つげ 

学名  Buxus microphylla var.japonica
日本名  ツゲ
科名(日本名)  ツゲ科
  日本語別名  アサマツゲ、ホンツゲ、
漢名  黃楊(コウヨウ,huángyáng)
科名(漢名)  黃楊(コウヨウ,huángyáng)科
  漢語別名  千年矮(センネンワイ,qiannian'ai)、瓜子黃楊(カシコウヨウ,guazihuangyang)
英名  Common box tree
2024/02/10 薬用植物園 

2006/04/06 小石川植物園   中央に雌花、周囲に雄花

2010/04/11 神代植物公園 
2007/04/29 神代植物公園 
2008/07/01 同上
 ツゲ科 BUXACEAE(黃楊 huángyáng 科)には、5属約100種がある。

   ツゲ属 Buxus(黃楊屬)

   フッキソウ属 Pachysandra(板凳果屬)

   サルココッカ属 Sarcococca(野扇花屬)
11種 
     S. orientalis(東方野扇花)
     S. ruscifolia(野扇花 yěshànhuā・野櫻桃・淸香桂)
 『全国中草葯匯編』上/727-728
   
 ツゲ属 Buxus(黃楊 huángyáng 屬)には、世界に約70種がある。

  B. harlandii(匙葉黃楊・細葉黃楊・雀舌黃楊・錦熟黃楊・清明矮・千年矮・萬年靑・黃頭艾)
         
海南島産 『中国本草図録』Ⅳ/1728
  カラヒメツゲ B. bodinieri(雀舌黃楊)
 『雲南の植物Ⅱ』142
         
河南・陝甘・江西・浙江・湖北・兩廣・四川・貴州・雲南産
  B. henryi(大花黃楊・桃葉黃楊) 湖北・四川・貴州産 『中国本草図録』Ⅶ/3200
  オキナワツゲ B. liukiuensis
  B. microphylla
    タイワンアサマツゲ subsp. sinica(B.sinica, S.sinica var.intermedia;
         黃楊・瓜子黃楊・千年矮・烏龍木)『中国本草図録』Ⅱ/0679
         
陝甘・山東・華東・湖北・兩廣・四川・貴州産 絶滅危惧IA類(CR,環境省RedList2020)
    チョウセンヒメツゲ var. insularis(B.sinica var.insularis)
朝鮮産
    ツゲ
(ホンツゲ・アサマツゲ) var. japonica(日本黃楊)
    ベンテンツゲ
(ミクラジマツゲ) var. kitashimae
    ヒメツゲ(クサツゲ) var. microphylla 園芸品
    コツゲ var. riparia(B.riparia)
    var. suffruticosa(矮黃楊)
    var. aemulans(B.sinica subsp.aemulans;尖葉黃楊・長葉黃楊)
華東・兩湖・兩廣・四川産
  B. rugulosa(高山黃楊・皺葉黃楊)
 四川・雲南・チベット産 『雲南の植物Ⅱ』142・『中国本草図録』Ⅷ/3682 
  セイヨウツゲ B. sempervirens(錦熟黃楊)
 歐洲・北アフリカ・西アジアに分布 
   
 園芸的にツゲの名で庭に植えられる樹木は、植物学的にはツゲではなく、モチノキ科のイヌツゲ Ilex crenata。
 ツゲの葉は対生、イヌツゲの葉は互生。
 「和名ハ次(つぐ)ノ轉ゼシモノト謂フ、卽チ葉々相層リ密簇シテ鱗次スルノ意乎、本つげハ眞正つげノ意、あさまつげハ伊勢朝熊山ニ生ズルヨリ云フ」(『牧野日本植物図鑑』)。  
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)黄楊に「和名豆介」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)32に、黄楊木は「ヒメツゲ ニハツゲ クサツゲ
同名アリ」と。
 ホンツゲの名は、イヌツゲに対して。アサマツゲは、伊勢の朝熊山(あさまやま)に因む。
 関東以西に分布。種としては、朝鮮・臺灣・漢土(陝甘山東以南)にも分布。
 愛知県鳳来町黄柳野甚古
(じんこ)山には、天然記念物「黄柳野ツゲ自生地」がある。福岡県古処(こしょ)山には、天然記念物「古処山ツゲ原生林」がある。
 木材として、肌理が細かく耐久性がある上に工作しやすく、しかも色が黄色・淡黄色で美しいため、器具材のほか楽器材・彫刻材・版木・印材などとして、ことに櫛材として古くから利用された。
 古来、葦屋の処女(おとめ)の伝説が有名。摂津国の葦屋に居た菟原(うなゐ)処女を、血沼(ちぬ)壮士(をのこ)と菟原壮士が争った。処女は悩み、海に身を投じて死んだ。世の人は処女を哀れみ、その墓を作り、生前に用いていたツゲの櫛を墓の横に置いたところ、そこからツゲの木が生えて茂った、と。
   追ひて処女の墓に同(こた)ふる一首
古に ありけるわざの くすばしき 事と言い継ぐ ちぬをとこ うないをとこの うつせみの 名をあらそふと 玉きはる 寿
(いのち)もすてて 相ともに 嬬問しける をとめらが 聞けば悲しさ 春花の にほえ盛えて 秋の葉の にほひに照れる 惜(あたら)しき 身の壮(さかり)すら 大夫(ますらを)の 語いたはしみ 父母に 啓(まを)し別れて 家離(さか)り 海辺に出で立ち 朝暮(あさよひ)に 満ち来る潮の 八重波に 靡く玉藻の 節の間も 惜しき命を 露霜の 過ぎましにけれ 奥墓(をくつき)を 此間(ここ)と定めて 後の代の 聞き継ぐ人も いや遠に しのびにせよと 黄楊(つげ)小櫛 しかさ(刺)しけらし 生ひて靡けり
  反歌
をとめらが 後の表
(しるし)と 黄楊小櫛 生ひ更り生ひて 靡きけらしも
      
(『万葉集』19/4211;4212,大伴家持)
 『万葉集』に、

   君無くは何そ身装飾
(よそ)はむ匣(くしげ)なる
      黄楊
(つげ)の小梳(をぐし)も取らむとも念はず (9/1777,播磨娘子)
   ・・・日本
(やまと)の 黄楊の小櫛を 抑へ刺す 刺細(さすたへ)の子 彼そ吾が嬬(つま)
        
(13/3295,読人知らず)
   朝月の日向の黄楊櫛旧
(ふ)りぬれど何しかきみ(君)が見れど飽かざらむ (11/2500,読人知らず)
   夕去れば床のへ去らぬ黄楊枕何しか汝が主待ちがたき
(11/2503,読人知らず)
 
 『花壇地錦抄』(1695)巻三「冬木之分」に、「柘(つげ) 大つげハ葉大キクてわろし。こつげを上とス。  ひめつげ 葉こまかにして木もちいさし。故ニ草つげ共いふ。 白つげ 葉青白く大きし。やどめ 小つげの事也。葉色黒し」と。
 これらの内、大つげはイヌツゲ、ひめつげはヒメツゲであろう。
 ヨーロッパでは、ローマ時代以来葬送の木であり、しばしば墓地に植える。 

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