辨 |
Ophiopogon japonicus には、次のような変種がある。
ジャノヒゲ var. japonicus
カブダチジャノヒゲ var. caespitosus 本州産
ナガバジャノヒゲ var. umbrosus(O.ohwii) 本州(宮城以南)・四国・九州・朝鮮・中国産 |
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ジャノヒゲ属 Ophiopogon(沿階草 yánjiēcăo 屬)には、東アジア・ヒマラヤ・インドシナ・マレシアに約65-78種がある。
O. bockianus (連葯沿階草・寛葉麥冬) 『中国本草図録』Ⅶ/3418
タイワンジャノヒゲ O. bodinieri(O.scaber, O.formosanus, O.lofouensis;
沿階草) 臺灣・雲南・ヒマラヤ産
O. brevipes (短葉沿階草)
セッコウジャノヒゲ O. chekiangensis(杭麥門冬)
O. chingii (長莖沿階草) 『中国本草図録』Ⅴ/2416
O. clarkei (短絲沿階草)
O. dracaenoides (褐鞘沿階草・大葉沿階草)
O. grandis (大沿階草)
タイワンカブダチジャノヒゲ O. intermedius (中間型沿階草・蜈蚣七・山韮菜)
『雲南の植物』29・『中国本草図録』Ⅹ/4934
ノシラン O. jaburan
ジャノヒゲ O. japonicus (沿階草・麥冬・麥門冬)
O. kradungensis タイ産
O. mairei (西南沿階草)
O. peliosanthoides 中国(貴州・雲南)産
オオバジャノヒゲ O. planiscapus
O. platyphullus (寛葉沿階草)『中国本草図録』Ⅹ/4935
ヨナグニノシラン O. reversus 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
O. revolutus 中国(雲南)・タイに分布
O. scaber (糙葉沿階草)
O. stenophyllus (狹葉沿階草)
O. szecguanensis (四川沿階草)
O. tonkinensis (多花沿階草・大葉麥冬) 『中国本草図録』Ⅱ/0918
O. umbraticola (陰生沿階草)
O. wallichianus (紫花沿階草)
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キジカクシ科(クサスギカズラ科) Asparagaceae(天門冬 tiānméndōng 科)については、キジカクシ科を見よ。
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訓 |
和名は、垂下する葉の形状から。 |
李時珍『本草綱目』(ca.1596)に、「麥の髭、虋(モン,mén)と曰う。此の草、根は麥に似て鬚有り、其の葉は韮の如く、冬を凌いで凋まず。故に之を麥虋冬と謂う。…俗に門冬に作る」と。クサスギカズラの訓を参照。 |
漢名を禹餘糧(ウヨリョウ, yŭyúliáng)というものは三つあり、一はカヤツリグサ(莎草)科のエゾノコウボウムギ(蒒草,シソウ,shicao)
Carex macrocephala、一は本種、一はある種の鉄鉱石。 |
『本草和名』麦門冬に、「和名也末須介」と。
『延喜式』麦門冬に、「ヤマスケ、ヤブスケ」と。
『倭名類聚抄』麦門冬に、「和名夜末須介」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』12(1806)に、「麦門冬 ヤマスゲ延喜式和名鈔 ヤブラン ムギメシバナ勢州 カウガイサウ加州」(以上はヤブラン)、「小葉ノ麦門冬ハ ジヤウガヒゲ ヤブミフキダマ泉州 テツポウノタマ江州 カシラゴ ジヤノヒゲ共ニ同上 ジユズダマ播州 リウノヒゲ筑前 リヤウノヒゲ江戸 ヲンドノミ志州 ヂイノヒゲ雲州 タツノヒゲ奥州加州 インキヨノメダマ加州 ヅクダマ丹波 ヲドリコ勢州 ヲフクダマ同上 ハヅミダマ メツチヨヒガラ豫州」(以上はジャノヒゲ)と。 |
学名の属名は「ヘビのひげ」の意で、和名から。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・朝鮮・臺灣・華東・兩湖・兩廣・西南・陝西・河南・河北・インドシナ北部・インド北部に分布。 |
誌 |
中国では、近縁の次のような植物の塊根を、麥冬(バクトウ,màidōng)・麥門冬(バクモントウ, màiméndōng)と呼び薬用にする(○印は正品)。『中薬志Ⅰ』pp.229-233 『全國中草藥匯編 上』pp.406-408 『(修訂)中葯志 』I/427-433
Liriope graminifolia (禾葉土麥冬)
Liriope kansuensis (甘肅土麥冬・甘肅麥冬)
ヒメヤブラン Liriope minor(矮小山麥冬・小麥冬)
ヤブラン Liriope platyphylla(闊葉麥冬)
〇コヤブラン Liriope spicata(大麥冬)
タイワンジャノヒゲ Ophiopogon bodinieri(O.formosanus;沿階草)
タイワンカブダチジャノヒゲ Ophiopogon intermedius(中間型沿階草)
〇ジャノヒゲ Ophiopogon japonicus(沿階草)
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日本では、生薬バクモントウは ジャノヒゲの根の膨大部である(第十八改正日本薬局方)。 |
韓国産・臺灣産の麥門冬は、ヤブラン属を基原植物としている。 |
訓に記したように、麦門冬の古名はヤマスゲ。したがって、『万葉集』に、
妹がため菅の実採りに行く吾は山路にまとひこの日暮しつ (7/1250,読人知らず)
とある「菅の実」は、ジャノヒゲの実、美しいので愛玩されたものであろう、という(ただし、かつて牧野富太郎は、この菅はガマズミである、と唱えたことがある)。
しかし、
山菅の乱れ恋ひのみ為しめつつあはぬ妹かも年は経につつ (11/2474,読人知らず)
足引の名に負う山菅押し伏せて君し結ばばあ(逢)はざらめやも (11/2477,読人知らず)
足ひきの山菅の根のねもころに止まず念はば妹にあ(逢)はむかも (12/3053,読人知らず)
などと歌われる山菅は、スゲ属 Carex の草の総称であろう、という。スゲの項を参照。 |