じゃのひげ (蛇鬚) 

学名  Ophiopogon japonicus var. japonicus
日本名  ジャノヒゲ 
科名(日本名)  キジカクシ科
  日本語別名  リュウノヒゲ(龍鬚)、ジョウガヒゲ、ジイリヒゲ、タツノソゲ、ハズミダマ、ヤマスゲ
漢名  麥冬(バクトウ,màidōng)
科名(漢名)  天門冬(テンモンドウ,tiānméndōng)科
  漢語別名  麥門冬(バクモントウ,màiméndōng)・冬(モントウ,méndōng)、沿階草(エンカイソウ, yanjiecao)・階前草・家邊草、繡墩草(シュウトンソウ,xiuduncao)、禹餘糧(ウヨリョウ, yŭyúliáng)、
英名  Dwarf lilyturf, Snake's-beard
2008/06/28 入間市 宮寺

2007/07/31 高尾山

2011/04/05 さいたま市 秋が瀬
これは種子そのもの。 

 Ophiopogon japonicus には、次のような変種がある。

  ジャノヒゲ var. japonicus
  カブダチジャノヒゲ var. caespitosus
本州産
  ナガバジャノヒゲ var. umbrosus(O.ohwii) 本州(宮城以南)・四国・九州・朝鮮・中国産  
 ジャノヒゲ属 Ophiopogon(沿階草 yánjiēcăo 屬)には、東アジア・ヒマラヤ・インドシナ・マレシアに約65-78種がある。

   O. bockianus (連葯沿階草・寛葉麥冬)
 『中国本草図録』Ⅶ/3418
   タイワンジャノヒゲ O. bodinieri(O.scaber, O.formosanus, O.lofouensis;
         沿階草)
臺灣・雲南・ヒマラヤ産
   O. brevipes (短葉沿階草)
   セッコウジャノヒゲ O. chekiangensis(杭麥門冬)
   O. chingii (長莖沿階草)
 『中国本草図録』Ⅴ/2416
   O. clarkei (短絲沿階草)
   O. dracaenoides (褐鞘沿階草・大葉沿階草)
   O. grandis (大沿階草)
   タイワンカブダチジャノヒゲ O. intermedius (中間型沿階草・蜈蚣七・山韮菜)
       
『雲南の植物』29・『中国本草図録』Ⅹ/4934
   ノシラン O. jaburan
   ジャノヒゲ O. japonicus (沿階草・麥冬・麥門冬)
   O. kradungensis タイ産
   O. mairei (西南沿階草)
   O. peliosanthoides
中国(貴州・雲南)産
   オオバジャノヒゲ O. planiscapus
   O. platyphullus (寛葉沿階草)『中国本草図録』Ⅹ/4935
   ヨナグニノシラン O. reversus
 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
   O. revolutus
中国(雲南)・タイに分布
   O. scaber (糙葉沿階草)
   O. stenophyllus (狹葉沿階草)
   O. szecguanensis (四川沿階草)
   O. tonkinensis (多花沿階草・大葉麥冬)
 『中国本草図録』Ⅱ/0918
   O. umbraticola (陰生沿階草)
   O. wallichianus (紫花沿階草) 
   
 キジカクシ科(クサスギカズラ科) Asparagaceae(天門冬 tiānméndōng 科)については、キジカクシ科を見よ。
 和名は、垂下する葉の形状から。
 李時珍『本草綱目』(ca.1596)に、「麥の髭、(モン,mén)と曰う。此の草、根は麥に似て鬚有り、其の葉は韮の如く、冬を凌いで凋まず。故に之を麥冬と謂う。…俗に門冬に作る」と。クサスギカズラの訓を参照。
 漢名を禹餘糧(ウヨリョウ, yŭyúliáng)というものは三つあり、一はカヤツリグサ(莎草)科のエゾノコウボウムギ(蒒草,シソウ,shicao) Carex macrocephala、一は本種、一はある種の鉄鉱石。
 『本草和名』麦門冬に、「和名也末須介」と。
 『延喜式』麦門冬に、「ヤマスケ、ヤブスケ」と。
 『倭名類聚抄』麦門冬に、「和名夜末須介」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』12
(1806)に、「麦門冬 ヤマスゲ延喜式和名鈔 ヤブラン ムギメシバナ勢州 カウガイサウ加州(以上はヤブラン)、「小葉ノ麦門冬ハ ジヤウガヒゲ ヤブミフキダマ泉州 テツポウノタマ江州 カシラゴ ジヤノヒゲ共ニ同上 ジユズダマ播州 リウノヒゲ筑前 リヤウノヒゲ江戸 ヲンドノミ志州 ヂイノヒゲ雲州 タツノヒゲ奥州加州 インキヨノメダマ加州 ヅクダマ丹波 ヲドリコ勢州 ヲフクダマ同上 ハヅミダマ メツチヨヒガラ豫州(以上はジャノヒゲ)と。
 学名の属名は「ヘビのひげ」の意で、和名から。
 北海道・本州・四国・九州・朝鮮・臺灣・華東・兩湖・兩廣・西南・陝西・河南・河北・インドシナ北部・インド北部に分布。
 中国では、近縁の次のような植物の塊根を、麥冬(バクトウ,màidōng)・麥門冬(バクモントウ, màiméndōng)と呼び薬用にする(○印は正品)。『中薬志Ⅰ』pp.229-233 『全國中草藥匯編 上』pp.406-408 『(修訂)中葯志 』I/427-433

   Liriope graminifolia (禾葉土麥冬)
   Liriope kansuensis (甘肅土麥冬・甘肅麥冬)
   ヒメヤブラン Liriope minor(矮小山麥冬・小麥冬)
   ヤブラン Liriope platyphylla(闊葉麥冬)
  〇コヤブラン Liriope spicata(大麥冬)
   タイワンジャノヒゲ Ophiopogon bodinieri(O.formosanus;沿階草)
   タイワンカブダチジャノヒゲ Ophiopogon intermedius(中間型沿階草)
  〇ジャノヒゲ Ophiopogon japonicus(沿階草)
   
 日本では、生薬バクモントウは ジャノヒゲの根の膨大部である(第十八改正日本薬局方)。 
 韓国産・臺灣産の麥門冬は、ヤブラン属を基原植物としている。
 訓に記したように、麦門冬の古名はヤマスゲ。したがって、『万葉集』に、

   妹がため菅の実採りに行く吾は山路にまとひこの日暮しつ 
(7/1250,読人知らず)

とある「菅の実」は、ジャノヒゲの実、美しいので愛玩されたものであろう、という
(ただし、かつて牧野富太郎は、この菅はガマズミである、と唱えたことがある)

 しかし、

   山菅の乱れ恋ひのみ為しめつつあはぬ妹かも年は経につつ
(11/2474,読人知らず)
   足引の名に負う山菅押し伏せて君し結ばばあ
(逢)はざらめやも (11/2477,読人知らず)
   足ひきの山菅の根のねもころに止まず念はば妹にあ
(逢)はむかも (12/3053,読人知らず)

などと歌われる山菅は、スゲ属 Carex の草の総称であろう、という。スゲの項を参照。

ナガバジャノヒゲ var. umbrosus
     2008/05/24 東京薬科大学薬草園

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