ。
 「まアよくえんでいること。今日採りにきてよい事しました」
 民子は女だけに、棉の綺麗にえんでいるのを見て嬉しそうにそう云った。
(伊藤左千夫『野菊の墓』1906)


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