せいようりんご (西洋林檎) 

学名  Malus×domestica (=M. pumila var. domestica)
日本名  セイヨウリンゴ
科名(日本名)  バラ科
  日本語別名  リンゴ、オオリンゴ
漢名  蘋果(苹果、ヒンカ,pingguo)
科名(漢名)  薔薇(ショウビ,qiangwei)科
  漢語別名  柰(ダイ,nai)
英名  Apple
2005/04/22 三芳町竹間沢
2005/07/11 同上
2006/05/29  新座市大和田
2006/11/01 同上
 りんごに、ワリンゴセイヨウリンゴの二種類がある。
 ワリンゴ M.asiatica は、江戸時代まで林檎
(りんご)と呼ばれてきた在来種。
 セイヨウリンゴ M.pumila は、明治以降日本でも栽培・食用され、こんにち一般にりんごと呼ばれているもの。
 リンゴ属 Malus(蘋果屬)の植物については、リンゴ属を見よ。
 和名リンゴの語源は、ワリンゴを見よ。
 明治以降 M.pumila が導入されると、在来の M.asiatica と区別するために、在来種を地林檎
(じりんご)・和林檎(わりんご)、大きな果実をつける外来種を 大林檎(おおりんご)と呼んで、区別した。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)26柰に、「ナイ和名鈔 リンキン アカリンゴ ベニリンゴ加州 ベニコゝ同上 リンキ羽州」と。
 漢名の柰は、奈の本字。漢音はダイ、呉音はナイ、現代北京音は nai。
 『説文』6に、「柰、果也。从木、示声」と。但し、声符示と声が合わず、声の由るところが知られない
(白川静)
 李時珍『本草綱目』果部30に、「篆文の柰字は、子
(み)の木に綴るの形を象る」とするのは、或は李字と誤るか。
 一説に、「木+示
(祭礼)」の会意文字、祭の供物として供える、からなしの木を表す(藤堂明保)
 漢名の蘋果は、蘋婆果(ビンバカ,pingpoguo)・蘋婆羅(ビンバラ,pingpoluo)の略、いずれもサンスクリット語ビンバ bimba(「赤い実」)の音写。明末以降、リンゴを指す言葉として用いられた。
 サンスクリット名をビンバ bimba と呼ぶ植物は、ウリ科のヤサイカラスウリ Coccinia indica。インド・ビルマ・タイ・マレーシアに自生。日本のカラスウリに似た果実は、熟すと赤くなる。
 インドでは、美しい唇を 蘋婆果に譬える。
 したがって、蘋(苹はその簡体字)の字を用いてはいても、ここでは その字の本義とは関係が無い。
 蘋(ヒン,pin)の本来の字義はデンジソウ、また萍(ヘイ,ping。ウキクサ)に通じる。苹も、やはり萍(ウキクサ)に通じる。
 
 仏名の「リンゴ pomme」は、ラテン語の「果実 pomum」から。
 M. pumila の原産地は、カフカス山脈乃至天山山脈の中央アジア。カフカスの野生品の果実の平均直径は約4cm、色は黄色、時に赤い縦縞が入る。
 ヨーロッパでは4000年以上の栽培歴をもつ。
 中国には 古い時代に西方から入り、柰(ダイ,nai)と呼んで栽培した。今日蘋果(苹果、ヒンカ,pingguo)と呼ぶものがそれで、今でも東北・華北・西北・西南で 食用に栽培されているという(果実は直径2cm以上と記されているから、かなり小さい)
 日本では、深江輔仁『本草和名』(ca.918)に柰は「和名奈以、一名布奈江」と。源順『倭名類聚抄』(ca.934)に柰子は「和名加良奈之」と。
 現代中国では、この伝統的な蘋果と、新来のセイヨウリンゴが並存し、ともに苹果 pingguo と呼ばれている、というわけであろう。 
 今日の栽培リンゴは、M. pumila をもとにして、M. sylvestris、M. sieversii などが関与して成立したと考えられている。
 日本には、文久年間(1861-1864)に初めて欧米から入った。
 しかし 本格的には、1871年に北海道開拓使が米国から導入した。その苗木を東北・長野などに配布して定着し、今日に至る。
 今日の果物の、いわゆるリンゴであり、果実を生であるいは加工して食用にし、また酒を作る。
 既にギリシア時代に栽培種が区別され、栽培法が工夫されていた。
 その後、ローマを経てヨーロッパ各地に伝わり、イギリスは19世紀末まで世界一の生産国であった。アメリカでは約350年前に導入、今日では質・量ともに世界一の産地。
 『旧約聖書』「創世記」に載るエデンの園の禁断の木の実 fruit は、普通はリンゴとしてイメージされている。
 ギリシア神話「パリスの審判」は、「不和のリンゴ the Apple of discord」から起り、やがてトロイア戦争へと発展する。
 中国では、後漢頃の文献から柰の名が見える。
 賈思勰『斉民要術』(530-550)巻4に「柰・林檎」が載り、栽培法・利用法を記す。
 日本の明治以降の文藝に現れるリンゴは、このセイヨウリンゴであろう。
まだあげ初(そ)めし前髮(まへがみ)
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛
(はなぐし)
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅
(うすくれない)の秋の實(み)
人こひ初
(そ)めしはじめなり
・・・
 
島崎藤村「初戀」(『若菜集』)より
     兩手をどんなに
     大きく大きく
     ひろげても
     かかへきれないこの気持
     林檎が一つ
     日あたりにころがつている
       
(山村暮鳥「りんご」、『雲』(1925)より)
 

   監獄
(ひとや)いでてぢつと顫へて嚙む林檎林檎さくさく身に染みわたる
     
(北原白秋『桐の花』1913)
 
 大正時代のヒット曲は、「カチューシャの唄」(島村抱月・相馬御風作詞、中山晋平作曲、1914)

    林檎の花ほころび
    川面に霞立ち
    君無き里にも
    春は忍び寄りぬ
      
(トルストイ原作『復活』のための劇中歌で、歌謡曲第1号)

 昭和世代には、リンゴは赤い林檎のほっぺを思い出させる(武内俊子「リンゴのことりごと」1940)
 
 仏語の cidre は、ノルマンディに産するリンゴの発泡酒、calvados はそれを蒸留したブランディ。
 英語では、cider はリンゴジュース、本来のリンゴ酒は hard cider と呼ぶ。
 日本語のサイダーは、味付け炭酸飲料、英語で言えば soda pop。
 家庭で焼いた apple pie は、最もアメリカ的なものの象徴。「ママのアップルパイ」は、日本で言えば「おふくろの味」に当るという。

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